祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~   作:高見南純平

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第7話

「この怪集、と呼ばれる女を捕まえることが出来れば、この国を、あのエリアを救える足がかりになると思う。といっても、長年野放しになっているから、この金額だ。……ぜひ、ララクくんたちの力が欲しい」

 

「……興味が惹かれますね、エルフの大怪盗。それに怪集という言葉が気になります。どれだけの製品を盗んだのか」

 

「へ~、捕まえるってことは、この女に会うんでしょ~。スキンケアでも聞こうかな」

 

「さすが、この張り紙を見て、余裕があるとは。それにゼマさん、何もしなくても肌綺麗じゃないですか」

 

「っは、褒め上手か、このやろう~」

 

 と顔もあまり洗わないゼマが、ララクの事を小突く。ヒーラーである彼女は、常に健康的。それゆえに酒をいくら飲もうとも、体が荒れることはあまりない。

 

「答えは、了承、でいいんだよな。本当に感謝する。……しかし、その力を発揮してもらうためには、まずはこの存在を掴まなければ。ここに連絡してみる」

 

 ダァフは紙を持って立ち上がり、ボロボロの携帯電話を取り出した。画面にはひびが入り、外装も色褪せている。それでも、彼の手際には慣れがあった。紙に書かれた警察の連絡先を確認しながら、慎重に番号を押していく。

 

 この国の街には、電線や電波塔が点在しており、国内であれば通信は可能だ。ただし国外には一切通じない。

 

 電話の呼び出し音が、静まり返った建物の中に響く。外の空気は淀み、風もほとんど流れない。ララクとゼマは壁にもたれながら、その様子を見守っていた。

 

 こうして正式に作戦に参加することになったララクたちは、ダァフが通話を終えたのち、話を聞きに来るという警察官が到着するまで待つことになった。

 

 

                ◇◇◇

 

 

「君らが、情報提供をくれるという人たちだね? 派遣されたセブトル・ザーファだ。座っていいかな、いいよね」

 

 と警察手帳を出したのは、スーツに薄手のジャケットを羽織った中年の女性だった。目元にはわずかな苦労じわが刻まれており、髪はうねりの強いもしゃりとした質感で、明らかに天然物。見た目こそ落ち着いているが、声には癖がある。

 

「っぁ、えっと、情報提供して欲しいのは、こちら側でして……」

 

 どうやら早々に話が食い違っていることに気づいたララクが、慌てて訂正する。

 

「ん? ……っち、参加者の方か。っか、受付のやつ、ちゃんと報連しっかりしろっての」

 

 と自分に連絡を回した同僚にいら立ちを隠せない様子の刑事セブトル。舌打ち混じりに書類を叩きながら、椅子を引いて腰を下ろす。

 

「態度わる。国家の犬がそんな口調で言いの?」

 

「お嬢ちゃんも口悪いだろ。内容に出てる」

 

 険悪というより、むしろどこか通じ合うようなやり取りだった。ゼマと刑事セブトルは、初対面にも関わらず、皮肉の応酬で妙に場が和む。ララクはその空気に苦笑しながら、必要な話を切り出した。

 

「怪集、アジドCについて詳しく知りたい。俺は外育ち、この人たちは外国から来ているから、まずは敵を知りたいんだ」

 

「っふん、見聞目的で私を呼ばないで欲しいが、まぁ、タイミングは悪くない。ちょうど人員がいる。話をする代わりに、手を貸せよ。……外育ちなら戦えるだろう」

 

 セブトルは椅子にもたれながら、スカベンジャー・ダァフの全身を鋭く見定める。彼の装備は、メンテナンスされているのかも疑わしいほどの錆と汚れに覆われていたが、その使用感こそが、彼が幾度も戦闘を潜り抜けてきた証だった。

 

「……俺らはそれが目的だからな。丁寧に話して欲しいものだ」

 

 ララクたちには見せなかったが、外育ちダァフの眼差しはほんの一瞬、刑事セブトルにだけ敵意を滲ませる。外育ちと中育ち。この国の中では、それだけで隔たりがある。わずかな会話の中にも、見えない線が確かに存在していた。

 

「それじゃあ、赤子猿でも分かるように説明しよう。怪集アジドⅭは、60年ほど前から犯罪行為を繰り返している。これが、変わらない女の成長記録だ」

 

 女刑事セブトルは、内ポケットから数枚の写真を取り出してテーブルに並べた。全てが鮮明なカラー写真だった。ララクのいた世界では、こうした高画質の写真はまだ珍しかった。最先端技術が集まるこの国ならではの記録だと、彼は感心する。

 

「若いけど、60年であんまり変わってないやん。それになんかポーズ決めるし」

 

 ゼマが身を乗り出して写真を覗き込む。遠距離から撮られた全身写真の数々。どれもアジドⅭの素顔がくっきり写っており、逃走中のものというよりは、むしろ余裕を見せつけるような構図ばかりだった。長い耳を揺らし、片足を軽く上げてポーズを取る姿さえある。

 

「舐められてるんじゃないか、警察が。そう強く思わせる」

 

 外育ちの狼ダァフがつぶやくと、セブトルは唇を引き結びながら答えた。

 

「安易に馬鹿にするな。これは先輩、こっちは大先輩、んでこっちはかつての警視総監になられた方が撮られた写真だ。こうやってバトンを受け継ぎながら、アジドⅭを追ってきた。何度も追い詰めたが……逮捕に至らなかった。あいつは最新機器を盗み、それを転用する。それに何度も阻まれてきた」

 

 言葉の端々に、積もり重なった悔しさが滲んでいた。先輩たちの無念。幾度も手が届きかけては逃げられた現実。そして今も捕らえられないという事実。その影には、世間からの冷たい批判と、内部からの圧力もあるのだろう。

 

 ララクたちは互いに視線を交わした。彼らの知らない国の闇。その深さと、アジドⅭという存在の異常さが、写真の中からじわじわと伝わってくるようだった。

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