女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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無限に鳴らせ、響く足音

「これがあの最新式の銃か」

 

工場主は数ヶ月前、送られてきた銃本体とそのパーツ全てに加え薬莢や弾頭などの詰まった小さな箱を受け取った。

 

「よくぞここまで複雑な構造を思いついたなあ……我が工場でも作れそうだが、ついに銃本体まで生産するようになったか」

 

工場主の工場は薬莢を作成する工場だった。その他にも銃身に施条を行う工場を保有しているが、やはりメインは薬莢生産だ。

 

薬莢と弾頭、このふたつを合わせて初めて弾薬となる。よって、精密に作らなければならない薬莢の方が儲かるのだ。これだけの論理だが、実際にかなり儲かっている。

 

戦争をすれば軍需が儲かる。

軍需が儲かるということは薬莢工場にも国からの依頼が舞い込み、大量に作れる。

ただ害獣駆除などを求める民間に下ろすだけでなく、国という安定した販路があることにより軍需工場たちは潤うのだ。

 

「まあいい」

「仕事の時間だ」

 

 

工場主は大きなストーブの温度設定を変え、工場の温度を調節していく。

仕事の始まりの、合図に等しかった。

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

工場内部には数百人が勤務していた。

工場に勤務する大多数の種族はヒューマンだが、昨今の大不況に伴って再就職先を求めた公務員たちや一般人たちも舞い込み、劣等なヒューマンだけでなくエルフが多くなったことにより工場主は喜んだ。

 

 

保有している工場では主に薬莢と弾頭を作っており、銃の生産というのはしていなかった。せいぜいが他の工場から依頼を受けてバレルにライフリングを刻んだり、バネのテンションを調整したりだ。

工場主の評判は簡単に言えば、生産公差……誤差がとても少なく、精密な部品を作ってくれるという評判ばかりだ。

 

ツァウスト帝国において生産公差は明確に、国によって定められているがこの工場はその公差よりも厳しく定められていた。

精密であればあるほど良い、というのがこの工場主の考えだった。

 

 

彼の評判はかなり良く、徴税局の耳にさえ届くほどだった。

 

弾薬専門という訳でもなく、大体全部こなせる工場という事で目をつけられたのだ。

多種多様な分野の製品を製造し、最も精度のよい工場に贈られる名誉的な工場の認定である『最秀公差賞』をなんと1回も受けている。あまたの工場が賞を目指して夢破れる競走の多い賞を勝ち取るほどの公差。

 

 

ツァウスト帝国の技術者は優秀だった。優秀というより、優秀でなければ設計に関わることができないので埋もれる。

 

だからこそ傑作銃がいくつも生まれ、広まっていく。

執政国という名の属国を作っているツァウスト帝国にとって銃火器というのは強力な武器に他ならなかった。

 

 

「この銃は公差を0.14mm〜0.01mmまで設けているが……まあ何とか作れそうだが、やけに精密だな」

 

工場主はその図面を見て驚いた。なぜなら公差があまりに厳しかったからだ。

ツァウスト帝国の銃は凍結に備え、公差が大きく取られるのが常だったからであり、予想の外の数字だったのだ。

 

南東〜南西に位置するメイプル執政国に対し、ツァウスト帝国は独立戦争の敗北という戒めを与えるため大量の兵士を派遣した。

 

それがどうなったか?結果は壊滅である。

 

660万の銃火器兵士は快進撃を続けたものの、首都のメイプルまで侵入した時に終わりを告げた。

室内戦になった際、兵士は引き金を引くことができずにゲリラ兵の刃物で多数死んだ。

『槍の生成』という魔法を使い、大量のお手軽武装を量産された。室内の扉を開けた瞬間に腹部にグサリ、その後にもう一度『槍の生成』を使うことでカルシウムが棘状の構造物になる。とてつもない悪辣な魔法だ。

生き残っても地獄の即死がほとんど確定した技だ。

穂先が骨に触れた時に槍の生成を使うことにより、骨棘が形成される。

関節部にも容赦なく形成されるのだ……痛みは考えたくもない。

そしてこのような非人道的な魔法を使われた結果、銃火器が大量に渡り、正規の装備ゆえの圧倒的な性能を味方にも発揮してしまった。

 

この出来事を重く受け止めた皇帝や技術者らは、接近戦においても高いストッピングパワーを有するような銃器を開発することにしたのだ。

 

「合成ゴムにプラスチック……最新の素材ばかりだ。木製部品が極端に少ないが、大丈夫なのだろうか?

だがここに送られているということは使えるのだろう。」

 

プラスチック、合成ゴム……これはメイプル宗教国の開発した素材だが、原料はおおよそ石油でできている。

永久凍土の厄介者だった石油だが、活用法を発見したのならばあとは早い。

ツァウスト帝国は既に採掘を初め、石油精製を行った。

 

工場主はこれらの最新の素材を使う銃がどれほど強いのか考えた。

 

この弾薬は.223インチで出来ており、何百万回もの試射で従来の銃火器よりも小さい弾薬の方が300m以内での戦闘能力が優れているとされた。

 

「銃器生産に工場をシフトしたが……熟練銃器工たちが減って少し心配だなあ」

 

 

工場主は悩んでいた。なぜなら銃器工場にシフトする際、従来の労働者たちが別の弾薬工場に移動し、国から大量の労働者が送り付けられてきたのだ。

どうやら契約の私文書を見るに、様々な工場に人材を集めて熟練したら別の工場へ……というサイクルが繰り返されており、この人材の技能は国に保証されているのだがそれでも見慣れた労働者たちがいないというのは寂しいものである。

 

 

今から制作する銃は『万能型』。

ピン2本だけでバレルを取り替える互換性があり、分隊支援にも直接的な戦闘参加にもできるというカタログスペックは申し分ない。

そしてこの銃のバレルの先行試作に工場主は取り組んでいたからこそ。銃というものの強さを最大限理解できている。

 

 

「まあ、薬莢生産も引き続きやるけどもね」

 

工場主はメイプル宗教国から鹵獲した大量の『ステンガン』。その弾を大量に生産していた。

 

この国の独自規格の.45や.30は強いが、銃火器が大量に分岐したツァウスト帝国において弾薬の不揃いが問題となっている。いかんせん補給兵が辛くなるのだ。

 

大きさは変わっても重量はほとんど変わらない。『空間縮小』で弾薬を持ち運べるとはいえ、1人が持ち歩ける弾薬はマガジンのままだと410発前後が限界だ。

 

もともとこの世界にあった銃はクリップという物で給弾していたが、メイプル宗教国のマガジンの発明により革命的転換が発生した。

 

『M4A1』というその名は絶望の象徴として知られる。なぜならこれを用いてエルフを撃ちまくり、大量の歩兵がとてつもない防弾性能のベストを着てやってくるのだ。

 

この銃を元にしてツァウスト帝国が改良したのがこの銃である。もともと存在する交換機能は、技術者たちに大量のインスピレーションを与えた。

 

ストックから何まで交換できるように統一部品化が進み、バレルも工具なしで分解できたら良いという思想が技術者共通になった。

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

『繰り返す……繰り返す……17時より作戦決行……繰り返す……17時より作戦決行……』

 

 

同じ言葉を繰り返すデジタルデコーダーが、複葉機の上で喋っていた。

パイロットの遥か下に見えるのは帝都。

 

広大な土地を持つが故に、首都機能を持つ都市が複数あるのだ。だからこそ住宅街が集まるここが、攻撃目標になった。

 

 

金属の翼の先端は上に曲がっていて、風を乱している。

『浮遊魔法』によりVTORを可能とした複葉機は滑空し、どんどん屋根が連なる住宅地へと向かう。

 

そして計器たちの横に着いている時刻計のメーターが左上を向いたその時、『大量の紙』がばら撒かれた。

 

機体の役割は爆撃機ではあるが投下するのは紙であり、風に流されていく。それは爆弾ではないように見えたが、ではなぜそんなものを大量に撒くのか?

 

それは降伏勧告だった。

 

数百行にもなるその内容は要約すると、速やかに兵士は投降して秋の間に民間人は出ていけという内容。

 

メイプル宗教国の牙が30万を超える民間人に対し、明確に突き刺さった瞬間である。

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「2ヶ月前にやった学問都市襲撃を真似してやったけど、これでどうかな?」

「未来視で知る未来は変わるが、まあ仕方ないね」

 

「ガスより疑心暗鬼にさせる方がいいねえ」

 

あなたはツァウスト帝国に侵攻を重ねていた。アーテルハ平原から先に存在する帝都ニーヤンにチェックメイトをしたのだ。

 

発破魔法を時限式に改良すれば、時間経過以外の発動キーがなくなる。一応、バックドアは設けているが、パスワードを知らなければ無理だろう。600桁のRSA暗号はこの世界だと解くのに50年以上かかるだろうし、今使える魔法にした方がいい。

 

結果に偏りが出る物理乱数よりも素数の方が規則性は無い。

 

素数暗号は、まだNP問題の解法を知らないしまだまだ通用するだろう。

それにこの世界は計算魔法があるが、それは数値を打ち込んで逆算したりすることもできる。

だが人力なら何年かかる?何十年かけて1つ解けるかどうかだ。

 

 

 

あなたはスクリーンを見ていた。

未来視を行うことにより、知覚したという条件を満たして帝都の情報を載せている。

だが人口やそこに存在する工廠の数を見た後、すぐに手元の3枚の紙を見た。

 

 

 

発破魔法をチェイン設定し、1枚につき200万枚ずつ爆発する手筈となっている……はずだ。これを破れば、すぐにでも起爆できる。

 

魔法というのは物に込めることができるが、やり方としては魔素の多い素材があればいい。

発動キーは魔力なので、近くに魔素を魔力に変換するもの……つまり、生命体がいればいい。

 

ヒューマンやエルフが自爆特攻でこれを使うのは本当に洗練された手法だが、これはまだ非効率。

 

なので敵の民間人を上手く使って、パニックにさせたところで密集したことにより空間における魔力密度が上がり、降伏勧告の紙は一瞬にして爆発する。

 

ということにするために魔法の改良型を新しく組み、距離に関係なく連鎖するようにしている。

まあ親魔法の発動したという情報が子魔法に伝わる仕組みを付け足して改変すれば良いだけなので楽だ。

 

1から魔法を作るのは大変だし、それは僕が今からやるべき事じゃない。

魔法の人材というものは育てる必要があるし、莫大な教育投資が必須になる。

なので既存の人材を持ってきて使うのだ。

開かれた人材登用ってのはいいねえ。なにせ野生の天才が国境を跨いでいくらでもやって来てくれるんだからさ。

 

ツァウスト帝国が義務教育をするのはこれと似たような理由だ。知識層が極めて分厚いのはこれが原因で、義務教育のおかげでツァウスト帝国は魔導工学の分野で頂点に立っていると言って過言ではない。

 

 

 

あなたはそんな論理をこねくり回しながら手元の紙を見た。

どれほど民間人に行き通ったのか考えつつ、親魔法を発動させるパターンを考えている。

 

魔法として成り立たないようにすれば親魔法は破壊される。そしてその破壊をトリガーに爆発を止めることもできる。重要部位を中心点に集めて、それ以外の雑多な部位を紙の外側に書いているのは中止が出来やすいからだ。

 

なぜこの世界で魔法陣を円形にすることが主流なのかというと、誰でも直感的に読めるように時計回りに読めるようにするという面が極めて大きい。

 

まあ、あとは複製がとても容易なことだ。

 

印刷機械にぶち込めば量産というのは誰でも解決することだし、それに円形というのはコンパスさえあれば簡単に描ける。

 

というか円形は最も簡素で、基軸方向を定めやすいからだ。基軸方向を決めないと1回発動した魔法が再発動することになる。上手くいく確率が非常に低くなる、ということだ。

 

マルコフ連鎖を考えると分かりやすいかも知れない……

 

円形というのは、それほどメリットが大きいのだ。現代まで残るということは結局もっとも優れていたのが円形ということで、これが廃れてないということがその証左。

 

というか魔法産業を最も発達させたツァウスト帝国が円形魔法陣を使ったからこれがスタンダードになった。

つくづく影響範囲がとてつもなく大きい。

 

ツァウスト帝国の暦を使えば成立してから約2300年。23世紀もの研鑽があれば自然に練磨されるのも当然だ。

 

魔導工学の分野はかなり先を行かれてるし、そもそも世界に魔法を広めたのはツァウスト帝国だから当然だが魔法がとてつもなく発達している。

 

魔法極振りな文明だがそれが最適解なのだろう。

 

 

いわば魔法というのは包丁のようなものだ。容易く食材を切ることができるが、同時にとてつもない武力となる。

 

武力、あるいは文明を発展させるために魔法は発展してきた。その途中で魔法を記述する方法を発見し、魔法文字と呼ばれるそれを教える教育機関ができ、さらにそこから学問として分岐し発展を重ね……

今に至る。ということだ。

 

この過程は決して侮れるものではない。むしろ最大限警戒すべき長所!

歴史の連綿たる繋がりが生み出した魔法文明としての最高峰。だからこそ一朝一夕で真似できるものではなく、単なる劣化になるだろう。

 

まるごと奪い取れればいいのだが、それは無理だ。

大量の紙の資料が、継続的に掛けられた『防腐魔法』によって存在し続け、転写されて生き残り続ける。

 

資料だけ奪い取れば文明退化という訳には行くまい。すでにインフラとして整ってるし、魔法産業が確立されていて非常に強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都ニーヤンの17時。それは本来、街が最も『熱』を持つ時間だ。 工場からは仕事を終えた労働者たちが吐き出され、昼間工場だった工場が夜間工場に姿を変え、市場では夕食の食材を求める主婦たちの声が響き、学校帰りの子供たちが石畳を叩く。

30万人もの鼓動が、街への密集という形をとってひとつの巨大な生命のうねりとなる時間。

 

だが、この日の17時は、あなたのデスクの上で処理完了のスタンプが押されるための時刻でしかなかった。

 

あなたは、手元で静かに冷めていくコーヒーの湯気越しに、未来視のスクリーンを見つめていた。

「……あと、3分か。まあどうせ瓦礫に変わるんだ。次にここに空輸機で物資を運んで……兵士のついでに大量の労働者とかも運んでみるか?いや、空路のほうが移動の効率性はいいけれど陸路の方がインフラ構築的にはいいね」

「どうせここも道をアスファルトに変えるし、早いうちに着工してしまった方が良いねえ」

 

 

彼の独り言は、誰に聞かせるものでもない。 自らの内省点を発見するために発声しているだけだ。

 

 

 

 

 

同時刻、帝都ニーヤンの外縁部に位置する軍需工場。 工場主は、最新式の銃の100挺を前に、充足感に浸っていた。

これは国に生産した銃がどれ程の出来栄えなのか伝える工場の試験的なもの。

 

「……できた。0.1mm未満の公差。国が定めた基準を遥かに超える、我が工場の最高傑作だ」

だからこそ、それを確実に突破したという自負があった。工場の気温は一定に保たれているが、すこし蒸し暑い。

 

彼が工場の天井の一部、トタンの部分を浮遊魔法で軽々空け、内部の工場に冷たい外気が舞い込む。金属の膨張や収縮に気を使う必要がつい先程まであったが、もう必要ない。

労働者たちに向かって、朗らかに

 

「3週間後にはこの銃の量産に入るぞ!」

 

と声をかけたその時、降伏勧告の紙が魔法陣の外周に刻まれた魔素を吸い込み始め、準備を完了させていた。

 

「皆、今日は早く帰れ。17時の鐘が鳴ったら、夕食を楽しめ。それと…知ってるだろうけど、工場では昼間のみ銃火器を生産する。それ以外の夜間は弾頭を大量に生産するからよろしく。」

 

工場主のその善意に満ちた通達が、皮肉にも労働者たちを人々の密集地へと促す。 家へと帰路を急ぐ彼らのポケットには、空から降ってきたあの紙が不安の種として突っ込まれていた。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

 

あなたはスクリーン上のサーモグラフィを眺めていた。

帝都の中央広場、駅、そして工場地帯。赤く染まった人口密集地は、彼が仕掛けた「紙」の発動条件を完璧に満たしている。

 

周辺の魔力密度が閾値以上、一定時間の経過……

そして、負傷範囲に入っている人数。

 

「未来視で予測した『絶滅ルート』は……現時点で97.8%。ほぼ収束した。誰かが暗号を解くこともなく彼らは従順に、僕が書いたシナリオ通りに『17時』というデッドラインへ集まってくれた。」

 

 

帝都の時計塔が、重厚な音を立てて17時を告げた。 ボーン、という一発目の鐘の音。

 

それは街の人々にとっては「一日の終わり」の合図。 だが、あなたにとっては「親魔法」の起動トリガーだった。

 

 

「これでチェックメイトだ…………いや、ゲーム終了と言うべきかな?何せもう何も抵抗できないし。」

 

あなたが紙の親魔法陣に魔力を流すのと、鐘の中の球体がぶつかって二発目の鐘が鳴るのは同時だった。

 

瞬間。 帝都全域に散らばった数百万枚の紙が、ピカっと一瞬の閃光を放った。 それは化学反応などによる爆発ではない。

周囲の生命体から魔力を強制的に引き出して、威力を上げていた。

 

「熱い!」という叫びすら、灼熱地獄に変わった空間にはもう響かない。

工場主が誇った精密な銃身は、自身の魔力によって内側から蒸発し、今まさに作った品を送り届けようと考えていた時に光の中に消えた。

帝国の2300年の知を詰め込んだ魔導解析院も、RSA暗号を睨みつけたままの賢者たちと共に、物理法則の彼方へと消し飛んだ。

 

 

1時間後。 指導者のスクリーンから、赤どころか白かった熱源反応が一気に消え、まだらな黄色の散らばる赤へと塗り替わった。 大気温度122℃の文字が事務的に点滅する。

 

「死亡者30万2412人。予測との誤差は、わずか9801人。降伏勧告でパニックを起こして別の街にでも逃げ込んだ集団かな? まあ、誤差の範囲だ。」

 

 

彼は席を立ち、窓を開けた。 遠く、帝都ニーヤンがあったはずの方向から、熱風と共にかすかな紙の燃えカスが飛んでくるような気がした。距離的にとてつもない暴風でも存在しなければ到達しないが、独り言をこぼした。

 

「ん?ああ……気のせいか。そろそろ疲れてきたのかな?

盤岩の印で疲労回復するか。

 

「ツァウスト帝国……2300年の歴史も、魔法には勝てなかったか。発破魔法は帝国が生み出した魔法だけど、凄い汎用性があるからお気に入りだ。

魔法に貴賎はないけれど性能差はある。

さて、明日の資料を作らないと。次の首都をどう攻略するか、また未来視を回さなきゃいけないから大変だなあ」

 

「天気予報だけに使うのは勿体ないもんね」

 

彼は少しぬるいコーヒーを一気に飲み干すと、新しい豆を挽き始めた。 30万人を殺したその手で、彼はまた『新しい趣味』を淡々と紡いでいく。

 

電動コーヒーミルはサザンクロス帝国向けに発売しているが、あなたは手動の方が好きだ。

挽いている感覚がよく分かるし、風味が違う気がする。

プラシーボ効果かもしれないけれど、こういう偶然も大切だ。

 

864501256035036130456106655519842600281699564249110645014605178709503463870348700206123963428801550974950854497530592925184651336442654636916813295253816550774640101740942544288673739774653457581177641249706346914594619941097268804576884042074312891334461523171350849313437016259020468902500000000000000000000192と

 

 

3910243578642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789642135789000000000000000000000000000000000000000000000000000033を掛け合わせた合成数。

ほとんどこの暗号を突破するのは無理じゃないかな?公開鍵もツァウスト帝国に無いわけだし。3.3804104851E708

それに、この合成数をこんなから桁数の数字から見つけ出すのは不可能に近い。魔法を使わないなら、宇宙が何回も生まれるような時間がかかるだろうし。

計算魔法も所詮、出力された数字を読み取るのは生物の脳みそ。

巨大数に関わる分野が未発達になるのはこの世界の悲しい数学的盲点だが……計算魔法のせいで僕が作るまで算盤はあるのに電卓すらなかったのだし。

 

ま、その必要がなかったんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

音が4回響いた。

木製の扉に何かものがぶつかった音だ。この音は感覚から、ノックだとあなたは断定した。

 

あなたは部屋の扉がノックされたことに驚いた。兵士たちも巡回しているし……不埒者ではないだろう。 そう思考し、ノックした訪問者を入らせた。

 

 

「こんにちは。私、実は『異世界転移者』でして」

「貴方もそうなんじゃないかと思って訪ねたんですよ」

 

 

あなたは目を見開いた。異世界転移者といえば、何かしらの特殊能力を持っていて。それはだいたいめちゃくちゃなものばかりだ。

 

異世界転移者の癇癪1つでクレーターが封鎖中の工場地帯の扉に開いた記憶が懐かしい。

 

銃弾を避けるようなものばかりとは信じたくないが最悪を想定すべきだ。

 

 

あなたは50発の弾丸が装填されたハンドガンを持っている。マガジンはP90のものを流用しており、大容量を誇っている。

トリガーに指を添え、机の下でセーフティを解除した。

 

片手でやったが、未だ気づいていないことをあなたは祈った。

 

「まず……君は誰かな?」

「私の部下は全員、顔と名前を覚えているし、退職しても定期的に招待をしていたりするんだが……君は見覚えがないね。」

「扉の前にいた部……ああいや、兵士はどうしたんだい?」

 

すると、あなたの問いかけを無視して自称異世界転移者の危険人物は自らの半生を語りだした。神から特殊能力を与えられるという胡散臭いWeb広告の透明バナーを叩いてしまい、気がついたら異世界にいたとのことだ。

 

ふむ……ふむ。

僕の言葉をシカトするなんていい度胸してるじゃないか。

でもどんな能力の隠しダネを持ってるか全容が分からないし、今撃つのは辞めておこう。

 

 

「〜ということがありまして、この国に来たんですよ。」

「いい国ですね。緑が沢山あって、食料にも困らないなんて。ここは私にとって楽園ですよ」

 

肯定的な言葉ばかり言っているが、おそらく本心。

 

ここに来たのも暗殺とかでもなく、感謝を言いにきただけのようだ。感謝を言うだけなら街中で呟いてくれるだけでいいのに。この国は僕が知覚しているから手のひらの上だ。

至る所に目と耳があるように、見聞きできるからそれだけでいいのになぁ……

まあこの情報は公開してないし、分からないのか。なら仕方ない。

 

 

 

 

 

「あっはっはっは!面白いねえ……もっと続きを聞かせて欲しいな。それでどうなったんだい?」

 

 

あなたは異世界転移者……改め、『ラッキーセブン』とやらと話をしていた。

だが椅子から立ち上がることはなく、対面するラッキーセブンに対し、椅子をインベントリから出して座らせた。

 

その内容はだいたいが『スカ』を引き続けたという話だった。

能力の詳細も完全に把握した。

 

777分の1の確率で、運がとてつもなく強化される。

 

神からその能力を受け取った時に、自分の名前を『ラッキーセブン』にされたせいで本名である『ラッキーセブン』と言おうとしても名前が『ラッキーセブン』で固定化されて認識されるようになるらしい。

 

まあでも大したデメリットもなく、素晴らしい能力と言えるだろう。

777分の776は何も効果がないというのも吹っ切れた能力だ。

あまりにも運試しの極み。

 

それで、運が最大になったのにつまづいて藁の束に顔から突っ込み、そしてトラックの荷台に封印され、目が覚めたらメイプル宗教国にいた……

宝くじを引いて1億円を獲得し、歩いていったら執務室に到達したと。

 

能力の影響もあるだろうが、警備の穴を『奇跡的』についたのだろう。

確率が存在する以上は必然になるというのが777分の1を引き当てた時の状態ということだろうか?

 

なんというか、776分の1を引き続ける確率の方が高いのはいいけれどバランスが崩壊しているような気がする。

 

 

(はあ、こいつをどうしようか……)

 

 

あなたはスクリーンを横目に、ニコニコと微笑んで話を聞いている。

促しながら聞いているが、部下に対してかなり処罰を与えなければならない事を悔やんだ。

 

通してしまったのならとてつもない偶然のせいだったにせよ職務中に気の緩みがあったということ。

 

『たまたま全員の視界に入らない』、『たまたま全員の耳に歩く音が聞こえない』、『たまたま全員の認知から存在しなくなる』。こんな物だろうか。

 

ラッキーという言葉で片付けられていい偶然じゃないぞ、と思いながらあなたは加熱魔法で再び温めたコーヒーにガムシロップを足していく。

 

マドラーでゆっくり攪拌され、溶けていった。

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

(とりあえず警備の責任は部下にあるし……情報統制しないとダメだな。ラッキーセブンのいた国はサイミン執政国。ツァウスト帝国の東方植民地、南東諸島の国だったはず)

(内政干渉するのは遠いし手順を沢山踏むからめんどくさい。それに情報をどれだけばらまいてるか推定するだけでも頭が痛くなる)

 

あなたは新しい警備員の目処を立てた。

既存の警備体制に大きな隙があると公言するようなもので、暗殺者フィーバーが訪れることは間違いない。

 

まるまる抹消しないとダメだし、責任もって辞職させよう。

辞職しないなら普通に撃つけどさあ、それは国家元首による処刑になるから外交的にまずい。

 

野蛮な印象を周辺国に与えうるし、この国の印象が悪化することは可能な限り避けたい。

 

情報が漏れないように皆殺しするのは簡単だけども警備に穴が開く。

辞職してもらった後に消そうか。

ツァウスト帝国は僕にとって北狄の存在だし、滅ぼしたい。サザンクロス帝国もどうにか巻き込んで利益だけ得つつ適度のダメージを負わせたい。

 

外交は舐められたら終わり。専制国家の力をサザンクロス帝国にも見せてやりたいな。あの国は議会制だし重大な決定ほど遅れるのが常。

関税自主権の恨みをここで晴らす。

 

相互関税の恐ろしさをサザンクロス帝国に与えようか。

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