祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~   作:高見南純平

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第39話

「大規模スキル……木の弱点は……【フレイムショット】……!?」

 

 ララクは腕を構え、炎系統の魔力を掌へ集め始めた。熱の粒子が体表近くで揺らぎ、撃ち出す直前の圧が指先を焦がしそうになる。しかしその魔力を、彼は瞬時に霧散させた。理由は単純。樹木の方が、ララクの放つより一瞬早く赤熱していたからだった。

 

「……これが火力装置による加工・【シックツリー】炎上焼豊!」

 

 アジドⅭが握る杖は、黒い金属の根元に薄い管状の魔力回路が組み込まれた特殊装備。その構造は彼女の紋章と直結し、放たれる魔力を任意の属性へと書き換える機能を持つ。樹木系統のスキルをベースに、火力装置の熱を合成して生み出された結果が、目の前に燃え盛る希林だった。

 

 柱のように立ち並ぶ幹に火が宿り、内部の樹液が加熱されて爆ぜる音が連続で広がる。赤い光が視界の端で波のように揺れ、焦げた樹皮の匂いが風へ混ざっていく。

 

「炎耐性のある樹木……! だったら【ウォーターフォールウォール】!」

 

 ララクの前方に、水で形作られた四角形の盾が展開された。盾の表層はひとつの面ではなく、常に流れ落ちる滝の縦線で構成され、重さと冷たさを伴う水の塊として迫り来る熱へ対応する。上から落ちる水は厚い膜となり、視界を半透明の揺らぎに変えていく。

 

 炎を帯びた樹木が滝の盾へ衝突した。燃え上がる枝葉は水に触れた瞬間に蒸気を上げ、赤い光が白い靄へ姿を変えて散っていく。炎の勢いは水流によって押し戻され、幹は軋みながらも勢いを失っていく。

 

 しかし、地面は止まっていなかった。ララクの足元の石材を裂くように、別の樹木が次々と生えてきた。盾の真正面を避けた位置から、アジドⅭは成長方向を変えて迫らせていた。

 

「なら覆えば!!」

 

 ララクは滝の盾を手前に引き寄せるのではなく、地面と平行に向かって倒すように展開した。大きな水の板が上から覆いかぶさる形で広がり、地面から生まれる芽に流れ落ちる。芽は成長し切る前に水圧で砕かれ、枝になるはずだった繊維の束が霧散する。

 

 それでも突き抜けてくる幹はあった。だが勢いを削がれた数は大幅に減り、ララクが水平移動するだけで避けられる程度にまで弱まっていた。水流の音と燃える木の高い音が混じり、ダム壁の上が煙と水飛沫で満たされる中、ララクは次の攻撃へ備えて姿勢を低く保った。

 

 だが、ララクが守るべき存在は自分だけではなかった。滝の盾の向こう側、後方支援を任せていたダァフの叫びが突然響いた。

 

「だ、がぁ! か、体がぁ……!」

 

 燃える樹木が地面の裂け目からせり上がり、熱を孕んだ枝葉が何本もダァフへ絡みついていた。幹が腕に巻き付く瞬間、樹皮の内部で赤熱した樹液が弾け、飛び散る火の粒が肌へ痛みを刻む。締めつけと高温の両方が同時に襲い、ダァフの体から焦げた匂いが風に混ざる。

 

「ダァフさん! ボクより距離があったはずなのに……!」

 

 通常、スキルの発生点は使用者の至近。その方が魔力の集中が早く、意識のブレも起きにくい。遠距離へ出現させようとするだけで予備動作は長くなり、詠唱に似た集中が必要となる。距離が離れていれば敵に容易に避けられ、発動の効果範囲も狙いを外しやすい。だから、近接発生はスキル運用における最適解。

 だが、アジドⅭはその常識を完全に無視していた。

 

「……この国では、全ての常識が過去の知識となる、んだよ~ん。出現位置もブーストしてるんだ~」

 

 アジドⅭが握る杖は、黒い金属骨格に複数の魔力管が走る特殊ユニット【シックツリー・コアロッド】。魔力増幅、属性付与、展開速度の強化、そしてスキルの出現位置そのものの拡張まで行う。射程を伸ばすだけではなく、発生点の制御を可能にした調整は、彼女の使用人ヒドロFが長年かけて施した成果だった。

 樹木はアジドⅭの足元ではなく、ダァフの足元で直接生えた。地面の奥から押し上げられた幹は、そのまま人の胴を掴むように締め付けている。

 

「急速に冷やします! 【ウォーターフォース】+【クールフォース】!」

 

 ララクは炎の樹木へ攻撃するのではなく、ダァフの体表へ意識を向けた。フォース系統は、対象そのものへ効果を直接付与するタイプのスキル。魔力の流れを相手に触れずに送り込むことで、属性や状態を強制的に変化させる。

 ただし敵対相手には反発が起き、魔力そのものが弾かれて失敗する。だからララクは樹木への干渉ではなく、ダァフという味方を選んだ。

 

 ララクの掌から送り出された水の力が、ダァフの体に薄い膜のように広がる。瞬時に冷気が重なり、蒸気が立つほどの温度差が発生する。燃え付いていた枝の先端が白く曇り、締め上げる幹の表皮がぱきぱきと音を立てて収縮した。

 ダァフの顔は苦痛に歪んでいたが、水と冷気の膜が、炎と圧迫を抑える形で機能し始めていた。

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