祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
ララクの体が転がり、石片を散らしながらダムの縁を滑っていく。その動きを正確に追い、アジドⅭはすでに次の射撃姿勢に入っていた。足裏の銃口だけでは終わらせないという構え。右手の拳銃型ユニットをターゲットへ向け、照準を極めていく。
その刹那、転がりながらもララクが腕をこちらへ伸ばした。
「【手裏剣殺法・牛突】」
乾いた音を立てて、黒い小型武器がいくつも射出される。手裏剣が風を裂いて一直線に走り、牛が角を突き立てるかのように二列へ分かれた。
一列は左手の〈スパークヴァイパー〉へ。もう一列は、発射直前の銃口〈グリードバレット〉へ。
アジドⅭの目に映ったのは、初めて見る異国の凶器。その形状と動きから、ただの投擲ではないと即座に理解したが、それでも回避が追いつかない。
金属がぶつかり合う鋭い音が響き、手裏剣が鞭の節に深く食い込み、もう一方は銃口内部へ。
「……っ!」
アジドⅭが引き金を引いた瞬間、内部で衝突が起きる。機雷弾丸と手裏剣が干渉し、小規模な爆発が発生。火花が四散し、圧力に押される形でアジドⅭは一歩後退した。
「うっつ! ……手裏剣なんて、どこのもんだいキミは……」
鞭も拳銃も、次の瞬間には手から離れ、石畳へ転がる。内部を破損した衝撃で連動機構がロックし、握ったままでは逆に危険だと瞬間的に判断したのだろう。
強化手袋が素肌を守り、致命的な火傷には至らなかった。それでも衝撃は骨へ響き、振動が腕の奥まで刺し込んだはずだ。
アジドⅭは手を軽く振りながら息を整えつつ、ララクを鋭く見下ろした。
手裏剣殺法。その武器の名だけは、アジドⅭは知っていた。それは異国ヒカゲの国で扱われる独自武器とスキル。アジドⅭにとっては未知の武器であり、未知の戦い方。
だからこそ、僅かに目を細める。興味と苛立ちが、同じ熱で燃え上がっていた。
ララクは転がった体勢から姿勢を整えようとしていたが、まだ呼吸が安定しきらないままアジドⅭの動きを見据えていた。エルフは軽く息を吐き、指先でマントの内側を押して隠し武器を探るような仕草を見せる。金属音は鳴らず、彼女は別の位置へと手を伸ばしていた。
「ふぅ、武器が尽きてくれると朗報なんですが……」
「そうだねぇ、まだ手段はあるが、キミに通用する武器という意味なら、これしか該当しないかもね~」
アジドⅭは手首を回し、小さく振動を確かめるようにしてから腰のベルトバックルへ触れた。金具が外れ、薄いカバーが落ちる。中に収められていたのは掌ほどのスティック。それを引き抜き、軽く握ったままボタンを押すと、伸びる音が空気を震わせていく。黒い棒は数倍の長さへ変形し、杖の形を整えた。
その動きは流れる水のようで、訓練の積み重ねが隠しようもなかった。セブトル刑事でさえ実際の使用を見たことがない秘匠の武器。アジドⅭは自身の手にぴたりと馴染んだ杖を軽く振る。
「魔法の杖、ですか。……(どんな機能があるのか、見た目からは想像できないな)」
ララクは構えを低くしながらも、距離を計っていた。この世界の杖は、使用者自身の魔力を強化する媒体。スキルをその杖へ流し込むことで精度や威力を高めるが、そのためには相性の良い専用の杖が必要だった。
アジドⅭは静かに足を開き、深く呼吸を吸い込む。その動作に合わせて杖の先端に小さな光が集まる。
「バイオとテクノロジーの融合。【シックツリー】」
杖先から淡い電光が走り、地面へと沈んだ。直後、振動が重力のような圧力を伴って地面の下から押し上がる。ダム壁の上。ララクやダァフが着地していたその平地から、複数の芽が次々と突き破る。その芽は瞬く間に枝葉へ成長し、さらに太さを増して樹木へと変化する。
「! 樹木系統!」
ララクの声が驚き混じりに漏れた。硬い地面を割り、土砂を押し退けて伸びる幹は、そのまま空へとせり上がり、連続して姿を増やす。樹皮が擦れ合う音、葉が生育に合わせて震える音が重なり合い、生態系が一瞬で形成されるような圧力があった。枝の影が重なって視界を分断し、風を遮り、空気が森の匂いで変質する。
スキルの中には物質生成の系統がある。毒、人工のモンスター、植物。そのどれも一般的ではあるが、ここまで大規模に森林のような量を生み出す者は限られる。ダム壁の横幅が、樹木に沈み込むように占領されていく。高い位置の枝はララクとダァフへ覆いかぶさるほどに伸び、低い位置の根は石材を踏み砕いて広がっていた。
これこそがアジドⅭの実力。伸び続ける枝葉の群れは、ダム上を緑色の迷路へ変えていった。