前橋ウィザーズ   作:ヘッズ

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第3話 ウィッチーズじゃなくて、魔法使いだからウィザーズのほうが適切だと思う…

「じゃあ、ヒロキの衣装も決まったことだし、改めて開店に向けて説明始めるからちゃんと聞いてね」

 

 そこからユイナとアズの言い争いなど話は何度も脱線しながらも説明を受ける。店の運営としてアズがシフト制を提案したが、歌う時の魔力消費による疲労を考慮し全員で店に入ることになる。

 話し合いが終わったのを見計らってケロッペの指から光線が発せられると和モダンな着物風のミニスカートドレスがふわりと出現した5着出現する。

 

「どう、お揃いの制服、テンション上がるでしょ」

 

 チョコとユイナがカワイイと制服を手に取り喜んでいる。一方アズは「は? 着ない」と全拒否し即座に言い争いが勃発、最終的にケロッペが強引にアズ以外へ制服を着せた。

 

「おお、皆可憐(キュート)だな」

 

 殺島は率直な言葉で4人を褒める。無難なエプロンよりこういう制服のほうが客に与えるインパクトは強くなり印象が残る。同時にコンセプトカフェの制服みたいだなと頭に浮かんだがそれは言葉に出さずにおく。ユイナはその言葉に気をよくしたのかキョウカ達を写真に撮ったり自撮りしている。

 

「あれケロッペ、ヒロキくんの制服は?」

 

 ユイナはふと気になったのかケロッペに問いかける。その言葉で4人の視線は殺島に向けられ、殺島は制服を貰っていないことに気づく。

 

「あっごめん忘れてた」

 

 ケロッペは殺島に向けて光線を発射する。するといつの間に私服から和モダンな袴スタイルにチェンジしていた。シャツに羽織、下は袴。女子組に合わせたデザインだ。

 

「ヒロキ君似合ってる。エモエモだよ」

 

 ユイナは目を輝かせシャッターを切るので殺島はポーズを決め写真に写り、ツーショットも乗り気で一緒に撮られる。制服は正直趣味ではない。形式上花屋なのでできれば母親のようにシャツでエプロンが良いのだがユイナは上機嫌なので口には出さない。

 

「じゃあ、制服着たし今から正式オープンということで」

「ところでこの制服何円(いくら)よ?」

 

 店が開くという流れを遮るように殺島がケロッペに質問する。その言葉の真意が分からないのか5人は不思議そうに殺島に視線を向ける。

 

「店によっては制服の賃貸代(レンタルりょう)を給与から引くところもあるしよ、この制服の出来(クオリティ)ならそれなりだろう。それで何円(いくら)だ?というより金とか必要なのか?」

「いや……それは……」

「まさか、魔法で作ったから貯めた魔法ポイントから強制徴収(てんびき)とか言わねえよな?」

 

 殺島は声色は柔らかいが冷ややかな目でケロッペを見る。アズは言葉の意味に気づいたのかケロッペを鋭く睨みつける。願いを叶えるために魔法ポイントを貯めているのに勝手に制服を支給し魔法ポイントを天引きされれるなんてたまったものではない。

 

「ケロッペ、もしかしてその事実を伏せておいて後から請求するつもりだったの?」

「聞かれなかったからって後から請求するなんて詐欺でよくある話だ。それでどうなんだ?」

 

 冷たい6つの視線がケロッペへ突き刺さる。その視線を受けているせいか明らかに挙動不審になっている。

 

「まさか~、ケロッペはそんな意地悪じゃないって、この制服はサービス、開店祝いのサービスだから」

 

 ケロッペは声を震わせながら喋り、終わりには口笛をピューと吹きながら皆からの視線を外す。なんともわざとらしい仕草で明らかに後から請求する気満々なのが手に取るようにわかる。

 

「皆気をつけろ、何気ないサービスでも魔法ポイント過剰請求(たか)ってくるぞ。あとは魔法使うときはどれぐらい魔法ポイントを使うかも聞いておいたほうがいいな。とんでもないポイントを過剰請求(たか)ってくるかもしれねえ」

 

 殺島は視線を外すケロッペに対して釘を指すように注意喚起する。舐められている感が有るので気に入らなかったが、今度は詐欺紛いな請求を仕掛けていた。ケロッペは決して味方ではないと実感する。

 

「じゃあ、今から正式オープンってことで、頑張ってね」

「まて詐欺カエル!」

 

 アズはケロッペを捕まえようとするがその前にケロッペ姿を消し、アズの手は空を切る。

 

「やっぱり悪い系のマスコット系か」

「とんでもねえ奴だな」

 

 マイの言葉に殺島は同意する。この手の詐欺紛いの恐喝は極道でもよくある手段で仕掛ける側だったが、まさか仕掛けられるとは思っていなかった。危うく毟られるところだった。

 

「あの詐欺カエル!アズの邪魔するつもりなの!?」

「むかむかチョコちゃんだよ!」

「同意する。この労働搾取は決して許されない。しかしケロッペが店を運営して自分たちを雇っているので云わば雇用主、気分一つでクビにできるのが現状だ」

「は?あの詐欺カエルがムカついたからってクビになって魔女になれないってこと!?無理!」

「そうなると恐喝(がじ)るしかねえな」

「がじる?それどういう意味」

「ああ、がじるって言うのは頼むって意味だよ、俺が高校生(こーぼー)の時の流行った言葉だ」

「そうなんだ」

 

 ユイナの言葉に殺島は我に返り慌てて取り繕う。立場が上なら弱みを握って優位に交渉するしかないと極道的な思考をして思わず口に出てしまった。こんな考えをしているとばれると皆に引かれてしまう。好感度は可能な限り下げたくない。

 

「ちょっとちょっと、ケロッペを悪のオーナーみたいに言わないでよ」

「うるさい詐欺カエル!現に騙そうとしたでしょ!」

「そうだそうだ!」

「そんな弁解されても説得力ゼロすぎ」

 

 ケロッペ声が店内放送のように店に響き、そのたびにアズとチョコは追撃し、マイは呆れ混じりの愚痴をこぼす。

 

「今流行りの嘘なのに本当だと信じて追い込むネットの人達みたいだよ。ケロッペ傷つくな」

「どうかな。騙そうとしたのは事実だし嘘ではない。正直キミのことは信用できない。気分一つでクビにされる可能性すらあると思い始めている」

「ケロッペそこまでイメージ悪いのか、じゃあどうすれば信用してくれる?」

「自分達を騙さないと誓ってくれ。あと魔法を使う際に消費する魔法のポイントの一覧を見せて」

 

 すると、ふわっと空間が揺らぎ目の前に紙束が落ちた。皆がそれぞれ手に取る。1ページ目には制服提供料200という数字が消され、0と大きく書かれていた。次の紙からは魔法を使う際のポイントが1枚ごとにびっしりと書かれている。キョウカ以外は手に取ってすぐに読むのをやめている。これは文量を多くして契約書を読ませる気を失せさせ不利な契約をさせる詐欺の手法か、それとも馬鹿正直に羅列しただけか。

 

「宣誓、ケロッペは皆を騙さないと誓います」

 

 ケロッペは右手を上げ選手宣誓のように喋る。その声色はいつもより真剣みがある気がした。

 

「ケロッペ、もし次騙そうとしたらメッだからね」

「はい」

 

 ケロッペはユイナの言葉に深々と頭を下げる。それを見て場の空気は許す流れになっていく。殺島としては口約束など意味がないと思っているが、5人がケロッペの善性を信じるのであれば口を挟むつもりはない。

 

「じゃあ、改めて頑張ってね」

 

 そう言うとケロッペは再び消えていった。

 

──

 

 店が正式オープンしケロッペに騙されかけたのを隅に置き皆は意気揚々とカウンターに立つ、しかし数時間たっても客は1人も来ない。やがて暇を持て余し自撮りしたりソシャゲしたりウトウトしたりとしていた。

 あまりの暇さにユイナは何かをやろうといくつか提案するがアズが拒否していき、マイの「客が来ない」という愚痴にケロッペが「最初はこんなもんだから気長に待て」という言葉にフラストレーションが溜まっていたのかアズが思わず大声を出す。

 

「アズは本気で魔女になりたいの!大人のうちに!できるだけ若いうちに!あんたもそうでしょ!?」

 

 アズは殺島に視線を向け睨みつけ、殺島は思わず面を食らい目を点にする。アズから話を振られるとは思っていなかったので油断していた。

 極道(きわみ)から聞いた話だと忍者を殺す計画は着々と進んでいる。このままでは魔法が使えるようになる前に計画は実行されるので、早目に魔法が使えるようになれるに越したことはない。

 

「まあ、そうだな。じゃあどうやって客を呼ぶか考え……」

「はあああ」

 

 するとユイナが突如歌唱用の魔法のマイクを突き出し先端が淡いピンク色に光り始め、皆が戸惑う中、光はどんどん強まっていく。

 

「ウチも魔法を使ってみようと思って、だってめちゃ熱だったから、アズちゃんの熱意、ビリビリ伝わってきたから」

 

 ピンク色の光は凝縮し弾けた。霧散した光の中から紙束がヒラヒラと舞い落ちる。手に取るとそこには『魔女のお花屋さんドリーミードリーミーフラワー(仮)開店OPEN あなたの心のお花咲かせませんか、前橋ウィッチーズがあなたの願いを叶えます』と書かれ歌を歌うときに着る魔法衣装を着た6人がデフォルメで描かれていた。

 殺島はその紙を見て感心する。これは店のビラだ、店の存在を知っているのと知らないのでは客の数は変わるのかとケロッペに質問し、知っているほうが客が来るのであれば取ろうと思っていた対策の一つであった。もっとも殺島は債務者を使ってビラを刷るつもりで魔法を使うというアイディアはなかった。

 

「なにこのドリーミードリーミーフラワーって?」

「店の名前」

「それでこの前橋ウィッチーズってのは何?」

「ウチらのチーム名」

「ださ!それと勝手に決めんなし!」

「決めてない、(仮)って書いてあるでしょ」

「そこ含めてダサ火力強すぎ」

「と・に・か・く。お客様を待ってないで呼び来みすればいいんだよ」

「自分も彼女に賛成、あと彼がいるからウィッチーズじゃなくて、魔法使いだからウィザーズのほうが適切だと思う」

「あっ、ごめんねヒロキ君、のけ者にするつもりはなかったの。でもウチばかだから魔法使いって英語が思い出させなかったんだと思う」

 

 怒るアズを横目に、ユイナは息を切らせながら殺島へ頭を下げる。魔法は体力を消耗するらしい。それに言っていることは本当だろう。でなければデフォルメイラストに殺島が入っているはずがない。それにしても随分と可愛らしく描かれていてイメージに全く合わないと殺島は思わず自嘲する。

 

「じゃあもう一回、はあああ」

 

 ユイナは再び魔法を使ってビラ第二弾を作成し、先ほどより息を切らせながら殺島へ渡す。今度は前橋ウィザーズと書かれていた。

 

「ケロッペ、店を知っている奴と知らない奴だと叶えたい願いがあった場合は知っている奴のほうが来る可能性が高いのか?」

「今の段階じゃそうかも。まあ魔力が高まれば勝手に引き寄せられると思うけど」

「だったらユイナのビラ配りは良案(グッドアイディア)だ、やったほうが客がくる。あとスタポスでこの店のアカウントを作るっていうのはどうだ?」

 

 殺島はケロッペに確認をとったところで考えていた案を提案する。極道に配布されているキムラマニュアル。それは麻薬の販売方法など極道のシノギに関することが小卒でも分かりやすく書かれ、シノギの売り上げが配布前と比べ数十倍に上がった伝説のマニュアルがある。

 そこでもSNSの活用方法が書かれていた。何かを知らせるには今はSNSがもっとも効率的だ。

 

「なるほど、スタポスでバズればチラシ配るより遥かに宣伝効果は高い」

「だろ、とりあえず皆が持っているアカウントで告知(しら)せてくれ、あとは友達(ダチ)に報せてくれ、その友達(ダチ)人気者(インフルエンサー)なら最高だ」

「それで店のアカウントは誰が作るの。アズは無理だかね。言い出しっぺのアンタが作りなさいよ」

「それこそ無理だ。オレは鑑賞専門(みるせん)。それにそういうのは女子高校生(JK)のほうが得意だろ」

「自分はそういうのに疎くて」

「チョコもどうやってバズらせればいいかなんて分からないよ」

 

 それから誰がアカウントを作り運営するかの話し合いが始まり、投稿内容などは皆でアイディアを出し合うという条件で渋々と請け負った。

 

「じゃあアカウント作るけどアイコンはどうする?」

「どうするって言ってもな、チョコは作るときはテキトーだったしな。マイティンがサクっと決めちゃってよ」

「何簡単に決めようとしてるのよ。店を知らせるのに重要なんだから、えっと、まずはアイコンは『人間らしさがあると親しみやすくなりと信頼感が与えられます』か」

 

 アズはスマホでスタポス、インフルエンサーと検索エンジンに打ち込みトップに出たサイトのバズるアカウントの作り方というページを調べながら喋り始める。

 

「じゃあ制服着た皆の集合写真とか、エモエモでオシャで親しみマックスだよ」

「顔を晒すのとか無理」

「私も身バレ怖い」

「じゃあ顔は隠して撮ろう。制服だけでも十分カワイイし」

「でも顔隠していると彼女が言った人間らしさが無いような」

「う~ん、ヒロキ君はなんかある?」

「アイコンっていえば紋章(エンブレム)だろ。はっ!」

 

 殺島はユイナに倣ってケロッペからもらった魔法のマイクを手に取り魔法を使う。黒い光がマイクの先端に凝縮され1枚の紙が飛び出した。それと同時に小走りした程度の疲労を感じる。1枚だからこの程度の疲労で済んだが確かに体力を持っていかれる。

 魔法を使って作ろうとしたのはエンブレムだった。デザインは以前に所属していた暴走族聖華天のエンブレムをオマージュしたもので、背景は燃え盛る帝都高速の路面図の代わり前橋市の形、形は全く知らないが多分合っているだろう。そして暴走師団聖華天という文字の代わりに前橋ウィザーズと書かれている。

 殺島には絵心はないがユイナが作ったチラシに描かれていたイラストのように魔法が作用し、いい感じに出力されるのを期待していたが、殺島のほぼイメージ通りで好みのデザインに仕上がっている。

 

「どうよ?格好良(いけ)てるだろ」

「なんで勝手に前橋ウィザーズって名乗ってるのよ。それに何このデザイン、ダッサ、ダサいデザインにダサい名前が合わさってダサさ二乗じゃん」

「ええ、前橋ウィザーズいいじゃん。でもこのデザインはオシャじゃないかな」

「これは前橋ウィッチーズの名前と同じぐらいダサ火力強すぎ」

「う~ん、ナシナシチョコちゃん」

「正直男性の趣味は分からないので何とも言えませんが……」

 

 全員からダメ出しを受け密かに自慢げだった殺島の表情は崩れ思わずカウンターに手につく。暴走族のセンスなので多少なりの否定意見は覚悟していたが総叩きか。アズの言葉も強烈だったが、キョウカすら上手くフォローする気がおきないぐらいダサいと思っているのがショックだった。

 

「じゃあ、チラシのイラストをアイコンにしたらどう?絵もカワイイからチョコ好きだな。それにアズアズの言う親しみやすさもあると思う」

「それも無……」

 

 皆の案を否定してきたアズだがチョコの案を聞いて考えこむ。ユイナが作ったチラシにしてはこのイラストは少し子供っぽいが悪くはない。今までの案で一番マシで自身もこれといったアイディアがない。ここで駄々をこねても仕方がないので、とりあえずはアカウントを作るのを優先したほうがいい。

 

「理じゃないか、それが一番マシ」

「じゃあチョコちゃんの意見採用だね」

「アイコンはチラシのイラストで、ヘッダーはどうする?」

「ヘッダーはユーザーにこのアカウントはどんな情報を発信しているのかを直感的に伝える役割があるみたい」

「伝えたい情報って何を伝えればいいんだろう?」

「それウチらが皆の願いを叶える魔女見習いってことでしょ」

「それをどう伝えるかってのもそうだけど、願いを叶える魔女見習いって言われても怪しすぎでしょ」

「花屋をアピールすれば?画像は出入口側からカウンターを撮った写真にすれば、それなりに映えるし」

「じゃあそれで」

 

 アズの提案にマイが賛同し自分のスマホでカウンターを撮る。カウンターの後ろには花が壁のように設置されその後ろには金時計の歯車のようなものがあり、現実離れした光景が、逆に印象的だった。

 

「最後はプロフィール文、これは「誰がどのような価値を提供しているのか」を一目で伝える必要があります。って」

「なんか国語の問題みたい。キョウカリオン解いて~」

「自分達が魔法で願いを叶えますと伝えるべき。けど」

「それだと怪しいアカウントに勘違いされる」

「事実は言わなくてもよくね?とにかく印象的(キャッチー)な文を書いて注目を集めねえと」

 

 そこからプロフィール文はどうするかという議論は白熱するが、全会一致の名文は思いつかず、話し合いで疲れたのかやる気が失われ面倒くさくなったのか、チラシの文で良くないという意見が採用された。アズも疲れとスタポスによる集客に期待していないのか、店名のドリーミードリーミーフラワー(仮)もグループ名の前橋ウィザーズ(仮)もダサいから変更しろと言わなかった。

 こうしてドリーミードリーミーフラワーのアカウントは作られ、記念すべき最初のポストは「魔法の花屋が開店しました。叶えたい願いを浮かべてください。扉が光れば店に入れます」というものだった。

 

 

──

 

「なあ、そんなにユイナが嫌悪(きら)いか?」

 

 殺島はスマホをいじっているアズに問いかける。キョウカとユイナとチョコはチラシを配りに外に出て、殺島とアズとマイは留守番していた。

 外に出る前にまたアズとユイナとの間にイザコザがあった。きっかけはユイナの服装が安物であるとアズが悪口を言ったことに起因する。その言葉にキョウカは露骨に不快感を露わにし一緒に居たくないとばかりに外に出た。

 これはマズい傾向だ。このままではアズが孤立する。孤立すればアズの労働意欲が失いパフォーマンスが落ちる。最悪孤立に耐えかねず魔女修行を辞める可能性もある。

 それは戦力低下に直結する。少しでもアズが孤立しないようにフォローしながら、アズも周りに合わせるように心変わりさせる必要がある。

 

「嫌い、あのペラペラさが気に入らない。無理」

「私も騒がしいタイプは気に入らないけどさ、そこまで波風立てなくてよくない?居心地悪くなるし、皆に変な気を使わせるじゃん」

 

 マイが静かに会話へ滑り込み、アズをたしなめる。まず共感、次に柔らかな否定。それがマイ流の穏便な説得方法である。

 

「はあ、アズが悪いって言うの?あんなの連れてくるのが悪いんでしょ」

 

 だがアズは一向に悪びれるそぶりを見せずケロッペに責任を追及する。自分の感情を優先し場を乱す。事なかれ主義のマイにとってはユイナとは別の意味で苦手なタイプだ。

 

「痺れるぜ、その自己意志強(エゴ)さ」

「なに?アズのことバカにしてるの?」

「いや愚弄(ディス)ってねえ、称賛(プレ)ってる。ここまで己を曲げずに率直に感情をぶつけられるなんて凄えって。大人になるとは相手に委縮(びび)って言いたいことも言えなくなるんだよ」

 

 殺島は拍手しながら称賛する。アズも最初は愚弄されたと厳しい目つきで睨んだが次第に眼光の鋭さが鈍くなる。この男は本当に褒めていると雰囲気で察した。

 一方殺島の言葉はある意味本音だった。嫌なことは相手がどう思おうが関係なく言う。その傲慢さと我の強さは若さであり、歳を取って無くしてしまったので羨ましい。同時に重大な短所でこれからの人生苦労しそうだとも苦笑する。

 

「未成年じゃなかったら恋慕(きゅん)しそうだ。そんなアズだから助言(アドバイス)してやるよ。耳貸せ」

「なに、アズは謝らないからね」

 

 訝しみながらもアズは近寄り、殺島はそっと耳元に囁いた。

 

「アズは最速(そっこー)魔女になりたいんだろ?」

「そう、アズは一秒でも魔女になりたい」

「だったらユイナへの態度は緩慢(ぬる)い」

「どういうこと?」

「嫌いな奴に嫌いって言っても自分(てめえ)が気持ち快感()いだけだ。嫌いでも褒めるんだよ。ぺらっぺらのワンピ着てても『うわ~滅茶苦茶(めちゃ)御洒落(おしゃ)」とか褒めて調子乗らせる。そうすれば気分よく修行に励むはずだ。魔法使いになる条件は119999ポイントゲットする。だったら馬車馬(めちゃくちゃ)に働いてもらうほうが効率(タイパ)良くねえか?」

 

 アズは考え込む。己の感情を偽り我慢するのは苦手だ、言いたいことは言ってしまうし、伝えたい言葉も素直に言えずに語気が強くなってしまう。

 通常であれば殺島の言葉に従わないが今は事情が違う。魔女になって魔法を使えるようになるのは人生においての最優先事項だ。

 

「アズは……」

 

 実利と感情、どちらを優先するかアズの中で揺らぐ。何か言いかけたその瞬間、突如入口のベルが鳴る。視線を向けるとふくよかな女性が1人立っていた。

 まさかチラシを見てきた?それともアカウントを見たのか?どちらか分からないが客が来ると思っていなかったので完全に油断していた。殺島とマイも同じようだ。そしてアズの客へ向ける視線は2人と比べ鋭くなる。

 

「まだ開店前ですか?」

「いえ営業してます。ようこそ素敵な淑女(レディ)、ここは魔法の花屋ドリーミードリーミーフラワーです」

「魔法の花屋?」

「ええ、魔法のように素敵な花を提供します」

「確かに魔法みたいに素敵な花屋ですね。久しぶりに帰ってきたけど、いつの間にこんな花屋がオープンしたのか」

 

 殺島の芝居がかった物腰に女性客はクスリと笑う。それを見てマイはホッと胸をなでおろす。もし殺島がいなければアズではなく自分が接客していただろう。どう対応すればいいか分からないので挙動不審になっていた。

 

「ヤジさん、ちょっと時間稼いでおいて」

 

 マイは殺島に小声で告げながらアズと一緒に控室に向かっていく。殺島も何かしらやることがあるのだろうと特に引き止めず接客に集中する。

 

「久しぶりってことは帰郷(さとがえり)っすか?」

「ええ、地元の学校の同窓会がありまして」

「いいっすね。同窓会、オレのところは集まりが悪いからそんな集会(あつまり)なくて」

 

 殺島は会話続けながら別のことを考える。魔法使いの修行は相手の願いを叶える。つまり相手の願いを知らなければ始まらない。

 ここは会話しながらさりげなく聞くか?それともここは花屋ではなくて魔法で願いを叶える場所なので叶えたい願いを教えてくださいと直球勝負で行くか?

 

「それで先生に花束を贈りたいので用意してもらいたいのですが」

「よかったら先生(せんこー)……じゃなくて先生の人柄とか思い出(エピソード)伝達(おしえ)てくくねえっすか?」

「エピソードですか?」

「そういった話を聞いて天啓(インスピレーション)を得てから花束を作りたいと思いまして」

「なんか本格的ですね。そうですね先生は…」

 

 女性客は先生のエピソードを語り始める。話を聞いて花束を作ると言ったが全て嘘だ。そんなことは殺島生花店でもやっておらず、母親でもそんなことはできない。

 花屋についての知識もスキルもない。そんな素人がいきなり普通の花屋のように作れるわけもなく。客に水仙を入れてくださいと言われても選べないし、イメージもできないので魔法で作れるかも怪しい。とりあえず時間を稼いで、その間に周りの花をよく見てそれを使って花束を作るイメトレをしながら。どうやって願いを聞き出すか考える。

 

「どうですか、参考になりました?」

勿論(もち)っす、では今から見繕います」

 

 殺島はとりあえず花束を作るしかないとカウンター裏の花壁に向かう。祝いの席だから赤とか黄色などの明るい色を中心にしようと大雑把なイメージを描いていたら、カウンター後ろの扉からマイとアズが来る。

 

「ヤジさん歌って願いを叶えよう」

「おい、まだ客の願いを聴取(きい)てねえぞ」

「大丈夫ケロッペから魔法で聞いた。名前は三葉凛子、職業はプライスサイズモデル。仕事のことで悩んでいるみたい」

了解(りょ)、それより3人で公演()るのか?というより可能(でき)るのか?」

「とりあえずやってみよう」

 

 結果魔法で願いは叶えられなかった。3人では無理で6人集まっても無理だった。その原因は魔法で願いを叶えたいと思っていない人がいることだった。

 それはアズで女性客に向かって『デブ嫌い!楽に痩せようとしていてうざい!本当に無理!」と暴言を浴びせて店から出て行った。

 

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