銃火器の火花が大量に咲いた。
当時の絵画を見るに激戦だったことが分かるが、公式の資料ではその数、600万。
旧エスメープクド王国、現ツァウスト帝国領メイプル執政国のこの土地にて……独立戦争が発生しており、
敵は室内や路上におり、1600〜1900万人ほどの人口のうち大半を占めるヒューマンによる反乱である。
兵士たちが休む巨大な街は首都のメイプルより遠く離れていて、決行されたその日に鎮圧することが出来なかった。
なにせここに来るまでの道のりも険しく、反乱軍の大半を占める民兵隊の指揮者が強すぎた。
『ゲリラ戦術』というものを駆使し、やって来たツァウスト帝国の正規軍たちと戦っている。
真っ青な旗の色はツァウスト帝国の国旗で、反対に赤色なのがメイプルの旗だ。
当時に描かれた戦争の絵画で、書かれた場所がツァウストなので誇大的表現が活用されている。
武器の格差は大きく、民兵隊らが包丁や鍬を持つのに対し、ツァウスト帝国の正規軍らはボルトアクションライフル……それも、ストレートプル方式のものを持っていた。
全員が銃火器兵であり、精鋭。
600万人全員が銃火器兵という当時でもイカれた構成の兵士だが、これによって首都を完全包囲し、二神将たちももうすぐ合流するという危機的状況に陥った。
左側で急いで後退し、背後に壁があることに慌てているメイプルに対して銃を突きつけるツァウスト。
これはメイプルの窮地を表したプロパガンダ的……いや、事実を表した絵画だ。
誇大表現は服装だろう。
メイプルの住民は当時でもさすがに市民服を着ていたとはいえこれほど上質な素材ではない。
色合いも褪せた緑がメインだし、リネンを主な素材としているので民兵隊は赤色の服装をしていない。
銃火器を突きつける大量のツァウスト帝国の兵士は写実的に書かれるのに対し、メイプルの民兵隊は背が小さいように描かれている。頭身が低いのは反乱の参加者が大人だけではなく、子供も含まれていたことを表している。
陸海軍両方とも世界有数の強さであるツァウスト帝国の兵士は頭身が現実に沿っていて、画家がツァウスト帝国人であるのにも影響を受けているのだろう。
1人は銃器を持っているが、その者はツァウスト帝国の兵士を前にしてまさに今撃たれそうな表情をしていて、とても戦闘中の絵ではなさそうだ。
一方的に首都まで攻め落とした強行軍的な行軍によって首都を包囲した陸軍は非常に強く、当時の独立戦争で存在した銃器も人数差で損失をほとんど受けなかったという。
それに加え、ツァウスト帝国は神器を保有しており、サザンクロス帝国の私掠船溢れの海賊が通商を妨害した時に、二神将の1人が大量の水を操り、海を立ち上がらせて一瞬でバラバラにされたという。
目測と当時の証言("真偽不明")によれば、30mを超える波が海の底からいきなり出現して水平線上全ての船を破壊したとのこと。
実際に観測されたものによれば、キール(船の一部位)と大量の箱(貴金属類)が海岸線に漂流し、少なくとも80以上の船(と確認できうる部品)が漂着していた。
二神将のもう1人はメイプル執政国にて鎮圧の前線に立ち、戦死しているが気象変化と気圧の急激の変化、炎の柱が回転しながら迫ったという証言から炎を操る神器だと思われる。
だがさらに事態をややこしくしていたのは、サザンクロス帝国だった。サザンクロス帝国は『虎星軍』を派遣し、ツァウスト帝国の正規軍と睨み合い。
ツァウスト帝国との全面戦争中であり世紀の大海戦が開かれる真っ最中に兵士を引きつけるために大量の陸軍を派遣した。
南東属国群に行く魔導列車が東方植民地にあり、2方向からメイプル執政国の反乱軍を鎮圧していたころの出来事だった。
ツァウスト帝国の火炎放射器によって海上を火で覆い、多くの木造船を沈没船にし航行不能にまで追いやった。
相互不可侵条約は簡単に破られ、『分割の握手』と呼ばれていた南東諸島での平和は簡単に踏み躙られた。
2366年は代替わりをしてからわずか9年。
つまり、たった10年未満で相互不可侵条約は破られ、南東諸島から背後を刺す形で陸軍が送り込まれ、さらに南西のサザンクロス帝国領リューヒルからも陸軍が送り込まれる。
結果として、独立戦争を支持する形となりツァウスト帝国の外交官は全員が帰国し、大規模な禁輸措置が取られる事となった。
2366年は厄災の年と言える年である。
同年4月に食料安全保障が果たされていないとして反乱軍が放棄する前のツァウスト帝国領メイプル執政国に入り込んだ『食糧支援部隊』。これらが反乱軍を形成するのを助け、実態は殆どがサザンクロス帝国の兵士がメイプル執政国に侵入しているのと変わらない。
だが5月には懲戒的措置である、『経済封鎖』が行われ、南東方向の海上輸送を一手に担う中間貿易所でもある『東方植民地』から南東諸島に向けて追加の海軍が派遣された。
これによって南東諸島の平和は崩れ、破壊的行為がツァウスト帝国領で行われたと5月末に宣言。
宣戦布告が行われ、国家間の緊張は戦争として現実になった。
メイプル執政国での独立戦争を鎮圧しようと陸軍を派遣したツァウスト帝国はサザンクロス帝国の陸軍、『虎星軍』と正面衝突する。
これがメイプル執政国領内において発生した内乱……いや、代理戦争が2366年6月初頭に発生した原因だ。
独立戦争&対外戦争&代理戦争の3つのペルソナを持つこの戦争は、ごく短い期間で終焉した。
ボルトアクションライフルの性能差が響いた。
ツァウスト帝国はボルトアクションライフルの方式をストレートプルにしており、多くの場合に泥が入り込み発射出来なくなった。
さらに市街戦ゆえ、どこに罠が仕掛けられているのか分からない。
それに対し、連射速度こそ遅いがサザンクロス帝国のボルトアクションライフルは泥が入り込んでも大丈夫だった。
もともと陽動のため、『冶金魔法』と『成形魔法』を用いて安価に大量生産した物なのだ。
全長130cmほどで取り回しも良く、木の部分が多くあったがサザンクロス帝国には良質な樹木が群生しているがゆえ問題が無い。むしろ金属の部位がボルトやバレル等なので、金属を採用する部位がツァウスト帝国のボルトアクションライフルよりも少なかった。
プレス加工と削り出しで精度の高いボルトアクションライフルを作るより、魔法を用いた職人芸で大量のボルトアクションライフルをばら蒔いた。
よくバレルが爆発したり、真鍮薬莢にリムがついていてサザンクロス帝国のボルトアクションライフルは反乱軍から大不評だったものの遠距離火力を手にし、『成形魔法』によって可塑性を与えた家の素材を用いて包丁や槍などを大量生産した。
これにより、市街戦においては優位に立ち、首都を包囲するツァウスト帝国の陸軍を相手に15万人も死者を出すことに成功する。
負傷者数は11万人ほどが出て、死者の大半の原因は病だった。血液感染を主軸に置く伝染病が流行し、さらに発疹の確認がされ、ツァウスト帝国は医療のために大きなコストをかけた。
経済封鎖の影響を受け、サザンクロス帝国側は世論が戦争に肯定的になり大規模リクルートが2366年7月12日に開始。
海戦は二神将を派遣せず、陸戦で二神将を派遣した。
この判断ミスが原因となり、ツァウスト帝国は南東諸島を失って東方植民地まで後退する必要が出た。
そしてその後、8月21日には南東諸島上陸を阻むための420万人の兵士(そのうち120万人は銃火器兵士)が撤退とメイプル執政国での反乱鎮圧命令を受け、南東諸島はサザンクロス帝国が獲得した。メイプル側に派遣されたのは60万の銃火器兵で、負傷者が多数いたツァウスト帝国陸軍は60万という大量の銃火器兵士を最後に、メイプル側へ反乱鎮圧命令を出すことはなかった。
サイミン執政国 ハリストカ・チリストカ・ライストカ執政国などの4つの属国でも独立戦争をサザンクロス帝国の支持によって引き起され、独立の機運が属国で大いに高まる。
そして9月にメイプル執政国は独立承認をサザンクロス帝国から受け、独立したとツァウスト帝国に宣言。
だがツァウスト帝国に余裕はなく、サザンクロス帝国と北東諸島で海戦を再び開始。
本土上陸されまいと、回転砲塔などの固定砲台が設置され吃水線をサザンクロス帝国の兵士が超えることは無かった。
だが北東部の制海権を争う戦いにおいて、19の島々を守ったものの遠く離れた3つの島をサザンクロス帝国に取られ、排他的経済水域が縮小した。
この3つの島でサザンクロス帝国は植民地化を進行させ、現地住民を本国に送って本国から移民を募り、島に輸送する。
こうすることで植民と原住民族との軋轢低下を同時に行い、プランテーションで働き口を得て文明的な暮らしを原住民族は手に入れた。ツァウスト帝国への帰国を要求する原住民族も多くいたが、サザンクロス帝国は南大陸に位置し、ツァウスト帝国は中央大陸に位置するため帰国要求は破棄した。
また、未開の地であり無人島になった3つの島々では防衛拠点を設置し、サザンクロス帝国の文明化に大いに活躍した。
これにより、この3つの島では開拓の邪魔になった木々を獲得し、さらにサザンクロス帝国の司法に基づいて住宅を多数建設した。
リゾート化が進行し、同時に軍事施設化も進行するという奇妙な状態になった。
サザンクロス帝国の住民が住んでいるので当然、サザンクロス帝国の島であり。
ツァウスト帝国に島々は帰属しない……ということになった。経済封鎖の影響を受け、サザンクロス帝国内では食料自立の動きが高まり、プランテーションの需要が高まった。
そこで、メイプル執政国で協力してもらった住民をサザンクロス帝国に誘致して、安定的な賃金を払ったり、逆に土地を契約して住宅地を立ててメイプル側に移住したりもした。
だが、8月中旬に発生した独立勢力によるサザンクロス帝国の正式な食料安全保障部隊の武器が強奪され、さらにサザンクロス帝国が傀儡政権を立てようとしたなどと非難した。
事実無根なことであるとメディアでは報道しているため、メイプルへの支援は打ち切った。
が、その後メイプルは通商条約を持ち掛け、茶葉に関税を掛けると宣言。
茶葉栽培に適した高山地形が多く、風通しのよい風土のメイプルは地政学的に重要であるためこの条約を飲み、茶葉貿易が強化された。
南西方向……ツァウスト帝国視点ではなく、サザンクロス帝国側の用語を用いると西方に位置するメイプルは、隣接している国でありながら山脈があるため貿易が難しい。よって、運河から輸送をしているがコスト面で茶葉貿易の強化は現地プランテーションでの生産量の増加に留まり、輸出量はあまり増大しなかった。
12月にはツァウスト帝国はサザンクロス帝国と休戦条約を結び、経済封鎖の影響で原料が高騰したサザンクロス帝国内部ではツァウスト帝国の非道な経済封鎖に抗議が起こり、大使館を包囲した。
サザンクロス帝国の警察が加熱した民衆を制圧したものの、これがなければツァウスト帝国と開戦してしまい、戦争の爪痕が著しく残っていた当時では海戦で大量の船舶を失い、継戦能力が途絶えていたとされる。
この時に外交官や大使を攻撃していたら、第一次世界大戦に次ぐ世界大戦が勃発していたことだろう。
この独立戦争を発端に発生したメイプル宗教国(後にメイプル合衆国と改名)は、独立戦争を率いたルメンにより多数の国家(ユーリンス・リーユンル・ホーウィンなどのツァウスト帝国の属国)を併合。人口が2500万人になり、ヒューマンを主体とした国家だったのはここまでである。
その後、『大政変』と呼ばれる事象を経てツァウスト帝国では31世としてツァウスト帝国皇帝30世の弟が即位。
この後に『大失政』と呼ばれる事象を経て、6ヶ月後に30世が重祚式を行う。
当時、『破壊の帝』と呼ばれた31世は数々の失政をしたのだ。
『独占禁止法』、『利権重複解放令』、さらに『労働裁定令』。
その他にも数多の法律を31世は作ったのだが、重祚した30世が無効にした。
独占禁止法や利権重複解放令、労働裁定法により財閥は力を失い解散、多数の企業は倒れて雇用が激減した。これにより失業率11.14%を記録し、『経済恐慌』と当時命名された。
雇用喪失のプロセスを箇条書きすると、だいたいこうだ。
まず、独占禁止法が設立される。
1:高技能者も容赦なく職を失う
そして、生成魔法陣の包括的採用が決定され、魔導工学の神である生成魔法陣により、
2:機械化が進むほど浮動労働者が増加
これによって逆進性のある消費税を増やしたことにより、社会と経済格差の拡大が発生した。
3:資本と技術にアクセスできる者だけが利益を享受
4:ヒューマン労働者は消費者としても弱体化
これによってヒューマン労働者もエルフ労働者も等しく解雇ラッシュが発生した。
生成魔法陣を強制的に導入させ、導入した工場は賃金を切り下げざるを得なくなり、導入しない工場に対しては容赦なく罰金が付与された。
これによって、都市の機能変質が発生した。労働空間が無人の工場に置き換わり、人間が管理に介在しない工場の生産ラインがが増えていった。
事故が起きてから責任を取れる者がいないし、なぜ生成したのかのプロセスを読んでも判断がそこにはなく……ただ魔法式が勝手にプロンプトを自己生成し、更新して改良していくだけだ。
これによって人間の声や文化の存在感が希薄化してしまうという極めて予言的だが的中してしまった警告が遥か昔から、想像によって齎されていたのだが。それが無視された。
5:解雇ラッシュを止められない
資本家も生成魔法陣を使うと、土地代を15%免除されるためこぞって採用したが……これがほとんど罠に近かった。
大量に労働者が解雇されていき、路上で仕事を探す者が現れるという以前のツァウスト帝国ではありえない光景が広がった。
これはサザンクロス帝国にも広がり、この事例を活かして生成魔法陣が部分的に採用されるに至った。
情報が入力され、出力する過程を人間が介在することなく効率化していく自己学習の魔法式が使われた生成魔法陣は悪夢のような存在だ。
技術は素晴らしいが、情報入力の更新を怠りながら自己学習を重ねると急激におかしな方向性に進んでいく。
そもそも原理が、情報の傾向性から確率的に文章を生成するというもので……この文章を魔法式に加工し、それを魔法陣に組み込むことで自己学習が完遂されるのだが情報源というものは自動で入力されることがない。
よって、自動生成される魔法式も用途が無いものばかり増えていくことになる。
生成された魔法式の選別を行う機能が搭載されているが途中でそれを無効化するようになるからだ。
そしてツァウスト帝国では経済恐慌が起こっている時期に、『雇用変更令』が出された。これはどう言う令なのかというと、『ワーキング・プアの大量生産&既存のノウハウ大破壊』である。
6ヶ月という僅かな時間でツァウスト帝国はボロボロになり、大量の住民がメイプルと連合国に流れた。
メイプル宗教国(当時は合衆国と改名していない)は独立した通貨をサザンクロス帝国との貿易で用いた。
これにより価値が無かったはずのただの紙切れに通貨価値が発生し、同じく紙幣がメインであったサザンクロス帝国と非常に相性が良く、サザンクロス帝国でメイプルの通貨が流通したおかげで元から通貨を保有していたメイプルは豊かになり、物価がサザンクロス帝国との貿易により激減していたことも相まって購買力が激増し、化学工業技術という当時は極めて先進的な技術を用いて数多の製品を発明した。
送電網を作るための地面掘削、広範な水道網を作るための水道橋を作るための地盤を強化するための機械を作るための工場を……と、何かをする為に工場が必要になり、吸収した国家群に大量の工場やトラクトハウジングという住宅街が完成した。
これにより1900万人→2500万人というサザンクロス帝国からの出稼ぎ組600万人を吸収しつつ、金融街が成立。
そしてツァウスト帝国からの労働者階級や技術者層が大量に入ってきたことにより、メイプル宗教国は一気に1億人以上も人口が爆発した。
事前に入ってきた600万人のための収容能力を持つ住宅と違い、テント街やコンテナ街という特殊な街が形成された。
これは直ぐにトラクトハウジングへと変えられたが、次々と流れてくるツァウスト帝国からの移民たちにより人口統計データに基づくと、最終的には9割がエルフになっていた。
1ヶ月ごとの人口変化が著しく、たった31×8という日数で大量の人々が押し寄せた。
1.1億人→1.2億人→1.36億人→1.43億人→1.71億人→1.86億人→1.94億人→2.2億人
ツァウスト帝国との戦争がこの時期に発生した。ここで初めて、『塩素ガス』というものが用いられたのだ。
そして、独立戦争期に、ルメンによってばら撒かれた『グリースガン』や『PPS43』といった驚異的火力によって独立戦争を勝利したメイプル側は新しい銃器の開発を進め、大量の軍隊が作られた。
民兵隊は中核的立ち位置の将校などになり、ツァウスト帝国の軍隊より強くなるという当時では無謀に近い目標で練兵を指導していった。
サザンクロス帝国の銃はリムが付いているのでメイプル側の銃火器の弾薬が使い回せないという欠点があるのだが、そもそも口径を変えたものを使ったのだ。
軍需産業&化学産業に大量の技術者と労働者を追加することで、ツァウスト帝国から資本家を誘致し、産業特区という地域(州)をまるごと1つの産業の集積に変え、州による分業体制と国家によって統制された経済による需要と供給の均衡点にメイプルは強制的に介入し、豊かになった。
サザンクロス帝国とツァウスト帝国の資源と技術を集めて、新産業に投資をすることにより強制的な産業の急成長が発生し、軍隊は有線通信と無線通信の優先権を獲得し、民間はガラケーという通信装置を獲得した。
写真を保存し持ち歩けるだけでなく、双方向に文章の送受信を可能にする。
これによって交流が爆増した。
携帯通信機という革命はツァウスト帝国とサザンクロス帝国にも齎され、さらに『3C』『3R』というものがメイプルの中で大量に生産された。
原動力を使用した車や家電まあこれらよりも、電動自転車というものが革命的だった。
ゴムの木から作らなくとも合成ゴムという素材が作られたため、スポークホイールや自転車の部品の制作にコストがかからなくなった。
人力で漕ぐより楽という売りなのにバッテリーが切れていると使えない上に不自然な加速をするためサザンクロス帝国では嫌われている電動自転車という分野だが、家電はバカウレした。
製氷機が特に大人気で、冷蔵庫の役割は元々魔法でどうにかなるからいらないものの、『冷凍庫』はめちゃくちゃ人気だ。
亜熱帯〜熱帯〜亜寒帯冬季少雨気候の3つの気候帯が国内にあるサザンクロス帝国はとにかく蒸し暑い。
湿気がとてつもなく高いので中央大陸の、『北西部』に入植している。
ツァウスト帝国の視点では南西とか南東とか言われがちだが、サザンクロス帝国の視点では北西になる。
そもそも不服なことなのだが、中央大陸という名称自体がツァウスト帝国を中心とする文化体系によって齎されたものであり、この呼称は屈辱的だ。
むしろサザンクロス帝国がある島こそが中央の大陸であり、先に世界を一周したのはサザンクロス帝国であるため中央大陸という名前から北西大陸と改名すべきだ。
北東部〜北西部にかけて航海した船団が3ヶ月かけて『無の海』を進んで発見されたのだし、 サザンクロス帝国本島より大きい島ごときが中央大陸などと名乗るべきではない。
2940万kmがどうしたというんだ。416万kmの島だが大陸と言える大きさだ。むしろ中央大陸が大きすぎるんだ。
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歴史家が書いた手記を閉じ、机の上にある時計を見る。
もう13時になった。
揺れない船の客室で書き留めた文章。
これを出版するといった意図はないが、単純に風景を言葉にするのではなくこの広い海で起こった出来事をできるだけ事実と真実に沿う形で書きたかった。
ツァウスト帝国とは休戦条約を結び、一時的な平和が保たれた今は30世が何をするか分からない。
31世のやった政策と重祚した30世の政策は逆方向だ。
独占禁止法を廃止、労働の分散という名前のワーキング・プア発生の志向を停止、労働の集団化を推進。
食糧の輸出停止措置の解除を止める……真逆の政策だった。
サザンクロス帝国の1市民である歴史家は非常に苦しくなったし、食料自給率が著しく低く植民地からの納物税に頼るサザンクロス帝国の弱点を突かれた形となり、卑劣な経済封鎖が再び始まってしまった。
31世のころは鋼材と板材の禁輸を解除してくれたし、関税も緩めて大量に貿易契約を簡単に為替関係なく結べたし、とても良かった。
だが重祚してからはどうか。食糧輸出の停止が再び行われ、今にも開戦しそうだ。
海を見つめながら、そんなことを歴史家は考えていた。
甲板の縁には柵があるものの今なら何を捨ててもバレることはない。
こっそり持ってきた麻薬の外装を棄てた。
もうサザンクロス帝国に帰るのだから検疫とか言って調査されたらたまったもんじゃない。
それに、もう仲間への現物の投げ落としは済んだ。
バレさえしなければカルテルの金を握らせた役人の下っ端どもは俺に逆らえない。
俺の富はクリーンになってカルテルを経由して戻ってくるし、流通経路も確保したから俺がいるこの船をカルテルの誰かが裏切るようなことをしなければ麻薬密輸員が入り込んでたとかバレるわけがない。
これでサザンクロス帝国とメイプル合衆国を往復すれば何も問題は無くなる。
最近は大規模な調査が入っているらしいが表向きは船舶メーカーだし捕まらないだろう。
富というのは、あらゆる世界で発生する。
現物と現物の交換だったり……例えば絹織物と銀細工とかだが。
これより簡単な貨幣というものはどの文明にもある。
価値の共通化をやっていない文明的な社会は存在しないし、貨幣的な役割を果たすものはどれだけ地理的に離れていたとしても存在する。
偉い学者はどうやら大昔に人間が1つの大きな大陸にいて、それが複数に分けられて大陸と島ができたのではないかとか大真面目に議論してるがそんなのはどうでもいい。
起源がどうこうとかいう話じゃなく金儲けこそがこの世の真理だし、全ては金によって決定されるのだから。
文章の1話辺りの量について(調整)
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10000文字ほしい←現在の基準
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3500以上ならいいよ
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5000文字くらいほしい
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6000以上ならいいよ