祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「一騎当千なんだよな、本来あの子は」
満足げに笑みを浮かべ、アジドⅭはヒドロFの暴れぶりを遠目に見下ろしていた。下方の戦場では、鋏の残光が閃き、金属音と悲鳴が交錯している。熱風が吹き上がり、崖の上にいる彼女の頬を撫でた。海霧の混じる風は湿り気を帯び、焦げた鉄と硝煙の匂いを運んでくる。
アジドⅭは崖の縁に立つと、ためらいもなく一歩を踏み出した。重力に引かれ、身体が落下を始める。広大なダムが視界を満たし、幾重にも組まれたコンクリートの壁が地平の果てまで続いていた。
その瞬間、彼女の背でマントが音を立てて展開する。内部から無数の機構がせり上がり、スラスターが淡く青い光を放った。
『エア・ステイユニットType-D』
スラスターが火を噴き、空気を切り裂く。アジドⅭの身体は、逆さまの姿勢のまま空中でぴたりと静止した。風の抵抗が渦を巻き、髪が逆流するように舞う。
眼下に広がるのは、巨大な構造体。山肌を削って築かれたダムは、幾層もの防壁を持ち、内部には電力施設や補助管が複雑に走っている。その中心には深い貯水湖。濃紺の水面は陽光を反射し、鏡のように輝いていた。
「さてと、コレクターたる私の出番だ」
背部のアームがせり出し、関節部が高速で回転。砲口から飛び出したのは、いくつもの小型地雷。
『クラッターボム・モジュール』
それらは流星のように軌跡を描き、青白い残光を引きながら次々とダムの外壁に張り付いていく。数十個が同時に設置され、配置は完璧に一点へと収束していた。
「ふぅ、私のコレクションのために、倒壊してくれよ、ガンテフォルダム!」
腕部の装甲が変形し、砲口が露出する。
『ビームアーム・ヴァリエント』
指先のトリガーを軽く弾く。赤い光が一点から放たれ、真っ直ぐに地雷群を貫いた。
刹那、閃光。続いて轟音。連鎖する爆発が空を裂き、火球が壁面を覆った。振動が伝わり、風圧がアジドⅭのマントを大きくはためかせる。破片が雨のように飛び散り、黒煙が立ち上る。
だが、爆煙が晴れた後に見えたのは、崩れた外壁の奥でなお無傷の主壁だった。分厚いコンクリート層が光を反射し、蒸気の隙間で鈍く輝いている。
「破壊はできるが、さすがに分厚いな~。あらゆる破壊機器で、崩壊させてみようじゃないか」
彼女は軽く肩を回し、腰のホルスターから黒い魔導拳銃を取り出した。
『ネクロマギア・ヘビィバレル』
銃身が魔力を吸い込み始め、紫黒の圧が空気を歪ませる。トリガーが引かれる瞬間、世界がわずかに沈黙した。
銃口から迸ったのは、螺旋を描く黒紫の光。それは形を変え、蛇の輪郭を成す。
【剥奪する暗黒大蛇】
効果……攻撃がヒットした対象の防御力耐久値を減少させる。
魔蛇は咆哮を上げ、崩れかけた壁へ突入。衝突音と共に爆散すると、ダム全体が鈍く呻いた。内側から軋むような音が響き、防壁の耐久が目に見えて低下していく。
「いいね、これでやっと準備完了だ」
アジドⅭは左腕を掲げた。関節部が分離し、蛇腹状の機構が伸びる。
『グラヴィティチェイン』
鎖が空中でねじれ、金属音を撒き散らしながら長く伸びた。先端部の球体が分割して展開し、重力制御のルーンが光を走らせる。形成されたのは、鈍く輝く巨大な鎖付きハンマー。
「落とし込むよ」
鎖を振り抜く。風が圧縮され、空気が震える。次の瞬間、ダム壁に激突。轟音が山脈を伝い、亀裂が走った。壁面がわずかに沈み込み、破砕片が湖面に降り注ぐ。
だがアジドⅭの攻撃は止まらない。背中の装甲が展開し、砲塔がせり出した。
『マルチブラスト・キャノンユニット』
「砲撃祭、開催!」
砲口から次々と光が走る。
【フレイムブラスト】 赤熱の弾丸が飛び、壁を焼き焦がす。
【ライトニングブラスト】 電撃が網のように走り、構造体を痙攣させる。
【ウォーターブラスト】 超圧水流が叩きつけられ、冷却された表層を剥ぎ取る。
【ウィンドブラスト】 突風が圧力を集中させ、爆発的な圧縮波を生み出す。
それらすべてが鎖のハンマーにぶつかり、エネルギーを収束させる。金属が悲鳴を上げるように振動し、壁面にめり込んでいく。
アジドⅭは逆光の中で微笑みを浮かべた。瞳には狂気の光が宿り、唇が愉悦に震える。
「芸術的だね。破壊の音が、こんなにも整ってるなんて」
炎と閃光が乱舞し、空気が熱で揺らぐ。ダム全体が低く唸り、地面を伝って振動が走る。貯水湖の水面は渦を巻き、遠くの山々がその共鳴で揺れていた。
それでもなお、ガンテフォルダムは耐えていた。外層の崩壊音の奥で、主壁が深く息づくように沈黙している。
アジドⅭはマントを翻し、冷たい笑みを浮かべながら空中で身を回転させる。指先が次の装備シークエンスを呼び出した。