祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「っと、まーだついてきてるな、こいつら」
刑事セブトルがハンドルを握りしめ、荒れた谷道を跳ねるバギーを制御していた。荷台に乗る赤髪のヒーラー・ゼマは、日差しを浴びながら立ち上がる。彼女の手に握られているのは、自前の武器である戦闘棒クリスタルロッド。高純度の魔晶石を贅沢に使った逸品で、内部では淡い光が脈打つように脈動していた。肩に担ぎ、額の汗を拭いながら天を仰ぐ。
そこには、群れをなして飛ぶ金属質の鳥たちがいた。アイアンエアライズ。体のあちこちに鉄が浮き出し、翼をきらめかせながら旋回している。大小入り混じった群れで、成体もいれば、まだ鉄が赤く鈍く光る幼体もいる。主食は鉄。鉄分を吸収するほど体を覆う鉱皮が厚くなり、硬質化していく。そのため、鋼鉄のように重く、飛行するたびに空気を削るような低音が鳴り響いた。
「バギーは、音と見た目がハデすぎんだよっ。それに今は大好物を背中に載せているからな。あったりまえの襲撃だな」
ゼマの指摘に、セブトルは苦笑を浮かべつつ、バックミラーで追尾してくる影を確認する。だが、目線を長く外すわけにもいかない。ガタついた路面にタイヤを取られれば、一瞬で横転だ。
「セブトル~、スピード緩めちゃダメだよ。ガタガタ運転のままでいいから」
「……わかってるさ。だが、敵に背を向けるのが、歯がかゆくてな」
セブトルの声は冷静だが、指先には焦りが宿っていた。運転中は戦闘に加われない。それが自動車の致命的な欠点だ。運転席の視界は限られ、操縦に両手を取られる。敵の位置を把握しても、撃つことも避けることもできない。
本来は外で車を使う者は少ない。バギーは便利だが、音も熱も光も派手すぎて、外界のモンスターを引き寄せてしまう。そして襲撃を受ければ、運転手が戦闘不能。実質、常にパーティーの1人が欠けた状態での戦闘になる。
さらに、降りて戦う場合も問題は残る。動かない鉄の塊。つまりバギー本体を守りながら戦う必要があるのだ。敵は空から、群れをなして降りてくる。防衛と反撃、どちらを優先するかで一瞬の判断が命取りになる。
そんなリスクを承知の上で、今も彼女たちは走っている。背後には鉄の群れが迫り、谷の風が金属の羽音を響かせていた。
「こっちに来る前に、突き離しますか! 【刺突乱舞】!」
ゼマがそう言い放った瞬間、バギーの荷台に風圧が走った。直後、彼女のロッド先端が光を帯び、空気を裂く音を立てる。
「ここで乱舞だとぉ!? 相手は空だぞ!」
ハンドルを握るセブトルが叫ぶ。しかしゼマは自信に満ちた笑みを浮かべ、肩越しに返す。
「見れないだろうけど、見てなって」
その言葉と同時に、ゼマの腕がしなやかに動いた。ロッドの突きが放たれる。鋭い魔力が先端から流れ、突きの勢いに乗って魔晶石が輝く。次の瞬間、ロッドが異様なほどに伸びた。
空中を飛ぶアイアンエアライズの幼体に、ロッドの先端が突き刺さる。金属音とともに翼がねじれ、羽ばたきが乱れる。バランスを崩した1羽が落下していった。
ロッドはゼマの手元へと一瞬で戻る。そして間髪入れずに次の突き。伸び、突き、戻り、その動作が滑らかすぎて、もはや舞のように見えた。
「【伸縮自在】効果……対象の長さを自由に伸縮できる」
この武器には、組み込まれたスキルが存在する。ゼマが込める魔力量と反応速度に応じて、ロッドは鞭のように伸び、また瞬時に戻る。
次々と放たれる突きが空を貫く。命中のたび、空気が震え、金属羽が散った。「ギィヤア!」と悲鳴を上げながら、アイアンエアライズたちが旋回を乱し、隊列を崩していく。
鉄板のように硬い体表にも直撃するが、ゼマの突きはそれを貫通して内部に衝撃を与える。飛行姿勢を崩した個体が次々と墜ちていく光景に、セブトルは舌を巻くしかなかった。
「突くって楽しいね~」
ゼマは軽く息を吐き、上機嫌に笑う。工場での避難誘導では、戦闘を控えていた。その鬱憤を晴らすように、突きを放つたびにロッドが唸り、金属の群れを薙いでいく。
魔力の閃光と羽音が交錯し、谷の空に金属の雨が散った。