はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ 作:ボクっ娘のでんきタイプ
…ふと、思うことがあった。
『俺とは、何だったのだろうか』
悩んで、迷って、失って。ふらふらと歩いてたどり着いた先にあったのはカナリィという少女との日常だった。
もし、そんなことをしていなければ、まだ俺はどこかにさまよっていたのかもしれない。
迷子にならなくて済んだ、って言えばわかるだろうか。
俺は確かに─彼女というところに『家族』を見たんだ。
ミアレシティの災害というものに巻き込まれて記憶喪失になるほどの怪我を負ったのは俺だけらしい。朝から昼に一通りのことを覚えた今は医者の人に話をされている。
(恥ずかしいけれど、どうやら腕利きのトレーナーだったらしいしなぁ…)
災害を防いだときに雷紋が残ったらしいけれど、今の俺には関係のない話だ。
「とりあえず肉体にも何の問題もないので、後はゆっくり思い出していけばいいですよ」
「とはいっても思い出せるようなことが…いや、待てよ?」
怪我をしたときに握っていたカナリィさんのぬいぐるみ。他の手持ちにあるものとは異なり何かしらのコーティングがされていてどれだけ頑張っても壊せそうにはない。
「これは…カナリィさんのぬいぐるみですね。さらに言えば非売品のようです」
「…となるとカナリィって人のところに行きたいんだよねえ」
「唯一の手がかり、ということですか。カナリィさんのほうに連絡しておきますね」
もちろんカナリィさんは配信者だから接触するのは避けておいたほうがいいのかもしれないのだけれど。
「もしかしたらロトムフォンに連絡先があるかもしれませんから…っと」
『ロトロ!カナリィからメールロト!』
噂をすれば影と言うべきなのか、監視されているような気配がすると悪寒を走らせるべきなのだろうか。
(…まず、人気配信者の個人メールを入手していることにつっこみたいのだけど)
記憶を失う前の自分がストーカーしていたのか、はたまた個人的な関係を持っていたのか。気になるところだけど、とりあえず見ないことには始まらない。
意を決して中を開いてみると、そこには簡単なメールが書いてあった。
【家にあるハンコとボールペン持ってボクの家に来い。場所は添付してある】
「…うわぁ」
こちらのことを何も考えてない素っ気なさだが、わざわざ持ってこなきゃいけないものも書いたあたり企んでいそうだ。
(おおかたパーティーでもするのかね。記憶喪失の英雄なんて役不足にも程があると思うんだが…)
「行ってください。実のところカナリィさんはあなたのことをとても心配してましたよ」
「おい?」
聞きづてならないことを聞いたせいで行かない訳にはいかなくなった。恩返しとかそういうことしないと失礼だし。
(このおっさんわざとバラしただろ…)
明らかに口元がニヤけている医者にムカつきつつ、家に必要なものを取りに向かった。
「…ちゃんと来れるくらいまで回復したんだ」
こちらに気づいて手を振ってくれたカナリィは、配信で見ていた時よりも生き生きとしている。ロトムフォンがピコンピコンと鳴っているのはさっきまで連絡していたからだろう。
「…してなきゃ来てないよ」
最も、カナリィについて知っていることはそこらへんのファンと大差ない。可愛らしい瞳がどんどんあやしいひかりを放っているが、それはまあいろいろとあるのだろう。
「それで?最愛の婚約者に向かって何か言うことはない?」
「…はえ?」
彼女から言われたその一言は、俺を混乱されるのには充分だった。どんな言葉よりもビビっている。
(ちょい待て一体なんでそんなことを日記に書いたりとかロトムフォンに書いたりしてないんだよこのアホは!)
とりあえずやたらと体をくっつけてくるカナリィにぎょっとしつつ、表面上はあくまで冷静に返す。
「…心配かけてごめんな」
「うん。ボクのモンだって最後のほう忘れてたでしょ」
怒りながらもあっさりと許してくれたカナリィは、手元から隠していた紙を取り出す。
「印鑑を持ってきてもらったのはこのためだよ。別にねー、キジャが記憶喪失でも構わないんだよ」
「…いや、まず配信者としてとかそっちの方に支障は出ないの?」
キョトンとした顔を一瞬して、それから更に照れたような表情でこちらを上目遣いで見つめてくる。
それ、絶対に意識してやってんだろ。
「ボクのことだしまぁ許してくれるでしょ…それに、幸せに添い遂げる未来があるならキミだけしかいないんだ」
「…他の人に言うんじゃねぇぞ、それ」
記憶喪失した男のどこがいいんだろうか、なんて聞けるはずもない。そもそもここまで彼女が覚悟をそれ相応に固めているのなら答えてあげるのが男というものだろう。
「えへへ、キミとカナ友にしか言わない…あ、そうだ。キジャのカード、ボクがずっと持ってたんだよ」
渡されたのは「No.1」。ずっとカナリィのことを支え続けていたのだろう昔の俺は、どんな気持ちだったんだろうか。
(いや、そんなことを今気にしちゃいけねぇな)
俺がやるべきなのは自分にできる最大の範囲で、彼女を幸せにすること。記憶もない俺をもう一度受け入れてくれるような恩人に、自分の体で恩返しをすること。
「…せっかくだし今日がキミのバースデーってことにしよう。新しいキジャ、だろ?」
「─もちろん」
わけのわからないことも、納得のいかないこともある。
けれども。
新しい『家族』として救ってくれる彼女に、全てを尽くそう。
ふと空を見上げると、結婚を祝福するかのような星空が広がっていた。
個別エンドはどれからがいいかな?
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GAMEOVER
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吹き散らされた炎
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踊り明かして夜に溶け
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いつでもどこでもあなたの傍に
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夢もうつつも紙一重