カタカタと滑車が回る音がする。その滑車はひとつの機械の部品だった。新品であり、錆は存在しない。微細な傷こそあれど、やる仕事を思えば必然的な摩耗である。
「ふう、この昇降機毎回思うんですけどいつか事故起きるんじゃないですかね」
ターバンを額に巻き、汗だくのエルフがマスクを外して会話をしている。腕は多少、粉がついてはいるが洗い流されている。だが青いポリエステル製の服には大量の白い石粉が付着している。
「仕方ないだろ、数千個も作ってるんだからこうなるのは当たり前じゃないか?」
「それにタイミングよく降りれば何も起きないぞ。よほど中途半端なやつじゃないと、事故は発生しないだろ」
昇降機。それはエレベーターである。
しかし鈍重な何tもある鉄の箱ではなく、全てがアルミ合金製であるプレス加工で作られている昇降機。
それが幾つも連なって、ゆっくりと上に登っていた。
扉は存在せず、降りたいタイミングで降りることが可能だ。だが床に荷物をはみ出して置いたなら顰蹙を買うことになる。レーザー検知のせいで即時停止してしまうのだ。
「まあそれもそうですよね」
「それにしても有難いですね、失った寺院をこうして自分たちの手で作れるというのは」
彼らは熱心な信徒であった。ウスト教によって無理やり衰退させられ、改宗させられ……そんな歴史を歩みつつも中央大陸で根付いている宗教だ。
なぜ無名の宗教に等しいのかは、だいたいが『ツァウスト帝国とファウス文明のせい』で説明が付く。
かつてこの地域を支配していた『ストフェレス文明』という文明は、『ファウス文明』により滅びた。具体的に言えばファウス文明ではなく、森からやってきたエルフによるものだ。
この時代のエルフといえば次々とヒューマンを奴隷化していき、1部の考古学的証拠ではほとんどヒューマンたちは根絶やしと言っていいような危機的状況になっていた。
ストフェレス文明は宗教が多数生まれ、各々が救いを見出した時代だった。それはなぜか。
エルフは突出した統率力を持っていて256もの隊を1つの隊として率いるという卓越した文明を持っていた。
そのおかげでヒューマンたちの農耕文明はここで無くなり、ここからはエルフの統治下に入った単作に近い農耕形態を取るようになる。この区切りのことを文明の終わりと捉え、ストフェレス文明の終わりと考える学者は多い。
そして税や文字の読み書きといった基本的な概念が広まったのはエルフ統治下、すなわちファウス文明の時代であるのであながち統治が悪いものであったとも一概には言えない。
まあそんなファウス文明も内乱に内乱を重ねてようやく統一、その後に『政教分離の大改革』でとんでもない戦火が発生してまた分裂、現在の列強各国の原型になる国が登場したり……
そんな動乱こそあれど、宗教は根深く幾度も無くそうとしても隠れた信仰者が各地に散らばった。
そして寺院が作られ、その宗教たちは独自の建築様式を持つまでに発展した。
とまあここまでは良かったのだがエルフは侵略者でなければならないという縛りでもあるのか、ツァウスト帝国が侵略と南下を重ね、一時期は現在の北半分だけでなく西を全て所有し、3分の4がツァウスト帝国の版図となり地図を1色で塗り広げるようなこととなった。
ツァウスト帝国の信仰する宗教、ウスト教は侵略戦争で悪名高い。具体的に言えば教義がざっくりと言えば
『戦いを神に奉納しよう』や『他の信仰は全部自分の神が変身した他形態で、神はウスト神以外にいないから真実の宗教であるウスト教だけ信仰しよう』
というものなのだ。
これの影響を受けてファウス文明圏の暦が伝統的な『ファウス歴』ではなく『ウスト歴』を使うという事態になっているので、その影響力は計り知れない。
というかツァウスト帝国が、その寺院を破壊しまくったり改宗させたので信者が激減してしまい信者が居なくなった寺院などがあるのだ。
「確かにそうだなあ……ま、工法も失伝しまくってるから現代式寺院建築ってことにはなっちまうけど」
「へへ、確かにそうっすね まあ2000年も前ですし、完全に1から作るほうが早いですよ」
「まあ……確かにそうだけども」
ウスト歴で紀元前364年が統一ファウス国成立。
……歴の開始が多少諸説あるとはいえ帝国成立が0年、そこから統一ファウス国が分裂したりと様々な動乱が2世紀ごろに詰まりながらも、ツァウスト帝国成立から現代に到達するまでに2000年あまりが経過しているのでファウス文明からの連なりは2000年以上成立している。
「さて、残りの像は何体だっけ?6?7?」
「確かそんくらいだったはずなんだけど」
「うーん、直立が2、座りっぱなしが6なんで8つっすわ」
「まあでもだいぶ彫りましたからね、残りは楽勝っすよ」
「それにしてもウスト教の神像を彫らせて欲しいって奴が大量に来てるらしいんだが……アレどうなったか知ってるか?」
「聞いた話によると両手両足の指が吹き飛んだらしい。あれじゃあ職人としてもう終わりだな」
「きっとこれまで虐げてきたバチが当たったんだろうよ、仕方の無いことさね」
「ひぇ、僕だったら絶対そんなことしないのになあ」
「信仰を捨てれば助かるのに……」
2人はそう言いながら隣に目線を向ける。
この壁に描かれた赤い円こそが降りるべきタイミングという意味なのだ。昇降機の網越しに見ながら、真剣にタイミングを測る。これを逃せば下がる必要が出てきて面倒すぎると考えているからだ。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
「あ〜マジで彫刻ムズいなあ」
「全身像を一体作るのに5日かけたから1つあたり制作時間は1200分だな…… 」
「早いか遅いか、全くわからんけどやはり彫刻は難しいな……まあいいか。
造り損じは普通の倉庫に置いといて完璧なやつだけインベントリに入れとこう」
あなたは数十の彫刻を作った。
台座をわざわざ作成し、直立させているがほとんど本物と違いが見つからないように、陵の部分の陰影はかなり意識した。色は塗られていないが、だからこそ優れた技量が浮き彫りになる。
この世界に存在する人型種族はそれぞれで骨格が違かったり、解剖学的に筋肉の付き方が当然違くなるから、
やはりいちばん作りやすいのは人間だ。
なんというかこう、なんか特徴と言えるものが何一つないのだ。プレーンというかマネキンというか、そんな感じの印象だ。
たとえば
そして、たとえば
頭蓋骨自体がそもそも形状が違うし、眼窩が深く、正面からの衝撃に耐えられたり出来るようになっている。
首の太さも違うし、眼窩上突起がまだ残っている。おとがいはあるのに、不思議なことだ。
あと目の幅が人間より狭かったり、瞳孔に黒い部分が少なかったりする。
黒目が大きいのは人間だけの特徴だし、それは比較したらそうなのだが……
まあ、あと筋肉の付き方がかなり大腿四頭筋と前鋸筋にかけて流線型になっているとかそのくらいの差かな?
ライカンスロープは服飾文化が発達しなかったから文明があまり築くことができず、それ故に文明化が進んだほとんどの種族から迫害され続け、どこかの島に泳いで到達したとかでもなかったのなら絶滅危惧種どころの騒ぎじゃない希少性だ。
まあ瞬間的な力と持久的な力は、どの種族よりも両立して存在してある。ようは、速筋と遅筋の両方を載せる土台があればいいんだから体をより長く太くするのは当然の進化だ。
そして直立二足歩行になるのは視点を高くすること、熱を素早く冷ますことに特化した形態だから、ライカンスロープというのは恐らく新人よりちょっと前だけど旧人よりは後みたいな感じの種族なんだろうか。
自分の種族だけど正直あまり分からない。なにせ表音文字文化がないから未だに象形文字だ。いや、甲骨文字と言った方が正確かもしれない。
直立二足歩行は突撃か逃げに特化した形態なのでエルフとライカンスロープでこうも別れるのだ。
エルフは普通に2Mくらいあるし、ライカンスロープは1.75M、ヒューマンは1.61Mほどなのだ。
まあそもそも同族が発見不能なため統計を取るというのがライカンスロープはできないから、
とりあえずで自分の身長を平均値のところにぶち込んでいるから統計の偏りが物凄いし信用してはダメだが、まあこの身長差は圧倒的な差だ。
エルフは内蔵が14もあるから必然的に体格が大柄で、どっしりとした体つきになる。
筋肉質な彫刻はだいたいエルフだ。
というか自己賛美とかの目的で彫刻をする文化がそもそもエルフ産のものだからヒューマンには元々ない。
自然とかを崇拝するアミニズム信仰の形態をとっていたから彫刻の必要性が無かったからだ。
逆に、神像などを岩肌に刻んだりするから手先が器用になっていき、道具もどんどんと開発された。
何をするにもインセンティブがあるというのが一神教の強みだろう。
さぞすごい寺院が昔はあったんだろうが、まあ一神教のインセンティブで全部破壊されちゃったし残っていない。
というかかつては魔法が限られていたから、大多数の作業は人力でやったはずだが、そこまでのインセンティブがあるというのが強いな。
まあそんなエルフの大帝国ももうすぐ終わる時が近づいている。独立戦争でフルオート銃器を開発して、実戦投入は多少遅れたがそれでも1年くらいの期間でツァウスト帝国は銃器を模倣してきた。やはり歴史の長さというのは舐めてはいけない。そもそもの工場の数で差がデカすぎるから爆撃で工場を昼間に破壊しとかないと抜かされるところだった。
サザンクロス帝国の『銃』。アレをもともと手に入れてからずっとツァウスト帝国は真似ていたのだろうが、それでもボルトアクションライフルから12連クリップの独自規格の銃を作り出して、前線に送り込むのはすごい。
当時でも最も技術に優れた者を狂信者にして忠実な技術者を量産しまくって、数十万人を心酔させることはできたが、制御が難しいというのが課題だった。
その課題を2.4億人の人口でゴリ押してくるとは思わなかったが、ゴリ押しこそが脅威だった。
周辺国を扇動して世界大戦誘発させとかないと本当に危なかった。3660万の銃火器兵士というのは脅威すぎる。
ただでさえ重装歩兵が圧倒的に強いのに、至近距離だと銃を当ててもそのまま走ってきて頭を粉砕してくるからエルフ兵は本当にダメなんだ。
どれだけ交戦距離を200M以上にしようとしてもあいつらは鎧を着込んだ状態で、武器を持ったままダッシュして秒速10Mくらいで走ってくる。そもそも身体能力が桁違いだからやばすぎるし、市街戦だったからゲリラ戦術と撤退の繰り返しでどうにかこうにか誘い込まなかったら確実に負けていた。
それに、大量に生産したステンガンを拾って再利用してきて独立後はお互いサブマシンガンを持っているとかいう地獄になったし、ツァウスト帝国はゆっくり滅ぼしてはダメだと確信した。
そもそも志願制でもあるけど、強制的に訓練(兵役)が3年間課されるから有事の時の軍事力が人口と直結してとんでもない事になる。
だからこそ、メイプル執政国という支配された国を独立させるには扇動が必須だった。
兵力も資源も何もかもが足りなくなるのは目に見えている、だからこそ、周辺にあるツァウスト帝国の属国の大衆心理を独立戦争の発生という結果で操り、あとは少しだけ戦争できるように武器をばら撒くだけ。
すると、屈従を辞めて多くの属州がメイプル宗教国として独立した時にくっついてきた。
国をいっぱい取り込んで、それでもそれでもまだ土地が足りない。もっと土地を増やし、人口を増やさないとツァウスト帝国に抵抗できないからだ。
だからこそ戦車を最速で作った。
戦車は鉄を大量に使うし、高精度なジャイロスコープを使って砲身を安定させるから独立後という賠償金でウハウハな時期じゃないと作れなかったが、これでようやく国を滅ぼせる。
ツァウスト帝国に炎の嵐を、針の雨を降らせよう。
火炎瓶で焦土作戦しながら市街戦やってた時期からもう脱却した。石油がもう大量にあるからガソリンと増粘剤で焼夷弾を作れるし、複葉機を量産すれば大量に焼夷弾を落とせる。
空を飛ぶという概念がない今だからこそ通用するだろう。ツァウスト帝国をもう侮ってはいけない。
サブマシンガンを派生させてリボルバーの発想を出せるんだ。もうあの国の技術者は生かしておいてはダメだ。
銃器はこの世界だと30年前にサザンクロス帝国が出したものだ。なぜいきなりマスケット銃ではなくボルトアクションライフルが出てきたのかは分からないが、技術の跳躍もありうる。
ボルトアクションライフルをリバースエンジニアリングしたのだろうが、12連装クリップなんて相当な細密性がなければ無理だ。弾室の数の多さは技術力の現れだし、明らかに強すぎる。
そのうちこの世界は宇宙に出た後、銃火器を大規模に使うようになるだろう。単なる戦争ではなく、惑星間戦争が必ず起きるはずだ。
僕の寿命尽きるまで内政を止めない!
独裁者になるのは不本意だったが仕方がない。
ほとんど流れでやっていたが気づけば軍の最高司令官になってたし、人民解放革命軍を送り込んで他国の内政にめちゃくちゃ干渉していた。
まあでも僕はチート能力があるから、チート能力抜きでは僕よりきっと優秀な人材が居るはずだと信じている。
言語の壁を破壊するだけの翻訳能力だがこれ以上の拡張性はない。新しい概念を思考する形を与えるところまで拡大解釈したがかなり有能なチート能力だった。
言語差というものはとても大きな壁だし、実際にこの国の公用語は2つになっているからだ。
ああ、でもまた政務がある……
国家財政を3ヶ月くらいで正常化したし、いろんな国と外交しまくって通商をして、資源を売って外貨を流入させて、市場と国際通貨の平均均衡値から常に紙幣発行数を指示して……
まだまだ改良の余地はある。
後継者も育てながらやっているし、今僕が死んだとしても国は即座に崩壊することはないだろう。
内乱が起きないように文化財は復活させたし宗教の自由も限定的ながら認めたし、あと種族隔離政策で軋轢を減らした。
これで長続きするだろう。
あとはツァウスト帝国をきったり綺麗に破壊して最後の最後まで回収しきれば何も問題はない。
徹底的に弱くするために足並みを揃えられないように工作したからもはや内政をどうにかしないとあの皇帝はもう権力維持は不可能。
皇帝は曲がりなりにも約2300年も存続した国の直系子孫で由緒正しい血統がある。
それが絶えることになるだろう……
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「今日は素晴らしい日になる」
「なぜなら、昨日で長い夜が終わり、太陽が照らす世界になるからだ。私の、円環の治世の下で民は真の自由を得る!」
「間近に迫る世界の夜明けを共にした同士よ!革命は終わりを迎えた!だがこれが真の終わりではない!」
「今1度集い、土地を再支配するのだ!」
「悪の帝国を打ち払い、この罪悪消えし陸地に太陽の印を与えん!」
「帝国は崩壊したが未だ残り続ける物がある!」
「人々の間に大きな隔絶があるのだ!」
「種族による格差を根絶し、特化した自分らしい姿を発見しようではないか!」
「汝らは私の治世の元で永遠を知るだろう!」
民衆は演説が終わり、降壇する指導者のことをずっと見ていた。今この瞬間を目に焼き付けんと、誰もが三日月形のステージの上で、椅子に座り、あるいは椅子から降りて見ていた。
そして今日、民衆は指導者の元に団結したことをより一層誇りに思った。反体制派と呼ばれ、弾圧の憂いにあっても革命をやり遂げた民衆らは、熱心な崇拝者が大部分を占めていた。
道行く若者たちは笑顔で指導者の名前を叫び、老若男女問わす誰もが支持していたのだ。
それはかつてのツァウスト帝国の国民であった難民たちもそうだった。『やらなければならない』と思っていた。
なぜかは分からないが、目線が勝手に指導者の方に釘付けになって離れない。なぜかは分からないが、もっと声を聞きたくてたまらない。
民衆はすっかり釘付けになった。
■
路地裏にて、ごく一部の民衆が集っていた。
回る換気扇を椅子にしながら、家の塀に凭れかかりながら議論を楽しんでいる。
その者たちの中にはエルフもヒューマンも入り交じって存在しており、この光景は種族の優越思想を超越して団結させたことを示していた。
「ルメン様は偉大な方だ。賭博を規制こそすれど、完全に排斥しないでいてくれた。」
「博徒は減りつつあるが、文化は消えていない。」
「むしろ、大衆に迎合される形であらゆる文化が取り込まれていく」
「こうしてあらゆる文化に付属する物品が商品化され、大量に生産され、大量に消費されるようになる」
「物が増え、贅沢ができるようになった」
「資金の公平な分配と大きな政府の掛け合わせで急速に資本が増え、国家としての総基金が俺たちの労働によって増え続ける。」
「ただ……給与は上がりずらいけれど、ここでは誰もが平等ってのは凄いことだ。」
「ルメン様は僕の故郷を燃やしたけれど、ここが新しい故郷になったからいいや。それに帝国は貧富の差が激しかったし、ここはまさに天国だよ」
だからこそ富は公平に分配されるというのはまさに衝撃的なことなのだ。
彼らが知る経済の常識において、理想的な君主がいても中間搾取のせいで資金は中抜きされるというのが普通だ。
それは人間が不安定性を保持しているという前提があるからこそ成り立つもので、一切の中間組織なく君主が直接生産目標を定め、全員でそこに向かって歩くという機構は荒唐無稽の極み、成り立つわけがない。
だが現実として成り立ち、1人の指導者が長官職をほとんど埋めており下部組織だけが存在するような行政になっている。
ツァウスト帝国と似たような感じの行政だが、皇帝も流石に全ての長官職を単独で兼ね備えて充分な成果を上げるなんてことが出来ないから組織を作るのであり、逆に言えばこの国の行政は君主が全てを代行できるという前提で成り立っているので求められる能力の質が桁違い。
すこし煤けた空気こそあれど、豊かさはかつての生活よりもかなりあると、足元の回る換気扇の羽の音を聞きながらヒューマンの座る者が言う。
「それにしてもこの音、紡績工場で綿を作らされてた日常を思い出すなあ……でも今の職場の方が数千倍マシなんだけどね」
「どこで働いてるんだい?」
「俺は金属シートを作ってる工場を持ってるんだ」
「その中ではこんな感じの音はいつも鳴ってるよ」
「うーん、虫を育ててるんだ」
「慣れれば大丈夫だけど……絵面がヤバいのと全員真っ白な服を着るからそのうちどんな色を見ても虫を見出すことができるようになるんだ」
「高収入だけど……すぐ後輩が辞めていくから1ヶ月目の僕が先輩たちに持て囃されているんだ」
「ツァウスト帝国の紡績工場と比べたらマシだけど、ひどい職務内容の職場だね」
それを聞いたエルフの凭れかかる者は背筋が冷えた思いをした。虫の養殖工場は確かに高収入として知られているけれど、かなり恐ろしい職場だと思って誰もが嫌煙する場所なのだ。
「ええっ!?よくそんなところで1ヶ月も働けるねえ……」
「俺なら3日で家に帰ってバックれるよそんなの」
するとそんな嫌悪感がすこしありながらも興味津々そうな反応を聞き、そのジョークに笑いながらも平然と返した。
「虫に特別な汁をスプレーで散布する係なんだけど、大量の虫が近寄ってくるから向き不向きがあるだろうね」
「まあ、1000匹くらいやってくるけど、これでも希釈済の液体だからそこまで効果が出ないように落とされてるんだよ」
イメージしたエルフは少し嫌そうな顔をした。
数千匹も虫が近寄ってくるのは誰だって嫌である。
「うへぇーっ、やばいねその仕事……」
「1日に縮む寿命が2日分くらいありそう」
「なんぼくらい稼いでるんだい?」
「高給取りと宣伝されてはいるけど、どのくらいなのか実際には知らないから教えて欲しいな」
頭を左右に振り、想像をやめたエルフは問う。
すると座るヒューマンは静かに、指を3本立てた。
「60万円?」「いや、30万円?」
そう予測するエルフに対し、首を振るヒューマンは立ち上がって行った。
「3時間で3万円、9時間働けば9万円」
「だから30×9で1ヶ月で270万さ。休日を考慮しないならだけどね」
「あの高価な冷蔵庫とエアコンを買える賃金だぜ。羨ましいかい?」
工場主のエルフはその賃金にすこし羨ましいと思ったが、業務内容を聞くうちにその仕事だけはやりたくないと思った。
「ええっ!?あのエアコンを!?」
「ずいぶんといい家に住んでるんだねえ……」
「それに冷蔵庫か……高いんだよなあ」
「家にテレビある?」
すると自慢げに、そのヒューマンは言った。
「もちろんあるぜ?キレイな液晶テレビさ」
そのエルフはとても羨ましくなった。
工場主という立場は、国が所有している土地を租借しているという立場でもあるため国家生産目標を達成できないと厳しくなる。
もちろん大量に上回ることができる時もあるけれど、それは他の工場と競走している時だ。
その分、大量に賃金を支払うから結局どうにか土地代を払ったりして手元に残る金額は2億円ほど。
そこから更に、国が作った新しい機材を導入したりでお金が飛んでいくからこれでも少ないのだ。
「いいな……俺は家に車があるけど通勤でしか乗ってないなあ」
「最近は道路が沢山の車でいっぱいになって、渋滞とかが発生するようになったじゃないか」
「国が定めた立地だから仕方ないけど行くのがめんどくさいのよなあ……燃料を入れないと動かないし。」
「それに、走れば11分くらいで着く場所だからわざわざ車に乗らないのさ」
それを聞いたヒューマンは、とても羨ましくなった。
車を買って乗らないなんて贅沢の極みだ。
凄すぎる!
そう思い、工場主という職業がどれほど金を稼いでいるのか気になったが、自分よりも稼いでいるのが明白だと思い 聞かなかった。
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「成長率がだいぶ落ちてきたなあ」
「前月比で+14%かあ……まあ今が戦後復興期なのもあるけど、前がおかしかったな。異次元の高さではあるけど、前月にたたき出した+91%はそもそも難民流入とかインフラ投資とか、関税を0%にした外国からの外貨獲得とかの貿易の利益で齎される潤いが前提だったし」
「人口が1.6億人突破したし、新しく出来た土地の農地改革をもっと進めようかな?次の食料が足りなくなったら輸入に頼るしかないから食料自給率を上げなきゃ行けない。
帝国統治下の時代にできた既存の農地プランテーションがあるからこそ成り立つ、ランニングコストのみ支払う国家だ。
でもまあ、その恩恵も農業の新規開拓では受けられない。
地域に根付いた伝統的な方法……たとえば、いきなり足踏式竜骨水車を廃れさせたりするのは難しい。
何十年もこれで高原地域の段園に水を送り込んでいる地域では、信頼性とか色々な問題を行ってきて現地住民はあまり水道を喜ばないだろう。実際、コスト的にも急いで州の全域を覆える水道を作るのは難しいし、暫くの間は伝統的な方法を存続させておこう。水道インフラは今新規に作るより既存のものを改良した方がいい。」
「こっちは空気から硝酸肥料が無限に作れるからそのうち化学肥料を受け入れるはず……リン鉱山から肥料も作れるし、農作物の収支がどんどん飛躍的な増加を遂げている」
「モンスターを養殖して生物がモンスターの豊富な魔素を取り込む……この研究が産業として確立すれば全ての問題が無くなる。」
「魔法の格差が無くなって、より魔法の体系化が進むだろう。魔力は自然回復以外で回復させる方法がないという常識をぶっ壊せる研究だ。」
「ふふ、素晴らしい」
あなたはモンスター産業に熱心だった。
なぜなら魔法の工業化……オートメーションというものを内なる目標にしているからだ。
魔法はなんでも出来る。浮遊魔法というのは重力を無視して鉛直方向に斥力を発生させる魔法だ。発破魔法というのは熱エネルギーを一瞬のうちに、とてつもない量で発生させて爆発させるものだ。
物理法則が成り立たないが、物理法則に則っているのではなく『魔法法則』に則って魔法は動いているということなのだろう。
だからこそ、この法則を知れる知識層……いわゆる支配者層以外が、止血魔法とか治癒魔法などの解剖学とか、医療系の知識が必須になる魔法を習得することの難易度が高い。
ヒューマンに土木関連の魔法が多い理由はこれだろう。
そこまで内面的な事柄に目を向ける余裕が存在しないというのが1つ大きな理由、そしてさらに大きな理由はそもそもの魔法知識の独占。識字率は99%ほどあり、文明レベルから考えておかしいのになぜこれほど識字率が高いのか。
知識を恐らくツァウスト帝国は極めて重視していた。そうでなければ説明が付かない。
統治をするのに、文字が読めなければスムーズに事が進まない。だから自分たち以外の文字を禁止し、それ以外の媒体を焚書し徹底的に弾圧した。
統治をするのに、計算ができなければスムーズに事が進まない。だから自分たちの計算方式を押し付け、10進法と12進法、そして60進法以外は残らなかったのだ。
360は約数が多いから進数法でこれを直感的に扱えるようにしたのだろう。
一方、そんな文字教育の進んだ統治下においても一定数文字が読めない、代筆をしてもらいたいというニーズがあった。だからこそ、『文字商い』という職業が成り立ったのだろう。
だがサザンクロス帝国で作られたタイプライターとツァウスト帝国で作られた魔法の自動筆記装置に破れ、姿を消した。
活版印刷が木版印刷に止まり、製本技術が中央大陸で進化しなかったのは魔法のせいだ。
一方、エルフの割合が少なくヒューマンの割合が多いサザンクロス帝国では妨げる要因たる自動筆記魔法が無かったため、活版印刷まで進み産業革命をしていたのだろうか。
科学文明も、魔導文明もどちらも組み合わせた魔導工学はツァウスト帝国の蓄積が大きい。
未だにその分野で第1線を走っているのはツァウスト帝国だし、もっと早く破壊しなければダメだ。
軍部の力が無茶苦茶になるように操作して、軍閥の形成を手助けした。あとは皇帝を引きずり出すだけだ。
モンスター産業で魔法を無尽蔵に使えるようになればいちばん利益を得るのはツァウスト帝国。だから、魔導文明は滅ぼさないと自分以外が生き延びてしまう。
より良い文明のため、他の文明は吸収合併しなければいけない。なぜなら、あらゆる資源は有限であり限られているからだ。
有効活用できるのはきっと僕以外にいないはずだ。より良い善のために足場になってもらおう。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
「州法でこんなにも違うのかい?」
ええ、はいそうなんです。
そう返した警察官は頭を悩ませていた。この違法駐車をしていた車の持ち主と名乗る者は全く動くつもりがなかったからだ。
「州法で罰金が違うだなんて知らないぞ!俺はあっちの地域法に従う!」
「ライラントン州とミリラント州は州法が違います。ミリラント州の州法に則って罰金額は35万円となりますね」
「確かに、ここはライラントン州まで30mですが……違法駐車をしていたのはミリラント州ですよね?」
車の持ち主はアクセルを踏んでその場から逃走した。罰金を支払いたくない運転手は今から逃走者になったのだ。
「ほら!これでどうだ!」
「今いるのはミリラント州だぞ!これで罰金は15万円になるはずだな!?」
唖然とした警察官は運転手に向かって走るのをやめた。
どうやらこの運転手は司法に詳しくないようだ。
わざわざ罪状を増やすのは悪手としか言いようがない。
「違反切符を車に付けたまま許可なく移動で+30万円、逃走疑いで+300万円、信号無視で+1万円となります」
「むしろ増えるんですよ!」
「チクショー!なんでこうなるんだ!」
警察官は運転手を降ろし、目の前の交番に連れていった。
その警察官の周りにいたエルフの警察官が、パーキング状態でないことを確認すると車を押して物理的に車道から排除した。
エルフの力にかかれば車の人力移動など楽勝なものだ。
だからこそエルフは警察官になりがちなのだ。
それにしても運転手はあまりにも不運である。
たまたま道に駐車したらそこがタクシー専用の駐車スペースだった上、逃げた交差点の先は警察署が鎮座。
このようなことはメイプル宗教国において相次いでいた。
車自体の製造数が増え、車の普及率が跳ね上がり、その結果としてこのような人物が運転手になることもある。
そして人口密度の差や、様々な要因を考慮し、州法で罰金額を変えているのだ。
なので少し移動して別の州に移動しようと考える者が多かった。その9割以上があえなく御用となったが、この運転手もその99%に含まれていた。
文章の1話辺りの量について(調整)
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10000文字ほしい←現在の基準
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3500以上ならいいよ
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5000文字くらいほしい
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6000以上ならいいよ