祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~   作:高見南純平

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第8話

「それで、この懸賞金ですか……。大犯罪なんですね」

 

 ララクは顎を触りながら紙を見つめた。大金を得る手段そのものは見つかったが、それを本当に達成できるかどうか。その不安が胸の奥で広がっていく。最先端の国が60年もの間、捕まえられなかった盗賊を自分たちが仕留められるのか。そう考えるだけで、額に冷たい汗が浮かぶ。

 

 その時、狼の耳をぴんと立てたダァフが口を開いた。

 

「なぁ、そもそもこの金額を、国が廃棄汚染に関する事業に出資すれば、いくらか研究が進むんじゃないのか? 俺の目的は、この金そのものだからな」

 

 現場で油まみれになって働いてきた彼だからこそ、金の価値を痛感している。そんな巨額が一人の犯罪者に懸けられていること自体、納得がいかなかった。

 

「……そうか、君は外を改善したいんだな。……残念だが、大人の事情は複雑なんだよ」

 

 セブトルは溜息をつき、テーブルに置かれた手配書を指で叩く。

 

「こんなにもアジドⅭに懸賞金が懸けられているのは、これらの盗品に関して企業側が報奨金を出しているからだ。最新機器、義肢、家庭用端末……どれも大企業の製品だ」

 

「だったら、その企業とやらに促せばいいだろう。発展させた責任をとれと」

 

 ダァフの三日月のような鋭い視線が、セブトルを貫く。対する彼女も怯まず、瞳に怒気を灯した。年齢差など関係ない。信念と現実をぶつけ合うような空気が漂う。

 

「そう簡単に循環はしないと言っているだろう。私だって環境破壊を問題視はしている。だが、この国はそうやって発展してきたし、アジドⅭも野放しにできない。奴は最新の研究データも盗み、そのせいで長い年月、研究が先延ばしになっているとも言われている」

 

「っは、やはり警察の力不足のせいじゃないか。外のみなは、ずっとこの腐敗の改善を求めていたというのに」

 

「だからそれだけ相手が……!」

 

 声を荒げ、セブトルは椅子を鳴らして立ち上がった。今にもダァフに詰め寄りそうになるその肩を、ゼマが慌てて抱き止める。

 

「ヘイポリス、リラックス~」

 

 明るく軽い声が、張り詰めた空気をやわらげる。ゼマは彼女をなだめながら、ララクに目で助けを求めた。

 

 ララクは深く息をつき、ダァフに向き直る。

 

「わざわざ来てくださったんです。もう少し平穏に行きましょうよ」

 

「……申し訳ない。外の事になると、血が頭に溜まるんだ。吐き出すよ」

 

 ダァフは鼻から勢いよく息を吐き出す。煙のように荒れた空気が抜け、静けさが戻る。彼なりの深呼吸だった。

 

「まぁでも、否定できるって素晴らしいじゃないですか。反論できる材料があって、それだけ信念があるってことだと。……よそ者ながら、お二人の背景とこの国の事情は把握しました。……目的は同じな訳じゃないですか、協力しないともったいないです」

 

 ララクは手配書をテーブルに軽くこんこんと叩いた。声は穏やかだが、その目は真剣だった。確かに、目的は重なる。ダァフの願いとセブトルの執念、そのどちらもアジドⅭの捕縛によって実現に近づく。

 

 ダァフは一度だけ深く頷き、背中の緊張をゆるめた。セブトルも書類を軽くまとめ、警察手帳をポケットに戻す。互いの立場は違えど、今は同じテーブルを囲む仲間だ。

 

 酒場の窓から差し込む光が、煤けた机の上の手配書の文字を淡く照らす。それぞれの思いを胸に、彼らの小さな同盟は静かに動き出した。

 

「失敬したな。それじゃあ、奴を追い詰めるための話をするか」

 

 セブトルはスーツの襟を軽く触れた。一般市民相手に熱くなりすぎたことを反省しているようだった。

 

「アジドⅭ。この人の所在については何かわかってますか……って、判明していたら今警察が向かってますよね……」

 

「居住は街の近辺を転々としている。少し前に大企業の研究室に忍び込み、高電圧発生装置なる物を盗み出した。それからまだ活動はしていない……のだが、個人的に奴の仕業だと勘ぐっている事件がある」

 

 セブトルは鞄から新たな資料を取り出した。ノートサイズの紙には、仰々しいフォントで文章が並んでいる。

 

『サイエント工場では、秘密裏に製造工程を簡略してコストを削減している。それにより、品質が下がった製品が納品されている。街のインフラを支える機器を製造しているとは思えない所業である』

 

『サイエント工場では、業務員が喫煙飲酒などを繰り返し、仕事に支障をきたしている。あまたのハラスメントも横行している模様』

 

 紙面には、工場内部の不正や怠慢を糾弾する文言がびっしりと記されていた。

 

「……サイエント工場というのは、具体的にどういった業務を?」

 

 ララクが尋ねる。この国の構造や産業に詳しくないからこその素直な疑問だった。

 

「……この工場エリアいちの製造会社と言えるだろうな。ここにも書かれている通り、ゴミ処理場、発電所、このあたりだとカベキ・ダムで使用される大型の機械を製造している。コンベアや焼却機とか、まず一般家庭では使われないような物さ」

 

「……なるほど、これが本当なら大問題ですね」

 

「真実じゃなくても、もう世間が騒いでんだよ。これが工場地帯のそこら中にばらまかれたからな。事実確認はされていないが、噂だけでも不評被害を受ける。かろうじて工場は稼働出来てるみたいだがな」

 

 セブトルは同僚たちから共有された情報を、重い口調で続けた。彼女自身はこの事件に最初から関与していなかったが、刑事としての直感が騒いでいた。

 

「んで~、これがあのエルフと関係があんの? っあ、そいつがこんなのせっせと刷ってばらまいたってこと?」

 

 ゼマが自分なりに整理しながら問いかける。

 

「誰もその姿は確認しているわけではないが、私の100%の勘が、そう睨んでいる」

 

「……刑事のってやつか。だが、奴は盗賊、大怪盗ってやつなんだろう? 関連性を説明して欲しいな」

 

 ダァフが目の鋭さを少し和らげて言った。この刑事を貴重な情報源と考えて、あえて歩み寄るような声音だった。

 

「彼女をよく知っている者の中では、周知の事実が1つある。それは、彼女がコレクションしているのは、宝石や新技術製品だけではないということを」

 

 セブトルの声には、経験を積んだ刑事の重みがあった。特別機密というほどではないが、首都圏以外の者にはまず知られていない事実。ララクたちは息をのんだ。

 

「工場……なんて言わないですよね?」

 

「……ふ、はは。面白い発想だな、君。……その可能性も否定はできない。奴の目的は常人には理解できないからな。怪集・アジドⅭのもう1つのコレクションとは、犯罪歴、さ」

 

 突拍子もない言葉に、3人は一瞬目を見開き、そして思わず顔をしかめた。

 静まり返った室内で、誰もすぐには次の言葉を見つけられなかった。

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