はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

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46.ルート・誰も知らない町で

 

「生きてます!救助者1名、息を吹き返しました!」

 

…体のどこにも違和感がない。体を捻ろうと思っても力が抜けているからか動けない。

 

上には見知らぬ天井。横には見たことのあるような知らない人。傍らにいる女性はなぜそんなにも取り乱しているのだろうか。

 

笑いかけるほどの力は残ってないし、やることも何もできない。口角を少しだけ上に上げたところでまた意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おはようございます、キジャさん」

 

次にあったときには健康な肉体だった。もともと誰のものでもない体だから、そんな気にすることでもないのだろうけど。

 

(とりあえず俺はキジャって名前なのか…)

 

名前もわからないキジャという人間だが、そもそも記憶がないことを検査してもらわなければどうしようもない。

 

「とりあえず検査受けてもいいですか?」

 

記憶喪失である、ということを確認するためだけだ。俺がどうなったのかを知るにはそれが一番速い。

 

わけのわからぬピンク色の何かにえっほえっほと運ばれながら、そんなことを思った。

 

 

 

「…バイタルチェック、正常。精神状態、喪失。キジャさんの病気は完治されてますね」

 

「病気だったんだ…ふぅん…」

 

詳しく聞いてみると不治の病だったそうで、自分のことに対してとんでもなく無頓着だったらしい。

 

ポケモンという謎の生き物についても詳しく教えられて、そういえばもともとのポケモンはどうなったのかが気になった。

 

(俺も持ってたんじゃないかな…?)

 

「俺にポケモンっていました?」

 

「ええ…ですけれど、キジャさんが死ぬ可能性が高かったとのことで妹のチトセさんが引き取っていました。一応、会いにきてもらうことくらいならできますけど…」

 

「ええ、もちろん。あちらが嫌なら嫌だと言っておいてください」

 

自分のことで手前勝手な話になってしまうけれど、チトセさんからしてみたら兄の体をした兄ではない誰かが助けを求めてくるようなものだろう。

 

(まあキジャとやらの行動をなぞっても本人らしさが残るわけじゃないしな)

 

最も頼れる人はチトセさんしかいないからそうしたほうがよいのだろうけど、なぜか心の、ほんの少し知らないところで否定する感じがする。

 

「あぁ…なら、一応今日のうちに家に帰ってあげてください。妹さんに会ってから未来を決めましょうね」

 

またおいでと言ってきたお医者さんは、どうにも俺に対して優しかった。

 

どこか─そう、どこか居心地が悪かった。

 

 


 

 

 

 

「…おかえり!にぃに!」

 

帰ってきたことを告げるチャイムと同時に、俺よりも少しだけ小さいチトセさんが首筋に顔をうずめてくる。

 

「ただいま、チトセ。ごめんな、寝込んじまってて」

 

笑いたい。上手くなくても、人としての生活を望むのならこっちのほうがいい。

 

そう思って頭の上をぽんぽんと優しく撫でる。どうすればいいのか、言わないほうがいい。

 

チトセが泣いている。どうしてそんな泣くのだろうか。

 

「いいの。いいの。私のこと…気にしなくていいからさ」

 

掠れるような声で囁かれ、思わずドキッとする。彼女の爪が俺の腕に、首に、手に食い込む。

 

「にぃにが無くしたもの、一つずつ取り戻していけばいいから」

 

「…私はチトセ。にぃにの味方」

 

「今のにぃにと、前のにぃになんて気にしないから」

 

「だからお願い」

 

「一緒に住んで、もらえませんか?」

 

 

強く芯に響く言葉じゃないかもしれない。俺のことを気にしているのじゃなくて自分に向けた言葉なのかもしれない。

 

わかっていたとしても、唯一の肉親である彼女のことを嫌いにはなれない。

 

「…こちらこそ、お願いします」

 

ほっぺたに触れるようなキス。兄妹ならこれくらいはしていいと思う。それ以上に感謝の答え方を知らなかったから。

 

「照れるよ、にぃに。よろしくね…?」

 

抱きしめた体が、確かに冷たくても。

 

…これから彼女と、共に過ごしていくのだ。

 

 

 

 

 

 

「…じゃ、にぃにのポケモン返したほうがいいかな?」

 

「会ってから決めるよ」

 

チトセに聞いたことは殆どないけど、ポケモンたちはどうなのかが全くわからない。後ろからチラチラ見えている優しい視線がポケモンなのはわかっているのだが。

 

「シャ!」

 

「わっ、危ねえ…」

 

後ろからも前からも刺されかけたけれどなんとか躱して捕まえる。

 

「皆、にぃには記憶喪失なんだからいじわるしない!…ごめんね、はしゃいじゃって」

 

「いや、謝ってもらっても別にって感じだ。俺はどっちでも構わないからな」

 

元気でいられるのは何よりだと思う。…しかし、ポケモンたちから別れみたいな雰囲気を感じる。

 

「あのね、にぃに。皆の意見を伝えても怒らない?」

 

「うん。そもそも俺がどんな扱いしてたのかもわかんないしな」

 

そしてチトセから聞こえたのは驚きの言葉だった。

 

『また一からやり直そうぜ』

 

『つっても、テメェと違って荒事に慣れちまったからよ』

 

『俺らを使っても問題なくなってから一緒に出かけようぜ、大将』

 

…ったく、昔の俺はとんだ果報者だな。

 

こんな思われていて、俺のことを考えてくれる妹とポケモンがいて。

 

(新しい生活、か)

 

きっとこれはチャンスなのだ。俺が人生というものをやり直すための。

 

知らない世界。知らないポケモン。知らない人間。

 

誰と出会っても、知らない町でいること。

 

どんなことがあるかはわからないが─

 

 

─共生していけそうだなと、そんな気がした。

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
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