午前0時、前橋駅付近にある中央商店街通り前、日中帯はそれなりに人通りがあるが、深夜となれば都心の繁華街と違い人は居ない。
道路の路肩に1台の黒いバンが止まる。車中から3人出てくる。40代の男、50代の男、30代の女が出てくる。皆疲れ切っているのか目は濁り過剰に不安がっている。
その後に運転席からタバコをふかしながら男性が降りる。無造作ヘアーでたれ目、派手なネックレスに派手なシャツを着て、明らかに世間が考える普通の職業に就いていないと見た者は思う風体だった。
無造作ヘアーの男性が降りると車中から出た3人に近づく、3人は怯えを隠せない表情で彼を見つめる。
「それで俺達は何をすれば?」
「ああ、深夜の散歩だよ」
無造作ヘアーの男性、殺島はあまりに軽い声音で答えた
ユアの一件があった翌日、ケロッペから思わぬ事実を知らされる。
ウィッチバースで6人が歌い踊って魔法を行使し願いを叶えなければマポは貯まらない。そして店の維持費は発生しマポを使っている。マポが0になると修業は失敗で強制終了となる。
先に言えと皆が抗議したが以前に渡したマポ使用一覧に書いてあると、皆に書類を渡し赤線が引かれているページを見せる。
確かに小さく書かれている。一通りは目を通したのだが見落とした。そういう関係は組のインテリに任せていたので専門外だ。
ケロッペが説明を終えると店内が薄暗くなり花などの備品が忽然と消える。マポが1を切り小数点代になったことでセーフモードになったらしい。このままではこのままでは維持費に押し潰され、遠からずゼロになる。
殺島は軽くため息をつく。潮時か、ダメ元で修業をしていただけで、失敗しても大した痛手でもない。あとは
皆も状況の悪さを察し空気は沈んでいた。だがユイナはこの危機的状況は映画みたいでドキドキすると喜んでいた。
そのユイナを見て毒気を見たのか悲観的な空気は一変する。魔女になって絶対にやりたい事があるという意思が前を向かせてはいない。
ただ純粋にワクワクするし何とかなると思っている。この能天気さというか前向きさ、つくづくメンタルオバケだ。
ユイナの前向きさに当てられたのか皆は行動へ移る。外でのビラを配りや、学校の同級生や友達に店のアカウントを教えるなど店に客を呼び込もうとしている。ならば殺島は皆には出来ない方法で集客を試みる。
今まで来た客は全て前橋に帰郷や立ち寄った際に訪れたと言っていた。サンプルが少ないので何とも言えないが前橋からでないと店に入られない可能性がある。
そう考えた殺島は預かっている中で破滅寸前の債務者を連れて前橋まで足を運んでいた。以前に債務者などの金関係で叶えたい願いを持っている者は店に入られないと推論したが、それは前橋に居なかったからかもしれない。可能性は低いが思いつく案はやっておく。
「じゃあ行くか」
殺島は債務者3人を連れて中央商店街を歩く。この散歩に付き合えば支払いを少しだけ待つと言ってあるので逃げることはないし。仮に逃げても電気ショックで動きを止められる。
商店街のシャッターを一つずつ確認しながら歩く。客が言うにはシャッターが光りそこから店に入ったらしい。その兆候を見逃さないように注意を払う。
深夜の商店街は、当然のごとく無人。全ての店がシャッターを下ろし、闇と金属の無機質な組み合わせが、現実から切り離された異界のような雰囲気を醸す。
その非日常感に多少高揚するが、債務者たちのわが身を嘆く恨み言がそれを打ち消し、現実へ引き戻した。
それからオリオン商店街や弁天通商店街などシャッターがありそうな場所を探索したが光るシャッターは見つけることはできなかった。
───
殺島は必死にあくびをかみ殺しながら車を運転する。前橋での探索後は直帰し、深夜に就寝したのだが、今日は仕事の都合で起床が早かった
「殺島、眠そうだね」
「
「まあ、君なら事故ることはないだろうから安心だ。いや車だからバイクのようにはいかないか」
「そうっすね、
「そうか、まあこの後は組の用事は無いからゆっくり休みたまえ」
殺島はバックミラーで後部座席にいる白スーツの男を見る。20代後半で黒髪真ん中分けのサラリーマン風の男性、ルックスは整いすぎてはいないが充分に端正で、社内ではイケメンと評判になる程であり、人当たりの良さそうな微笑みを浮かべるその男こそ、破壊の八極道の一人にして、忍者抹殺計画の立案者・実行責任者であり、実質トップの男。
「そうしたいのは山々なんですけど、夕方から
「
「ええ」
「君もそれなりに貰ってるでしょ。バイトする必要あるの?」
「まあ、色々と」
「それって
殺島の肩がピクリと動く。前橋に債務者を連れて実験した件は可能な限り内密に進めたのだが完全にバレている。流石極道だ。
「
「もしかして何か企んでる?」
極道は、どこか楽しげな声で問う。表情は穏やか。だがその内側では、冷徹な推論作業が走っているのがわかる。
「ええ」
「へえ、よかったら聞かせてよ」
「詳細は言えないですけど、忍者をぶっ殺す為の活動です」
殺島はあっさりと白状した。この人には隠し事はできない。その気になれば前橋で活動しているのを調べ上げる。であれば下手に隠すより打ち明けたほうがマシだ。
「へえ~、忍者を。
「それは1つ
「それは気になるな」
極道が身を乗り出す。口調は柔らかいのに、空気は一気に重くなった。疑念の色が濃くなる。
「いや、実はかなり
「そうか、では他の者に任せよう。君は重要な戦力だ。無駄な仕事をさせるわけにはいかない」
「その心遣いはありがたいですが、この案件はオレにしか真偽が確かめられないんですよ」
殺島は唾を飲み込む。言っていることは事実だ、魔法使いになって魔法で忍者を殺すなんて眉唾もいいとこで、魔法使い修行できるのも殺島だけで真偽も確かめられない。だが他人から見たらかなり怪しい言い訳である。
「……そうか、君が言うならそうなのだろう。その案件は任せよう。忍者を殺せる方法は喉から手が出るほど欲しい」
「
「ほう、それはどちらに転んでも面白そうだ」
極道は背もたれに身を預けた。とりあえず了承してくれたようだ。だがこれは自分を信用したわけではない。私情を一切挟まずリスクとリターンを吟味した結果だ。
この男には感情はない。能力が有る無しで駒としては信用するが、感情で信用することは決してない。
──
殺島は薄暗い店内をぐるりと見渡した。魔法店を彩っていた花々は影も形もなく、節約モードに入った結果、店は打ち捨てられた温室のように殺風景だった。花屋ではないから機能面の問題はない、だが、彩りを失えば途端に場は寂寥を纏う。
手持ち無沙汰を紛らすようにマポを見る。表示は1ではなく小数点に突入した。ゼロになった時は全員が肝を冷やした。
何とか首の皮一枚繋がったがジリ貧なのには変わりなく近いうちに修行は終わる。その現実に打ちひしがれることなく、ユイナはキョウカとマイを連れてビラを配りに行った。そして殺島とチョコとアズの3人は店番を任されていた。
「あ~、お客さん来ないかな~」
「愚痴溢す前に何かしたら」
「何かって何?ビラ配りはユイナッチョリン達がやってるし」
「アカウントの更新でしょ」
「何をポストすればいいか分からないよ。あっ、今の店の写真撮って「このままじゃあお店が潰れてしまいます。店に来てください!」ってポストすれば誰かが可哀そうって思って来てくれるかも」
「アズそういうの無理。そんなこと言われてもアンタ達の経営努力が足りないだけで憐みで客引きしようって魂胆とか無理」
「アズアズは捻くれてるな~」
アズとチョコは示し合わしたようにため息をつく。現状やれることは何もない。やれるとすればポストをバズらせることだが、それが簡単に出来れば誰もがインフルエンサーだ。
「あ~イライラする。こんな状況に追い込まれてるのもあのユアって奴のせいだし、しかも本人はマイのくまいアカウント貰って調子乗ってるし」
アズは舌打ちしながら毒を吐く。ユアが店を去った後にくまいのアカウントをチェックしていたら、何故かユアの姿が映っていた。それについてマイを問い詰めるとユアにくまいのアカウントを譲渡したと告げた。
脅迫ではなく本人が納得している以上、文句は言えないが、良い思いをしているのは気に入らない。
「ねえケロッペ、願いが無い人でも心優しい人が店に来てポイントをあげましょう的な展開ない?」
チョコはこのままではアズの愚痴がずっと続くと危惧し話題を変えてケロッペに質問する。
「ありませ~ん。いくらこの店がファンタジーだからって、そういう都合の良い展開はないから」
チョコの願いはケロッペの言葉よってあっさり破れる。流石にそんな都合の良い話はないと思っていながらも無意識に期待していたのか大きなため息をつく。
「このまま座して死を待つつもり?少しはヒロキを見習ったらどう」
「どういう意味?」
「この前何て明らかに願いが有りそうな人を連れて、深夜の前橋を歩き回ってたんだから」
ケロッペは殺島に意味ありげなウインクを見せる。その努力を報せて皆の意識の向上と好感度を上げてやった、感謝しろという意味だろう。
正直嬉しくはない。この方法は自分にしか出来ないし、こういう方法で好感度を上げても仕方がない。むしろ債務者を引き連れたと言わないかヒヤヒヤしたが、基本的に舐めているが少しは気遣いができるようだ。
「ヤジリンそんな事やってたの?えら~い」
「
殺島は演技がかった動作で肩を落とすとチョコがよしよしと言いながら頭を撫でる。少しでも和ませようとしたがチョコはノリがいいのか想像以上に乗ってくれる。チョコが頭を撫でたせいかふとアイディアが脳裏に閃いた。
「なあ、ケロッペ。仮にオレがそこらへんの奴
債務者は最終的にはマグロ漁船に連行されたり、臓器を取られたりと身の危険は迫っているが直近ではない。だが今言った者は直近に命を脅かされている。世俗的な願いはダメでもこうした生物としての本能的な願いなら可能性はあるかもしれない。
「いいね~そのやる気、ある意味ユイナ以上かも。でも無理だね」
「ヤジリンって発想がバイオレンス過ぎだよね。ドン引きチョコちゃんです」
「いやいや極論だぜ、そういうのからアイディアが浮かぶこともあるって、ケロッペも言ってるだろ、座して死を待つより戦って死ねって」
チョコの若干引き攣った顔を見て殺島は慌てて取り繕う。つい思いついたことをフィルターかけず言ってしまった。これではドン引きされるのも無理はない。
「いや言ってないから」
「ていうより戦うどころか目に付いたやつを皆殺しにしてるでしょ。その発想」
だが効果はなくケロッペは冷めた目で見つめ、アズは痛烈な言葉を投げかける。これで2人からはヤバイ奴認定され始める。やはり染みついている極道性は拭いきれない。
「あ~あ、マイティンとユイナッチョリンがマポ使わなきゃな~」
チョコはカウンターに項垂れながら愚痴を溢す。アズは諫めようとするが口を紡ぐ。過ぎたことは仕方がない。
それは分かっているがユアが着てマイが暴走しなければこんな状況にはなっていない。本人の前では口に出すのは憚れるが気を抜くと恨み言の一つや二つはどうしても浮いてくる。
「まあそう言うなって。過ぎたことは
「え?あんたそっち側なの?」
アズは思わず尋ねる。殺島には魔法使いになりたいという強い動機があり、マポの使い込みには最も怒りマイを擁護するとは思わなかった。
「意外、ヤジリンはマイティンに滅茶苦茶怒って、どうやって制裁を加えようかって考えていると思ってた」
チョコも同じように思っていたのか意外そうにしている。殺島はチョコの言葉に若干呆れ気味な表情を浮かべながら答える。
「おいおい、どんだけ
「分かるって何が」
「誰かのために何でもやるって気持ちだ。マポ使ったのも恐らくあのユアって女の為だろ」
マイはアカウントをユアに譲渡したと言っていた。詳しくは分からないがインフルエンサーと呼ばれるほどのフォロワーを手に入れたアカウントを譲渡するのはあの年代の女性にとっては並大抵ではないのは察せる。そんな事をするならばマポ泥してユアの為に何かしようとしても不思議ではない。
「まあ、マイがマポ泥までして何かをするとしたらあの女関係ぐらいか」
「確かに、マイティンは本当に大好きみたいだかね」
「オレも娘が居たからよ。娘の為ならワリいけど
2人の表情に複雑な影が差す。堂々と自分達が集めた物を搾取すると言われれば、そんな表情になるだろう。
だがこれは紛れもない本心だ。それにもし花奈の命がチョコ達5人の命を奪えば助かると言われれば躊躇なくやる。
花奈の為なら何だってできる。花奈の為なら何もいらない。花奈が死ぬまでは本気でそう思っていた。
マイも普通の人間としての倫理観や良心が持っているのでブレーキはかかるだろうが、心情としては似たようなものだろう。最初はマポを利用されたことに怒りを覚えたが今は同情に近い感情さえ芽生えている。
これは修業が始まってから一カ月程度しか経っていないから諦めがつくだけで、マポが自分の分だけ貯まる直前だったら別だったかもしれない。
「チョコやアズにはまだ全てを捧げてもいいと思える相手が居ないから
殺島は屈託のない笑みを見せる。それに毒気が抜かれたのか2人にまとわりついていた苛立ちが少しずつ溶けていく。
「チョコも分かるかも。全てをってわけにはいかないけど、大切な人が居るから逃げ出したくても我慢してやってるし」
チョコは小さく呟き、胸の奥の想いを噛みしめるようだった。一方アズは、少し間を置いて、ぽつりと「そんな人、居ないけど」と寂しげに言う。
「まあアズにもできるさ、恋人とか出来たら案外そうなるかもな」
「あ~分かる。凄い健気に尽くしそう。というより愛が重すぎて束縛するタイプ」
「人をメンヘラ扱いするの無理!」
アズが怒る姿を見て殺島は頬を緩める。チョコの言うイメージが鮮明に浮かび上がっていた。
「よし、店のアカウントのポストでも考えるか、バズらせて客を呼び寄せて、マイに恩着せようぜ」
「うん、マイティンに貸しを作って色々してもらおう」
「いや、ポストを考えるのは皆で話でしょ。仮にバズらせても成果は皆のもんだし。まあ暇だから考えるの手伝ってあげる」
それから3人はバズるポストをするための作戦会議を始める。成果はまるで無いが雰囲気は悪くはなかった。
「ただいま!」
店内出入口からユイナの声が聞こえる。声の調子からして良い事があったようだ。ビラをいつもより多く受け取ってもらったか、殺島は労いで菓子でも出そうと考えるが思考が止まる。
普段なら控室から帰って来るのに出入口から聞こえてきた。もしかしたらと3人は視線を向ける。その先にはユアが居た。
──
「てゆうか結局アイツが得するとか無理」
アズは椅子に座るユアへと、これ以上ないほど露骨な敵意を投げつけた。入店した瞬間からその眉間の皺は深く、相当嫌っているのが一目で分かる。
殺島もマポを浪費させた本人がどの面下げてと多少は思うとこは有るが客は客、しかも魔法使い修行の命運を握っていると言っても過言ではない。
チョコとキョウカはそれを理解しているのか、チョコは「これでマポが貯まるなら仕方がない」と共感しながら宥め、キョウカは僅かに緊張している手を前に組んでじっとしている。
「何が狙い?怖いんだけど」
ユアはそっぽを向きながら問いかける。願いを叶えたいから店に来たのに積極的ではない。殺島はその態度を訝しみながら様子を観察する。
「それはマイちゃんにとってユアさんが大切な友達だから」
「友達?いや小さい頃ちょっと遊んでただけだから、そもそもマイの家に行ってたのだってゲームがたくさん有って、マイのお姉ちゃんの化粧品やアクセサリーがあって面白かっただけだし」
その言葉にマイは目を伏せ『そうだよね』と弱弱しく相槌を打ち、それを見てユアは一瞬バツが悪そうに目線を逸らす。
流石に言い過ぎだと思ったのか、少なくともマイに対する情が全く無いというわけではないのは分かる。殺島はその反応を見て妙な不快感を覚える。
「アカウント渡したり、願いを叶えてあげるとか言って。ずっとアンタのお陰でずっと良きなったって思い続けさせたいの!」
「は!?じゃあ店来んなし!願叶えてもらう気満々なくせに!」
ユアは立ち上がりながら激昂し、その言葉にアズがカチンと来たようで詰め寄ろうとしチョコがそれを何とか止める。場の空気は剣呑な色へと傾いた。
「なあ、アンタ。本当にマイの願いが
アズ達をよそに殺島がユアに詰め寄り問いかける。口調はアズ程荒くはないが内側にくぐもった怒りと苛立ちが宿っていた。その気配にアズも飲まれ、口を閉じて黙り込む。
「は?分かんないし」
ユアは殺島の圧に圧されたのか口調は強いものの声量は小さい。殺島はその姿を見てため息をついた。
「
「そんな訳ない。くまいのアカウントをあげるなんてどう考えても何か有るに……」
「マイにとってアンタが幸せになれるならそんなもの
ユアは殺島の言葉に動揺を見せる。ユアにとってフォロワーは絶対的な価値であり、それを手放すのは心底理解出来ないのだろう。そしてユアの価値観で全く理解できない行動をするマイの献身の重さをまるで理解できていない。
「なんでマイの好意に応えてやらねえ?」
殺島は低く呟く。ユアがマイの気持ちを理解できないように、殺島もまたユアの考えが理解不能だった。
相手の好意に精一杯応える。それが殺島の生き方だった。花奈以外には自分から与えたことはなかった受け身の対応、それでもだいたいは上手くいっていた。
全ての人間の好意に100%応えられたわけではない。女関係でも本命の彼女にしろ、結婚しろと迫られ断った。それでも可能な限り相手が満たされるように応えた。
一方ユアは何も応えない。マイの献身を享受するのが当然のように振る舞い、マイとの日々も相手が傷つくと分かっていながらも本音を言ってしまい、ユアの願いを叶えるという願い想いも理解せず恐れている。
「これじゃマイが余りに可哀そうすぎるだろ。全て受け止めろとは言わねえ、少しぐらいは好意に応えてやれよ」
怒りの棘が抜け、代わりに懇願の色を帯びた声音だった。その言葉が刺さったのか、ユアは唇を噛み、俯く。空気からは殺気が消えたが、代わりに重苦しい沈黙が降りた。
「そっか ~、そういうことか」
その空気を打ち破るようにユイナが能天気な声をあげる。その声にチョコが「ユイナッチョリン空気読んで」とツッコむが構わず話を続ける。
「そうなんだよな~、こういうのって自分の力で何とかしないとモヤモヤしちゃうんだよね。マイちゃんを応援したいから応援してたけど、それがユアさんのためになるとは限らないんだよね。でもマイちゃんの応援したい気持ちを応援したいけど、でもズルで応援するのはな~」
「それの何が
殺島はユイナの言葉を遮るように呟く。その声色はユイナが作ったふわふわした空気を一瞬で消し飛ばした。
「大切な幸せな人が幸せになるなら何だってするだろ。他人がどうなっても知らねえ」
ユイナ達は善良な人間だ、だからこそ魔法という不正な手段をとって、ユアがミスコンで1位になるのに忌避感があるのだろう。
だが殺島はそうは思わない。花奈の為ならどんな仕事もやってきた。その過程で多くの人が不幸になったが何も思わない。それは極道だからだが、仮に一般人側の思考だったとしても良心を痛めても不正をするだろう。
「そうだよ、ズルの何が悪いの?皆いい子ちゃんすぎ。私的にはユア姉が喜んでくれれば何だっていいし」
マイは殺島に同調するように断言する。その言葉の力強さは今までのマイには無いものだった。
「そういうのが重いんだって」
「重くちゃダメなの!?ずっとユア姉が大好きなのに!?私がそうしたいのに」
「私にそこまでする価値ないから!」
「そんなことない!!私にとって価値有りすぎ!むしろ価値しかないから!」
ユアは、向けられる好意の熱量に耐えきれず、悲鳴のように自分を卑下する。だがそれを上回る勢いで、マイは寸毫の迷いもなく肯定を叩き返す。押し負けたユアは、唇を震わせたまま黙り込むしかなかった。
マイの言葉には切実さと焦がれるような情念が宿っていた。その直情の熱は、殺島にとっても痛いほど理解できる。かつて自身が抱えた想いと共鳴するかのように、胸の奥を震わせる。
「ユア姉の心のお花、お願いだから私に咲かさせて」
静かな祈りにも似た囁きと共に、マイの衣装が制服から魔法衣装に変わり、店内も変身舞台への再構築を開始する。そして完了するとウィッチバースに転移した。