祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
ララクは一気に踏み込み、アジドⅭへと飛び掛かった。
その手には【ウェポンクリエイト】で生成した金色の槍が握られている。金属光沢が夕焼けの光を反射し、空気を震わせるような音を放っていた。
「【刺突】!」
槍先が風を裂く。
しかし、アジドⅭは口の端を上げると同時に、肩口から淡く発光する透明な膜を展開した。
「この2対1は、面倒の極みだね」
彼女の言葉と同時に、槍がシールドに弾かれる。硬質な衝突音がダム上に響き、火花が散る。アジドⅭは軽やかに一歩下がった。
こうしてダムの上に、アジドⅭ、ララク、そしてダァフの3人が揃う。風が強く吹いている。
「ダァフさん、【獣血解放】を使用中ですか。その疲弊で使い続けるのは危険です。後方支援をお願いします」
ララクが短く指示を出す。その声音には焦りよりも確信があった。
「……了解した。ありがとう、まだ戦わせてくれて」
ダァフは荒い呼吸を整えながら頷く。
彼の身体を覆っていた赤黒いオーラが徐々に消え、獣のような瞳の光も静まっていく。肩の筋肉が緩み、腕に残った爪跡だけが戦闘の余韻を物語っていた。
「ボクは、ダァフさんに頼まれたから、あのエルフを追っていますから。……ただ今はもう、あの大犯罪者を野放しにしとく気は皆無ですけど」
ララクの目が鋭く光る。その視線を正面から受け止め、アジドⅭが笑った。
「私はこの国で、私を脅かす存在と長年出会わなかった。……ここで証明しよう。どんな壁が立ちはだかろうとも、それを粉砕したうえで、犯罪を完成させる力が私にあるってことをねぇ!」
その声には狂気と誇りが混じっていた。アジドⅭにとって犯罪とはただの行為ではない。存在証明そのもの。
その手に握られていたのは、異形の武器ユニット。
右手には、電流を帯びた蛇腹鞭【スパークヴァイパー】。
雷光が鎖の節を這い、金属の皮膚を這うように音を立てる。
左手には、黒い金属で造られた拳銃【グリードバレット】。
特殊弾倉を内蔵し、発射と同時に軌道制御を行う高精度兵装。
「見せてあげるよ、わたしの犯罪技術を」
アジドⅭが引き金を引く。
雷の閃光と共に、数発の弾丸が風を裂き、ララクへと迫った。
ララクは滑るように身体を傾け、すれすれで避ける。金色の槍を逆手に構え、反撃の機を窺う。
そのとき、ダァフの声が響いた。
「! おいララク、その弾丸は空中で停止するようだ……!」
「空中機雷!?」
振り返ったララクの目に、異様な光景が映る。
回避したはずの弾丸が空中で静止し、次の瞬間、球状に膨張していた。金属質の膜が薄く光り、内部で魔力がうねっている。
それがいくつも、宙に浮かんでララクとダァフの間を塞いだ。
道を断ち、後退を許さない配置。
「キミはよく動く子のようだからね~。制限しようね、動きを」
電光が走り、空気が焦げた。
ララクは槍を握り直し、前を見据える。
金色の刃が、雷光に照らされて鈍く輝いた。
「ダァフさん、破壊してください!」
「爆発するのが間違いなさそうだが……」
「それでもあり続けられるよりは、意識が敵に集中できます」
「理解したよ。そう願うならば……!」
ダァフの両腕が赤熱し、拳から溢れた炎が弾丸のように走った。熱気が空気を歪ませ、轟音と共に空中機雷へと直撃する。瞬間、白光が弾けた。
空気が裂け、衝撃波がダムの表層を削り取る。爆炎の中心から、熱風が波のように押し寄せた。
「……ボクは前に進みますが……!」
ララクは爆風の圧を利用して、身体をひねるように踏み込み、手に握った槍を投げ放った。
【戦槍投げ】効果……槍を投擲して攻撃する。
金色の槍が一直線にアジドⅭへ飛翔し、空気を裂きながら尾を引いた。その軌跡は陽光を反射し、刃先が一瞬だけ閃光の矢と化す。
しかし、アジドⅭの反応は速い。
「フッ!」
彼女の右手に装備された蛇腹の鞭〈スパークヴァイパー〉が唸りを上げた。鞭の節々から紫電が走り、槍を叩き落とす。雷光と金属音が交錯し、空気が焦げる匂いを放った。
その刹那、ララクの足元で岩盤が揺らぐ。
【グランドダイブ】
効果……地中に潜り移動する。
ララクの体が沈むように地へと吸い込まれ、次の瞬間にはダム壁の内部へと消えた。残されたのは一陣の風と、波紋のように震える石片だけ。
爆炎の連鎖が起こる。空中機雷が次々と誘爆し、光と音が連なって夜空のような閃光を作る。ダァフは腕を前にかざし、熱波を耐えながら歯を食いしばった。
「ララク!」
その叫びに応えるように、アジドⅭの足元で地面が盛り上がる。岩を弾き飛ばし、ララクが地中から飛び出した。両拳に力を込め、真正面から殴りかかる。
アジドⅭはわずかに口角を上げる。
「見たことのあるスキルのオンパレードだねぇ。……けど、足裏の銃口は見たことないだろう?」
その瞬間、アジドⅭが振り上げた脚の裏・そこに埋め込まれた小型の銃口から、閃光が閃いた。
足技を放つ動作と同時に射撃が行われる構造。彼女の最先端武装〈フットキャノン〉が唸りを上げ、至近距離で魔力弾が発射される。
「!? 全身に、武器っが! っぐ!」
ララクの視界が光に覆われる。直撃した衝撃で身体が宙に浮き、ダムの上を転がりながら滑り落ちていく。胸に焼けるような痛みが走り、耳鳴りが残る。
アジドⅭは鞭を巻き取りながら言った。
「研究と実戦の融合。それが最先端戦闘の真髄ってやつさ」
冷たく笑う怪集アジドⅭ。足の裏に装備を施すのは、実際に戦闘データを蓄積していったからこその変化球。地中から攻撃してくるモンスターも存在するし、【グランドダイブ】はそこまで珍しいスキルではない。いずれ戦う事になるかもしれない相手への策として、仕込んでいたのだ。