祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「つまり、資金調達ってことですね。ですが、そんな高額なクエストがあるかどうか……」
ララクは顎に手を当て、少し考え込む。クエストは基本的にモンスター討伐が中心で、依頼主が個人の場合も多い。報酬の大きさは内容次第で、成功しても一時の金になるだけのこともある。だが、この国には未知の要素が多かった。最先端技術が絡むクエストが存在するのなら、想像を超える報酬も期待できる。
「……最初の立ち上げ資金として利用するだけの報酬を得られる方法がある。……詳細は街で話した方が分かりやすいと思う。……問題、というか大前提として協力して貰えるのか? あなたたちは、ここに来たばかりだ。勿論、そうして欲しくて、ここまで来て貰ったんだが」
スカベンジャー・ダァフの獣耳がわずかに横へ倒れた。その仕草には、期待と同時に怯えるような迷いがあった。彼は戦力としてララクたちを頼ったが、初上陸の異国で、こんな厄介な問題に関わってもらえる保証などないと分かっている。
「……ボクたちは世界を旅しています。その中の1つが、こんなに廃れているなんて、しかも人の手で。心に来るものがあります」
ララクの声は穏やかだったが、その瞳には確かな決意が宿っていた。彼にとって旅とは、ただの冒険ではない。世界の仕組みや痛みに触れ、それを理解するための行いでもある。
「だね~。それに私たちが直接どうにかするわけじゃないんでしょ~。戦闘力が必要ってことなら、私もいい線行ってると思うし。どうせ、クエストかなんかはしなきゃいけないんだし」
ゼマはそう言って、背中のクリスタルロッドを軽く掲げた。光を反射するそれは、彼女の職能である戦闘医の象徴。彼女が本気を出せば、戦線を維持しながらの治癒もこなせる。その自信が、言葉の端々ににじんでいた。
「正式に決めるのは後にして、計画は聞きますよ。ダァフさん、あなたの志は、聞いただけで尊敬に値しますから」
ララクの言葉に、ダァフは静かに息を吐いた。わずかに俯き、心の底からにじむ安堵がその表情に浮かんだ。
「……幸運だった。ここに来て、力があり環境改善に興味がある、あなたたちと出会えて」
灰色の風が、壊れた街の隙間を通り抜けていく。その音は、沈黙の中にわずかな希望を運んでいた。ララクたちの出会いは、国の汚れた空気を変える最初のきっかけになる。そんな予感が胸の奥で小さく灯っていた。
◇◇◇
工場地帯にある酒場にて。昼間は食堂としても営業しており、天井が高く広い。昼のピークを過ぎ、今は数組の客が残っているだけで、静かで落ち着いた空気が漂っていた。鉄と油の匂いが微かに残る店内は、現場仕事の者たちの憩いの場でもある。
スカベンジャー・ダァフは、煤けた服に油汚れが染みつき、鼻をくすぐるような金属臭がした。だがララクもゼマも、同じ環境を通ってここまで来た身であり、その汚れはむしろ自然な一体感を生んでいた。
ダァフは壁に貼られていた紙を一枚はがし、テーブルの上に置いた。木の机に紙が擦れる音が響く。彼は腰を下ろしながら言った。
「これがさっき俺が言った、資金の方法だ」
紙には、一人のエルフの姿が写っていた。正面からではなく、遠くから撮られたような構図。長い耳と透き通るような白い肌、そして派手なマントをなびかせる衣装姿。下部には黒々としたフォントで、こう書かれていた。
〈怪集・ファントムシーフ アジドC。目撃情報、盗品回収求む〉
その周囲には、盗まれたと思われる製品のスケッチが並ぶ。義足のような精密機器、円盤状の端末、家電のような装置。どれも高度な技術で作られたものばかりだった。
「とんでもない金額が書かれてますね」
ララクは報酬額の桁を数えて、眉をわずかに寄せた。
「1、10、100、1000……うーわ、眼がちかちかしてきた。これって、懸賞金ってやつ?」
ゼマは目をこすりながら笑う。額に書かれた報酬は、個人で受け取れば一生どころか、数世代遊んで暮らせるほどだった。
「ああ。俺が生まれる前から、犯罪に手を染め続けている、らしい」
「生まれる前!? 40にも見えないぐらいだけど。綺麗な肌してるし。っあ、そっか」
「エルフは人間の倍以上の寿命を持つと言われています。この見た目で、100歳近い可能性はありますね」
ララクが冷静に補足すると、ダァフは無言でうなずいた。
長寿族エルフ、アジドCという怪盗は、この国で長年活動を続けている。技術の発展とともに盗みの手口も進化し、被害は国家単位に及ぶという。その紙を見つめる3人の間に、重く現実的な空気が流れた。