はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

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ヤンデレってなんだっけ…?


32.ダンス・ダンス・ダンス!

 

私の周りの皆は、なんでも私より上であった。

 

お兄ちゃんは私よりもダンスができた。硬くてもそれすらもダンスとして作れるのは一種の才能だった。

 

ルームシェアしていた友人はすぐにでていった。傍から見ても私と彼女ではダンスの才能が全く違った。

 

ガイは私よりも人に優しかった。人を助けることが当然とでも言いたげな態度は到底真似できなかった。

 

AZさんは私よりも落ち着いている。体さえ動いていれば私よりもよほど作戦を考えたりするのに向いていた。

 

私は、何をしなくてもいい。

私には、何も残らないままになった。

 

 

 

 

…そんな中で、キジャと会った。

 

 


 

ダンスというのは結局体が基本になることが多い。その日も─ルームシェアしていた友人が出ていった日も私は静かな路地裏でダンスをしていた。

 

(ステップ、からのターン!)

 

拍を取って踊れるようにして、その動きにキレを求めるようになった。本当はダンストレーナーがいればいいんだけれど、それはお金のない私には到底不可能だった。

 

横に狭いが縦に大きい。誰にもみられないような日陰が私にとっての独壇場だった。スターミーを足場にして跳躍し、平然とそのまま踊りだす。

 

終わる頃にはついハイタッチをしようとして─隣に誰もいなかったことに気づく。

 

一緒にいた彼女はもういない。私はもう、この街で一人ぼっちになるしかなかったのだ。

 

「…はは、上手くできたよね」

 

言葉は長ったらしく反響してゴミやヤブクロンに吸われていくだけだと思った。

 

「…上手にできてるんじゃない?」

 

この日は、この日からは、彼が見ていてくれていた。聞こえた音に反応して声の持ち主を探ると、それは頭上にいた。

 

「あなた、は」

 

「…あ、そっか。名乗ってないもんな」

 

不審者であってほしかった。クズであればまだ言い訳ができたのに。

予想に反して彼は─とても、私を気遣った。

 

「キジャって名前だ。そちらさんの名前は?」

 

そっと手を伸ばしてきたのが、一緒についてきてくれたルームメイトに似ていて。

 

思わず手を払いのけて走り出す。

 

(ここは、ここにはいちゃダメだ…!)

 

なぜか、なんて考えなかった。

 

「ったく、そこまで警戒するか?」

 

翼が生えたような音のない飛行と共に私の前へと回り込んできた。どこまでいったとしても分かり合えることはない人なんだ。

 

「あなたには、関係ないよう…!」

 

「んなこたぁわかってるよ」

 

突き刺すような嘆く声は、彼にはあっさりと受け止められた。私の言葉は間違っていないと断言されたせいで、思わずたじろいで二の足を踏む。

 

「だからこそ、別に受け皿程度にはなってやれるよ」

 

「え…?」

 

何を言っているのかわからない。この人が何をしたいのかがわからない。

 

でも。私のことを助けてくれようとしていることは、確かだった。

 

「知らない奴に愚痴くらい吐き出せ。俺はお前のことを少なくとも尊敬できる人間だって思うからな」

 

「…何も、知らないじゃないですか…」

 

考えてみれば酷い話だ。救ってくれる人の手を振り払って、どこかに溜め込める場所もないのに出したりもしない。

 

それすらも、目の前の彼は飲み込んでくれた。

 

「当然だろ。俺がお前のことを見たのはさっきの1回だけだ。けどな、ダンスのキレもそれに懸けた年月ってのはわかるんだよ」

 

「……」

 

「つーか知らない奴でもそんな顔されたらほっとけないって」

 

笑いかけてくる彼は、まるで射し込むあさのひかりだった。

 

「……だから?」

 

「さぁな。とりあえず、俺もあんたの苦しみをわかってやりたい」

 

どこまでも容赦ないほどまでに私の心の柔らかいところをわかっている。これがもし演技でできてしまうのなら、喜んで騙されてしまうだろう。

 

「…ダンスを、教えてくださいな」

 

「……はい」

 

彼の言葉に、頷いて。

 

私は名前を教えてないことを思い出したのだった。

 

 


 

 

そんな恩人であるキジャと出会ってから1年が経つ。彼に会う機会は半年ほど、ずっとダンスしかなかった。

 

(…でも、私はキジャの秘密を教えてもらえた)

 

正確に言えば、キジャの秘密を見てしまったのだ。

 

『…ったく、濡れるなんて思わなかったんだけどな』

 

その日は雨が午前中に少しだけ降っていて、キジャが濡れてくると思っていた。彼がこちらを見つけてくれるのを待つために、ちょっとだけ隠れていたのだ。

 

しかし、そこで信じられない光景を見てしまった。

 

『よっ、と…』

 

周囲に人がいないことを確認したあと、彼は一瞬だけ燃えた。比喩なしで、本当に燃えていた。

 

(えぇ…?)

 

こんらんして二度見したときにはもう元に戻ってしまっていたが、私は確かに見たのだ。

 

『ん、じゃあ今日はステップ教えてくれよ』

 

『うん、もちろん!』

 

私はキジャに何も言うつもりはない。

彼が隠しているだろう秘密についても。

今も胸の中に残っている身を焦がすような恋情についても。

 

もし言うことがあるとしたら─それは、彼が傷ついたそのときだけしかない。

 

私のこと以外を頼れなくなったその時だけ。

 

そうなるまでは、単なる友人でいよう。

 

救われた私の愛は─踊り終わった熱のまま、冷めることはないのだから。

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
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