真剣で嘘つきを騙してみろ   作:棚上げ侍

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狐の逆鱗

 

 

川神学園 昼休み

真は2ーFの教室でボーっとしながら過ごしていた。猫荘の住民たちには「せっかく学校に通うことが出来るのだから、出来るだけ猫荘以外の人と触れ合うといい」といってあるので、学園内では基本別行動になっている。ちなみに鳥頭目と蝶左は、クラスとその他のクラスの女子(つまり色々なクラスの女子から)昼飯に誘われ、どこかに連れていかれた。ついていったのではなく、『連れていかれた』だ。真の目算でざっと二十人以上は確実にいたはずだ。おそらくあの数では、一緒に昼食を食べるとしたらある程度の広さが必要なので、屋上に向かっただろう。

そこに、突如響く声。昨日の朝礼で聞いたあの声が聞こえた。最初、真は聞き間違いだという毛一本にも満たない可能性だと思った。が、そんなことあるはずもなく、静かだったはずの教室はざわざわし始めた。

 

「紋様の~おなーりー!」

 

その次に聞こえてきたのは井上準改めロリコンの声。それを聞いたクラスに居た生徒は全員「ああ……納得………」という表情。なんせ聞こえてきた声の主は、生粋のロリコンの変態だからだ。異様に聞こえるが普通だ。

真が教室の窓を開け、光源から発射された光をうまい具合に反射している、球体に近い物体の方に声をかけた。

 

「おいハゲ。お前何してんだよ」

「お、真か。ふっ、見りゃわかんだろ。仕えてんだよ紋様に」

「見てわかんねーよ。見てわかってたら110番に連絡入れてるだろうしな。つかむしろわかりたくなかった」

 

そう言うと真は、行儀うんぬんのことを全く気にせずに、窓から身を乗りあげて廊下に着地した。そのまま紋白の方向に歩んでいくと、クラウディオが前に立ちふさがった。

 

「天邪狐真様。屋上でヒュームがあなた様のことを呼んでいます。お手数ですが、屋上に向かってくださいませんか」

「あのオッサンが?愛の告白なら性別と年齢を考えてから、ある程度の大きさがある手鏡を見てから出直してこい、と伝えておいてくれ」

「ふふふふふ……そう言うものではありません。どちらかというと…………」

 

言葉を濁しながらクラウディオは真は近くに近づき、耳元でささやいた。

 

「…………『鵺』としても話したいことも………そこそこあります」ヒソヒソ……

「(…ウソつけ。そっちメインだって顔してんぞ)」

 

昨日九鬼家従者部隊の李に自身のことを少し話したためか、不自然なほどぱったりと人の気配等が消えた。おそらく真が宣告したことと、これ以上続けても無意味という結果に終わったのだろう。

 

「そんじゃ、あのオッサンの顔を拝みに行くとするか」

「(賽銭は一円でいいか)」

 

適当なことを考えながら、真は屋上に向かった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

屋上に到着すると、ヒュームが中心で気をつけで立っていた。それだけで彼は周りの者に威圧を与えるので不思議だ。

 

「ようオッサン。待たせたぞ」

「………フン、俺を待たせるとは、いい度胸をしているな」

 

顔は逆光でよく見えないが、声から察するに機嫌は良くなさそうだ。

 

「で?九鬼家従者部隊零番が、こんなただの何の変哲もない川神学園高校二年生になんか用か」

「うそをつけ。殺した人数は数知れず、暗殺成功率は完全なる100パーセントの『鵺』が、自身のことを『普通』というとは、笑い話にもならん」

「……できれば名前の方で呼んでくれ。『鵺』は昔の名だし、俺自身あまりよく思ってねえ」

 

真は苦笑気味な表情で、ヒュームの皮肉に答えた。腹の中では怒りを感じたが、それを外に出すほど子供ではなく、心うちに押し込んだ。ここで相手のペースに乗せられると、言いたくないことに言ってはいけないことまで言わなければならなくなってしまうかもしれない。真は自身の会話能力にかなりの自信を持っていたが、念には念をと思い慎重に言葉を選ぶことにした。

 

「質問疑問何でもどうぞ。大抵のモンには答えてやらんこともねえ(ウソを少し混ぜながらな……)」

「それだと助かるな」

 

真の悪巧みにまったく気づかないヒューム。心理戦では若干ではあるが、真の方が上手だ。ヒュームは警戒こそしているが、真の心の分析や読み取りまでは不可能だ。

 

「では最初の質問だ。お前はどうやって今日俺が……九鬼財閥が釈迦堂に接触することを知った」

 

予想通りの質問。

今の世の中、情報というものはどんなに持っていても荷にならず、どんなに放出してもなくならない。ゆえに持つべきものが持ち、使うものが使うと、活用の仕様によってはとんでもない価値が発生する、言わば無限に水が湧き出る泉のようだ。九鬼財閥となると、扱う情報もそれを集める情報網も半端なものではないだろう。だからこそ情報の流出は何事よりも防ぐべき悪害である。もし情報が流出していたのならば、それは海に浮かんでいる船底に穴が開いているのと同じで、九鬼財閥という名の船は瞬く間に沈没していくだろう。つまり先ほど言ったように、沈没を防ぐにはその穴を真っ先に防ぐほかない。

目線で人が刺せる。そんな目線でヒュームは真を見ていた。真は答える。

 

「たまたまだ」

 

たまたま

偶然という意味を持つこの文字二種類ひらがな四文字の単語は、そのままの意味でつかわれることもあるが、物事をあやふやにして誤魔化すもしくは嘘をつくときにも引用されることも多い。今回真が使った訳は後者、つまりウソだ。

しょっぱなに放ったこのウソに、ヒュームは気付いている。あんな偶然が『たまたま』などというたった四文字の言葉で片付けられたのだ。この言葉で信じる者は、ほぼ居ないだろう。ヒュームは当然追求する。というよりも脅しに近い事をした。

 

「嘘はつかない方がいい。学園内での荒事は、九鬼の面目の問題に直結する可能性もある。避けることが出来るのならば避けたい。が……」

「が……なんだ?」

「もし、痛い目に合わないと正直に話せないというのならば、仕方がないからな。………お前を串刺しにすることになってしまう」

「阿保言うな(ニヤニヤ)。単純な落とし穴に引っかかるような奴が、俺を串刺しにできるわけがねえだろうがよ(笑)」

「……………(ピキッ!)」

 

ヒュームの中で、堪忍袋の何かに亀裂のようなものが入った。同時に顔がとんでもないほど怖くなる。(イメージ的には真剣で私に恋しなさいSの登場人物紹介のヒューム枠にある表情集のなかの左下にある顔)そのあまりの恐ろしさに、真の顔には恐怖を通り越して苦笑が浮かぶ。もはや笑うしかなさそうだ。

 

「(うわあ、この顔やべえな。草木が枯れて湖が枯渇して………バチカン市国の中心でこれやったら国が滅ぶな)」

「……お前が仕掛けたことは分かっている。今ここで謝罪をするのならば、特例で許してやろう」

「おい、特例じゃなかった奴はどうなったんだよ。特例じゃなかったら俺はどうなっちまってたんだよ」

 

思わず特例ではなかったらどうなってしまうか気になってしまい、聞いてしまう真。余裕はあるが、首筋に少し冷や汗が見える。

 

「まあ、うん、悪かった。すまん」

「……………………………」

 

取り合えず許してもらえたようだ。真はヒュームの沈黙をそう解釈した。

 

「もう一度問う。九鬼の情報をいつ、どこから、どうやって、どの様なツテでつかんだ」

「だからたまたまだって言ってんだろ」

 

それでもなおウソをつく。当たり前だ。九鬼の情報網をハッキングしているなんて言えたものではない。もしそんなことが九鬼にばれたら、下手をすると半殺し。よくても川神追放になるだろう。

 

「………ふん、まあいい。そのうちにボロをだす」

「(ずいぶんとまあ手柔らかなこって。こりゃあ俺んちのパソコンにハッキングかけてる最中だな)」

「次だ。改めて確認する。お前は『鵺』か」

「何度も言わせんな。『鵺』だよ」

 

渋い顔で答える真。どうやら過去のことである『鵺』には、あまり触れてほしくなさそうだ。

 

「んじゃもういい?俺眠いんだけど」

「まあそうあわてるな。そうだな………あと質問は二つだ」

「さっさとしてくれ」

「この二つは一気に言ってしまおう。一つは……九鬼財閥にその能力や技術を役立てないか?という勧誘だ」

「はあ…………」

「もう片方は………………」

 

ヒュームの眼光が鋭くなる。

 

「……なぜ学校に通っている。通うことが出来る」

 

最後の質問は、約九割がヒュームの私情だ。

なぜ、『鵺』と呼ばれた男がこんなところで学んでいるのか。

なぜ、裏の世界を抜けているのにこんなに平穏生活を送れているのか。

 

「2ーFに編入したあの白髪の男………天狗鳥頭目、といったか。葦原の民だろう?」

「…………………」

 

押し黙ってしまう真。それは、ヒュームの発言を肯定してしまっていた。否定できないのは、認めてしまうのと同義だ。

そんな状態の真を見たヒュームは、あることを思いついた。

挑発だ。

 

「あれをを学園に手引きしたのもお前だな」

「…………だったらなんだよ……」

「あのような穢れた物を、紋様や武士道プランのクローンたちが居る川神学園に連れてこまれたら困る」

「…………………………」

「鉄心に聞いたところ。何も知ってはいなかった。確実に確信犯のようだな」

「…………………………」

「そもそもアイツに公共機関等を利用する権利などないと思うが?人間ぶりながら廊下を歩かせるな」

「…………………………」

「お前が手を引いていたのならば、この学園をやめさせるのも容易だろう。すぐさま退学届けを出させろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間にヒュームが見た光景は

 

 

首から上が、なくなっている自分の体がいて、

その切られた首には、まるでよく研磨された日本刀を使った達人が、本気で切断したかと思えるほどの、滑らかな切れあと。

 

見上げると、

不敵に微笑みながら自分を見下ろしている天邪狐真の姿。

 

その瞳を見ると、

驚愕の顔を浮かべている、首だけになっている自分が見えた。

 

それを確認すると、

真は自身の足を地面から上げる。靴の裏が見えた瞬間。

ヒュームの頭を、ゆっくりと踏みつぶした。

 

 

そのままヒュームの意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ーム………ヒュ……………」

「……………ぐっ……」

「………………ューム……ヒューム!ヒューム・ヘルシング!!」

 

消えたはずのヒュームの意識が、聞きなれた同僚の声によって引き戻された。持ち上げられたまぶたの先には、クラウディオ・ネエロが居る。数秒ぼんやりしていたヒュームはとあることを思い出し、慌てるように自分の体を起こさせた。そこでようやく自分は、屋上のど真ん中で仰向けになっていたことに気付いた。屋上で気絶してしまっていたことにも気づくのに、時間は一秒もいらなかった。

 

「ああヒューム、大丈夫ですか」

「クラウディオ……………なぜここに………」

「なぜじゃありません。一体何があったのですか?あなたほどの人が、こんなところで気絶しているなど、駆け付けた時は自分の眼を疑いましたよ」

「……………………………………………」

 

ヒュームは答えることが出来ない。自分自身、何が自分の身に起きたのかわからないからだ。

 

「………クラウディオ、今は何時だ」

「昼休みがもう終わってしまいます。紋白様の護衛は待機させていた李とあずみに任せています。体は大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない……………?……」

 

そう、ヒュームの体には何の問題もなかった。自然な動作で自分の首を自分の右手で触る。当然首は頭と胴体をしっかりとつなぎとめており、脳みそから発信される神経を流しており、脈を打っているのも感じ取れる。いつもと変わらず生命活動を行っている。確かに自分の首が切断されたハズなのに、確かに首がなくなっている自分の体を見たのに、確かに自分を見下ろしている………………………

そこでヒュームは気が付いた。強烈に脳に焼き付けられたはずの記憶が抜けていたのだ。その記憶とは、

自分はあの時何を見上げていた?

だ。

 

「クラウディオ。俺はなぜここに居たのかわかるか?」

「? いえ、私にはさっぱり」

 

いや、何かをクラウディオに頼んだはず

必死で何かを思い出そうとするヒューム。しかし何も思い出せない。

そして、その記憶の詮索を止めるように川神学園にチャイムが響き渡った。

 

キーーンコーーンカーーンコーーン

 

「……とにかく俺は一度授業に戻る」

「わかりました。私は不審人物がいないか巡回をしておきます」

「分かった」

 

そう言うとヒュームは、その場からまるで瞬間移動のように消えた。謎を残して…………

ヒュームが去った後の屋上で、残されたクラウディオは巡回にもいかず、その場で立ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※誤字

 

クラウディオ→天邪狐真

 

真はクラウディオの変装マスクを剥ぎ取り、不敵に笑いながら

 

「ククク………簡単に騙されやがって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブザマだな」

 

と、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カンソウクレ

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