祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~   作:高見南純平

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第27話

「……放水の勢いが凄まじい。それに……壁を補強しないと……【アイシクルショット】オーバーズ」

 

 ララクの声が、轟音の中にかき消されながらも響く。両手から放たれた氷の魔力が矢のように空間を突き抜け、砕けたダムの穴へと飛び込んだ。冷気が爆ぜ、湿った空気が一気に凍結していく。鉄くずや泥、そして先ほどの雪崩の残骸が巻き込まれ、氷と一体化していく。

 

 凍りついた塊は水の勢いに押されながらも、穴の形に沿うように密着していく。だが、放出される水圧は尋常ではなかった。圧力に押され、せっかく固めた氷の表面に次々と亀裂が走る。水が弾け飛び、霧状になってララクの頬を打った。

 

「……っく、このままだとボクの魔力が尽きる……。修復をお願いしたいが……」

 

 息が荒い。手の震えを止めるために、ララクは片膝をついて魔力の循環を整えた。冷気が彼の周囲にまとわりつき、白い蒸気となって立ちのぼる。

 

 彼の視線が、整備士たちへと向かう。だが、誰もすぐには駆けつけられなかった。アジドCの妨害によって整備車両の制御が乱れ、機械の一部は動力を失っていた。整備士たちはエンジン部を叩き、配線を確認し、火花が散る中で再稼働を試みている。

 

「動け! 急げ、冷却ラインが焼けてるぞ!」

「水圧センサーが反応しねぇ、バルブ閉めろ!」

「魔力炉、再起動まであと1分だ、持たせろ!」

 

 必死の声が飛び交い、金属音と警報が入り乱れる。彼らの背後では、崖下へと水が容赦なく流れ落ちていく。白い飛沫が霧となり、視界を覆う。下方では既に細い通路や監視デッキが水に飲まれ始めていた。

 

 崖の縁に立つララクは、その光景を確認しながらも、再び両腕を掲げた。氷の魔力が再び膨れ上がり、空気が軋む。

 

「……今は、時間を稼ぐしかない……!」

 

 氷塊が次々と生成され、再び穴へと叩き込まれる。凍結、破壊、再凍結。その繰り返しだった。

 

 背後では整備士たちの修復作業が続き、前方ではダムの壁が悲鳴を上げるように震えている。流れ込む水の轟音の中で、ララクは歯を食いしばりながら立ち続けた。

 

 崖の向こうでは、まだアジドCの笑い声が風に乗っていた。

 それでも彼は、その声を無視して氷を撃ち込み続けた。

 今はただ、崩壊を止めるために。

 

 ◇◇◇

 

 巨大ダムの上。上空から見下ろすと一本の橋のように見えるが、実際に歩けば広場のような広さを持っている。その中心部、濡れたコンクリートの上に、複数の警備兵たちが倒れていた。高性能の防弾スーツが汚れ、散乱した武器が光を反射している。彼らは全員、息はあるが、気絶または神経麻痺の影響で動けない状態だった。

 

「……はぁ、はぁ。(最新武装の警備隊は、想像以上に厄介だったな……)」

 

 肩で息をしながら、ヒドロFは自らの腕を見下ろした。作業服とメイド服を掛け合わせたような奇妙な服装は裂け、露出した肌には擦過傷がいくつも浮かんでいる。手には巨大なハサミ型の武器、アークシザー。その金属刃には焦げ跡と、戦闘で付いた無数の切創痕が走っていた。

 

 戦いの熱がようやく静まり、ダムの上に吹き抜ける風が冷たく感じられる。警備たちの排除を終え、ヒドロFは一瞬だけ安堵の息を吐いた。

 

 その刹那、風向きが変わる。空気が震える。

 

「……疲弊してるのは好都合だな。【バーストフィスト・ブラスト】」

 

 爆音。次の瞬間、光と共に鉄拳が飛来した。拳そのものが魔力で形成されたものではなく、爆発性の魔力をまとった重拳だった。ヒドロFは反射的にアークシザーを構え、防御態勢を取る。

 

 金属音と同時に、爆発。

 衝撃波がコンクリートをえぐり、倒れた警備兵のヘルメットが転がった。

 

「……C様と対面したという、スカベンジャーか」

 

 爆炎の中で姿を見せたのは、黒銀色の毛並みを持つ狼人の男、ダァフ。右腕のガントレッドが淡く発光している。外育ちの兵士であり、戦闘用の義肢を持つ。視線は冷たく、ただ任務を遂行するためだけに研ぎ澄まされていた。

 

 彼はララクから直接指令を受け、このヒドロFを足止めするためにここへ来た。ララクが「強敵だった」とだけ告げたその言葉を思い出し、ダァフの瞳に緊張の光が宿る。

 

「……この仕事をしていると……、邪魔立てが多く、ストレスがたまる。だが、きっとC様はこれを望んでいられるのだろう。抵抗する者、追跡する者、それらがいるからこその犯罪、なのだろうから」

 

 爆風の余韻の中から、ヒドロFの姿が浮かび上がる。煤けた髪の間からのぞく瞳には、まだ炎のような光が宿っていた。

 

 アークシザーを握る腕に力を込めると、武器が鈍く唸り、形が変わり始める。折りたたまれるように軸がずれ、刃が分離していく。

 

「……壊れた……わけじゃないのか。変形、いや分裂機構か」

 

 ダァフが目を細める。爆撃で粉砕したと思ったアークシザーは、むしろ戦闘形態へと変化していた。巨大なハサミは左右に分かれ、それぞれが片刃の長剣となってヒドロFの両手に収まる。刃の根元から蒸気が上がり、冷却液が漏れる音がする。

 

「排除させてもらう。主の崇高なる犯罪のために……!」

 

 ヒドロFが姿勢を低くし、金属靴が地面を鳴らす。

 ダァフも同時に地を蹴った。

 

 乾いた音が連続し、次の瞬間には二人の影が交錯していた。金属と金属の衝突が響き渡り、火花が舞い上がる。

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