祝・追放 100回記念 特別編~犯罪コレクション~ 作:高見南純平
「えっと、犯罪、歴……って、コレクションするもの、なんですか……?」
「暴行とか、強盗とかだよなぁ。……そう言えば、アジドCの誘拐事件とか、新聞に載って流れてきたな」
「被害もいとわないタイプの怪盗だ。厄介そうだな~、変人の匂いが臭すぎる」
三者三様の感想が、沈んだ空気の中にぽつぽつとこだまする。
「初期はジュエルや絵画など、わかりやすい宝だけを狙う盗賊だった。しかしそれで満足できなかったんだろ、あいつは様々な犯罪に手を染めだした。詐欺とか、怪盗とは程遠い事件も起こした。今から読み上げるから、叩き込めよ」
セブトルはジャケットの内袋から手帳を取り出し、丁寧にページを確認しながら読み上げ始めた。
「窃盗罪、強盗罪、詐欺罪、横領罪、略取誘拐罪、脅迫罪、恐喝罪、放火罪、器物損壊罪、不正アクセス罪、文書偽造罪、賭博罪、人身売買罪、違法輸出入罪、不法投棄罪」
「ちょ、っちょっと、中断してください。耳には入ってくるんですが、定着がしません」
ララクが両手を上げて制止する。早口言葉のように、一切噛まずに次々と罪名を読み上げるセブトルに圧倒され、思わず体が固まる。手帳のページはびっしりと文字で埋め尽くされていた。
「あ──ー、法律は苦手なんだ」 ゼマは両耳を塞ぎ、頭を抱えた。
「……つまり、記録のコレクションってことか。悪趣味、罪深い女だな」
ダァフは視線を低く落とし、育ったスラム街で見てきた犯罪者たちと、今目の前にいるアジドCとの違いを思い知らされる。規模も、質も、桁違いだった。
「法の歯がゆいところで、これもぜーんぶ容疑だ。逮捕状は全て手配しているが、彼女はこれまで一度も逮捕されて、いや、できていない……」
警察の無力さ。先ほどダァフに指摘された部分を、誰よりも痛感しているのはセブトル自身だった。
「推定無罪……という原則を聞いたことがあります」
ララクは小さく頷く。祖国で耳にしたことのある言葉が、ここで生きていると感じた。
推定無罪とは、裁判にかけられ、その人物が有罪と判決されるまでは、あくまで無罪として扱うという理念。
「……私もその考えには賛成だ。法とは、真実とは、複雑で確定させるのが難しいからな。……だが、奴にだけはその言葉は適用されないっ! ……と、勝手に思ってる。アジドC自身が、犯罪を犯すことを生きがいとしているからな。……本人がそう供述していた」
「本人……セブトルさんは、相対したことがあるんですね」
「……もう少しで、私の手錠に括り付けることが出来たんだ。……この事件を、奴の罪を確定させるチャンスにする」
セブトルは勢いよくサイエント工場に出された怪文書を叩き、紙の響きが部屋の空気に鋭くこだました。
「はぁ、んで、この工場でやろうとしてる犯罪はなんなのさ」とゼマが法律の話になんとかついていく。
「おそらく業務妨害罪。アジドCは結果的に、様々な企業の業務を妨げているが、それを目掛けて事件を起こしたことはない」
「なるほど……、それで悪評のビラ配りですか」
ララクはとんでもない話と動機だと思いながらも、納得してしまう。犯罪コレクションなる物を認めていいのかは甚だ疑問だが、繋がりは見えてきた気がする。
「……奴の具体的な目的をさぐるにも、まずはこの目で調査する必要がある。これから、私は工場で聞き込みをする。……わざわざ連絡してきたんだ、ついてくるよな? こなきゃこの会話が全て無駄すぎる」
「ええ、言い方は良くないと思いますが、この人に冒険者として興味がそそられています。勿論、捕まえるのがゴールということは承知しています」
今まで出会ったことがないタイプの大犯罪者の情報に、少し好奇心が燻られているララク。まだ見ぬ強敵。その力も気になるところだ。
「私、腹減ったんだけど。勉強すると、空腹が加速する」
だらんと両手足を広げるゼマ。小難しい雰囲気がずっと流れていたが、彼女の一言で空気がほどけていく。ここは酒場だ。煮込みの匂い、焼いた肉の香ばしさ、香草の香りが混じり合い、腹を刺激するように漂っていた。
「……久しぶりに外食を堪能するか」
鼻を軽くはじくように笑うダァフ。彼は狼人、獣人。その多くは人よりも五感、とくに嗅覚が発達していると言われている。腹の虫が鳴くのも自然なことだった。
流れで腹ごしらえをすることになり、注文取りに来たウェイターに最初に頼みだしたのは、二人同時だった。
『ビーフステーキ』
「ビーフステーキ、お2つですね」
ウェイターの女性はにっこりと笑みを浮かべる。テーブルの先には、都市刑事セブトルと、過酷な環境で育ったスカベンジャーのダァフが並んで座っていた。
「っは、ははは。いがみ合ってたのに、気が合いすぎ。っふ、私も同じの~」
「ここは流れをよんで、ビーフステーキを4つに変更お願いします」
高らかに笑うゼマと、それに便乗するように自分も同じものを頼むララク。
「っち。ちゃんと私の仕事を手伝えよ、若いの」
「こっちの願いだ。……歳……、ベテランの」
言葉を詰まらせるダァフ。その一瞬をセブトルは逃さなかった。
「今、歳とったって、言おうとしたかぁ!? あのなぁ、このしわの1つ1つが、歴史なんだぞ」
「俺は別に茶化したつもりはない、言葉を選んだだけだ。歳を気にして過ぎているのは、そっちの勝手じゃないか」
またしても火花が散るような言い合い。しかし、ゼマとララクは止めなかった。二人とも、にこにこと笑っている。
『笑うな』
声がぴたりと重なり、ダァフとセブトルの眉間に同時に皺が寄る。
心配はあるが、心配なさそうだとララクは見守るのだった。