「私は反対。絶対反対」
一子はその日のうちに風間ファミリー全員に事情を話した。明日の金曜集会に天邪狐真が来たいといったということをメールで一斉に送信し、今は島津両のリビングでファミリー全員が集まっている。時刻は午後6時半。
「京、気持ちは分かるわ。けど一度だけでいいの、お願い。別にファミリーに入るわけじゃないの」
事情を聴いて最初に反対したのは椎名京だった。彼女は風間ファミリーをある意味最も愛している人物だといえるだろう。友人関係が狭い彼女にとってファミリーの秘密基地である廃ビルに話したこともない相手を招待するなど許せない行為の一つだ。
「それについては俺様も京と同じ意見だ。あんな奴を秘密基地に入れるなんてお断りだぜ」
「さすがに僕も反対だね……そもそもとしてワン子も話すようになって数日だけでしょ」
次に反対の意見を出したのは筋肉質な男島津岳人と、それとは正反対な体つきをしている男の師岡卓也だ。二人は幼いころから近所付き合いで仲が良く、風間ファミリーに入る時も同時だった。
「俺も反対だ。いいうわさを聞かない奴だしどんなやつかもまるで分らないからな」
風間ファミリーの軍師、直江大和もこれには反対だった。自分が把握できていない相手を自分たちの聖域ともいえる場所に侵入させるのは、さすがの軍師も……いや、軍師だからこそ反対なのだろう。
「私は反対ではない。かといって賛成でもない。ファミリーの人間ではないとはいえ完全拒絶というは義に反する」
「わ、私も反対はしません。しかし歓迎というのも…」
「オラも、どこぞの馬の骨かもわからない奴とはな…」
賛成でも反対でもない保留の意見を出したのは、ドイツからの留学生のクリスティアーネ・フリードリヒとファミリー唯一の一年生、黛由紀恵だった。この二人はファミリーの中で最も新参者で、とあることで残りのメンバーとけんかになり、風間ファミリーに入れないかもしれないという状況になったことがある。
その時の自分らと今の状況とが少し似ているため、賛成とも反対とも言いにくくなっている。
「俺は別にいいぜ。確かによくわからない奴ではあるが、逆にそれがいい!」
「そいつ何でも屋してるんだろ?骨がありそうだ。相手しくれないかなぁ?」
初めて賛成ともいえる意見を出したのはこの風間ファミリーのリーダー風間翔一とファミリー内どころか世界で最も強いといわれている《現》武神 川神百代の二人だった。この二人の共通点は「おもしろいこと」が好きというところだろう。風間翔一は週末の土日はいつもどこかにふらっと旅に出ては月曜日に戻ってこないというほどの冒険好きで、川神百代はいわゆる戦闘狂《バトルマニア》である。
ここまでメンバーの意見と軽い紹介をしてきたが、ここまでの意見をまとめると……
椎名京 反対
島津岳人 反対
師岡卓也 反対
直江大和 反対
クリス 保留
黛由紀恵 保留
風間翔一 賛成
川神百代 賛成
川神一子 賛成
反対派 4票 賛成派 3票 保留 2票
となる。
「…さっきからこの人誰?」
解説です。気にしないでください、直江大和君。
「はあ……」
「お願い!一度だけでいいの、ホントに一度だけだから、ね?」
「いや、絶対。見損なったよワン子、ろくに知らない相手を秘密基地に連れてこようなんて」
「そこをお願い京~」
反対派4人の意志は固く、特に京はモカの3人よりもはっきりと拒絶の意志を示していた。
「ワン子、よく聞け。あいつは俺たちにウソをついたんだぞ。お前はこの秘密基地の入り口付近で天邪狐を見かけただけだった。それなのにアイツはお前に助けてもらったなんて嘘の話を俺たちに話した。少なくとも俺はそんな奴のことを信用できない」
「や、大和まで…」
「それになんでワン子はそのことを俺たちに隠したんだ?俺としては今はそっちの方が気になる」
「…実はね、昨日の朝ランニングしてたら真君と会ったの…その時、昨日のことは黙っててくれって頼まれたの」
「それでワン子、今日俺様達が天邪狐のこと聞いたとき変になったのか」
「うん……」
沈黙がしばらく続いた。全員が天邪狐真を秘密基地に招待するかを考えているのだ。
そんな時だった。一子の携帯電話が鳴ったのは。
「あッ…とと……え?」
「どうしたワン子」
「…真君から着信」
その場にいる人間(と一匹?)が驚いた。何というタイミングで電話をかけてくるんだと思っているのだ。
少しタジタジしながら一子は電話に出た。
「も、もしもし真君?」
『風間ファミリーの奴らに話したか?』
「今話してるとこなんだけど…」
『そうか、なんとなくどんな状況かわかった。おおかた何人かか全員に反対されてんだろ?』
「あ……うん…」
『じゃあ携帯電話の通話をスピーカーモードにしてくれ。俺が話す』
「へ?わ、わかったわ。いまするわ」
一子はスピーカーモードにすると、机の上に置いた。
『こんばんは風間ファミリーのみなさん。天邪狐真だ』
この挨拶を聞いた大和はファミリーのメンバー全員に眼で合図を送った。
(俺に話させてくれ)
そういう意味でアイコンタクトを送り、ほかのメンバーもそれを承諾した。
「どうもこんばんは」
『どうやら俺を秘密基地に招待するのが嫌、もしくは納得できないようだな。』
「自分たちの場所に赤の他人を招待する方がおかしいとは思わないのか?」
『まあそうだよな』
携帯電話から苦笑交じりの笑い声が聞こえる。ここの居ないはずなのにその声はまるでここに居るように風間ファミリーのメンバーは聞こえた。
『じゃあひとつゲームをしようか』
「げーむ?」
『明日、俺はお前等の秘密基地の屋上に向かう。タイムリミットは6時。それをお前らが阻止出来たらお前らの勝ち。出来なかったら負け。簡単だろ?』
「まあ確かに簡単だ。けど…」
『勝っても負けてもメリットがないって言いたいんだろ?その辺の配慮も考えてある』
「なんだ配慮って」
『もしおまえらが防衛成功したら、賞金として風間ファミリーの一人頭100万円をくれてやってもいいだろう。どうだ?破格の条件だと思うんだけど』
「「「「「「「「「!!??」」」」」」」」」
それは子供が思い浮かべるような大金の金額だった。もし普段の日常会話で「俺にじゃんけんで負けたら100万円やるぜ」などと言い、仮に負けたとしてもおそらく笑ってごまかせるだろう。しかし、電話越しの声に一切の冗談やうその空気的なもの、声はなく、本気の声を風間ファミリーは聞いた。
こいつ……真剣だ!
ファミリーのメンバーはそう悟った。
『こっちが勝った時のメリットっつーか条件は俺をその日の金曜集会のゲスト枠として招待して、俺の話を聞いてほしいってことだ。オーケー?』
風間ファミリーはもれなく全員絶句していた。
100万
そんな大金を軽々しく、だが真剣で払うというのだ。こちらに《現》武神 川神百代が居ることを知らないのか?剣聖の娘 黛由紀恵が居ることを知らないのか?武士娘やキャップたちが居ることがわからないのか?もしかしてただのバカなのか?ファミリーの頭の中で疑問が浮き出ては消えていく。
『ご返答は?』
その言葉と同時にこの場に居るものが全員同じ答えを導き出した。
自分達はなめられている。と
「…後悔すんなよ?」
『お前等がな』
その言葉を最後に電話は切れた。ツーーツーーツーーと言う音が響く。
もはやこの場に賛成も反対も保留も存在しなかった。先ほどまで天邪狐真の弁明をしていた一子も今は燃え上っている。
天邪狐真を返り討ちにする!
その意思は声に出さずとも確認できた。
「ではこれより、秘密基地防衛策をみんなで考えようとする。時間も時間だし、みんないい案だしてくれよ」
今の時刻は6時半、いつもなら川神姉妹は川神院に帰っている時間だ。だが今回だけはどうしても残って作戦をみんなと考えようとしている。悔しさがそうさせているのだろう。
「軍師の俺としてはビル周辺にワン子、クリス、まゆっちを配置させて侵入を防ぐ。ガクトとキャップは出入り口を固める。キャップはもし天邪狐がビル内に入ってきたときにすぐ終えるように。モロも地上川にいて俺の支持をみんなに伝えさせる伝達係。俺と京、そして姉さんは屋上。京は狙撃主として配置、俺は指揮を執る。姉さんは最終兵器だ。その他の意見はある?」
その案に異論を出すものは居なかった。全員もそれが妥当だと思ったのだろう。しかし、それとは別の意味で挙がる手があった
「あの~ちょっといいですか?」
「なんだ、まゆっち」
「あ、私ではなく松風が…」
「なあ、オイラは頭数に入るのか?」
「…明日天邪狐に聞こう」
少しの沈黙
「そしてここがある意味肝何だけど……天邪狐は『明日、俺はお前等の秘密基地の屋上に向かう。タイムリミットは6時。』といったんだ。けど、一言も『午後6時』といっていないんだ」
おお、と歓声が少し上がる。スピーカーで聞いていたため、ここに居る全員が自分の記憶を一斉にたどった。確かに天邪狐真は『タイムリミットは6時』とは言ったが、午後とは言っていない。なるほど、これが余裕の招待か。
「俺様の記憶が正しければ確かに言ってねえな」
「うん…少しベタだけど上手いやり口……」
「これで俺たちが負ける確率はゼロになった。みんな、やったろうぜ!」
「「「「「「「「おおーーーーー!!」」」」」」」」
次の日の朝6時。
天邪狐真が秘密基地に来ることはなかった。
直江大和はファミリーのメンバーにボコボコにされた。
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