祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「さてさて、次のプランは輸送車を狙うはずだったけれど、まずは工場を破壊しないと、威力で」
当初の予定では、電力シャットダウンで工場の妨害は完了するはずだった。あとはトラックを壊して流通を遮断するだけの作戦。だが現場は思いのほか早く回復し、人の手も機械もすぐに動き出した。ヒドロFはあわてず腕時計を取り出し、製造ラインに向けてかざす。
この腕時計は改造型最新式、リウォッチ・ヒドロカスタム。生体リンクにより電波と使用者の紋章が結びつき、ヒドロFの意思がそのまま機械へと伝わる仕組みだ。彼が発動するスキルはすべてこのリウォッチを通じて放たれる。
「【ホーリーフラッシュ】」
腕時計に内蔵された発光器が瞬時に光を噴き出した。広範囲を覆う強烈な光だ。光が物に当たると、魔力のダメージが伴って発動するはずであり、同時に高熱を帯びるため機械や人に大きな悪影響を与える危険な技である。
「ま、まぶい!」
作業員たちが咄嗟に顔を覆う。だが痛みは訪れず、機械にも即座の誤作動は発生しなかった。光の奔流を受けて、その場に透明な膜がふっと展開されたのを、ヒドロFは見逃さなかった。
「……? これは、バリア……。協力者のスキルか。はぁ、非常にやりづらい」
ライン全体を覆うように、魔力で構成された半透明のバリアが出現していた。攻撃はシャットアウトされ、ヒドロFの表情が一瞬硬くなる。計画は一段階、想定外の防御に阻まれたのだ。工場の奥から聞こえる機械の規則正しい唸りが、再び夜を支配していた。
「初めまして、ララクと言います。あなたは、ヒドロFですよね。アジドⅭの忠実なしもべとか」
工場の通路の奥、光の残滓がまだ漂う中に立っていたのはララクだった。彼の掌から淡い光が広がり、周囲の機械や作業員を包み込む。
【バリアコーティング】
効果……物体を覆うようにバリアを展開する。
広範囲に防御膜を展開し、対象を一時的に保護するスキルだ。薄い層のため耐久力はあまりないが、ララクが使用すると魔力強度が底上げされ、通常よりも格段に高い防御力を発揮する。先ほどの高熱光【ホーリーフラッシュ】さえも遮断してみせた。
「ファンだ! 私のFは!」
ヒドロFが声を荒げ、メガネとマスクを外す。若い顔立ちは整っているが、その表情には怒りが滲んでいる。
「それじゃあ、アジドのⅭは?」
「コレクションのⅭだ! あの方の収集の邪魔をするな」
「……だったら、業務の妨害をしないでいただきたい!」
ララクが身を低くし、一気に駆け出す。その瞬間、ヒドロFの腕時計が再び強く光を放った。
「【ホーリーボール】!!」
眩い閃光とともに、巨大な光球が射出される。空気を焦がしながら前方の通路を完全に塞ぐほどのサイズだ。
「【視覚保護】」
ララクは即座に別のスキルを発動。目を覆うように光の膜が生まれ、サングラスのような効果を発揮する。激しい閃光の中でも視界を失わずに動くことができた。
迫る光球の熱風を感じながら、ララクは迷わず足場を選び、隣の製造機械へと飛び乗る。そこは【バリアコーティング】が施されており、ララクの体重を支える程度の強度を維持していた。光の奔流を見下ろしながら、彼は次の手を構える。
「【アドバンスナックル・ウィンド】」
風の唸りが巻き起こり、ララクの拳に白い衝撃が走った。風の推進力を伴った拳が、一直線に作業着姿のヒドロFへと突進する。
「んな、速すぎるぞ、子供……!」
ヒドロFが反射的に身をひねる。しかし、その回避動作よりも速く、ララクの拳が顔面をとらえた。
鈍い衝撃音とともに、ヒドロFの身体が宙を舞う。数メートル後方の分電盤へと叩きつけられたが、そこも【バリアコーティング】が施されていた。衝突の瞬間、ガラスのようなバリアが砕け散り、バリンという音だけを残す。機械は一切損傷していない。
「殴りすぎたかな。意識があるといいんだけど」
ララクは拳を軽く振りながら息を整えた。相手の力量が読めず、どれほどの加減が必要なのかまだ掴めていない。
彼の拳には凶悪なモンスターを一撃で沈めるほどの破壊力がある。レベルは50台だが、その実力は70台のモンスターにも匹敵する。
「……! まじですか。起き上がりますか」
ララクが目を細めた先で、ヒドロFがゆっくりと顔を上げた。口元から血を流しながらも、まだ意識ははっきりしている。
「っぺ、なんともまぁ、過剰すぎる力だ。……Ⅽ様に匹敵する戦力だ。肉体を改造でもしていないと、納得できない力だ」
「……すいません、見くびっていました。あなたも、相当レベルが高いんですね。少なくとも60はありますかね。ボクが言うのもあれですが、若いのに」
「Ⅽ様は、その生きざまゆえ、都市部では生活できない。だから食事はほぼすべて、天然モノ。そのほとんどを私が確保して用意しているのだ。奉仕するだけで、レベルは上がっていくのだ」
ヒドロFの声には、誇りが混じっていた。彼の日常は、冒険者以上の戦いの連続だ。都市に出て飯を食う冒険者とは違い、毎日が狩りであり奉仕であり、主のための実戦そのもの。
血を吐きながらも、ヒドロFはよろめき立ち上がる。その瞳にはまだ、消えていない闘志が宿っていた。