女神「輪廻転生しろ」 ワイ「はい……」   作:まっすァき

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塹壕の悪魔

「近接航空支援を要請する!」

 

塹壕の中……正確には、地下トンネルの入口付近でその兵士は通信装置に向かって叫んだ。魔導列車が到着してしまい、一瞬にして土嚢と木の粗雑な壁は無くなった。

まだ少し残ってはいるが、いずれ貫通され無くなることだろう。そうなれば弾除けとしての機能を失い、銃弾の直射を避けることができない。

 

石灰の土が砕け、塹壕周辺は大きなクレーター塗れになっている。花崗岩質の岩盤は砕けていないがその上に存在する分厚い石灰岩質の層は、容易に砕け散った。

 

拠点の内部に運ばれていた航空機は複数機体が撃墜され、現在は高速で飛び交う旋回砲塔の弾から逃げ惑う。

 

近接航空支援など出来なかった。

 

サーモバリック爆薬も機関銃も役立てることはできず敵方の拠点は未だ健在。どうやってここから逃げればいいのか、どうやってこの地下トンネルに入ろうかと思って頭を抱えている。拠点側の兵士が扉を締め切ったせいで、この兵士は塹壕内部に取り残された。

通信装置だけが拠点内部に通じる物だったが、示し合わせたように沈黙した。

逃げ遅れたこの兵士は絶望しながら、必死に通信装置に話す。すぐ側には大量の銃があり、その全てはもしもの時にすぐ銃を持てるように装填済だった。

 

内部の扉に向かって、拳を叩きながら必死に叫ぶ。

 

 

「おい!開けろ!まだ怪我人もいるんだぞ!」

「開けろ!開けろ!」

 

最初に死んだのはガンナーたちだった。重機関銃が3つ、軽機関銃が24つ……この射撃用の塹壕の、ほとんどの構成員は観測手と通信兵、そして射手……ガンナーだ。

 

だが最も前の塹壕にいた彼らは全員、魔導列車から放たれる無数の榴弾砲によって死んだ。

成形炸薬弾を真似したのか、硬い金属の蓋も一瞬で破られて、その1つ後ろの塹壕にいたこの兵士は多数の悲鳴を聞いた。

この塹壕はジグザグに掘られ、衝撃を逃せたが……最前線の塹壕は並列射撃による火網形成を行う以上、ジグザグにできたのはごく一部だった。

 

兵士たちは扉に押し寄せたが、外開きの扉は決して空くことは無く。むしろ、より強く扉が閉められた。

 

地下トンネルは資本を大量投入して作られたトンネルだ。塹壕間を行来するための、蹄鉄のような形をした通路とは違う。拠点内部に直通しているトンネルで、味方の爆撃から逃げるための地下壕でもある。

 

 

内部の兵士は外の兵士を見捨てた訳ではなかった。

むしろ助けようとしたが、見捨てることしか出来なかった。開けようと扉を油圧開閉器で押してもビクともしない。つまり600kg以上の力で押されているということで、もう扉は開かないということを示していた。

 

中の兵士も扉を開けようと全力で押すが、外の兵士が扉に押し寄せているせいで開けられない。油圧開閉器は元の力を何十倍もの力に増幅させるが、その力が弱ければどうにもならない。

 

エルフとヒューマンを混合した兵士というのが大問題を引き起こした。

エルフの身体能力なら1300Kgくらいなら一人で押せるのでそれを前提に一部の扉が設計されていたりした。

内開きの扉もあるが、そちらの方は固定具でキツく止められて開かない。

内開きの扉は意図して味方を見捨て、外開きの扉は決して見捨てようとしなかった。指揮系統の甘さが弱点だった。

 

ここはパニックになった兵士ともいえない者たちの集まりとなったので、本来なら開けようとせずに固定具を付けて2tの力を地面に流せば良かった。

 

外開きなことが災いとなり、1400Kgの力が足りない。

 

ヒューマンはエルフと比べて身体能力が脆弱で、筋肉が足りないのだ。そもそも筋肉とは豊富な栄養があって初めて成り立つもので、支配者階級と被支配階級の種族差が圧倒的に出た。

油圧開閉器は故障するとダメなので、最初の力を出すための部分は人力でやっている。

しかし全力でやっても60Kg。もしも中にいた兵士がエルフだったなら2tの圧力など押し返して開くことができた。

だが種族による憎悪……ヘイトが染みとして心に付いていたヒューマンは、外にいるエルフたちを見捨てた。

ヒューマンは助かろうと内側に行こうとし、エルフたちは最前線で工兵として働いていたので……外にいたのも、内にいたのもヒューマンだった。

エルフもヒューマンも言葉の区切りでは人間だが、実際にはお互いが相互のことを人間だと認めていなかった。

本当ならば60kgではなく90kgほどの力が出せるが、種族として遺伝子にまで染み付いた生物的な反射による硬直が許さない。エルフを効率よく識別するための本能がこの世界の種族には備わっている。

蛇が生息するサザンクロス帝国の人間が蛇を見分ける能力を持っているのと似たような仕組みだ……と、進化論の学者、生物学の学者は説明した。

 

サーモバリック爆薬を使用するのは当然、相手の拠点となる。だが最悪のミス……サーモバリック爆薬のトンネル内爆発などを想定して、最前線の扉は外開き。

 

内開きの扉は最前線には、存在しなかった。

 

 

むしろ、最前線から最も遠い拠点に続く扉は内開きだけだが。

その扉も同じく締め切られていた。

 

なぜなら今から……『爆撃』が始まるからだ。衝撃が入ってくることを想定し、固定具で扉に伝わるあらゆる衝撃を地面に流す。つっかえ棒と同じ仕組みながら耐久性と信頼性は非常に高い。

 

 

というかこういった扉に、開閉魔法は絶対に使われない。なぜか?それは安全性と恒常性(冗長性)の問題があったからだ。誰でも魔法を扱うことができる以上、魔法を用いて扉を開閉できてしまうなら敵でも開けられる脆弱な扉になる。

 

黄金の詰まった金庫の扉が電子ロックではないのと同じロシックで物理ロックなのだ。

 

 

ヒューマンたちが必死に扉を叩いているが、その振動だけが内側に伝わった。声は空気の振動だが、殴打は物体の振動が故だ。

 

 

「おお……やっと来たぞ!」

「航空機だ!」

 

ヒューマンの兵士が顔を上げ、音のする方へと目を向ける。固く閉ざされた扉へと、続く道のすぐ側に座り込んでいたが立ち上がった。

 

編隊を組み、高速で空を駆け巡る。

 

だが魔導列車の回転砲塔は常に塹壕に照準を合わせ、時速250kmの魔導列車の上から打ち続ける。

土嚢と木の壁は一部残っていたが全てを無くすためだ。そしてその直後、魔導列車の機関銃から一斉掃射が始まり、塹壕から這い出て敵前逃亡をしていた兵士たちは直射によってほとんどが死んだ。

 

 

塹壕から出た兵士は多くいたが、そのほとんどの末路は死だった。機関銃は銃弾1つで即死させ、どこに当たっても出血死は免れない深刻な銃傷を負うことは確定している。

 

魔導列車の上にある機関銃座は浮遊魔法で車体から浮いているが、その周りに魔導列車とくっついている蓋があるので慣性の法則で車体から吹き飛んでいかない。

 

機関銃のバレルが旋回できる線が存在していて、それが十字になって上下に撃つことも可能になっている。重機関銃は並列射撃によって圧倒的な継続火力を生み出し、回転砲塔が機関銃の銃弾を遮る障害物と塹壕を纏めて破壊する。

 

それ自体が超巨大な、砲火のプラットフォームであるが故に1発1発が塹壕に潜む敵兵士たちを蹂躙していく。

 

さらに扉を強く叩く兵士たちの中には立てかけられている銃を使って蝶番を破壊しようとした兵士もいたが、トンネル内部に蝶番がある上にそもそも開閉機構が蝶番のように脆弱なものを部分的にしか採用していない。

 

開閉軸が1つしかないような脆弱な機構を塹壕の扉……それも地下壕兼通路である地下トンネル前の扉に採用するはずもなく。スライド式のような歪めば終わりの機構でもない。

 

埋め込み式なので蝶番は内部にあれど破壊することは出来ないのだ。そして、跳弾で弾が跳ね返ってしまう。

 

どうにもならない絶望に、辺りを包んでいる血の香りに……もう、兵士たちは1歩も動けなかった。

ただ扉を叩き、敵から直射されないように塹壕の壁に必死に自分の体を押し付けるだけ。

 

前方に存在したはずの、土嚢と木の板の壁は……もう存在していなかった。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

「おーい、そっちは大丈夫か?」

 

つい先程、敵拠点からこちら側に向かって機関砲が撃たれた。魔導列車の側面は大いに損耗し、レールに沿って旋回していた。

 

ここはツァウスト帝国の拠点、『宿舎駅』。

その名の通り、兵士たちの宿舎と魔導列車の駅を兼ねる存在だ。放射状の線路の上に導かれ、それぞれのドックで修理を受ける魔導列車たち。食料も医薬品も、弾薬も魔導列車がある限りは絶対に無くならない。

 

軍人たちがいるとは思えないほど賑やかで、簡素なパーティーまで魔導列車の客室で行われている。

 

停車中の魔導列車は浮遊魔法で車体を持ち上げる必要がなく、それ故に内部空間は安全な会場となる。装甲板も空力形状を考慮されており、龍の鱗のように先頭から吹く風を効率よく流し、カーブする時に装甲板の厚みが変わり、単純計算をするとおよそ150%の防御性能を重なっている部分で発揮する。

 

1枚の装甲板も決して小さくなく、むしろとても大きく防弾性能に優れている。

人間の胴体ほどはあろうかという面積を持つ装甲板は堅牢で魔導列車の装甲として信頼性が大きい。走行中に角度を変えることもでき、空力特性を走行用から避弾経始用のものにできる上、このひし形の鱗は重なる。

真正面から撃たれるとスピードのせいでダメージが大きくなるが、側面だとむしろ違う。カーブ中はひし形ゆえに、重なりあって実質的な装甲厚が増加するしスピードゆえに弾かれる。

 

機関砲であっても有効打になり得ない。だが動かすための部分が衝撃で損耗するので、装甲板はそのままに可変部位を変えるのだ。交換も一人で可能、工具もたった15しかいらない。そして工具どれもが携行可能な重量。

 

これにより兵士が現地で修理することも可能な動く防御拠点兼攻撃拠点なのだ。

 

後方から撃たれた場合は最高速の場合、発射時の初速が時速900kmを超えなければいけないということもあり、仮に時速1200kmのライフル弾でも実質的に300kmの力しか与えることができない。

 

設計された当時は動く倉庫のような役割だったが、次に信号弾を発射して高速移動する原始的な通信をするようになり、次に……このようにして役割がどんどん増えていった。

 

装甲板も削り出し製法を採用しているのでムダなく1つの鉄板から精密に切り出せる。

 

ひし形と言ってもそれは四角錐を2つくっ付けたようなもので重たい。直角に被弾することを許さない形状なので、多数の弾が当たってもダメージは小さく抑えられるが衝撃は伝わるし何より形が崩れて避弾経始の力が削がれる。

 

 

鱗の構造は鮭を参考にした。なので、『賢者の龍』と呼ばれるようになったりもしたのだ。

 

なぜなら鮭と言えば生命力や賢いというイメージが文化的にあるので、鱗から賢者要素をぶっこぬき、そして細長い見た目から龍としたのだ。

 

龍は皇帝を表すものでもあるので権威ある乗り物として扱われるようになった。

敵対者には恐怖を与え、味方には栄誉を与える。何もしなくてもこのような効果を生み出せるので龍という属性を名前に追加するのはとても合理的。

 

 

不死身の列車、鋼鉄の龍、破壊の雷……敵対者からこのように恐れられ、そして尽く全てを粉砕してきた圧倒的な実績を持ってして存在するだけで脅威となる。

 

だが、敵方の火力はこの鱗にダメージを与えるほどの火力だった。機関砲は鹵獲され研究が進んでいるが発射速度があまりに早く、機関砲による集中砲火を受けると攻撃を受けた箇所と完璧に同じ箇所に被弾をする確率が高まる。

 

なので現在は修理と対空を兼ねるために停止し、航空機を墜落させる旋回砲塔を撃っている。

 

爆音が響くが、これは仕方がない。通常は真空に近い状態で発射するのでどれだけ音が大きくかろうが振動する大気そのものが存在しないのだ。

 

大気中という環境は空気抵抗によるブレーキを行うことが可能になり、さらに摩擦が全ての部位に発生する悪夢のような環境。だから整備兵たち、あるいは普通の兵士たちも修理に参加しているのだ。

 

ツァウスト帝国の兵士たちは殆ど全ての訓練課程を軍学校で終えているか、定期軍役の時に学んでいる。

 

なので練度も桁違いで、全員が全ての兵科に着くことが可能になっている。

 

軍は志願制なので入りたいと思って選別を潜り抜けて来た者しか残らず、ゆえにツァウスト帝国の兵士たちは強いのだ。そもそものバイタリティが違う。

 

近年は就職難による国外の技術者流出や戦乱の拡大による死亡、さらに生成魔法陣による工場労働者の大量解雇といった状況によって民間人が敵国であるはずのサザンクロスと連合国、そしてメイプルに流れてしまう事態になっているが、軍だけは戦争中なので需要は常にある。

 

リクルート活動で大量の『人間』たちが応募するのも、これが原因であり全ての根源だ。

 

エルフとヒューマンを混合するという発想自体はどの国も持っているがそれを高い精度で実現しているのがツァウスト帝国だ。エルフが優れているという優生思想は確かに強いし、『生物学的な事実に基く難しさ』があるというのがかなり厳しいが、それでも建前上は平等だ。

 

─ヒューマンにもエルフにも開かれた雇用を─

 

この一文があるというのがツァウスト帝国の強いところだ。種族に関係なく差別はダメだという意識を、うっすらと与えている。

 

だが現実は悲しきかな、ヒューマンは社会にあまり必要とされていないので人口ピラミッドの大半がエルフで占められていてヒューマンは少数派。

 

それにヒューマンでもできる仕事というのはエルフの方が効率がいいので財閥のような雇用を大量に作る物でもなければヒューマンは積極的に雇用される機会がない。

 

ハイコストな人間よりもローコストな生成魔法陣を……これのせいで雇用が壊滅した。

 

人間ができる仕事は生成魔法陣ならもちろん出来る。

組み立てやライン作業といったものもできてしまう。産業用生成魔法陣なら自己評価を行って、失敗を蓄積して学習し、改良した生成魔法陣を作ってしまう。

 

生成魔法陣の2代目には継続学習の魔法式を組み込まないようにするセーフティも外されたりした結果、雇用は壊滅した。

 

繰り返して言うが、雇用が壊滅した。

 

 

だからこそ雇って、給金を出してくれる軍組織に応募してリクルート活動にも積極的に参加する。

 

 

デフレーションの流れが到来しており深刻な物資の過剰が問題となっているのだ。どうにか改善しようと重祚した先代が努力しているがあまり結果は出ていない。

 

人材流出を財閥再結成で食い止め雇用を劇的回復させたものの、11%という悪夢的な失業率の爪痕は大きい。国の債権という余力もかなり小さくなったので暫くは経済が横ばいに足踏みすることとなる。

なにせ人口が4.4億人から3.6億人から2.3億人まで激減するとてつもない人口流出が発生したので税収がとてつもなく低下した。仕事を求めて解雇された労働者たちが大量に流出し、その家族も流れたのでこのようなことが発生する。本当に悪夢としか言いようがない。夢であって欲しいが残念現実。このガタガタの帝国の上で指揮を取り、軍需を経済のスターターにして無理やり復活させるしかない。

 

2.1億人のうち約1億がメイプル側に移動し、9000万人が連合国に行く始末。サザンクロス帝国とは海を隔てているし国境線でドンパチしてるから亡命は難しかったようだが……民間船舶が多すぎてサザンクロス帝国にも流出した。

 

労働者や公務員は財閥に雇われているか国に雇われているかの違いがあり、両方とも安定しているからツァウスト帝国に魅力があるのであって、生活水準が大幅に下がってでもこの国から逃げたいとまで思わせた31世の罪を雪ぐのは難しい。

 

住宅の新規建設計画はストップ、空き家だらけでもはや住宅業界は滅びの瀬戸際。 だが水道インフラと永久凍土の資源採掘で雇用を吸着させて完全雇用に近い形態に持っていく……神の差配とまで言われるだけの実務能力を持ってしてでもこれが限界だ。

公務員カットと給料節約は正気ではないと思いたいが、残念ながら事実。これのせいで公務員は逃げ出して連合国側に渡った。タダで労働力と技術力を手に入れた他国は急激に進歩し、銃器の量産が進んで一気に強くなっている。

 

資源の絶対量でゴリ押しているがそれも技術の進歩で追い抜かれた瞬間に帝国が終わる。

 

サザンクロス帝国との貿易競争も敗北寸前、食糧輸出網で外貨流入があるのでこれを拡大したいが諸国との関係が悪いので輸出を止めたい。

だがやった瞬間に9100万tの農作物が国民に牙を向き、デフレを加速させる。農業は辛うじて生きているがこれが毒にも薬にもなるので慎重にならざるを得ない。

 

メイプル側は流入した労働力が過剰になり溢れる……とならずに、化学工場という新産業で吸着したり、住宅街を建設したりなどして1億の労働力を活かすし、もう叫びたい。

 

それにメイプル側では人口流入が発生した1ヶ月以内で産業の需要が117%〜611%も急激上昇したようだ。

 

普通はインフレーションかデフレーションで死ぬがあちらは造幣局がよほど優秀なのか、国営銀行が民間銀行に金を貸しまくりで通貨価値が急激に上がり、株式市場も上場。

 

投資家たちも企業が瀕死になっているツァウストよりメイプルのほうが良いと判断したのか、資金を流す。

 

農家の自己破産が続出していきなり収穫がまだなのに休耕地になるような帝国は、1次産業もボロボロになった。

 

何もかも、腐る前に国内に大量放出した31世が悪い。

 

確実に終わるということを分かっていながらやったのならそれはもうスパイと同じようなものだし、分かってないというのならそれはもう皇帝になったのがおかしい。

 

実務経験が浅かったで説明が付かないような失政を繰り返す31世に国民はため息をついて荷物を纏めて国を逃げ出す。

 

カムバックしてきた国民は少なく、前の水準に戻ることはできない。石油化学製品の工場がメイプルには建てられ、こちらも真似をしたが労働者が足りない。

 

どうやら永久凍土の厄介者が油田という資源の1つであり、爆発する危ない空洞もガスという資源の1つだった。

 

紡績工場はナイロンで潰れて行ったが荒治療が必要だ。石油化学製品はいずれ世界を席巻することになる。その波に乗らなければ帝国は滅びる。

 

プラスチックという物を見た時、激震が走った。軽量で透明、しかも持続させるのにコストがめちゃくちゃかかる防腐魔法を使わなくても腐らないという利点。

 

ガスは魔法の代替エネルギーになりうるとされて研究が元から進んでおり、既にインフラ化しコモディティ化の真っ最中だった。ならば石油のコンビナートを魔導列車で繋げば、建てた石油化学工場を点ではなく面にできる。

 

 

スパイで石油化学製品の製法をぶっこぬき、原理も完璧に理解した。原子周期表も獲得したが…これはまあ別に関係なかった。92の周期表が173の周期表に更新されたということはあまり関係がない。

92番……別名、最後の物質はあまり活用法も判明していなかったが、どうやら現在進行している『A計画』とやらに大きな関係性があるようだ。それもスパイを向かわせているが、もうじき帝国に帰ってくるだろう。

 

早死するだけの危険な鉱物だと思っていたがまさか活用法があるなんて驚きだ。

 

さ、研究を進めて石油化学の波に乗ろう。

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

兵士たちは絶望していた。

 

発進した航空機は撃墜され、本国から届いた爆撃機たちも多数墜落。圧倒的なペイロードという説明も、兵士の絶望の落差を大きくしただけだった。

 

敵拠点を破壊しに行ったはずが、高度が高すぎたのか爆炎の密度が足りていない。

魔導列車の旋回砲塔がそれより圧倒的だ。

 

連射速度が明らかに高すぎる。高速域で見ていた、あの連射速度は偽装工作だったのか?

 

 

そのような疑念が、塹壕の内部の兵士に抱かれた。

 

間接射撃は放物線を阻害する壁があったから。ならば、壁が回転砲塔の圧倒的な対地攻撃能力で全壊した時はどうなるかなんて想像が容易い。

 

死の雨が降り注いでいて、たまたま当たらなかっただけの幸運だ。盾を構え、轟音が反射して鳴り響く中で必死に耐えた。ガガガガガという掃射の音はストレスが急激に高まったが、その兵士は生き残った。

 

掃射がいつの間にか終わった。

 

 

停戦条約が結ばれたと、戦場に響き渡った。

 

 

兵士は絶望した。

この戦いは何だったのか。

 

死んだ友、元郵便配達屋の上官……そして人生をかけた総力戦。

 

 

停戦?

 

負けたのか。

 

 

 

 

兵士は絶望の中、そんなニュースを流す、集中砲火の中で生き残っていた通信装置を恨めしそうに睨んだ。

 

扉は結局、掃射が来ても開くことはなかった。

 

 

南東戦線……死傷者多数。今日の負傷者は0。生存者は見つけらない。

 

11月のこの日、司令部には『南東戦線異状なし』と報告されただけであった。

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