祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~   作:高見南純平

35 / 43
第35話 

 ゼマの放つ突きは、空の群れを正確に迎撃していた。だが、アイアンエアライズの群れはあまりにも多く、体力も異様に高い。いくらロッドを伸ばしても、突き落とせるのは一度に数羽が限界だった。

 

「くっ……数が減らない!」

 

 彼女が額の汗を拭うより早く、バギーの助手席に座っていた警官たちが、連携して射撃銃を構える。乾いた破裂音が連続して響き、弾丸が金属羽をかすめる。距離があるため威力は落ちるが、威嚇としては十分だった。撃たれた個体たちは高度を下げ、群れが乱れる。

 

 そこへ、ダム上部から機械音が響く。

「迎撃システム、起動確認!」と無線越しに整備士の声が飛ぶ。

 

 本来この自動砲撃は、ダムの構造を守るために設置された防衛機構だ。しかしヒドロFたちがいた時は、誤射で壁を破壊する危険性があったため停止していた。今は標的が空中に限られている。砲台がせり上がり、魔力の照準が光る。

 

 そして、轟音。

 砲口から青白い魔弾が放たれ、空を奔る。連続する閃光が空を染め、命中した鳥が爆ぜるように回転して墜落していく。自動砲撃、警官たちの射撃、ゼマの伸びる突きが交錯し、鉄羽の群れを削り取っていく。

 

「ギギィィィッ!」

 

 苦鳴を上げながら、翼に穴を開けた個体が次々に落下。だが一部は回避し、風圧を起こしてバギーを揺らす。運転席のセブトルが歯を食いしばり、ハンドルを力任せに握った。

 

「鉄を守り切ったかぁ? もうつくぞ、ララクの所に。だけど! あいつこれを何に使うんだよ!」

 

 谷底を抜けるように疾走するバギー。ダムから流れ落ちた水が浅い川のように道を作っており、その上をタイヤが水飛沫を上げながら進んでいく。荷台のスクラップが激しく揺れ、金属の音が連鎖して鳴る。

 

 ゼマは風に髪をなびかせながら、後ろを見ずに叫んだ。

 

「知らん! あいつのスキル、いくつあると思ってんの!」

 

 仲間である彼女でさえ、ララクの意図は読み切れていなかった。今回の行動計画は緊急事態下での即興作戦。共有されたのは、最低限の役割と目的だけ。

 

 だがそれでも、ゼマの目には確信が宿っていた。

 

「……けど、あの子なら、無意味な労働はさせないよ」

 

 バギーの列が谷底を駆け抜け、濁流と轟音の中へ突き進んでいく。

 

 ララクは背後から響く銃声とエンジンの唸り、そして空を切り裂く鳥たちの叫びを耳にした。振り向かずとも、援軍が到着したことをすぐに悟る。崖下に響くその音は、彼の胸に安堵と覚悟を同時に刻んだ。

 

「皆さん一度下がってください! ばら撒きますが、信用してください!」

 

 叫びながら手を挙げると、整備士たちはすぐに動いた。警察から連絡を受けていたとはいえ、彼らが聞いていたのは「少年がダムを守る」という断片的な情報だけだった。だが、その少年が繰り出す膨大なスキルの制御と、身体を削るような集中力を目の当たりにし、疑う余地は消えていた。彼がいなければ、崖下はすでに濁流で呑まれ、壁もとっくに崩壊していただろう。

 

 整備士たちは、息を合わせて一歩、また一歩と後退する。ララクの前に、静かな空間が開かれた。

 

「ゼマさ──ーん、拾ってきたものを落としてくださーい! 再利用します!」

 

 ララクの声が谷に響く。

 

「だってよ──ー、ポリスたちィ! セブトル、Uターンからのバック!」

 

 荷台に立つゼマが、風を切る声で叫ぶ。

 

「っき、バギー操作はむずぃんだぞ!」

 

 セブトルが歯を食いしばりながら、ハンドルを強引に回す。バギーが滑るように回転し、鉄屑を積んだ荷台をララクの方へと向けた。後続の車両たちもそれに倣い、次々と後方を向けて停止する。

 

 次の瞬間、スクラップの山が崖下へと投げ出された。鉄板、パイプ、破損した機械片、車の残骸、廃棄された配管が音を立てて転がり落ちる。水流に弾かれ、火花のように光が反射した。

 

「(ボクの中には、数少ないが存在する物を利用するスキルがある。応急処置以上の結果をもたらすはず……いや……)やり通して見せる」

 

 ララクは深く息を吸い、今まで同時発動していたスキルを一つずつ解除する。静寂の中、膝を軽く折り、右足を振り上げた。

 

 その瞬間、空気が震えた。

 

 地面が唸りを上げ、彼の足元に大地と水と鉄が集まり始める。崖の岩肌が砕け、泥と砂と金属の粒が磁力に引かれるように収束していく。整備士たちが息を呑んで見守る中、ララクの体が青白い光に包まれた。

 

【大地蹴り】

 周囲の大地を収束させて蹴りを放つ。

 

 だが、その大地はもはや土だけではない。濁った水も、漂う雪片も、そして新たに投げ込まれた無数のスクラップも、全てがひとつの力へと統合されていく。

 

 ララクの足が振り下ろされた瞬間、地鳴りが轟き、水と鉄と土が巨大な波のようにせり上がった。

 

 巨大な球体が、地面と水と鉄を巻き込みながら形を整えていく。泥の質感、鉄の鈍い光、そして水がその表面で波打つ。ララクの身長など軽く越えたそれは、山の一部が切り取られて浮かんでいるかのようだった。爆発で穿たれたダムの大穴に匹敵する質量を持ち、圧倒的な存在感を放っていた。

 

 ララクは跳び上がる。足裏の感覚が一瞬で空気に変わり、視界の端で崖上の光がちらついた。高度を取りながら、右足に力を集中させる。彼の脚筋が強烈に収束し、空気を震わせる。

 

「放水を! 食い止めろ!」

 

 ララクの声が響いた瞬間、空気の流れが変わる。次の刹那、脚がその巨大な球を蹴り抜いた。衝撃音が谷全体を包み込み、遅れて爆風のような風が吹き荒れた。蹴られた球は、抗うように僅かに震え、やがて力強く前方へと射出される。

 

 蹴る瞬間、ララクのスキルが働く。破壊を防ぐため、球の内部構造が硬化している。鉄と氷と土が層のように絡み合い、ひとつの生命のように耐える。圧縮された地の力が形を保ちながら飛翔していくさまは、砲弾を超えた質量の奔流だった。

 

「っははは。リサイクル攻撃ってか」

 

 ゼマがバギーの上で笑う。風に髪を揺らし、棒を肩に乗せてその光景を見下ろしていた。

 

 警官たちが言葉を失う。整備士の一人は息を呑み、セブトルはハンドルを握る手を止めた。

 

「ユ、ユニットを使わずに、人力でこの巨力!? ヒドロFを圧倒した以上の力を持っているな……」

 

 その声が終わる頃には、岩弾が空中で影を落としていた。ララクの【大地蹴り】によって生み出された巨弾は、空気を裂いて飛び、ダム壁面の凍結層に命中する。

 

 土と鉄が混じり合った塊が衝突し、鈍い音と共に氷が砕ける。ララクが直前まで維持していた【アイシクルショット】の氷結壁が、今まさに力を取り戻すように崩れ、その隙間に巨弾が押し込まれていく。

 

 崩落しかけていた穴が、泥と鉄と氷で塞がれていく。水流が新しい道を見つけようともがくが、徐々に勢いを失い、流れが落ち着いていった。

 

 ダムの轟音が静まり、谷に冷たい風が戻る。ララクは着地の衝撃を掌で受け止め、息を吐いた。脚にはまだ、熱のような力の残滓が脈打っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。