はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

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50.ルート・吹き散らされた炎/冷たく黒い呪いの中で

暴走メガシンカ。あたしのシャンデラがなんとか守ってくれたけど、立て続けにきたメガハッサムやメガサメハダーがやってきた。

 

(ったく、シローの時間を稼ぐしか…!)

 

勝ち目はないが─正直、シローは時間さえあれば何かしらの作戦を組み立てられそうだと思う。

 

あたしみたいに近くの日々だけを考えている生き方よりもずっと先を考えて、その理想と同じ世界を作ろうともがいてる兄。

 

その考えが何をするのか…まで、わからないのなら目の前の危険だけをあたしが引き受ければいい。

 

そのために構えたボールは、しかし出したあとには無駄になった。

 

「…ったく、相性不利なら無理せず引いたほうがいいって習わなかったか?」

 

シャンデラが出る寸前につじぎりやドラゴンクローが飛び交い目の前のポケモンは横へと倒れた。

 

…こんなことができるのはキジャしかいない、と。あたしは彼に倒れかかるなんてことはせずに軽口を放つ。

 

「うるさい。ジャスティスこそパワー。ジャスティスがあればなんとかなる」

 

「…そうですか、っと。まあ俺が聞きに来たことはそんなものじゃねぇ」

 

じゃあ何、と聞く前に彼の身体から小さなカケラが剥がれる。

 

「どうしたの…!?」

 

人前とかそんかことを気にせずに彼の衣服をめくる。体のあちこちに入ったひび割れとそこから見える桃色のオーラはどこまで見ても致命傷だった。

 

「…関係ない。それよりも先にあの根っこを片付けるぞ」

 

手には彼の相棒であったヒトツキやニダンギルはいない。今あったのはあからさまに血まみれの拳。

 

「ルカリオみたいに体を変えただけだ。終わったらちょっとばかしエスパータイプとかの形が残るかもしれないだけだよ」

 

なんてことのない風に未知のソレへと向かっていく彼を引き留める、なんてこともできない。

 

(せめて、生きて返ってきて…)

 

ワガママだってわかっていてもそう祈るより他はなかった。

 

「安心しろよ。ムク姉を悲しませたりしないから」

 

泣いたあたしのことなんて気にしなくてもいいのに、彼は優しくこちらを気にかけ。

 

一瞬で、消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

しばらくして兄があたしのところに来た。ボロボロなのは当然、戦い続けてきたからだろう。

 

「ムク!キジャがこちらにいるから保護してほしいとのことで…!」

 

「あたしはいいからキジャのとこ!」

 

涙でシローにタワーのことを教えようとした瞬間、その手を誰かに止められる。

 

「…るせぇ。ジャスティスの会なんだからこれくらいで動揺してんじゃねーよ」

 

「キジャ!」

 

どうしてもダメなことだとわかっていても抱きしめてもらえて幸せになった。

何一つも間違えていると自分でもわかっている。でもダメだった。

 

「しょうがないなぁ…あ、シロー。お願いしていい?」

 

「なんでしょうか?」

 

多分このあと記憶なくなるからそっちの家族に迎え入れてもらってもいい?

 

至極あっさりと告げられた言葉は、私の中で歓喜と困惑と悲哀を同時に産んだ。

 

理解できないあたしを置いてキジャは話を進めていく。

 

「副作用でポケモンも死んじまったし、多分金とかも全部ベッドの下に置いてあるから」

 

「…はぁ。深く詮索はしないほうがいいんですよね?」

 

「いやムク姉に聞かれなきゃいい。もともと今起きてるのだってそういうタイプの意地だからさ」

 

愛してる、とは言ってくれなかった。

 

例えるなら─姉に知られたくないものを隠す弟のようだった。

 

「すまねぇな、変なこと頼んじまって。嫌なら結晶になったあとに砕いてくれればいいから」

 

彼は殆ど命をかけてこの町を、あたしを守ってくれた。それほどまでに愛してくれた彼に、一言伝えなきゃいけない。

 

「そんなこと、しない…!(こいびと)なんだから…!」

 

嘘だ。彼のことを弟ではなく一人の男として見ている。

 

「ああ、よかった」

 

それなのに、随分嬉しそうに。

 

まるで救われたかのようにフッと笑い、ヤミラミと勘違いされてもおかしくない拳を握りしめる。

 

「我流ジャスティスってので終わりだ。我ながらいい人生!」

 

悔いはない。そう言わんばかりの笑みで結晶となった彼の近くで、あたしは夜が明けるまで泣いていた。

 

 


 

 

 

そしてキジャが生まれ変わる─という表現が適切なのかはわからないけど、今はあたしたちの家で過ごしていた。

 

カナリィにはもちろん、サビ組にもMZ団にも伝えていないくらいにはキジャのことは秘密にしている。

 

(シローは反対していたけど、あんな状態で他の人と会ったら碌なことが起きない)

 

頭の中でシミュレーションしてみたけれど、少なくともあたしのところにキジャが望んで来たことを教えても逆上されるだけだろう。

 

「だから、こうするしかなかったんだよね」

 

災害が終わって一ヶ月経った後の今はキジャにあたしを刻み込んでいる。

 

刻み込む理由は簡単だ。あの日のあの時にあたしは思ってしまった。

 

(キジャがもし、あたしのことをもっと愛してくれてたら)

 

止められたのだろうか。心中のために殺してもらえただろうか。

 

考えていても過ぎたことは変わらない。だから今こそキジャを依存させるのだ。

 

「キジャはまだ寝ちゃうんだからね…ふふ、お寝坊さんなんだから」

 

たまたまあたしの近くで眠くなって、たまたまあたしと外にでることについて話していて、たまたまあたしと接触していたから起きる睡眠の病気─なんてものはない。

 

そんなものは全部、あたしが引き起こしたことだ。

 

シャンデラのあやしいひかりを応用して眠くなるように催眠をかけ、しかけを色々と拵えてから外に出れるようにした。

 

全て、あたしが望む通りに。

 

「キジャ。しばらくここで反省してて」

 

最初にキジャがあたしがヒトモシと出会った地下水道でゴーストタイプの恐怖を教えた。

 

『ひっ、ひっ、やだ…助けて、ムク姉…!』

 

『お姉ちゃんに任せなさい!』

 

そのことを心の中に教えつければ、後はそれを繰り返すだけ。

 

「キジャ、シャンデラを見て」

 

息がわかるような暗い暗い地下室。そこで彼に幻覚を見せて恐怖をより倍増させる。

 

「一時間待って」

 

彼の呼吸が浅くなるけど、催眠で気絶することもできない。狂うこともできないまま恐怖を受け入れ続けるのはどれだけ嫌なのかは想像できる。

 

わかっててなお、道を外れるように。

 

そのままギイっと、彼を入れた地下室を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだよぉ…ムク姉、ムクねえ…」

 

殆ど精神の崩壊をしていたキジャを優しく抱きしめ、シャンデラが増やしていた恐怖をあたしの手で和らげる

 

「安心しな…ほら、甘えてきていいから」

 

どこまでも愛を込めて。

 

どこまでも恐怖を植え付けて。

 

キジャのことを依存させるために。

 

離したくても、離せないように。

 

あたしは、小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

─もう、ハナレラレナイヨネ?

 

 




催眠!お前のことが…しゅきしゅきだいしゅきなんだよナ〜!()

ということでムクエンドの解説やっていきます。テーマは『しっぺがえし』と『愛ほど歪んだ呪いはない』です。自分が結晶になる前にやった行動が手痛いしっぺがえしとなって彼の身に返ってきており、愛という呪いをかけたからこそ呪いを穴二つと言わんばかりにかけ直すムク。

それで、ムクとカナリィのエンドで共通しているのが「手段の違い」です。特にカナリィとムクは親友同士ということもありますし、陰キャと陽キャでやり方と手口が似通ってたらいけないよな…ってことで今回は

カナリィは「皆に公開する」という手段で逃げられなくして。

ムクは「自分一人だけに依存させる」という手段で逃げられなくする。

という結論になりました。もともとシャンデラやジュペッタなどゴーストタイプが多いですから、変化技の手段が豊富なのも相まってこういう結果に。

そして今作のムクは暗い方向に落ちたのでえげつない方向に彼を依存させに行きました。ちなみにシローのようなジャスティスには当然効きませんが、実はキジャがエスパータイプで感情に対しての制御が他の人よりも効きやすいというのも関係しています。

当然このことをシローは知りませんが、そう遠くない内に「あれ距離近くね…?」ってなります。もともと指導中に倒れるキジャを心配してムクが付き添ってたしなにも違和感がないとか思ってそっと胸の中にしまうので逃げ場がないです。

次回は当然デウロです。なんだかんだ湿度の高いデウロちゃんはどんな暴走をするんでしょうね()

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
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