はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

29 / 61
うーんなんだこれ()


28.野生のポケモンに餌付けしてはいけません。いや、マジ。

 

この世に産まれてまっさきにクチートが思ったのは、「ここにいてはいけないこと」だった。

彼女はミアレシティなどという地名を知らない。ただその身に持っていた力を持って暴れるということに対しての危険性だけは明白であった。

 

どれほどポケモンとして賢かろうと、群れに紛れることが許されないのならばいつ殺されるかわからない。

まっさきに覚えたのは周囲をそのままに受け止めないことだった。

 

『うー!』

 

まだ上手に喋れもしない内からきのみをイトマルやコクーンを追い払って喰らい、近づいてくるオヤブンも狩り殺した。

 

メガクチートとは当然、その程度は産まれながらの力の拙さもカバーできるほどの強いポケモンだった。

 

当然強者にすり寄ってくる同族もいた。だが獲物をとることを教えなかったクチートなぞ、もはや己が守る存在にあらず。高潔ではないが、彼女なりにも意地があった。

 

当然の帰結として─メガクチートはとてつもない孤独だった。己から望んだ孤独だとしても、虚しさというものは募る。都市の中で育つポケモンには当たり前に経験するものだ。

 

…最も、それだけで済むなら彼女はキジャのことをにぃにと呼ばない。しっかりとした原因が─餌付けをしたという原因があった。

 

遡ること約3ヶ月。長い二つの大アゴで獲物を捕らえる生活は変わらず、彼女はワイルドゾーンにいた。無論トレーナーに見られるような事態に陥ることはなく、もし万が一のことが起きればふいうちで仕留めてきた。

 

そんなある日のこと、彼女のもとにある一匹のポケモンがやってきた。

 

「キュイ?」

 

『うー?』

 

クチートにとってはポケモンの声などほぼわかることもない。というより、ミアレシティにおいて対等の存在などいなかったからに等しい。

 

こちらが挑む存在となる『強者』。

逆に挑まれる存在となる『弱者』。

 

どちらにも属さない目の前のシャワーズは、クチートに確かに謎だった。

 

「キュイキュイ♪」

 

『うー!』

 

攻撃してくる意図のない泡が体に纏わりついた。その後にアクアリングですぐに流される。

 

要は野生のポケモンに対して体を洗ったのだ。許可も得ずにすることとしては問題であるし、シャワーズのことをどう判断してもいいのかわからないまま、クチートは呆然としていた。

 

 

本来、このクチートは人にバレてはいけない。なぜならバレてはいけないことも、同族からも離れたこの地においてメガクチートがでることがどれだけ自分の身が危険になるかも理性的に理解している。

 

(…ヒト、が?)

 

わかった瞬間、どうするべきなのかを即座に考えて髪を揺らす。美しい牙を向け、低い視界の中で目の前のトレーナーを殺しにかかる。

 

「…っと、そんなにシャワーズが悪いことをしたのかねぇ…」

 

こちらのことを存外警戒していない男のトレーナー─キジャは当然攻撃する意志なぞ微塵たりとてなかった。

 

ふいうちは決まらないし、何よりもシャワーズの行動が不可解であるのも問題だった。考えすぎで動けないクチートは、行動をすることができなかった。

 

その隙は当然、キジャが話せるくらいはできるものだ。

 

「ほれ、シャワーズに世話されてもらった礼にリンゴだ。食えるか?」

 

投げられたのは普段人が見ることはない、きんのリンゴ*1。クチートにとっては殆ど見ることはなかったソレは少しだけ手を出すことを迷った。

 

「あーうん、食べれるなんてわかんねぇよな。ほれ、安全だよ」

 

投げたリンゴを拾ったキジャはひかえめに一口だけ齧るとそのままクチートの大アゴに運ぶ。どんな意味なのかはわからないが、少なくとも毒を持つ食べ物ならもっと慎重に運ぶだろう。

 

そう感じてクチートは懐かしい味と顔を楽しむ。もちろん、キジャとしては何一つとて悪い行動はしていない。

 

「ん、三つあるし全部食え食え。顔とアゴでちょうどいいだろ?」

 

…まず、忘れているだろうことだけれど、本来のポケモンはメガクチートのまま野生として出現しない。だからこそ暴走メガシンカは謎としてミアレシティの問題となっているし、捕まることもほとんどない。

 

さらに言えばメガクチート自身も久しぶりの人間が…それも二つに分類されない生物ともなれば、彼女としてもどうしようもない。

 

結果としてキジャが気づくことはなかったが、クチートにキジャは記憶されてしまった。

 

 

 

そうなればクチートは彼と会えるようにしたいと思うのは必然だろう。

 

(言葉が喋れるようにしないと…!)

 

幸いにして彼女の体は常にメガシンカしており、何かをするために困ることはない。怯える天敵もいない中で、彼女は人間の言葉を発声しようとした。

 

『あ、い、う、え、か…』

 

残念なことに─というより、人間とポケモンでは純然たる事実として言葉を介したコミュニュケーションが異なる。言葉を出そうということが狂っていることなのだ。

 

だが、それを可能にしてしまったのは努力なのか─それとも単なるそれ以外の理由か。

 

もちろんわかることは結果として彼女が言葉を習得し、キジャの手持ちとなったことだけだ。

 

『にぃにの手持ち!』

 

彼女の脳内ではもちろん危険であると警鐘を鳴らしながらわめくモラリティがあるが、そんなものはとうに捨て去られている。

 

それがよいことなのか悪いことなのか─きっと、すぐに知ることになるだろう。

*1
観賞用のリンゴとして親しまれている。一説によると3000年前からあったリンゴの品種であるらしく、食べると。もちろんリンゴなので食べれる。

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。