鬼人のギンって知ってっか? 作:目の隈が凄いギン
目を覚ましたら見知らぬ民家のベッドで寝ていた。
家主から聞いたんだがどうやら俺が気絶した後ミホークが海賊達を全員斬り伏せたらしい。去り際に鬼人が目覚めたら精進を怠るなと伝えろと言って何処かに行ったらしい。
いや自由過ぎだろ。
ま、何にしても命からがら生き残った事は素直に嬉しい。
普通に生きるか死ぬかの瀬戸際過ぎて、今もちょっと現実味を感じないしな。
ただ今回の戦闘で得た経験は大変貴重なものだ。遥か格上の存在との戦いってのは自分を成長させるのに重要な要素だ。
実際武装色の覇気の練度がミホークと戦う前よりも上がっている。纏う速度も。
何よりも死を目前としたからか、見聞色の覇気も目覚めた気がする。
たった一度の戦闘でここまでの成果を得られたのはなによりも僥倖だ。まぁくっそ疲れたけど。
面倒を見てくれた家主にお礼を言って、俺は家を出た。
さぁてと、この経験を無駄にしないためにもいっちょ海を泳いで別の街に向かうか。
因みに泳いで次の街に行くと家主に伝えたら全力で止められた。
そりゃそうか。
「ありがとうギン! アンタが来てくれたからジジイも俺も助かったよ!」
「すまねぇな。まさか東の海でんな無茶をする奴がいるとは思わんかったが。助かったぜ」
なんか泳いでいたらサンジとゼフに会ったんだが、しかも何も無い岩山のあの名シーンの場所で。
俺が来た時には既に憔悴していたサンジ達に取り敢えず適当な魚(クソでかい)を捕って食べさせた。
寄生虫とかそういうのも気になるから本当は焼きたかったが、燃やせそうなものが殆どなかったからなぁ。
「こんな何も無い所に船じゃなくて人が来るとは思わなかったよ」
「いやね、ちょっとした修行で次の街まで泳いで行こうと思ってな」
「……どんな修行?」
サンジにドン引きされて軽くショックを受ける。
「けど、その修行のおかげで俺とジジイが助かった訳だから、感謝しかねぇよ!」
うーんショタサンジ可愛い!
この笑顔を守れたなら自分はオーケーです!
「この恩はいつか必ず返す。ギン、おれとサンジでいつかレストランを開く。その店ではお前は何を食っても無料だ」
「まじ!? いやぁ~最高な恩返しじゃないっすか!」
「お、俺も作ってやるからな! まだ何も出来ねえけど……」
「サンジの料理の腕は絶対世界最高になるさ! 今から楽しみだなぁ~」
心の底からの言葉にサンジは一瞬ポカンとした顔をしていたが、次の瞬間照れたように赤くなる。
実際サンジの料理の腕は凄いしな。これからきっとレストランバラティエが出来るだろうし、あの店の料理を無料で食べれるとかもう最高でしょ。
今から楽しみで仕方ねぇよ。
「じゃあ俺が店で出せる料理が出来たら絶対食ってくれ!」
「勿論さ! 嫌だって言っても食うからな」
二人で約束を交わしてニシシッ! と笑い合っていると、ゼフが徐ろに口を開く。
「オメェは何か夢はあるのか? ギン」
「夢? そうだな……」
この世界で叶えたい夢か。そういうのあんまり考えたことがなかったな。
「なんなら俺のオールブルーの夢を一緒に追いかけたっていいんだぜ?」
「嬉しいお誘いだが、それはサンジの夢だからな。俺は……そうだ。誰よりも自由にこの世界を冒険することかな」
言葉にしてみて思う。よく考えたらあのワンピースの世界だ。想像以上の体験がこれから先待っている筈。暇なんて言えないぐらい途方もない大冒険が待っている。
例えば空島、或いは世界政府が隠し続ける秘密、悲しいことも楽しいことも含めた全て。
「誰よりも自由な冒険か。いいなそれ」
「だろ? 邪魔する奴はぶっ飛ばしてこの世界を楽しむってなもんだ」
「なら力をつけることだな。ま、オメェの実力ならこの前半の海、いやグランドラインでも問題はないだろうがな」
あの赫足のゼフにそう言ってもらえるなんて、くぅっ! うでじい!
「グランドラインまでを案内してやりてぇが、おれはもう前みたいにはいかないからな」
「ジジイ……」
ゼフが静かに自分の失った利き足を見つめる。
非常に残念な事に俺が来た時点ではもうゼフは自分の足を切断していた。
「すまない。俺がもっと早く来ていれば……」
「よせ。オメェが来なければこうやって夢を語ることすら出来なかったんだ。それ以上を望むなんて罰が当たる。それにな。おれは何も後悔をしていねぇんだ。この判断をな」
その言葉にサンジは涙を堪らえようと必死に歯を食いしばるが、ポロポロと溢れる涙は絶え間なく流れる。
ゼフの覚悟とサンジの涙に不覚にも涙腺が緩くなる。
俺が来るまでにたぶん原作のような壮絶な体験をしていたんだろう。
飢えの苦しみ、絶望は計り知れない。これだけは経験した者にしかわかることはないんだと思う。
「ふ、ふん! 俺がジジイをすぐ追い越して、そんで、そんでレストランを立派に大きくしてやるよ!」
「鼻タレ小僧が! 料理ってのはな、そんな簡単じゃねぇんだぞ!」
バコンッ! といい音を出しながらサンジの頭を片足なのに器用に蹴るゼフは、言葉は厳しいがその表情は穏やかで優しい顔つきだった。
素直じゃないね。
「い、いてぇ。このクソジジイっ!」
「ふんっガキの癖にいっちょ前な事言うからだ。そのでかい口を叩きたければもっと精進するこったな……まぁ幸い時間はある。焦ることもねぇさ」
その言葉に賛同するように今日は日が明るく空は雲一つない快晴、だけど暑すぎない気温は思わず眠気を誘う。
せっかくだし二人の口喧嘩を子守唄にして、俺は静かに瞼を下ろした。