祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
ダァフとセブトルが同時に突撃する。
前衛のダァフが炎拳を構え、後方のセブトルは鎖を構えて走り出す。二人の軌道が交差する瞬間、アジドⅭの全身から青白い光が走った。
自動音声がアジドⅭ自身の声で響く。録音したのはヒドロF。冷たい電子の声が鉄骨の壁に反響し、どこからでも彼女が語りかけてくるようだった。
『【プロテクトフィールド・F9型 起動】』
六角防壁が展開し、ダァフの炎拳を吸収して溶かす。
『【エアクッションユニット・MkⅡ 衝撃吸収率 78%】』
鎖の軌道を逸らす空気層が形成され、鋼の鎖がわずかに弾かれる。
『【ジャイロバランサー・H-12 安定化モード】』
氷床の上でも体勢を崩さず、アジドⅭの足元は微動だにしない。三機構が同時に作動し、光の層が絡み合って彼女を包み込む。
「今の私は、防御の技術展覧会中ってわけか」
2人の巧みな攻撃を、最先端技術を使用し防御するアジドⅭ。
息の合わないはずのダァフとセブトルは、互いに一言も交わさず攻撃を続ける。ダァフの炎拳が再び突き出され、セブトルの鎖がその軌道をなぞるように絡みつく。偶然にも連携が成立していたが、アジドⅭの防御ユニットがそれを完璧に処理していた。火力も重量も、精密制御の機構が瞬時に受け流していく。
ダァフが舌打ちし、セブトルが鼻で笑う。
息は合っているのに、性格はまったく噛み合わない。だがその不協和音が、戦場の熱をさらに上げた。
「セブトルちゃん、即戦力手に入れたじゃん。歓迎しないとねぇ~」
蒸気が立ちこめ、火花が散り、冷気が床を這う。金属音が跳ね返り、工場全体が生きているように唸りを上げる。アジドⅭの体表のあちこちから、小型爆弾がばら撒かれた。
ダァフは巨大なガントレットでそれを掴み取り、いくつも握り潰す。掌の中で爆炎が咲き、赤熱の光が天井まで届いた。爆風が金属壁を叩くが、構造を揺るがすほどではない。掴み切れなかった爆弾は、瞬時に展開したシールドが吸収して光だけを散らす。
一方、セブトルは飛来する爆弾の1つを、手錠でキャッチした。
【キャッチ&リリース】
鎖が音を立てて締まり、爆弾をロックする。次の瞬間、スキルの自動解除が作動し、爆弾を滑らかに弾き飛ばした。軌道を描いたそれがアジドⅭの前で炸裂し、六角防壁が波紋のように歪む。
白光と熱風が吹き荒れ、床の氷が一瞬で蒸気へと変わる。だが工場の構造材は無事だった。
光の中、アジドⅭのシルエットが浮かび上がる。彼女の機構は揺らいでいるが、まだ壊れてはいない。
「はは、はは。もっと優雅に業務を妨害できると思ったんだがぁ! 泥臭いショーになりそうだねぇ!」
怪集アジドⅭは、どこか嬉しそうだった。犯罪の妨げになる存在など、本来はうとましいだけ。だが、彼女は特にセブトル刑事をお気に召している。さらには、その刑事と対等以上に共闘する新人。アジドⅭは高ぶっていた。
その犯罪コレクターに対し
ダァフが拳を握り直す。
セブトルが鎖を鳴らす。
息が合わない二人が、皮肉にも最も息を合わせている瞬間だった。
工場の奥で、アジドⅭ・セブトル・ダァフの激闘が続いていた。火花と蒸気が絡み合い、爆風のたびに床の氷が割れる。その騒音を背に、別の通路では人々が次々と避難していた。
金属の通路を走るのは、この工場の従業員たちだ。工場は完全停止していない。だが、もしアジドⅭが出現した場合、即座に避難行動を取るようマニュアルが敷かれている。警報が鳴り響き、非常灯が点滅する中、彼らを先導していたのは、赤髪の美女ゼマだった。
「はいはい、引率おねえちゃんについてきてね~。怪我人はすぐに言うように、骨折だって速攻治せるかもよ~」
後ろ向きに歩きながら、両手を軽く仰いでステップを刻むゼマ。通路の鉄骨が震える中でも、彼女の声は妙に明るく響く。
避難している職員たちは皆、彼女よりも年上ばかりだが、ゼマにとっては教室の子どもを連れて歩くような感覚だった。緊張よりも、守るべき者を導く使命感が勝っていた。
「っお、これがドローン? とかいう飛行物体だなぁ!」
天井の梁から飛び出したのは、超小型の監視ドローン。円盤に羽根が4つ付き、カメラの赤い目が光る。ゼマにとっては初めて見る機械だったが、セブトルたちから危険情報は共有されていた。
彼女は背中のホルダーから、クリスタルロッド・戦棒を引き抜いた。青い宝石の芯が通った透明な武器。そのまま軽く振りかぶり、ドローンへと一撃。
風を裂く音。金属の殻が弾かれ、ドローンが宙を浮遊回避する。だがゼマは追撃を止めない。棒を横に払うと、空気を叩くようにしてもう一度強打。今度は直撃し、ドローンが火花を散らしながら墜落した。
「見ての通り、暴力も得意だからね~。安心してついてきてね~」
笑いながら棒を肩に担ぐゼマ。
従業員たちは思わず息を呑み、そして安堵の笑みを浮かべた。ゼマはそのまま群れを率い、非常口へ向けて軽やかに歩を進める。
避難通路の奥、彼女たちが走り抜けてきた方角では、異様な閃光が連続していた。
鉄壁を照らす白光が、金属壁に反射して幾重にも乱れ、空気そのものが光を抱えたように震える。
そこでは、光使いヒドロFと、ララクが激しく交戦していた。