はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

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29.濡れたまぶたを開ける

 

生きてるのか死んでるのか。それすらも曖昧な夢の中。

 

(…はぁ)

 

前にも同じような夢があったことを思い出す。あのときは確か前へと進み続けたんだっけ。

 

ならば今見ている夢はどうだろうか。周囲をポケモンと崖に囲まれ、黒いモヤのかかった何かを守るように立ち塞がっている自分。

 

逃げ道はあるにはあるが…到底このもやを抱えて動けるかは怪しい。直感的に守らなければならないということだけはわかっているが、それ以外の情報はない。

 

「やんなきゃいけないのか…」

 

ムラマサに近い刀を抜き、守るためだけに自らの間合いに近い状態にする。

 

刀だからなんだ。ムラマサに近いからなんだ。そんなもので守れるわけがない、と。

 

一斉に放たれたはかいこうせん。選択の余地なく切り刻み、当たらないように威力をなくした。

 

息つく暇もなく上から矢が降ってくる。崖下だから後ろからはそこまで来ていない。

 

いなしてしまうと当たるかもしれないのでそこいらにあった死体の山を使って防ぐ。護衛をしなければならないのは本当に面倒だ。

 

(ったく、休みを寄越せ…!)

 

手数を出しても弱いことこの上ない。攻め入られ続けるのも困るのでエアスラッシュで撃退しているが…いかんせん、数の暴力にはどうしようもない。

 

「ムラマサなら、な」

 

ポケモンならなんとかなったのかもしれないが、あいにくと手元にあるのは単なる刀だ。そもそもポケモンに刃が通るのかも怪しい。

 

つじぎり。ふいうち。エアスラッシュ。みきり。サイコカッター。ソウルクラッシュ。

 

居合抜刀をすると刀はへし折れるから無茶はできない。

 

(…となると一点突破…!)

 

考えついたのと同時に黒いもやから掴まれた。暖かいソレを背負い、刀が軋むほどの力で握りしめる。

 

「必要なのは…ここだ!」

 

居合抜刀・臨戦─一振りで壊れた刀には目もくれず、文字通り切り開いた道を全力で駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

逃げるときに血はだいぶ失われたが、黒いもやに包まれたのは大切なものだったらしい。国で歓迎され、体の負傷は名誉だともてはやされる。

 

「…そういうものか」

 

自分の体がどうなったかを聞いた。それがどんなものかは知る由もないけれど、きっと悪い知らせだったのだろう。

 

目の前の医者の表情も、こちらに巻き付くのがこころなしか弱いヒトツキたちからそう読める。

 

「んな心配することはない。もう一兵卒でしかないんだから、さ」

 

将軍でもない、らしい。なのにも関わらず今までの夢をやってきたのなら、この夢の世界ではどんな理不尽を俺に与えているのか。

 

「…すまない。本当に、すまない」

 

つい最近聞いたような声がこちらへと謝る。幾分か若いけれどあのワイルドゾーンであった人だ。

 

(ふぅん…我ながら変な夢しか見ないものだ)

 

なんせ最近のことばかり。枕もとに置いてあるリンゴなんかは3ヶ月前だが、大体は直近のことだ。

 

(となると次はクチートか…?)

 

気になっていると扉が音もなく開き、黒髪のポニーテールが覗いていた。…まぁ、本来見えるべきであろう顔については何も見えないように塗りつぶされているが。

 

「………持ってきたよ」

 

「ありがとうな……」

 

自分の言った言葉も相手の言った言葉も聞き取れないし、知らないことを知っているかのように体の中からすらすらと出てくる。誰かの名前を言っていても聞き取れないのだ。

 

(夢の中だから、ってことなのかねぇ…?)

 

どう頑張ったとしてもクチートがこの少女に結びつくことはないわけだが。

 

…それに、この後に見る夢もきっと戦場から始まるのだろうという予感はあった。

 

理解してはいけない、けれどもなんとなく直感した。

 

…次の悪夢が、最後になると。

 

…次の悪夢は、死ぬことになると。

 

 

 


 

 

「…ったく、もしかしてキジャはあたしのシャンデラが苦手なの?嫌なら持ってこないからさ…」

 

「うぅん、全然だ。…悪かったな、ちょいとムク姉と一緒にいたくて」

 

前のときと大して変わらないけれど今は肩を寄せ合う形だった。危ないとは思うけれど、地下水道よりもよほどマシなので大丈夫だ。

 

(あん時よりは脱力感がないし…っと)

 

体を一瞬だけ踏ん張って屋上から抜ける。

 

「やっべ…」

 

「キジャ!?」

 

油断していたせいで肩から落下してしまった。余裕で鉄骨に引っかかって最悪な事態を避けることはできたけれど、このままだとムク姉に秘密がバレてしまう。

 

(まあちょっとだけならなんとかなるか…?)

 

ゴーストタイプとしてすり抜け、じめんに着地して駆け登る。

 

「悪い悪い、軽く運動したくなってさ…」

 

「…そ。詳しくは聞かないけど、お姉ちゃんはキジャの味方だから」

 

「はぁ…」

 

もしかしたらバレたかもしれないという恐怖。俺は咄嗟に身構えたりも出来やしない。

 

(カナリィが悲しむしそもそも武力行使なんてできないしシローに半殺しにされる。どう頑張っても口封じなんて思いつかん)

 

「ったく、本当に見てないよ。あたしに話せない秘密は話したくなったら話せばいいし」

 

「…ムク姉にやっぱ敵わねぇや」

 

「当たり前でしょ?お姉ちゃん、なんだから」

 

ムク姉がこちらに向けた笑顔は到底姉のものではなかったけれど。

 

それでも確かに、優しくて、心地よかった。

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
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