真剣で嘘つきを騙してみろ   作:棚上げ侍

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そちらの方もよろしくお願いします。



嘘は必ず

 

あるものは言った。

『嘘』は必ず誰かを傷つける。

ゆえに虚偽を吐く者、誰かを騙す者、法螺を吹く者たちは『嘘』であると、そう言った。

なぜならば、何かを傷つけるものはその他の者たにとって害虫に相当するからだ。

もし、誰かを傷つける『真実』があったとして、それは果たして『悪』なのだろうか。

もし、誰も傷つかない『嘘』が存在したとして、それは果たして『正義』なのだろうか。

誰かを助けることが『正義』なのだとしたら、誰かを傷つける行為はすべて『悪』の範囲内なのだろうか。

答えはいつだって『分からない』だ。

 

 

だから、

 

そのあるものは、こうも言った。

 

「答えを探すな」

 

と、

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

何事もないように訪れた放課後。

 

「真。よかったのか?あんなことして」

 

2ーFの教室はほぼ空っぽの状態になっており、教室内に居るのは真と鳥頭目と蝶左の三名だけだった。鳥頭目は真に何かを訴えており、蝶左はいわゆる第三者のように壁に背を預けていた。

昼休みの屋上での出来事。鳥頭目と蝶左は、その一部始終を二つずつの眼でずっと見ていた。女子たちに誘われ、屋上についていざ弁当箱を広げようとした矢先にヒュームが登場。そのあまりの威圧感に女子たちはそそくさと屋上から一人、また一人と離れていき、二人もどこかに移動しようとした。するとそこに真が現れたのだ。真とヒュームの表情を見た二人は、反射的に気配を消して給水塔に身を隠したのだ。

 

「いいんだよ。命とったわけじゃねえんだし、むしろやり返し足りねえくらいだ」

「で、でも……」

「あれは俺が一方的にムカついただけだ。だからやった。お前は何も悪くねえ」

「……けど、俺見てたぞ。蝶左も一緒に居たぞ。真、『眼』を本気で………【百々の眼】(もものめ)使ってただろ!なあ蝶左!」

 

同意を求めるように、鳥頭目は蝶左の方を向いた。鳥頭目に見詰められた蝶左は、十数秒の沈黙ののちに大きなため息を一つ吐いて、鳥頭目の問いかけに応じた。

 

「ああ、確かに使ってたな」

「ほら!」

 

鳥頭目の顔は、何かを強く訴えかけているように見えるが、同時に何かを悲しんでいるようにも見えてくる。

 

「【百々の眼】は普通の『眼』に比べ物にならないくらい薬缶が「負担」スゲエんだろ!使った後はとんでもないくらい頭が腹痛「頭痛な」するんだろ!?それにそれ使った後は何日も普通の『眼』も使えなくなっちまうし!大丈夫なのかよ!」

 

蝶左の補足を含みながら訴える鳥頭目。

 

「……鳥頭目…………」

 

真は鳥頭目に一歩近づき、肩にポンと手をのせると。

 

「お前、バカキャラなくせに説明しようとすんなよ」

 

フッ、と人を小馬鹿にしたような表情で鳥頭目に微笑んだ。

 

「……っ!ご、誤魔化すなよ真!」

 

真の手を払いのけ、なお怒りがおさまらない様子の鳥頭目。後ろの蝶左は何も言わず、何もせず、ただじっと佇んでいる。

 

「いいからもう帰れって。黒羽がねーちゃんに、すき焼きの材料を帰りに買ってくよう頼んでたから、今日の晩飯は豪華だぞ」

「今日の晩飯のことはどうで………もいい!それよりも真が……」

 

 

 

「さっさと帰れ」

 

 

 

その声は重く、強く、たくましく、恐怖を大いに含んでいた。

 

「……………まただ………また真は一人で抱え込もうとする…………」

 

その声は、悲しく、弱く、しかし意思がはっきりとしていた。

そんなとき、傍観していたものの方から声が聞こえた。蝶左だ。

 

「……鳥頭目、帰るぞ」

「はあ!?何言ってんだよ蝶左!」

 

突然蝶左が真側に加勢するような発言をしたため、動揺する鳥頭目。驚きの表情を浮かべた鳥頭目は、見開いていた目をキッとにらみつけるように蝶左を見た。しかし蝶左はひるみが全く見えない。

 

「いいから帰んぞ。真にこれ以上無理させんな」

「……………………………分かった……………」

 

さっきまでまるで噛みつくように反抗的だった目と態度が一変し、餌を取り上げられた子犬のような雰囲気になった。重い表情と空気の中、鳥頭目は自分の顔をその筋肉だけで無理矢理笑顔を作った。多少ひきつっているところと、心うちのことを除けば、ほぼ完ぺきな笑顔だ。

 

「二人とも、俺先に帰るな!肉なくなっちまっても知らねーからな!」

 

鳥頭目は自分のカバンを手に持つと、元気に駆けながら教室を後にした。その教室に残された二人。先に口を開いたのは蝶左だった。

たった一言

 

「知らねーぞ」

 

と、

その言葉の前に付くのは、「お前がどうなっても」なのか、「鳥頭目があとですねても」なのか、はたまた「肉が食えなくても」なのか定かではない。

蝶左はその後「言いたいことはそれだけだ」とも言うと、鳥頭目の後を追うように教室から出ていった。その後ろ姿を見送った真は、

 

 

 

その場で勢いよく倒れこんだ。

頭を強く抑え、低い声でうめき声をあげながら、激しい頭痛に必死に耐えていた。それは先程まで余裕と冗談を口にする真ではなく、柔く脆く軟弱な真の姿だった。

鳥頭目は「とんでもない頭痛」と言ったが、そんな生やさしい言葉では言い表せないほどの激痛だ。例えるのならば、頭の中に爆発し続ける、もしくは爆発が終わらない爆竹が放り込まれるほどのものだ。その衝撃と痛みは計り知れないを通り越し、もはや生き地獄よりもはるかに苦痛である。常人ならば、たとえその体験が一秒に満たなかったとしても、そのあまりの痛みに気絶や失禁、もしくは脳に後遺症が残る。もっと悪い場合、人格が変わったり植物状態になったり、最悪な時ではこれからの人生一生廃人になってしまう。それほどの激痛が何秒何分何時間と続くのだ。実際に頭痛が持続し続ける時間は、それが始まってから約十時間………一日の半分にもならない時間なのだが、先ほど記載した通り爆竹が頭の中に放り込まれたほどの激痛が十時間も襲うのだ。正気を保っていられるはずがない。ましてやフリだったとはいえ、五、六時間目も授業を平然と受けていたのだ。並大抵の精神力では、確実に文字通り頭がおかしくなる。それを今の今まで我慢していたのだ。

保健室にもいかなかった。トイレにもいかなかった。堂々と席についていたのだ。

理由はひとつ。

そんな逃げるような真似、ブザマだからだ。

 

「…ぐがぁ………あ゛あ゛あ゛あ゛…………………くっ……そが………」

 

しかし、流石の真も我慢の限界だった。周りのいすや机などお構いなしにのたうち回る。もがき、苦しみ、頭を必死に抑えるが、それでも激痛は一向におさまるところを知らない。むしろさっきからここからが生き地獄の本番だと語りかけるように、激しさが増しているように思える。

 

「が、あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!お゛ぅお゛!!??無b2うrhsぢj、卯Hウェfm伊wcgづchfあCfy、mdcfyqbwxあfrcgsrvhvhsdvgts!!!!!!!!!!!!」

 

うめき声は悲鳴に変わり、教室中に広がる。悲鳴は奇声の絶叫に変わり、廊下を通じて音速の速さで空気を震わせる。

窓は閉め切っており、この階には人どころか狸一匹いない。部活動でこの階を使うものも居なかった。鳥頭目と蝶左は先程この階から降りて行った。つまりこの絶叫を聞くものは、誰も居ないということだ。

外のグラウンドでは、武士道プランの義経が学園内からの挑戦者の決闘の相手をしていて、それを見ている生徒たちの歓声で、わずかに漏れた絶叫があっという間にかき消されていく。

真自身、誰にも聞かせたくはなかったので、むしろ好都合だった。

しかし、それと苦しみは別の問題だ。

 

「gはhfybckhfjヴぇcbybちぇおbhlbyrをcbhfこwbchふぉくwflcbfりwbむおぽいyrqzcdqqhxvgvgrsgsgcsdsgj!!!!!!!!!!!!!!……………」

 

そのまま真は、苦しみながら三十分間叫び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真が校舎から出たのは、三十分たった後さらに六分経った頃だった。相も変わらず凄まじい頭痛が襲ってくるが、少しだけ落ち着いてきたようで、なんとか歩けるところまできた。しかし、それでも決して常人が耐えられるほどのものではなかった。

校門を目指してゆっくり確実な足取りで歩いている真。ふと横を見れば、薙刀を持った一子と太刀を構えている義経が戦っているところだった。一子は得意の薙刀を使い、連続で攻撃を仕掛けて畳み込もうとしている。それに対し義経は、東西交流戦の時と同じ太刀を使い、ひとつひとつの攻撃をさばききっている。

正直なところ、一子の方が実力的にいうと格下なのだが、義経は今の今まで挑戦者を連続で相手してきたようで、連戦の疲れがにじみ出てきている。

だが、一子は焦りが出てしまったのか、威力のある一撃を放ってしまった。威力があるということは、その分放つ前と後に大きな隙が生まれてしまうということだ。おまけにモーションも大きくなってしまうため、躱されやすくなってしまうのだ。

当然今回も例外ではなく、義経はその一撃を後退することにより回避。その後すぐさま突撃し、一子に一太刀。勝負は義経が制したようだ。一子は悔しそうな顔をしながら、義経と固く握手を交わした。

とたんに周りのギャラリーから大きな歓声が上がる。戦いぬいた二人をたたえるように、次第に声は大きくなっていく。

そんな中、真は見た。

校門の向こう側で、握手を交わしている二人を………いや、源義経をまるで怨みがこもっているような目でにらみつけている女性を。見たところ、三十歳かそれ前後といったところか。

 

「……………………………」

 

その女性はしばらく義経をにらんでいると、きびすを返してどこかへと消えていった。

真は気にも留めていなかったが、心の奥底に静かに覚えておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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変態橋の下

真はひどい頭痛をこらえながら帰宅していたところ、あるものを見た。百代がクラウディオから依頼されていた、武士道プランのクローンたちへの挑戦者の選抜。という名の「武神のストレスを挑戦者を利用してスッキリさせちゃいましょう会」が終わったところだった。百代の表情は、まるで化粧水を使った後のようにキラキラ輝いていた。よほど戦えたことが嬉しかったのだろう。そんななか、百代にヒュームが近づいていく。

しかし、今の真にとってはどうでもいい話であって、一秒でもはやく猫荘に到着したいという思いで頭の中がいっぱいだった。

風に乗って声が聞こえてくる。

 

「予言をしておいてやる。いずれお前は九鬼が用意した対戦相手によって敗北するだろう」

「私の対戦相手……?」

「冬までお前が一度も負けていなかったのなら、この俺が直々に相手をしてやってもいいぞ」

「ふ~ん…………ん?」

 

百代はヒュームの話を半分聞き流しながらふとどこか遠くの方を見た。そこに、見覚えのある顔を見つけた。天邪狐真だ。

真の方は百代に見つかったことにまったく気付いていなかった。

普段真は通行人に見られる程度の視線は感じないが、明らかに真を見つめている視線があれば、たとえそれが睡眠中であったとしても気付くことが出来る。それは、裏の世界で生きてきたからこそ習得したスキルなのだろう。しかし、あくまで【普段】だ。今の真のように、体調が最悪だった場合などは、気付くことが出来ないのだ。

ここまで隙を見せた真は今までなかったためか、猫じゃらしを見つけた猫のように、百代は真に一直線に向かって走った。そして、

 

「まっこっと~~~~~!たったっかお~~~~!」

 

タックルをするように真の腰に抱き付こうとした。それはもう勢いよく、猪突猛進、光陰矢のごとし、拳銃から弾丸が打ち出されたようなスピードだった。

だからこそだろう。

百代の顔面に、真の右手の拳によるクロスカウンターがクリーンヒットした。

それはもはや、反射神経によって繰り出された拳だった。自己防衛機能ともいえるものである。真自身、自分が右手を繰り出したことに気付いていない。頭痛を堪えることでいっぱいいっぱいだ。百代も自分のスピード速かったせいもあり、回避や受け身などを行うことが出来なかった。

その際偶然にも、拳と顔面がぶつかり合った衝撃が百代の脳に強く響いた。重度の脳震盪だった。

重度の脳震盪といっても、壁のさらに向こう側の者であり武神と呼ばれている百代にとっては、気絶や失神するほどのものではなかった。頭はくらくらしたが、意識はなんとか保っていた。しかし動揺が頭の中で飛び交っていた。油断しており、かつ戦闘態勢ではなかったとはいえ、自分の顔面に拳を入れられたのだ。

だが、その動揺は一瞬にして歓喜に一変し、顔には満面の笑みが張り付いていた。自分が張り合えるだけの実力をもった人物が、目の前に存在することの喜びを隠し切れなかったのだ。

一方、百代の顔面に拳を入れてしまったことにようやく気付いた真は、内心はかなり焦っていた。今の状況の打開策を瞬時に考えようとするが、頭痛のせいでまったく頭が回らない。この状態で戦闘などまず不可能である。

つまり、逃げるが勝ちだ。

 

「ゴメン!じゃあな!」

 

火事場の馬鹿力を振り絞った真はそう二言だけ言うと、全力疾走で下校した。そのあまりの必死さに百代も追いかけることを忘れてしまい、ただその場でボー然としてしまっていた。しかし、そのことにはっと気づくと、

 

「…ゴ、ゴメンじゃないだろ!私と戦え~~~」

 

その声はむなしく空に溶けていった。

 

 




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