祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
チェーンソーの唸りが工場の空気を切り裂く。発光する高熱の歯が蒸気を焦がし、金属の匂いに焼けた油の香りが混じる。音が反響して床が振動し、光の残像が視界をえぐるようだった。
ヒドロFはそれを大げさに振り回し、声を荒げた。
「私は、邪魔立てするものあらば、人でも殺す覚悟がある。だからこのような殺傷力の高い武器を扱えるのだ!」
ララクは咄嗟に【ソードクリエイト・ハード】で両手剣を生成し、受け止めに出る。だがチェーンソーの切断力は規格外で、剣の刃が粉砕されて火花が飛び散る。チェーンはそのままララクの体を薙ぎ、直撃は逃れたものの擦り傷が走り、衣服の繊維が裂けた。
「(遠距離にチェンジだな)【ボウガンクリエイト】 ガララ樹の矢銃」
ララクは素早くボウガンを生成する。加工しやすく耐久性の高いガララ樹で作られた矢銃に数本の矢を装填すると、後方へバックステップを踏みながら【クイックシュート】を放つ。
いくつかの矢はヒドロFのチェーンソーに砕かれるが、一本肩へ届き、金属の鎧と作業服の下に仕込んだプロテクトスーツが衝撃を受け止める。皮膚は貫かれず、血は出なかったが、布と装甲の縫い目が削られ、衝撃が肩を伝った。
「やはり相当な実力者だな、冒険者。ユニットで複数の力を扱うのは、この国では珍しい事ではないのだ。が、スキルでここまで多彩さを見るのは初めてだよ。私は生涯単推しだが、魅力的だよ子供くん」
破壊行為を阻まれる不快感を抱えつつ、ヒドロFの視線はララクの若さと戦力のギャップに惹かれていた。光を反射するチェーンソーの刃が振り下ろされるたび、火花と金属音が空間を震わせる。
「ファンなんておこがましいですが、犯罪者を支えるぐらいだったら、ボクを見ていて頂きたいところですが……」
「分かっていない。犯罪者だからこそ、類似のいないコレクターだからこそ、生涯を捧げるに値するんじゃないか。いち推しとは、唯一無二を提供してくれる存在なのだから!」
チェーンソーの高速回転が空気を切り裂き、振動が床にまで伝わる。ヒドロFの動きは鋭く、波の冒険者以上のスピードでララクに迫る。
ララクは即座に判断した。
「【ハンマークリエイト・ハード】+【クラッシュインパクト】」
両手で創り出したハンマーは、通常のハンマーとは異なり、面に複数の杭状突起を装備。衝撃点が広がり、対象を粉砕する力を増幅している。ぶつかり合う武器が火花を散らし、鋭い金属音とともに微細な破片が宙に舞う。
「この国の武器は有能すぎますが、携帯しているのには限度があるでしょう。壊すことが出来るならば、ボクが優位だ」
「っく。魔法は無からの創造が利点の1つ、か。だが、そちらも無限ではない! 魔力は尽きる。こんな広範囲バリアを展開しているのなら、より消耗は激しいはずだ!」
衝突のたびに、チェーンソーの刃先がハンマーの杭を抉り、火花と熱が迸る。ララクの魔力で創り出されたハンマーは、実物の耐久力には及ばず、連続攻撃で表面が削れ、わずかに形を変える。金属の擦れる音、空気を切る刃の音、魔力の放電が混ざり合い、戦場の空気が緊張で振動する。
衝突の勢いで舞う破片の軌跡は、双方の技術力と魔力の差を際立たせる。電動チェーンソーの切れ味が微かに優勢に立ち、ララクのハンマーは力を押し返しつつも削られていく。空間に散った火花と金属片が、戦いの激しさと緊迫感をより鮮明に描き出していた。
「はぁ、ボクの仲間に欲しいぐらいですよ。内面は最悪ですが」
ララクはヒドロFの腕前を評価し、一歩下がる。ハンマーは限界まで削られ、破壊寸前だ。
そこを狙い、ヒドロFはチェーンソーを掲げながら強襲する。
「工場とともに、威力の前にひれ伏すといい!」
振り下ろされる刃の軌道が空気を切り裂き、振動が床に伝わる。
「……ヒドロF。……ボクも唯一無二ですよ、いや誰だってその人しかいない。誰を崇めるのも自由でしょうが、怪盗は論外と言えますね」
ララクは少しうつむき、振り下ろされるチェーンソーに合わせてハンマーを振る。いや、振りなげた。
ハンマーが放たれ、空中で光を反射しながら飛翔する。創り出す武器の利点、それは使い捨てが可能であることだ。光を放つようにカスタムされた逸品であるため、ヒドロFは武器を手放す発想を持たない。
不意を突かれたヒドロFも、さすがの反射神経で姿勢を崩しつつチェーンソーを保持し続ける。
「……使い捨て、と思わせるのも強みですね。【コネクトバック】」
ララクは対象の武器を自分の方へ引き戻すスキルを発動。放たれたハンマーは軌道を変え、ララクの方へと帰還する。瞬間、ヒドロFの背中に向かって飛んでいくハンマーの光が、鋭く輝いた。
「!? っく、セットプレイ……!」
ヒドロFの意識が一瞬、背後のハンマーに引かれる。どちらを優先するか、判断が遅れる。後ろを気にすれば、目の前のララクへの警戒が甘くなる。それこそがララクの狙いだった。
「【スピニングストライク・ウィンド】!」
ララクの脚に風の系統の力が集まり、靴底から渦が生まれる。空気が圧縮され、軸足を中心に何度も回転。重心を殺さずに連続して威力を上げる。踏み込みの音とともに、風が爆ぜた。
回し蹴りがチェーンソーに直撃。刃が唸りながらも、巻き上がった風圧に逆らえず、軸ごと押し返されていく。チェーンが外れ、金属片が弾け飛ぶ。
「っぅうが!」
ヒドロFは咄嗟にガードするが、体ごと弾かれた。風の塊に押し飛ばされ、背後へ吹っ飛ぶ。
激しく唾を吐きながら、背中から後方のハンマーに激突。金属音が鈍く響き、衝撃でハンマーが砕け散る。粉塵が舞い、工場の照明がその光を反射した。