ガガッ、ガガッと連続して何かを発射する音がした。
発射源は高い丘に築かれた拠点で、向こう側の敵地にほど近い傾らかな傾斜の丘には回転砲塔が設置されている。
辺りを満たしている音の正体は機関銃だ。
短く切られ、だが継続して発生している音がする。
機関銃と言っても、運用方法は真正面に弾をばら撒くようなものでは無い。
正確に曲射し、間接的に、かつ同時に敵の拠点に向けて大量の弾頭を打ち込むのだ。これは拠点を破壊するために大口径になっていて、意図的に負傷者を作ろうと中間弾薬を発明した歩兵用の……メイプル側の名称をそのまま流用すると、『アサルトライフル』のようなものとはかけ離れた対極に位置する思想。
大口径化し、障害物をすべて薙ぎ倒すという技術者の思想の現れたるその口径は重機関銃に相応しく.50口径で、薬莢の長さは兵士の手ほどもある。
弾丸径.510 in (13.0 mm)
首径.560 in (14.2 mm)
肩径.714 in (18.1 mm)
底面径.804 in (20.4 mm)
リム径.804 in (20.4 mm)
リム厚.083 in (2.1 mm)
薬莢長3.91 in (99 mm)
全長5.45 in (138 mm)
怪物的な破壊力を持つ重機関銃。本体は車載するような携行不可能な物体だが、大容量な魔導列車の貨物に入れることで弾薬を大量に持っていき、連合国との南西戦線でもその力を発揮している。
歩兵戦で戦車に対して様子見した31世の反省を活かし、未知の物体には持ちうる最大火力で出迎える。ツァウスト帝国の軍部は、それが最適解だと示した。
北東側のサザンクロス帝国との睨み合いでもこの重機関銃は使用され、対照的にフルオート射撃で運用されている。
上陸作戦を魔導列車と魔導戦艦が食い止める時代は終わり、今は分隊運用の重火器が帝国のブームだ。
メイプル宗教国との戦線、通称 『南東戦線』 ではこの銃が歩兵などを薙ぎ倒し、戦車は回転砲塔が無数の砲口で破壊していく。そもそもとして回転砲塔と呼ばれるものは拠点に設置するものとして開発されたので、魔導列車の旋回砲塔のように上下方向に仰角できるような設計ではない。
円筒状のその砲塔はとてつもなく太く、下部には何やら接続用の突起のようなものが伸びており それが広く薄い台座の上にピッタリとくっ付いて安定感を醸し出す。
戦艦や列車に沢山付けられている物ではあるが拠点攻略用でもあるのでこういった場合はむしろ本領を発揮する。
遠距離制圧から近接火力支援まで何でも使える万能な火力を見込まれて移動できるように取り付けられるほどの汎用性。これが無ければサザンクロス帝国の上陸作戦は阻止できず本土決戦へとなっていたかもしれないとまで言われるもの。
その信頼性と火力を、最大限発揮していた。
遠くのメイプルの拠点からは機関砲が放たれるが量産化されコモディティ化が進んでいない兵器など局所的優位しか得られない。回転砲塔はいくら撃たれようとも傷は付けど貫通することはない。表面はコンクリートで脆いが中身は金属。コンクリート層は金属層を保護する為のものでもあり、粉砕されることで衝撃を逃がすためのものでもある。
魔導列車による蹂躙では、タングステンの芯がある特殊な徹甲弾により戦車部隊はぼろ負けした。
実戦研究の一環で回転砲塔や旋回砲塔をあまり撃っていなかったものの優位性は証明された。
先に取り付けた銅の帽子によって 自己先鋭化による貫通力や耐久力の低下を防ぎ、どの距離でも戦車の装甲を抜けることが立証されたのだ。
大量生産が進み、対戦車徹甲弾は廉価品へと早変わりした。
いくらでも戦場から再回収すれば再利用できてエコな上、効率上で殲滅力が飛躍的に向上した。
敵の逃亡を誘いだし、ハッチを開けさせる心理的な圧力も確認でき同乗していた技術者と将校は満足げに頷いたという。
この技術者は帝国の技術者の中でも様々な銃を開発しており、回転式弾倉を取り入れた携行しやすい低火力な銃や簡単に弾倉を7発拡張できるアタッチメントなどを図面にした絶対的な実績がある。
魔法式の改良でも有名で、撃発魔法式は糸を高速で縫う機械から着想を得て作られたとのこと。
サザンクロス帝国から高価なボルトアクションライフルを輸入した約30年前のあの日、この技術者は帝国に変革を齎した。
当時の帝国はストレートプル方式に改造し、そこから複数の改良品を製造していたが……全く新しい視点をその技術者は齎した。
その技術者はとにかく回転式弾倉に拘っていて、複数の名作銃を作り上げたこの技術者はボルトアクションライフルを初めて見た時に、スプールという部品を思いついたのだという。
ボルトを引けば確実に装填され、密封性が強く粗悪品塗れだったサザンクロス帝国のボルトアクションライフルと比べて非常に強かった。
最初行っていた、サザンクロス帝国から購入した銃と弾薬の改良……それから抜け出して、独自規格の
全く新しいボルトアクションライフルを作るという挑戦的な一作であったがそれが銃器の歴史を変えた。
周辺国も、帝国も、限られた一艇に込められた5発をどうやりくりするか戦術を練っていたが……それに+7発も込められるということは合計12発。最初は重力で自然に落下する追加のボックスを取り付けていたが、着脱できるようにされた。
次々とメイプル宗教国は、ツァウスト帝国との独立戦争の過程で大量の新しい銃を開発し投入した。その速度は驚愕に足るスピードで、ツァウスト帝国の技術者は自分の弟子たちにメイプル宗教国から鹵獲した銃器を渡した。
その量はあまりに多く、種類も大量だった。ドラム式マガジンとボックスマガジンの発想をここから得たツァウスト帝国のとある技術者は毎日のように図面を作り上げ、今日の戦線に繋がる。
メイプルの拠点からは機関砲が放たれるが、それを上回る火力の密度で砲手を撃たせない。メイプル宗教国のような、訓練が未熟な者ばかりの寄せ集めの連中とは訳が違う。
ツァウスト帝国の成人者は全員が従軍を1度しないといけない法があるし、志願制でもある。おかげで全員の訓練がスムーズに進み、強い反動にも慣れている。
機関砲は確かに強いが、それも鹵獲した。
魔導列車をひとつ脱線させるほどの火力に帝国は怯えたが……正体は空薬莢と車体だった。
実際には過剰すぎる連射速度で使えそうになく、技術研究は停滞した。
この機関砲の運用法は車載だったが、空を飛ぶ航空機を相手に撃墜するためにはちょうど良かった。
空薬莢の問題もリサイクルすれば良いし、魔導列車なら貨物量の関係上撃ち続けられる。
冷却の問題が非常に強いため一部でしか採用されていないが。地上から対空用としての用途ではなく、同じく空中を飛んで撃墜しようと考えた弟子の1人がこの機関砲を積んだ航空機を考えているそうだ。
国から多額の援助を受け、4年後には完成しているだろう。1人の銃器技術者から始まったこの技術革新は、帝国内でフィードバックが発生して改良が続いていく。
メイプル宗教国との戦線でも稀にこの機関砲の音が聞こえるだろう。お互い、拠点に設置して撃ち合うのだから。
帝国の技術開発は止まらず、メイプル宗教国をも凌駕する。資源量によって弾薬消費をほとんど無視できるというのが列強の強み。いくら技術は素晴らしくとも資源がなければ作れない。
資源大国で技術大国のツァウスト帝国だからこそできる芸当だ。他の国が真似出来ない資源量というもの。
この優位性は覆すことができない。
スパイを入れ、指導者が作成した銃の図面をぶっこ抜く。これによってほとんど開発のスピードが2倍になる。
特に、M4A1という銃に技術者は惚れ惚れした。
圧倒的な整備のしやすさ、分割性……即座に解析し、そのままの名前で帝国の銃として各地で使われている。
だが丘の上に建てられた拠点で携行されている銃は、そのM4A1ではない。
SMGと括られていた銃をツァウスト帝国は見逃さなかった。独立戦争期に大量生産されたPPSH43とSTENという名の物。特に、後にドラムマガジン化したPPSH41というものが出てきてからは最初に量産されたPPSH43を重視した。
もう片方の銃も大量に量産することは出来そうだったが……シンプル・ブローバック方式でオープン・ボルト撃発という、発射精度が著しく低い物だったが故に量産されなかった。試作の段階で止まった。だが、この銃の恐ろしいところは各地の反乱勢力に設計図がばら撒かれたことだ。
サザンクロス帝国はこの銃を作ろうとして精度が悪く苦戦していたが、ツァウスト帝国の属国だった所では工業化が進んでいて工作機械の工場ごとの分業も進んでいたが故にレジスタンスの代名詞になるほどの知名度になった。
反乱に苦しむはめになった銃として悪名高い。
密造され、厳しく所持と製造を取り締まっても一部のコンバインなどで働く労働者たちが害獣駆除のためとかで手放さない。
害獣駆除活動をツァウスト帝国がやっているのに現れるわけが無いのでその意見は反乱の疑いとして警察が派遣されたが……まあそんなことはどうでもいい。
室内でこのようなサブマシンガンを持っているのはスパイ対策だ。スパイがお互い多いから作戦も嘘、実行も嘘……欺瞞作戦だらけで信頼が薄れている。
自衛のため拠点内の就寝中でも銃を手放さないなど、熱心な愛国心を持った人々がスパイによって分断されていることを帝国は憂いた。
帝国は拳銃弾を使うサブマシンガンを鹵獲したり改良したので……ボルトアクションライフルが要らなくなった。だがそれが、廃れるかと言ったらそれは違う。むしろ進化した。
45発も入るマガジンがあった。それは拳銃弾を発射する為のものだったが、ライフル弾以上の継続的な火力支援を目指して作られたものだった。
それが目に留まり、天才銃器設計者な技術者によって改良された。
クローズドボルト、オープンボルトと色々あるがボルトを引抜き、バレルを交換してデバイスを付けるだけで拳銃弾が撃てるようになる。
この換装キットを使って大量に生産されたボルトアクションライフルを廃棄することなく、むしろ戦力外として見られかけていたボルトアクションライフルを復活させた。
おかげで銃火器兵たちの士気も上がり、リクルート活動でも多くの民衆がやって来てくれた。
伝説的存在で、天才銃器設計者の名を恣にするその頭脳は複数の国家に暗殺を検討され、国家による警護が付くほどだ。それほど、この技術者は設計が上手かった。
この銃をベースに新規銃を作ってほしいと依頼すれば今までの技術にないほど全く新しい銃を作り上げ、互換性があるのに技術的には未開拓領域のような絶妙な空間にやったり……精密すぎて量産性が悪かったので少数生産に収まったが、次に依頼した銃は量産性抜群で開拓済の分野の銃を作った。
100点のテストで120点を取るような銃をたまに作り、いつも90点以上取るような銃を設計する。
設計者としてこれほど優秀な人材がいるというのがツァウスト帝国の人材の厚みを象徴している。
彼の弟子も沢山おり、技術を一人で1000年押し上げたとまで言われるような人物。他称・伝説。自称・天下無双技術者。
煽てればとてつもない性能の銃の図面を描いてくれるのだ。非常にありがたい。
軍部も有難がり、本人も喜ぶ。これが究極の、ウィンウィンだ───!
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塹壕の中は、絶望に塗れていた。
兵士たちの士気は下がりに下がり、耐え兼ねる恐怖で叫び、その後 自分で手を抑えるような光景があった。
拠点内部に戻ろうにも敵の射撃が拠点を撃ち抜いているせいで戻れない。
徐々に地下トンネルを通して前線から兵を引き、撤退しているがそれも持つかどうか。歩兵はもう終わりだ。
塹壕内部には射撃用の段差が付けられ、固定用の三脚や器具が設置されていてその左手前には携行用通信装置、右手前には大量の銃があった。
その奥で縮こまっている兵士は横穴で、水筒の中の水を飲みつつ上がった心拍数を戻そうとする。
ここは塹壕内に築かれた簡易傷病手当所。
ダグアウトが1段高くなっていて浸水しないようになっている。
この兵士は運良くヘルメットと土嚢を補強していた木材によって頭を土嚢の隙間から撃ち抜かれることは防げたものの、その衝撃で意識が混濁していた。
間接射撃によって塹壕の中にまで放物線軌道を描いて到達し、多数の兵士は即死した。だがそんな時でも、拠点の中に届いていないことをその兵士は祈った。
野戦病院は塹壕内に多数あるが近いところに搬送されて助かった。なぜなら銃傷というのは適切な装備がないと基本的に出血か感染症で死ぬことを意味する。
機関銃座の上に取り付けられた金属の分厚い蓋はあれど、降り注ぐガガガガガガガと言う音にはストレスで耐えきれず銃手は両手を離し、盾を頭の上に構えた。盾と言っても、重さは携行用ではない。25mm、つまり約2cmだ。その分厚さの円錐状の盾を被り、隅に寄る。これが生存率を高めるものだ。
もしこの分厚い残土や鋸屑を押し固めて、それを金属の蓋で閉ざした2層構造の蓋が貫通されたら……それはもうとても酷いことになる。
幸い、蓋に穴は開かなかったが音の反響が物凄い。
並列射撃の関係上、柱が建てられないことも影響してフレームだけで支えている。ヒヤヒヤする塹壕の蓋として有名だが実際は下に基礎があるし、そもそも辺り一帯の岩盤が花崗岩質なのでここで要塞が築かれメイプル宗教国は戦っている。
石灰岩質と花崗岩質入り交じり、保水性がないのでもし雨が降れば泥になるという塹壕。
木の板は、上に歩兵3人が橋として通れるような強度のものが取り付けられてはいるが……先程の間接射撃で簡易な蓋は地面に土と砕けた自らの破片と共に、火力によってへし折られたが塹壕に貼られた木の床に転がった。
その橋の下にいたはずの、ヒューマンたちと共に。
防戦一方で陣地を守ることしか出来ないメイプル宗教国の兵士たちに反して、
周辺は無人区域なのでツァウスト帝国だけは気前よく銃を撃てるのだ。
ガンナーたちは震え、機関銃座の近くで震えている。当然だ。先程まで信じていた戦争の正当性や大義なんて轟音で砕け散った。前線に来て6日間。
たった6日、されど6日。並列射撃による火網……理論としては正しいのだろうがストレスが強かった。
いつか頭上の巨大な蓋も、間接射撃で貫通されるかもしれない。塹壕のすぐ前に築かれた土嚢と木材の壁も、直射されてもうボロボロだ。
修理しようにも壁がだんだん迫ってきている。塹壕から11M先はもう壁だ。6日前は、12Mだったのに。
このままのペースだとどんどん迫ってきて、この塹壕も放棄しないと行けないかもしれない。
では1番前にいる自分はどうか?ガンナーという役割上、逃げる時もいちばん最後になる。なぜなら最前線で弾幕を貼って追い払い、歩兵のキルゾーンを展開するのが、 軽機関銃 を持つ者としての役割だからだ。
この塹壕は、7.62mmの弾ばかりがあって重機関銃の弾が足りない。物資を輸送しようにも本国が激しい攻撃を受けていて、毎日のように通信装置から塹壕内に流れてくるニュースは明るいけれど過酷だ。
国営新聞、国営放送……入ってくるリアルタイムの情報は検閲が入っていたり校閲されている。
本当に『勝利』を収め、あと少しの辛抱なのか。通信装置からの連絡は常に、『勝利』。
ガンナーは鳴り続ける破滅の音を聞きながら、盾を頭上に上げて足元を見た。空薬莢が排水用の傾斜で集まって、木の板が剥き出しになっている。ニスが掛けられた樫の柾目材の等間隔な線だけが、ガンナーが狭い隙間から知り得た情報だった。貫通されていないのか、それとも貫通されているのか。
中身に鋸屑やら何やらが詰まっているから、貫通されているなら粉が見えるはず。だが見えない。いや、本当に貫通されていないのか?
もしかしたらあと1発でこの屋根は崩れて、落ちてくるかも……
そう思うと、ガンナーは動けなかった。
■
ツァウスト帝国は訴訟問題が本当に酷く、もし民間人がいたりしたら准将などが部隊の責任を取らされて軍隊を辞めたりすることになる。国家として責任を取っているというポーズをしなければならないのが裏目に出ていて、准将以上に昇進するとある日突然撃ってもいない銃の罪で後方に退却することになる。
そんな噂が上士官たちの間で流れるほど公然の事実としてその噂は受け止められていた。
将官から上の層が分厚いし、下士官や上士官なども大量にいる。軍組織というのは歴史が長いほど豊富な層になるが……将官というジェネラルから下士官というニュービーまで粒揃いなツァウスト帝国は軍部が強いのも相まって司法と対立が始まっている。
軍組織は、どうぞ法組織の下へ。恨むなら司法を、守れないなら貴方は軍人ではない。法の庇護もない。
この論理が適応され軍部も司法には逆らえない。専制君主と象徴君主の2つの側面がある皇帝は司法を裁定する権利と、行政を行う権利がある。
─皇帝の持つ、君主の権利は誰にも阻害されることは無く、また遮られることはあってはならない─
これが第1条として明記され、皇帝でさえも変えることの出来ない絶対的な法則としてツァウスト帝国では今も昔も、いつまでも適応されている。
厳密に言えば変えることは出来るかもしれないが、やった瞬間にクーデターが起こるか国家転覆の危機が頻繁に起こる、警察組織がやる気を出せない、民間人が遵法意識を失うなどの問題点があるために実行されることはない。
皇帝側からしてもやるメリットがないからだ。
そして組織全体としても、法組織が軍組織より上位にあることによって文民の1番上に位置する皇帝が法組織を統率(指揮)する権限を正当に保有することが可能であり、これはツァウスト帝国の文官たちは武官である軍組織の軍人と反発する原因でもある。
名目上というか実際にあるが、統帥権というものがある。皇帝の権利というか権限の1つだが、これは委任状を出すことによって大臣やら政務官やらに委任することができる。
50:50の状態にするどっちつかずがいちばんダメで、70:30が理想。皇帝の独走を牽制しつつ、大臣の独走を解任という形で終わらせられる上にそこまで影響が少ないという絶妙なライン。
歴代皇帝はこうして、軍部の健全性を保ちつつ組織としての新陳代謝を早め、権威主義的な働きを抑制した。
軍部の独走なんてのは悪夢で地獄、法治国家としての終わりの1歩に等しい。 かつて、ツァウスト帝国は憲法を作り上げ……法を作る際は憲法に違反する場合、作れないという仕組みを実行した。
これは当然ながら他国に広がり、権威による支配から法による支配への転換という歴史で必ず教わるような変革が発生したわけだ。
こんな近代的……いや、現代的なシステムがあるが、なぜ軍部は暴走したか。
それは当然、皇帝がバカだったからだ。
先代の皇帝こと現経済(財務)大臣は、慣習ではあるがかなりの要職だ。
国家歳入を出すのは文官だが指示をするのは経済大臣だ。経済大臣と財務大臣の権限が融合されているのは、元君主だった者への労いと特権である。
大切な権限を持つは膨大な実務経験を持った皇帝の親族で占めるが、相当な実務能力がないと務まらない職に先帝が入れられているのは、まあ能力ゆえだ。
国民からは増税君主だの土下座外交、弱腰外交などと責められた軟弱な外交姿勢はともかく、経済や軍事的には物凄いことをやり遂げた人物ではある。
賠償金支払いのために増税し、その後の資金源をプールし技術開発や福祉に当てた。
国民から嫌われていると思われがちだが、実際には間違いだ。ちょっと苦しめられたけど許容範囲だと思われている。
連合国に地下の下水道から攻められ、州都を持っていかれてしまったが逆に言えば複数の国家を相手にして1つの州しか損失がない。
この手腕をどうして認めないと言えようか。
と、いうわけで軍部から支持されているのだ。
現在の皇帝の31世は軍部からの支持は最悪に近い。というか軍事クーデターを起こされて幽閉されているので事実上政権交代である。
兄の30世の在任期間が長かったせいであまり実務経験がない故、新兵器たる戦車と機関銃というものを相手に歩兵で様子見させてとんでもない壊滅を起こした。
非難轟々、遺族から精神の補填を求めるような声が相次いだ。そして軍事費を少しずつ削っていくように命令するような者を軍部は好かないし、好きになるわけがない。
財閥解体をしたせいでGDPが下がり、雇用も激減……生成魔法陣は労働者の価値を破壊すると開発された12世紀ごろから危惧されていたのに、財閥解体を行ってから生成魔法陣の包括的な採用を行うのはさすがに『愚』の烙印が当たり前だ。
防衛政務官に対して国境線を魔導列車で一切の隙なく守れと命令するのは、まあ良い。政務官は文官でもあるが役職的には軍の要職で、国防省のリーダーなので統帥権を持つ皇帝が命令を出すのに何も間違いはない。
だがその命令が問題だった。
連合国側の戦線に魔導列車を集中させよ、という命令だ。魔導列車は知っての通り火力支援から物資輸送までなんでも出来るという特性上、どこでも引っ張りだこ状態。
国内に数十万両あるとはいえそれを1箇所に集中させるのは現実的に考えて物流も滞るし、何より南東戦線の向こう側にはサザンクロス帝国が中央大陸に居座っている部分がある。
北東戦線では回転砲塔が島々を必死に防衛しているのに、そこに向かわせずに南西の連合国側に向かわせる。なんとミスマッチで酷い選択か。
とうとう耐え兼ねて、少しづつ逆らい始めた。最初は……職業上、禁止されていたことに手を出した。
20歳から政治の世に進出した防衛政務官は、30年間ずっと職務に勤め続けた。職業柄、休日だったとしても職務のことを優先しなければならない。
30年振りに帰郷した彼は4日間、視察の名目を使ってすっかり様変わりした故郷を楽しんだ。
その後、思い立ってクーデターを起こした。
先帝……30世は、自分がもう一度、重祚して政権を取り戻すと防衛政務官に伝えた。
クーデターの日、31世はただ忙しそうにしていただけだった。重祚の承認をせず、『32世としてなら認める』とまで言い放ったのだ。
とうとう呆れ返った防衛政務官は独断で幽閉した。
独断というには、味方に先代がいた時点で違うが……人生で、初めて激しい憤りを感じた。
もうわざわざ、削減された予算案の抗議をしなくても良いし、予算も潤沢になった。
メイプル宗教国は技術の圧倒的な発展速度が脅威だったが……もう恐れるに足らず。先に連合国と繋がっているサザンクロス帝国の戦線、北東戦線に列車を移動させて南西戦線に移動させる。連合国の資金源はサザンクロス帝国。失えば瓦解するはずだ。
連合国の資金はメイプル宗教国に流れ、奴らの武装が生産されている工場は他国。
総数で言えばサザンクロス帝国と連合国が2TOPだ。
サザンクロス帝国の北東の足がかりを失えば、メイプル宗教国は連鎖的に倒れる。メイプル宗教国自体が停滞した南東戦線を生み出す主原因だ。
サザンクロス帝国から資金を引き出し、代わりに緩衝地帯になることを名乗り出たのか……それは分からないが、とにかくサザンクロス帝国から資金を大量に流入している。
それでもサザンクロス帝国はメイプル宗教国との貿易の関税を高く設定しているのは資金回収の一端なのか……それは分からないが、資金の流れがあるのは間違いない。
「連合国とサザンクロス帝国を1度経由する武装…陸路と海路の2つを断つ。
外洋沿いの地域に誘い込み、メイプル側に軍を派遣させたのは海軍で叩き潰す為だ。恐れよ、栄光ある帝国の力を!」
「いくら資金があろうと、属国に粗悪な武器の設計図をばら蒔いて扇動しようとも……この正義のツァウスト帝国が成敗してくれる!」
防衛政務官はそのように意気込んで、今日も今日とて部下の政務官たちに命令を下す。
大臣と着くのは文官、政務官と付くのは武官。
あくまで武官だが文官との橋渡しでもある防衛政務官は大義を胸に秘め、正式に重祚させようと画策する。
ワーカーホリック:仕事を持ちすぎると発症する。休息が必要です
文章の1話辺りの量について(調整)
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10000文字ほしい←現在の基準
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3500以上ならいいよ
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5000文字くらいほしい
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6000以上ならいいよ