はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

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1.外へと出かけよう

カナリィ。ミアレシティの配信者。次代のでんきタイプのジムリーダー。俺─キジャの幼馴染。

 

今はのしかかられている。人のことをコケにしていながら満足そうに微笑んでいるのはとてつもなく可愛らしくて憎たらしい。

 

「キジャ、婚約届を取って。ついでにキジャの印鑑もちょうだい」

 

平然とこちらに要求してきたのはとんでもないものである。なぜそもそもそんなものを持ってる前提なんだか…

 

「…いやだわ。なんつーもん取らせようとしてんだこのアホ」

 

配信者の隣で椅子にならされているのは嬉しいことか悲しいことか。…少なくとも体重を乗っけられているから動きにくいことは悲しいことだ。

 

 

普段よりも近いからか耳にかかる甘い声が痺れるように反響する。

 

「じゃあこのままボクと配信に写ってよ。キジャとならダルくてもやれるし周りに見せつけられるし」

 

「何が悲しくてそんなことをしなきゃいけねぇんだよ」

 

(そもそも女に男がいたら炎上するくらいはわかってんだろカナリィ。既に燃えかけてるんだから余計に火を注ごうとするんじゃねぇ)

 

そう言いたくなる気持ちもぐっと堪え、先に彼女を引き剥がしにかかる。うえーとダウナーな声をあげつつ距離を取ると、今度は文句をいいながらぽかぽかと殴り始めた。

 

力が足りないからかそこまで痛くはない。

 

「もう既成事実としていい加減ネットニュースで埋めておきたいんだけど。ミアレシティだけじゃまだ不安だからさ」

 

「充分な範囲だってこと自覚しろ。トレーナーカードも普通のを作れや」

 

ジムリーダーになってから一新することもなく、まるで刑務所のような規定写真はダメだろう。そもそも配信者として活動しているのだから変えるべきである。

 

「えー、いいじゃん。ジムリーダーなんてボクの柄でもなかったんだしこのまま引退したいよ」

 

駄々をこねる目の前の少女にこめかみをひくひくさせながら、俺はダイケンキのアシガタナ並みの悪口を言うことにした。

 

「シビルドンのぼりのきゅるるんアイドル様はやることが違いますなぁ」

 

「……は?売れてないラッパー風情がどのツラ下げて言ってるんだよ」

 

効果はテキメンだったが、こちらに対してマウントを取ることしかしてこない。ラッパーとしては確かに売れていないが、そこまで酷いものではないというのに。

 

「でんきタイプみたいなインスピレーションがないからわかんねぇんだな、哀れ」

 

「…るさい。大の野生ポケモン嫌いがそんな口を聞かないで」

 

「んなこと言われてもな…一応これでもランクBだぞ?」

 

スマホロトムの中にはBというそこそこ高いアルファベットが書いてある。普通にこれはいいほうだろう。

 

「はぁ。あんたとポケモンバトルしなくてつくづくよかったよ」

 

「あ?俺が弱いって言ってんのか?」

 

「さぁね」

 

それきり全体重をこちらに預けてくるカナリィ。普段から嗅ぎなれているワンパチっぽい匂いがどうにもくすぐったい。

 

(ったく、俺ももっと上に行けるようにならなきゃならないな…)

 

カナリィから煽られないようにするためにも─ジムリーダーを支えるためにはもっと上に行かないといけない。

 

カナリィに、告白するために。

 

「…今日も潜るか」

 

昼は優しくても、夜になってしまえば全員が敵。そんな二面がはっきり別れているだけスイッチを切り替えやすくていいだろう。

 

(ミアレシティらしいランクマッチ、存分に味わおうか…)

 

ということで一度離れることを試みる。カナリィはただでさえダダをこねるから大変なのだ。

 

「カナリィ、今からランク戦だから離してくれ」

 

「やーだ!エレキネットで拘束しまーす」

 

ソファの上で押し倒される。力がだらりと抜けていたから動けない。

 

「つーかこれエレキネットじゃなくてインファイトじゃね?」

 

「じゃあほっぺすりすりならいいよね」

 

制止する声なんて言う前に体をすりすりとなすりつけてくる。ペルシアンじゃないんだからそういうことをするんじゃない。

 

「もうお前の魅力にマヒってんだが?」

 

「いえーい彼女さんみってーる?あ、ボクが彼女か」

 

丁寧にロトムフォンまで用意してそれっぽいことをしようとするな。写真をSNSサイトに挙げたらじいさんが悲しむだろ。

 

「勘違いもいい加減にしろ…俺ら、そういう関係じゃないだろ」

 

幼馴染という関係から変わろうとしているわけじゃない。愛しているすら言えない俺が言うことでもないのだろうが。

 

「えー、いいじゃん実質的な関係としてはそんなもんだしさ」

 

「カナリィに追いつけてないのにんなもん名乗れるわけねぇだろ。ジムトレーナーになってから告白させろや」

 

でんきタイプについてやる分には不安定だが、そうでもしなきゃ隣に並び立つことなんて到底不可能なのだ。

 

覚悟の決まってる…とまあ思われているのかカナリィは俺の真正面で寂しげに笑う。

 

「…なら引き止めるのも重いよね。ボクの副ジムトレーナーになりたいからって慣れないタイプなんか使っちゃうのが悪いんだし」

 

「……るさい」

 

彼女にひらひらと手を振って部屋から出る。…慣れないタイプ、か。でんきタイプは確かにあってない自覚はある。

 

(今日くらいは自分のタイプを使うか…)

 

誕生日にもらった手縫いしてくれたくろいカナリィぬいを手に持ち、家に帰ってパートナーポケモンを取りに帰る。

 

もともとBランクになってからでんきタイプだけしか使ってない。最も不遇扱いされるポケモンは通用するかもわからないのだ。

 

…どこまで、やれるかな。

 




キジャ→カナリィをカナリアと読み間違える→カナリアは金糸雀→キンシジャク→イトとキンクを隠す→キジャ

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
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