はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ 作:ボクっ娘のでんきタイプ
「トレモがてら一緒にゲームしよ、もちろんオールで」
「…とりあえず今日はムリだ。ぜったいにムリだ」
おかしいな、と思う。
キジャはボクのことをとことん甘やかす。それがいけないことだとわかっていても、だ。
(それなのに…)
彼は今日だけはどうもおかしい。普段みたいに密着しても鉄面皮を溶かして笑ったりしてくれないし、つめたいはがねのようにお願いも聞いてくれない。
「……家にはいていい?」
「いいけどカーテン開けたり出たりすんなよ。パパラッチとか面倒なことにしかならないからな」
…何かどうにもしっくり来ない。まるで彼から軟禁されてるような言葉づかいもおかしい。
(…もしかして、余裕がないのかな)
ボクのことなんて、きっと幼馴染の悪友程度にしか思われていないんだろう。余裕がないのならまっさきにボクのことを捨てるはず。
「…じゃあ行ってくるから…カナリィ。行ってきます」
明らかにやつれた目。どこかキッカケでもあったのだろうか。嫌われるようなことに心当たりしかない。
「うん、いってらっしゃいのキスがまだだよ?」
いつものように冗談めかしておねだりしてみる。彼にとってはどうでもいい言葉の一つとでも思われてそうだが、ボクにはこういうことしかできない。
「…帰ってきてからするよ」
ボクの言葉にもあまり強く返さないで、そのままふらりと出かけていった。
「…ロトム、追跡しておいて」
『ロト!』
いつものアプリを開いて眺めようとするのも怖い。きっとキジャはバトルゾーンにいくわけじゃないのだ。
例えば、まで考える気はない。そこを知ってしまえばボクは殺す可能性だってあるのだ。
(ボクだって、ボクだって…)
彼との思い出なんて多すぎて数えられるようなものでもない。とっさに思い浮かばない。
「…でも、彼の服はボクだけが選んでいるんだ」
そうだ、そうなんだ。それはボクだけがやっていた唯一の特権なんだ。
そんなかすかな糸に縋りながら、キジャの部屋で忙しなく動く。
キジャから距離を置かれてしまったらどうすればいいのだろうか。恋人を平然と紹介されたらどう笑えばいいのか。
そんなとりとめのないことを考えながら服を畳んでいると、違和感に気づく。
カントー式の薄い服に混じって洗濯されていたのは見慣れない服。どれもこれとボクが買っていない服だし、キジャが好んで買うような色合いでもない。
まるで─恋人がむりに好きな服を着せたかのような。
後ろから冷水をかけられたような感情に呆然としてしまう。
(キジャに?嘘だ)
認めたくないけれど冷静な部分ではそうであると評価していた。彼に恋人ができている、と。
「…」
言葉を出す気力もなく、彼のベッドに倒れ込んで頭を手で覆う。愛している人に拒絶されるよりもきついことをされてしまったのだ。
(わかってるもん。ボクと同じように彼が思ってるなんてことはないって)
愛しているの一言も言えないような可愛げのない女よりも、他の人のほうがよほどいいだろう。
…彼を愛しているのが、ボク以外にいることも。
「諦めたくないよぉ…」
泣きそうな声だとしても誰も咎める人なんていないし、この家に住んでいる人に聞かれたなら押し倒してしまいたい。想いの感情をぶつけてしまえば理解してもらえるだろう。
キスもできっこない捻くれた自分が嫌になる。どこまでも彼に対して素直になれない。
「既成事実とか…」
僅かに残った理性が警鐘を鳴らすような行動も、彼を引き止められるのなら構わないとさえ想い始めてしまう。
『電話ロト!電話ロト!カラスバさんから電話ロト!』
「…出るけど音声だけね」
今の顔なんてキジャにも見せられない。無機質な聞き慣れた音が通話開始を伝え、しばらく沈黙となる。
『…あんさんもしかしてキジャの家におるんか?』
『そうだね、うん。お泊りしよってなって…で、用事って?』
声が弱々しいからといってカラスバさんの用事を断るようなことはしない。他の事情も考えてのことだ。
『キジャの様子が一週間前から変やねん。あんさんの盗聴アプリに何か引っかかってないか?』
「……やっぱ、気づいてたんだ」
キジャはカラスバさんに対して無条件の信頼をおいている。まさかそのままホーム画面に子機専用のアプリが置いてあるとは思ってなさそうだけれど。
『別に行動はまだわかるしええわ。寧ろ一人くらいは固めないとあのアホはどっか行きかねんしちょうどええ』
「キジャがここから離れる、かぁ…」
実際にもうそういう状態なのだからしょうがない。乾いた笑いすら出ないほど傷ついている。
『お前がよほどヘマしない限り問題ないやろ。…いや、まあええ。特例でFランクまで上げといたセイカっつーのに格の違いでも示せや』
「セイカって…?」
『今んとこキジャがルーキーだから世話焼いてる輩や。服
ピロン、と。
彼が呆れた表情をしているのに服を着せ替えようとしている女がいた。
「……コレのせい?」
『落ち着けカナリィはん。殺意を向けたいのはわかる、だがあくまでポケモンバトルだけにするんやで?』
「…わかってる、ありがと」
カラスバさんが特例で上げてくれた。その結果として恋敵を合法的に倒せる。
(ボクのものなんだ…ボクの、ボクだけの彼を)
キジャを取ろうとしたのが許せない。彼から貰ったものがどれだけあるのかわかっているのだろうか。
(一番は、ボクだ)
『…ともかくランク戦で戦えや。オレからできる譲歩はそれだけやけん、あとは当人同士で落とし前をきっちりつけなはれ』
「………うん」
『ほな、切るで。また連絡する』
カラスバさんの電話でどれだけ安堵したかわからない。
ベッドの上に倒れ込む。
(あ、れ…?)
体が動かないくらい脱力している。思考はまとまっているから、きっと緊張していたのだろう。
(そっか、そうだよね…)
全部、全部キジャのせいだ。
そう思ってまぶたを閉じると、なんだかとてつもなくスッキリした気分で眠れた。
個別エンドはどれからがいいかな?
-
GAMEOVER
-
吹き散らされた炎
-
踊り明かして夜に溶け
-
いつでもどこでもあなたの傍に
-
夢もうつつも紙一重