祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「っぐぅ、体が爆離しそうだ……!」
ダァフの声には、焦げた空気を震わせるほどの苦痛が滲んでいた。炎の熱が皮膚にまで侵入しようとし、その直後にはララクが付与した水と冷気が一気に体表を奪う。灼熱と冷却が交互に押し寄せ、筋肉の奥で泡立つような、内側から弾ける錯覚に近い不快感が走る。ダァフの呼吸が浅く乱れ、肩が震えた。
「今すぐに!」
ララクは滝の盾を一度解除し、地面を蹴ってダァフの方へ駆け寄ろうとした。その足が動いた瞬間、アジドⅭが杖の先を軽く傾け、低い声でスキルを発動する。
「【シックツリーズ】鉄電茂隆!!」
発生点が一瞬で震えた。ララクはその気配を察知し、木々の出現位置にあらかじめ水の盾を設置しておいた。だがそれを突き破る衝撃が、予想を一段上回る速度でやってきた。滝の壁が大きく揺れ、水が四方に飛び散る。その奥から、光沢を帯びた灰色の幹が伸び上がる。
鋼鉄の質量を持つ樹木は、立ち上がる勢いのままララクへ迫り、その側面がララクの腕と胴を弾いた。貫通こそしなかったが、重い擦過が一気に全身に走る。制服の布地に切れ目が走り、肌にいくつもの裂傷が刻まれた。
「!? こ、鋼鉄の樹木!? っがぁ……!」
鋭い痛みに歯を食いしばる間もなく、幹に走っていた電流が一気に放出される。金属表面に沿って青白い光が走り、ララクの体へ痺れが叩きつけられる。膝が瞬間的に落ちかけ、指先の感覚が揺らいだ。
【シックツリーズ】は本来ただの樹木。だがアジドⅭが握る特殊ステッキ【シックツリー・コアロッド】が加わることで、樹木の構造を自在に変化させる。鉄化、帯電、生育速度の強化。そのすべてが今の一撃に重ねられていた。
「おやや~、もう止めさせそうじゃん。逝っちゃおうか、子供くん」
アジドⅭがにやけたまま杖の先端を回す。ララクへ向けて、次の強化樹木が生える予兆が地面に走った。彼女は迷いなく追撃の体勢へ移り、その杖がわずかに光を帯び始める。
「……ボクも……攻めてますよ」
ララクは息を荒げながらもアジドⅭを睨み続けた。痛みと痺れで体はふらついているはずなのに、視線だけは揺らがない。その表情の変化に、アジドⅭが小さく眉を寄せた。
「?? スキルなんて発動しては……!?」
彼女は違和感の正体をすぐにつかむ。ララクからではない。自身の左側。すぐ近くのダム湖が不自然に盛り上がる。水面が山のようにせり上がり、その中心が裂けていく。そこから姿を現したのは、鋭い背びれと三角の頭を持つ巨大な鮫だった。湖水の一部が形を成した、透明な魔獣だ。
「……捕食しろ。【水鮫魔操撃】……!」
ララクは水の盾を創り出した時点で、この鮫をすでに召喚していた。ダム湖の奥深くに潜ませ、アジドⅭの位置へと泳がせていたのだ。途中、ダァフへのフォローが割り込んだものの、鮫の進路はほとんど狂うことなく進んでいた。
そして今、水鮫は大きな水柱とともに湖面から飛び出す。身体が太陽光を受けて青く光り、重い水飛沫が空気を打つ。ダム壁の縁まで跳ね上がり、アジドⅭの頭上に影を落とした。
「!! シールド……」
アジドⅭが防御ユニットを展開しようと腕を上げたが、その動きが完成する前に水鮫が突撃した。水で構成された歯がまず狙ったのは、アジドⅭの手にあるステッキだった。噛みつかれた瞬間、ステッキが鈍い音を立てて歪み、そのまま水流の力に押し込まれるように砕かれていく。
防御の要を奪われたアジドⅭはそのまま鮫の水流に巻き込まれ、体ごと跳ね飛んだ。濁った水が彼女を包み、姿勢が乱れる。地面に転がりながら、濡れた髪が張り付き、服が重く沈む。鮫の衝撃が直撃し、大きく息を吐きながら咳き込んだ。
アジドⅭの周囲には、砕けたステッキの破片が水と混ざり散乱したままだ。