祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「インフラ妨害が、アジドⅭの次の目的に連動するとしたら、あそこを狙ったのも納得がいきます」
アジドⅭは、連続した犯罪を行うことがある。テンポよく犯罪歴をコレクションするためだ。威力業務妨害も、その通過点でしかないとしたら?
「……工場からの供給が滞ったところで、インフラ設備を破壊する……! それが、奴の最終目標っか! もしその仮説が合っているのだとすれば、そこを割り出せば、奴の行方を追える!」
「発電所とか、のことだよね」
ゼマが言葉を挟む。インフラ設備と言っても、その範囲は広い。電力、上下水道、通信、軍事管制、あらゆる機構がこの国には複雑に張り巡らされている。最先端国家の証でもあり、同時に脆弱な急所でもあった。
そのとき、廊下の奥から金属靴の足音が響いた。メンテナンス室の扉が開き、熱気と油の匂いが薄く漏れる。その中から現れたのは、右腕のガントレットの整備を終えた狼人・ダァフだった。
整備用ライトの光を背に受け、紫がかった毛並みが鈍く光る。指先にはまだ整備油が残り、ふとした拍子に照明を反射した。彼の獣耳は軽く動き、室内の音を拾っている。その耳は、整備中も壁越しの会話を正確に捉えていた。
工具のぶつかる音、ゼマの短い息、ララクの推理の抑揚、それらすべてが、廊下を伝う空気の震えとして彼の中に残っていた。
扉が閉まると同時に、彼は会話に自然に入り込む。
「……この国には、大量の工場や動力施設、防衛所があるんだぞ。その中から、アジドⅭのターゲットを絞り込むなど、可能なのか?」
外育ちのダァフ。環境汚染を問題視する彼は、特に外に近い設備の構造に詳しい。空気と水を汚す根源を、誰よりも知っているからだ。
「……その狼の言うとおりだぜ。……それに、考えてみれば、設備破壊が目的だとすれば、怪集の思考ともずれる。奴はもう、器物破損や不法侵入は犯しているんだよ」
セブトルが低く言う。アジドⅭは、同じ種類の犯罪を重ねることを嫌う。常に新しい罪を積み上げる。それが彼の「犯罪コレクション」という異常な矜持だった。
「……じゃあ、インフラ設備特有の犯罪から、逆算するのはどうでしょうか。破壊または、妨害が、まだ完遂していない特定の罪状になるケースはありませんかね?」
ララクは真剣な表情で尋ねた。この国の法律にはまだ疎い。だが、アジドⅭの犯罪傾向を最も理解している人物が目の前にいる。
セブトルはわずかに目を細め、工場で見た巨大な構造物を思い出す。
「……サイエント工場と提携していて……特殊な罪名になるケース。……っは、あのパイプ」
あの、地下を貫くように延びていた巨大な水流管。
それは工場だけでなく、国の主要設備にまで接続される循環網だった。もしそこを利用すれば、破壊ではなく、機能そのものを奪うことができる。
セブトルの表情が引き締まる。
「……この推理が真実なら、テロ行為だ。……アジドⅭがコレクションしようとしている罪状の名は……」
セブトルはそのまま、3人の罪名を伝えた。彼女の言葉を聞いて、他の3人の息をのむ音が重なり、誰もが同時に武器へと手を伸ばす。
ララクは拳を握り、ゼマは背中の棒を確認し、ダァフは右腕のガントレットをわずかに鳴らした。セブトルの視線が、静かに3人を見渡す。
外では、修理屋の換気口から風が吹き込み、油と鉄の匂いを揺らしていた。
これから向かう先がどれほど危険でも、4人の間にはもう迷いはなかった。