はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ   作:ボクっ娘のでんきタイプ

53 / 61
51.ルート・踊り明かして夜に溶け

今までを捨てて、踊りきったとしても。

 

無垢な少年が優しく愛したとしても。

 

そこにその愛を受ける人が後悔しているなら。

 

素直にその手を取ってダンスができないのなら。

 

 

─素直だからこそ、傷つかせた罰だ。

 

 


 

ここはミアレシティのいくつかある路地裏。

 

「…あー…よっと」

 

自分の体に沿うようにシャワーズを舞わせ、更にその上をジャンプして着地。そのまま周りながら二段蹴りしてフィニッシュ。

 

「どうだった?」

 

俺は近くで見てくれていた同じダンサーを目指しているデウロに話しかける。自分でも中々綺麗にできたと思ったけど、彼女の顔はほんの少し起こっているように感じる。

 

「む〜…なんというか、ちょっと硬さが残ってるって言えばいいのかなぁ。もしかしなくとも柔軟サボったでしょ…?」

 

「いや、ちゃんとやってコレだよ。嫌なら今日家に来るか?」

 

そもそも風呂上がりの柔軟だって体の半分も開かない。デウロに押してもらったりして120度開くか開かないかとかそんなレベルなのだ。

 

「そうだねぇ。まだキジャの手料理も食べてないし…ごちそうになってもいい?」

 

「いいよ」

 

「えへへ、やっぱりキジャを恋人にしててよかったぁ…」

 

よくわからないけど─彼女がそう言うならその通りなのだろう。

 

自分のことも知らない中に─デウロのことは信じられるから。

 

 

 

 

 

 

「ただいま…って、シャワーズしか今はいないんだっけ」  

 

「キュキュイ!」

 

3週間前の災害でミアレシティ内で唯一被害を受けた男にして…町を救った、英雄。デウロから会ったときに告げられたその言葉は驚く他なかったけれど、残っていた通帳と立派な家があった時点でもういいかと諦めた。

 

(そもそも過去のことなんて今考えてもどうしようもないしなぁ…)

 

詳しく聞きにいこうとするとデウロが捨てられたイーブイのような目をし始めるし、そもそも知ったところで今の俺にはどうすることもできない。

 

今はデウロのことが大事なのである。

 

「ねーねー、ちゃんと作れる?お米があるところわかるよね?」

 

「…そんなに言うんだったら二人で作るか?俺だってデウロに作るの始めてだし」

 

「ん、共同作業だねぇ。キッチンにお邪魔しますよっと」

 

にへらと笑ってキッチンに向かったけれど、程なくして困惑した声が聞こえる。

 

「キジャの家って包丁ないの…?」

 

「もしかしたら単純に洗い忘れてるかもしれない…ああ、やっぱりあった」

 

シンクのところに落ちていた新品同様の包丁を丁寧に拭き、怪我しないように刃をこちら側に向けて渡す。

 

「これでもしものときにキジャを刺せるしよかったよかった」

 

「そんな物騒なことを言わないでくれよ…包丁とデウロが傷つくぞ?」

 

この前に気づいたことだけど、俺の体はもう鋼と変わらない耐久性があった。なんせ屋上から誤って落ちてもかすり傷一つつかないのだ。

 

(もはやここまでくるとポケモンと変わんねえんだよな)

 

知ってか知らずかデウロは気にしないでいるみたいだし、俺も言われなければ隠すことにした。もともと俺以外にもそういう体質の人がいるかもしれないからな。

 

「ん、もしかしてカントー式?あたしの実家とおんなじだね」

 

「あれ、昔の俺はそういうの話さなかったんだ」

 

恋人に対して隠していることの多さに辟易とする。まさか出身すら言わないのか。

 

そんなことを思っているとなぜかデウロの顔が青ざめている。悪いことを言ってしまったと謝ろうとしたのと同時に慌てて彼女が再起動する。

 

「いや、この、それは、違う、けど…」

 

慌てた拍子に手に持っていた包丁が彼女の足へと落ちかける。咄嗟に手を差し込んで肉で止める。

 

にぶい痛みが走ったけれど、それよりもまず先にデウロの状況だ。

 

(ん、問題はなさそうだな…)

 

せっかくの綺麗な顔が涙で濡れてしまっているのと気に入っていただろうお気に入りの服を汚しちゃったくらいか。

 

「キジャ、ごめん、ごめんなさい、そんなはずじゃ」

 

「いいよ。寧ろ怪我されるって考えると心配だからリビングで待っててくれないか?」

 

なんてことのないように包丁を引っこ抜いてシンクに血ごと捨てる。シャワーズにアクアリングをしてもらえばなんの問題もない。

 

「安心しなって。こんくらいなら一人でやってるダンスの練習での怪我と変わんないし」

 

心配させないように言って無事なほうの手のひらをひらひらと振る。泣いてしまったし、暖かい料理を作るか。

 

「ううん、ごめんね…」

 

「別に気にしないで。俺だって料理中に振る話じゃなかったし」

 

トントントンと素手で食材を斬る。そもそも昔の俺がどんな自分なのかわからないけど、思い出させるだけで泣くようなものなのだろうか。

 

(…それとも、俺が悪いのか?)

 

今の自分が悪いと思えば全てのデウロのおかしい行動に説明がつく。

 

 

 

 

 

 

─けれど、俺は気づかないふりをする。

 

彼女から捨てられるのが、怖いから。

 

どこを自分が頼っていいのか、わからないから。

 

デウロといるのが、楽しいから。

 

 

デウロのことを傷つけているのがわかっていても、そうして恋人として彼女との関係を続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺は、最低だ。

個別エンドはどれからがいいかな?

  • GAMEOVER
  • 吹き散らされた炎
  • 踊り明かして夜に溶け
  • いつでもどこでもあなたの傍に
  • 夢もうつつも紙一重
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。