はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

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39.身を焼かれることも。絶望も糧になろうか。

夢。俺が知らない謎の夢─なら、まだよかったのだけれど。

 

見ているものは過去だ。どこをどう葛藤したところで消えることのない─醜い記憶。

 

 

…あくまで、俺の中では知りたくもない。カナリィと出会うまでの、あの日々は。

 

 

 

 

妬み、恨み、憎しみ。生きてる間にそれらが減ることは殆どない。減らすとしたら対象を殺したり、あるいは失脚させる他ないだろう。

 

『俺以外なんざどうでもいいってことよ』

 

父親は狂っていた。あるいは運がよかったとしか言いようがない。自分の行動は全て成功すると信じ切っていた。

 

実際にそれは正しかった。騙し奪い殺し嘲笑う。犯罪なんて気にしないとばかりの姿勢だったし、上手く行っていたとしかいいようがない。

 

その手口が鮮やかだったとかじゃない。金のためならなんでも出来た。自身の欲望のままにミアレシティを飲み込んだ。

 

『まあ、すてきなひとじゃない!』

 

…母も変わらなかった。自分のことを清廉だと信じていながら他のものよりも優れていないと許せない気性。俺のことを産んだのも『他よりも優れている人と結婚した』と抜きん出るためだったのだろう。

 

…そこに産まれた俺は、当然のごとく犯罪を教えられた。

 

父が俺に求めたのは用心棒としての武と絶対に裏切らない忠誠。

母が俺に求めたのは美を磨くという精神とアクセサリーを作るための技術。

 

相反せずとも妙なその教えは、不思議となんとかなってしまった。

 

…そう、『なってしまった』。無条件に人が願いを叶えてしまえば際限なく深い欲望をぶつける。

 

 

両立してしまった以上、それを更に良質にしなければならない。どこにも遊ぶとか休むとか当たり前の子供時代が存在しなくなった。

 

もし、の話にはなるけど。俺が与えられた成果をどちらも満たせなかったら普通の家庭に戻ってくれたのだろうかと自問してしまう。

 

あんなところにはいられないが、それでも確かに家族ではあった。全くもって不思議な話である。

 

視界はくるりと翻り、始めて彼女と─カナリィと出会った場所に。

 

 

 

(そういやコレだけはアイツラに歯向かってたんだっけ)

 

そう思うと俺の中では多少の愉快となる。ミアレシティが今の形に変わる前に、俺は平原であの娘から声をかけられた。

 

「ねぇ、なにしてるの?」

 

今よりも幼い優しい声。俺に向けられた声でもソレは違った。

 

「こっちで遊ぼ?」

 

人を殺すための技術を教えた奴らとは違う小さな暖かい手に引かれて日だまりのもとに連れ出される。

 

 

こんなにも青い空を見るのは始めてだ。

 

こんなにも爽やかな風を感じたのは始めてだ。

 

こんなにも血が通っているのを実感するのは始めてだ。

 

 

だから俺は彼女に─救われたんだ。

 

普段のように遊ぶことも、ダラダラと無意味な時間を過ごすことも彼女とならよいことだと思えた。たった1日だけで終わってしまうのが嫌だから何日も何日も通い詰めた。

 

正しいことも、悪いことも彼女とならやりきれると思った。

 

…その時に決めたのだ。

 

(彼女を支えよう。…命が、尽きるまで)

 

例え自らが死んだとしても、彼女が幸せになるのならそれでいい。救われたのなら、失われてたとしてもスジを返さなければならない。

 

…もし、それを間違えてしまえば俺は俺でいられる自信がなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その後は珍しく白い部屋の中にいた。間違いなく、あの日だな。

 

「あなたはもう死んでいます」

 

見せられた数値は殆どが0。もはや生きているとは思えない数値にしかみえなかった。

 

どうしてここへと来たのだろうか。なぜ来たのかすら覚えていないその記憶は、明らかに異質だった。

 

「恐らくいつ死ぬかはわかりませんが…あと、1日も生きれるかはわかりません」

 

「なんでだよ」

 

声をあげたからか体はゆっくりと動く。じっくりと時間をかけて隣を見ると、その医者は骨だった。カラン、と音を立てて喪われる。

 

(…!)

 

空は茜色に染まっているし、体の半分は結晶に覆われている。メガカケラだとわかっているが、思わずギョッとしてしまう。

 

「なるほど、そういうことか」

 

夢だからよかった。夢のままでよかった。これは俺がどうなってしまったのかが明白になった。

 

カナリィはいない日に─おおかた、俺は仕事でもやっていたのだろう。その時に巻き込まれたのだ。

 

5年前の災害。噂だとカラスバの恩人がやったとかなんとか。

 

生き残っていたのは運が良かったのか、それとも他の何かがあったのか。

 

知らないけれど、俺は唯一あの災害を生き延びた。モンスターボールは残っていたらしく、ポケモンたちは無事だった。

 

(いや…俺のポケモンだけ、生き残ったんだよな)

 

より正確には病気になったか、何かしら別の方向になって適応したということだろう。

 

知らないが生きているだけマシである。もはや家族と呼べるものはポケモンしか残っていないのだから。

 

意味がないとわかっていても、ポケモンがいるということはよかった。

 

なぜか出しにくくなったボールを全員分開け、体が傷つこうとも抱きしめる。

 

『すまねえけど、頼むわ…』

 

視界が乳白色に溶け、世界の果てが少しだけ光り輝く。

 

目覚めの時が、来た。

 

 

 

 

「ったく、相変わらずキモい夢しか見ないな…」

 

起き上がった先の空は茜色。

 

…あの厄災の日と、同じ色だった。

 




ラストスパートに気合が入るので感想とかもらえると嬉しいです!

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
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