「おっ、やっと動き出した見てえだな」
「この方向からすると、一子が居る場所に向かておるようじゃの」
川神学園と天神館の両生徒がぶつかり合って戦っている最中、その両校の最高責任者二人が高みの見物をしていた。片方の者の名は言わずと知れた川神鉄心、もう片方の者は鍋島正と言い、鉄心の元弟子である。
「にしてもよう、俺が見る限りあの天邪狐真ってーのの中に武の才能があるようには見えねーんだがようジイさん」
「かっかっか、まあそういうな。まあ確かに『武』というところでは才能は高くないじゃろうな」
潔く、戦場を駆けている自身の生徒の武の才能が高くないと言う鉄心。それを聞いた鍋島は小さな溜め息を吐き、鉄心の方を向いた。
「おいおいじいさん、じゃあ何のためにこの東西交流戦を開戦させたのかわかんねえじゃねえか。アノヤローの強さ、いいとこ壁越えの数歩手前ってとこだろ」
「そうじゃの……………じゃが、強さだけが実力とは限らんぞい」
「………何が言いてえんだ?」
なにかを隠すように含み笑いを顔に張り付ける鉄心。これから起きるなにかを見透かしている、というよりはその何かを楽しみにしている様子だった。まるでポップコーンとドリンクをしっかり用意して席に座り、映画の上映を待っているように。これから予測不可能なことが起きるということを予測しているように。
「鍋島よ」
「なんだよ」
「騙されんよう気を付けた方がよいぞい」
「はぁあ!?」
――――――――――――――――――――
真は今、この戦場で最も広い広場に着いたところだった。ここ周辺の地理は一昨日の一年の部で一度見たためすべて把握しきっている。そのうえ相手の戦力の一つ十勇士が火薬を使っているのか先程から轟音が聞こえるため、なおのこと到着は簡単だった。
「おーやってるやってる。みんな呆れるほど元気にやってることこの上ないな」
「さて」と心うちに呟き敵を探す真。爆発は所々から聞こえるが、ゆえにその轟音により細かい場所が特定できないでいる。敵も移動を行っているだろうしこの乱戦から見つけ出すとなると時間がかからないという事は無いだろう。
「まあボチボチ歩けば見つかんだろ。はてさていったいどこに居るんだろうな~~………?」
「………まだm……ッスよ………やr……………ッスね……」
「(……ん?今どこかで聞いたことがあるような声が聞こえたような………)」
その声はどこか懐かしく、常人ならば聞き逃すであろう程の消音だった。が、真は轟音が響く中確かにその声を聴いたのだ。懐かしい、花火師を志した友の声を。
「まさか……アイツが………居るのか?…」
もし自分が思い浮かべている人物とこの声の主が一致しているのならば、真自身数少ない「友達」と呼べる者である。その微かな声を頼りに走っていくと、その声の主が見える距離にまで近づいていき……そこに居たのは炎を纏っている棒を所持している真と同い年と思われる青年であった。その少年と相対しているのは、今現在川神学園に在籍しているものの中で最も親しい赤みがかった髪をしている少女が薙刀を構えていた。さらにその青年の後方には大きな大砲を装備している、小柄で勝ち気な性格をしていそうな少女が青年に背中を預け、大砲の照準をどこかに合わせていた。
「中々やるッスね、けど俺にはまだまだ及ばないッスよ」
「くっ!」
どうやらその青年と一子が戦闘の真っ最中のようだ。武人ならば一対一の勝負に口や手を挟むことはまずないだろう。しかしここは戦場であり、人は武人ではなく戦士だ。加勢や横入れは当然、してはいけないというルールもマナーもない。ましてや片方の者が久しく会う友達であるならばなおさら口を挟まない道理はないだろう。真は思わず叫んだ。
「天下ぁ!お前なんかッ!?おい天下!」
友達の名を。
「…え?う、空君ッスか?」
呼ばれたものは驚愕の表情を浮かべ、その次は喜びまたは歓喜の表情を露わにした。二人は戦場で、しかも片方は戦闘中だったにもかかわらず、さらに敵同士だったが思われる駆け寄った。二人はまず思い切りハイタッチをし、そのまま手をこれまた思い切り握り合った。とても固い握手だ。
「うわーーーー空君じゃないッスか!びっくりしたッスよもー。川神学園の生徒だったんスか?」
「お前こそ天神館に居るなんて聞いてねえぞオイ!最近どうよお前は。元気だったか?」
「あったりまえッスよ。俺はいつも元気ッス!」
「まあそれだけが取り柄だったもんな」
「なんスかそれ!まるで俺が元気以外何もないみたいじゃないッスか!
「ハッハッハ。後俺さ、今は空じゃなくて真っつーんだ。これからはそう呼んでくれ」
「へーそうなんスk………え!?どういう事ッスか?」
二人は戦闘そっちのけでおしゃべりをしており、近くに居た一子と天神館の女子生徒は口をポカンと開けたまま、その光景を眺めていた。最初に言葉を発したのは一子だった。
「ね、ねえ真君、知り合いなの?その人と」
「ん?ああそうだ、ちょっと昔の話だけどな」
「天下、そいつとはどんな仲ぞ?」
「昔、同じ釜の飯を食った仲ッスよ、焔さん」
軽い説明をした後、二人はまたお互いに向き直した。
「一子、戦闘中悪いがこいつもらってもいいか?」
「えーーー!?」
「この戦が終わった後ビーフジャーキー食わせてやる」
「いいわよ!」
「つーことで天下、お前の相手は俺にチェンジだ。悪いな、お前の負けが決まっちまったぜ」
「(カチンッ)いいッスよ。結果は変わんないッスし。あっ、もしかしたらうつh………真君が負けて泣くとこ見るの初めてかもッスね(笑)」
「(カチンッ)ほざけや天下。涙どころかしょんべん垂らした阿保面にしてやろうかゴルァア」
いつの間にかケンカ腰になって睨み合っている二人。それが少し続いた後、二人は同時に構えた。天下は燃えている棒を自身の腰と平行に、真は体を半身にずらして手を軽く握った。
「行くッスよ!『炎武』!」
そう叫んだ天下は手に持っていた棒を素早く回転させた。すると、瞬く間にその棒は激しく燃え盛る火炎車となり、次第に大きくなっていった。
天下が装備しておる棒は油が染み込ませてあり、普通の棒よりもはるかに燃えやすくなっている。常人ならばあまりの熱に棒を握るどころか、手を出す事もできない。しかし天下の手には黒色の薄い手袋のようなものが身につけられている。これは高い断熱性をもつ特製の手袋で、これを手にはめるとかなりの熱が軽減される。しかし、それでも握るとなるとできるものはほとんど居ないだろう。それでも掴め、さらには炎をも操ることができるのは花火師を目指している天下だからこそできる芸当であろう。
天下は火炎車の回転数をさらに上げていく。どんどん加速する火炎車は、その速さと比例するように激しくなっていく。
「ハアア!」
先に動いたのは天下だった。その火炎車を思い切り振りかぶり、真に突進してきた。真は天下の攻撃行動と戦闘心理を予測、瞬時にすべての攻撃を回避するルートを見つけた。
「おりゃおりゃーーーー!!」
「当たんねーよそんな攻撃」
真は天下の攻撃をすべて見切り、完全に避け切った。しかし、天下の表情には「まだまだ俺は余裕ッスよ」と言わんばかりにドヤ顔だった。実際今の攻防は完全にお互い様子見のものだった。二人とも実際に戦い合ったのはこれが初めてであり、完全に手の内をお互い知らないからだ。
「すごいッスね。俺の『炎武』の攻撃をここまで完全に避け切ったのは、館長以外は初めてッス」
「お前こそ、得意だった火芸を戦闘に特化させた『炎武』。ここまで腕を上げてたなんて、中々のもんじゃねえか」
「ありがとうッス。けど今度はもっと早くするッスよ。避け切ることが出来るッスかね?」
「阿保抜かせ。どんなにお前が棒切れ振り回そうとも、俺には火傷ひとつ負わす事は出来ねえよ」
「言ったッスね!」
「ああ言ったぜ!」
そう言うと真は、制服の裏ポケットから何やら木の筒を取り出して、天下に見えるように前に突き出した。
「この筒の中身は火薬だ。つまりこれは爆弾、お前なんかこれで一発だ」
「いやいやそれ完全にやばい奴じゃないッスか!色々な方向でアウトッスよそれ!」
「安心しろ。爆弾っつてもかんしゃく玉の十五倍程度のもんだ。てか、そんならあの焔ってやつはどうなんだよ。大砲さっきからめちゃくちゃぶっ放してんぞ」
「うっ!(-_-;)そ、それはその……………」
確かに、つい先ほどまで焔は大砲を『ロケット花火をぶつける行為の延長線上』という名目で自分の大砲を発射しまくっていた。痛い所を突かれてしまい、天下は思わずひるんでしまった。
「オラこれでも喰らえ!」
その隙をついて真は、その木の筒を天下の方に投擲した。とっさのことに天下は回避が出来ず。所持していた棒で弾いてしまった。するとその筒から出てきたものは、
「ぶはっ!」
白色の粉であった。そう、真が言い放った「爆弾」というのは真っ赤なウソである。真の目的は単なる目潰しで、天下の視界を完全に奪うことであった。その目論見は成功し、さらには天下は小パニックに陥りさせる事にも成功。流れは完全に真にあった。
「(一気にたたみ込んでやらあ!)」
真はこの流れのまま勝敗を決めようとし、煙幕の中から見える天下の影に思い切り飛び蹴りを放った。が、
「そんな考え、お見通しッスよ!」
「なっ!?」
天下の影から一筋の黒い何かが見えたかと思った次の瞬間に、その何かが真の脇腹に深く突き刺さった。その何かとは、天下の所持していた棒であり、その棒で真をついたのも当然天下であった。天下は真が煙幕を使って自分の視界を封じることを読んでいたのだ。そしてパニックに陥ったように見せかけ、とどめを刺そうとしたまことにクロスカウンターのように鋭い一撃を決めたのだ。
これは余談でもあるが、天下が突いた箇所は二週間と少し前ほどに逆恨みで真を拳銃で撃った男とまったく同じ箇所だった。真の『眼』の能力と薬馬の医術によりほとんど感知していたが、偶然が生んだ不幸によりその撃たれたところに天下の一撃がクリティカルヒットした。それにより真は激しい激痛に襲われることになった。
「ぐあああぁぁぁぁああ!!!!!!」
絶叫する真。立ち上がる天下。状況は完全に劣勢であり、最悪であった。
「俺の勝ちッスよ!うつh………真君!」
「……ハッ!寝言は……寝て言うもんだぜ…。勝つのは………俺だっつの」
「…そう言う負けず嫌いなとこ、全然変わらないッスね。けど、この状況で俺に勝つのは不可能ッスよ!」
焔と対戦していた一子は横目で真と天下の戦いを見ていたが、確かに状況は絶望的だった。一子は真の脇腹に傷があることを知っている。何の傷かは知らないが、真との出会いからそのことは把握していた。
「真君、あんまり無茶しないで!」
「戦闘中にほかの者の心配とはずいぶん余裕を見せてくれるぞ!」
「クッ!頑張って真君!」
焔との戦闘に気を抜けない一子は、真にエールを送ることしかできない自分に歯痒い気持ちを抱きながら、焔と再び向き合った。
「クソ、痛えとこ突いてくんじゃねえか。かなり効いたぞ天下」
「褒め言葉として受け取っとくッスよ」
「ああ褒めたんだよ、けどこれが最後の一手だ。覚悟しとく事をおススメするぜ」
「?、どういう事ッスか」
天下のセリフが言い終わると、真はまた制服の裏ポケットから木の筒を取り出して前に掲げた。
「この水で一発だ」
そう言うと真は筒のふたを開け、天下の方に投げつけた。即座に反応した天下は棒を自分の前で高速回転をしてその筒をはじいた。が、その中には何やら液体が入っており、天下の棒にかかってしまい濡れてしまった。さらにその液体がかかったと同時に棒が纏っていた炎が消えてしまった。
「真君、まさか濡らした程度で俺の棒を封じたと思ているんすか?もしそうなら甘いッスよ!」
天下は棒をもう一度高速回転。すると、その棒から再び炎が纏った。
「この棒は濡れた程度じゃすぐにまた着火出来るッス。まさに焼け石に水ッスよ」
「……ああ確かに焼け石に水だったようだな………が、
………もしそれが水じゃなかったら?」
「?、どういう事ッスk……!?」
天下の言葉が言い終わる前に天下は棒を自ら手放した。答えは簡単、棒が熱かったからだ。天下は棒を失った自分の手のひらを見る。するとそこには黒い部分が溶けている自分専用の特別仕様の手袋が溶けている光景が見られた。と同時に異臭が天下の鼻に届いた。天下はどこかで嗅いだことのある異臭を記憶から思い出そうと頭を動かし、そして答えを思い出した。
「これは……塩酸?」
「そう。水……ってのはウソ。本当は薄めた塩酸だ。俺の本当の狙いはお前が棒を握れなくなることだ。さすがのお前も燃える棒を直に触れることはできねえだろうからな」
一気に形勢逆転した瞬間であった。近くで戦って織田一子と焔も思わず口を開け、茫然とその光景にくぎ付けになっていた。天下は両手を上げ、降参のポーズをとった。
「ふ………ふふふ、流石ッスね。昔から中身は全く変わっていない。このままじゃ流石の俺も降参するしかなさそうッスね」
「ウソつけ。まだ何か隠してんだろ。お前は昔から変わらずウソが下手だな」
「あはは、ばれちゃったッスか?」
そう言うとおもむろに天下は両手を自分の背中にまわし、制服の中をまさぐっていた。まるで何かを取り出すしぐさをしているようだ。そう感じた真の予想は見事に的中した。
「こんなこともあろうかと、棒と手袋、両方とも予備を持ってきといたッス!」
天下は背中から短い棒を三本取り出して、それを一本に合わせた先程と同じ棒を再び装備。手袋も背中から取り出し、自分の手にはめた。そのまま棒を急速に高速回転させて着火しようとする。
「これで振り出し…いや、俺の有利にも戻ったッスよ。これで終わりッス!」
「ああ、お前がな」
「!?、火が……火がつかない!?」
それは、天下にとって全く予想が出来なかった出来事であった。棒に火が全く着かないのだ。何度着火作業を繰り返しても火が付く気配は全くない。天下自身、ずぶ濡れになった時以外着火しなかったのは初めての経験だった。天下は種明かしを求めるように真を見た。
「俺がさっき撒いたのは確かに塩酸だ。が、その前に撒いたのは何だと思う?」
「その前に撒いた……………………!!」
「気付いたか。そう、最初に撒いたあの白い粉を使った煙幕、あの粉の正体は……炭酸水素ナトリウムだ」
「炭酸水素……」
炭酸水素ナトリウム・薄い塩酸。中学校レベルの理科の問題だ。
この二つの薬品を調合すると、とある気体が発生する。CO₂……つまり二酸化炭素である。
知っての通り、二酸化炭素は動物が生きる上で決して外せない行動…呼吸を行うことにより発生する気体でもあり、動物に最も身近に存在する殺人兵器ともいえるかもしれない「モノ」である。二酸化炭素が充満してる部屋に動物を放り込むと呼吸が一切不可能になり、一気に死へと向かっていくだろう。と同時に消火器にも使われている、一部の例外を除いて燃えない気体でもある。天下の棒の着火を妨げたものの正体は、この二酸化炭素である。川神氏工場地帯という、様々なものが密接したここだからこそ使えた策でもある。
そしてもう一つ、真は説明を省いたが、それとはもう一つ着火を防ぐために行った策がある。電子励起状態を低くしていた。しかし、それを説明する能力を作者が持っていないため、ここでも説明を省かせてもらいます。(申し訳ございません)
「オラ、よそ見すんじゃねーよ!」
「……ハッ!、グハアア!」
真は天下の隙を見事につき、飛び蹴りを放った。天下はそれを避けることもできず直撃、4,5メートルほど吹き飛ばされて壁にぶつかり、そのまま動かなかった。
「わりぃな天下。でもこっちも負けられないもんでよ。いつか飯おごるからかんべんな」
ご感想よろしくお願いします。