はがねタイプにでんきタイプはいまひとつ 作:ボクっ娘のでんきタイプ
あたしは、弱かった─あるいは、普通だった。天才に追いつこうとして秀才ですら届かない凡人だった。
彼を自分のものにできるチャンスが転がっていたとして。
正しい行動を取ることと自分の利益がイコールにならなければ、どちらをとるかなんて明白だろう。それが彼のためになるのなら、なおさら。
それでも、もう既にそんな後悔ができる猶予はとっくに過ぎてしまって。
後にはただ、彼に隠し続けなければならないという罪悪感と愛され続けるという喜ばしい事実だけだった。
─あたしは、どうすればよかったんだろうか。
AZさんが作った兵器であるアンジュの暴走が終わって数日後。葬儀やホテルの引き継ぎも終わり、普段からやっている場所でダンスを練習しようとした…んだけど。
「なんか変なのが出来てるんだよねぇ…?」
人の形をしたメガカケラが真ん中にポコっと出ている。邪魔って言いたいけど近くにいるシャワーズのせいで壊せる気がしない。
(でもなーんか見たことのあるような顔でこっちを見てくるからどかそうにもどかせないんだよねぇ)
恐らく人のポケモンだから…と、そこまで考えたところでやっとキジャのポケモンだと気づく。彼は意識的なのか無意識的なのかわからないけどポケモンと一緒にいることを避ける。
「えへへ、もしかしてキジャがこれとか?」
軽口だしそもそもポケモンが人の言葉を理解することはないからの発言だった。本人がいないからこその軽い言葉なんて、どうでもいいと…思っていた…
「キュキュ!」
─コクコクと感情豊かに首を振っているのを目の当たりにして。
─あたしはようやく、現実を理解したのだ。
「えっと、触ってみればいい?」
わけのわからないことに対して詳しいモミジさんに頼るという選択肢は頭の中に思い浮かばなかった。そのときにあったのは『彼に会いたい』ということだけ。確実な手段なんてのは二の次だった。
「キュ!」
器用に地面を滑って泡で文字を書くシャワーズは肯定していた。触れば解ける魔法みたいなものに、おとぎ話を思い出してしまう。
(キスすればいいんだよねぇ…?)
お姫様を救うためには王子様のキスをしなきゃいけなくて。
その王子様とお姫様は結婚する。
たったそのことだけが熱に浮かされた脳裏に走り、動かない彼に真実のキスをする。
パッと壊れた音がして、彼の体が見え始める。ピンク色の禍々しいものから、普段見ているような美しい肌色に。
「…ええと。俺は記憶をなくしていまして」
気まずそうな彼の表情と、その目に宿っていた透き通る水色の目を見て。
脳裏に駆け巡ったのは、彼のことを思う良心と─それを覆うように思いついたこと。
ここで恋人、って言えばあたしは…彼の、愛した人になる。
嘘なのか、本当なのか。
それさえも判断のつかないであろうキジャに対してあたしは─
「忘れちゃったの…?あたしのハジメテ、あげたよね…?」
─
キジャのことを愛していたこと。
他の誰よりも手を伸ばしたけれど届かないとわかっていて。
それでも小さな繋がりを大切にしようとしたのに。
(…あなたは、あたしのことだけを信じてくれるね)
そのたった一つの、ありふれてはいない男女での感情。
絶望した彼の顔にかかっているカケラを払い、優しく頬をこの手で包み込む。
「…ごめん、あたしはデウロ。あなたはキジャ」
言葉に乗せながら最初のときと真逆だと感じた。やっていることなんてもう矛盾しかないというのに。
彼が最初にあたしを褒めてくれた場所で。
あたしのことを見つけてくれたところで。
あたしを彼の最初の記憶として刻みつけ。
彼のことを全てを奪って貶そうとする女。
(ははっ、最低だ)
あたしの中でこれすらも良いとするドロドロとした感情が出ている。
愛しているとか、そんなことはもう二の次。独占して、あたしと同じところまでオトシタイ。
自分のものにするために。この胸に残っている情熱に従うように。
脳内で流れ出した彼と一緒に練習した曲は、もうどれも覚えている愛のフレーズだけがリピートされ続ける。
「─キミの、恋人」
もう一度、眠っていた王子様へと─呪いのキスを。
抱きしめて離さないよう─優しいハグで。
「大丈夫。キミがあたしのことを嫌いになっても愛しているから」
そのときのあたしは─きっと、歪んだ笑みだったのだろう。
…当然のことなのだけれど、彼はおっかなびっくりながらもつき合うことを決めてくれた。幸せだしキスもハグも合鍵を作ることだって許してくれる、理想の恋人だった。
…そう、完璧なのだ。だからよりあたしのことが責められる。
『自分が彼女になったのは弱みにつけこんだからだ』『それも、純粋な彼を騙した上で』
もちろんキジャが悪いのではなく、あたしが悪い。全てが完璧な恋人を、自分の汚点を直視したくないという理由でスキンシップを控えた。
キジャは時折昔のあたしたちのことを聞いて『あたしの知る恋人のキジャ』を再現しようとしてくれた。そのたびに罪悪感に苛まれ、彼に迷惑ばかりかけてしまった。
…けれど、やっぱりあたしは言うことができない。
許してくれるだろう彼の過去に、一点の汚れも許したくなかった。
そのせいで万が一でも別れてしまうなら。
幸福を知り過ぎて愛に溺れたあたしには─きっと、耐えられないのだ。
…あたしって、最低だ。
昨日からパニックになりながら書きましたし、仕事とは別に動かなきゃいけないことが多くなりました。ということで明日から3日間掲示板回になるのはお許しいただけると幸いです。
さて、皆さんから湿度の高いと言われたデウロの個別エンドのテーマは『漁夫の利』と『後悔』と『泡沫のアリア』です。全くもってダンス要素がどこにもないと言われればその通りとしか言えませんね()
このエンドでは他のエンドと比べて違うのは『過程』です。カナリィにしろムクにしろこの後の個別エンドにしろ必ずキジャが記憶を失う直前のシーンが挟まれてから倒れますが、デウロだけは「メガカケラになってしまった」という『結果』からの物語です。だからこそ最初に彼女の中に出てしまったのは混乱と彼女の自己的な欲求になってます。
特にデウロはこの作品の中では凡人、あるいは「一般的な感性を持つ普通の人」として唯一キジャと話していたこともあってからか、彼の特別に対して異常な執着が無意識的にあるのです。
あと少しだけの─それこそ触ってしまえば弾けてしまうような
個別エンドはどれからがいいかな?
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GAMEOVER
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吹き散らされた炎
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踊り明かして夜に溶け
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いつでもどこでもあなたの傍に
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夢もうつつも紙一重