リュウリュウの実:モデルイビルジョー 作:ゲケエベレッケ
痛い。
苦しい。
ひもじい。
それが彼女の人生の大半を占める感情だった。
彼女は飢えていた。彼女は痛めつけられた。
彼女は虐げられた。
彼女は絶望した。彼女は苦しかった。彼女は死を懇願した。
だからこそ彼女は思った。
虐げられる事がこれほど苦しいのなら、誰にもそんな思いをして欲しくないと思った。
自分の味わった痛みを誰にも味わって欲しくないと思った。
自分の味わった苦しみを誰にも味わって欲しくないと思った。
だから彼女は叫んだ。
「食、食べます! その実は私が食べます! だから他の皆さんにはそれを食べさせないで下さい!」
彼女は確かに善人だった。少なくともこの時までは、その悪魔の実を喰らうまでは。
■■
東の海。世界の四つに区分けされた海の中でも、もっとも治安が良く、体制側も無法者も弱い最弱の海
そこを航海する海軍軍艦が1隻。
その中で支部准将であるプリンプリンは憤っていた。
三時間前。彼の下に一人の青年が現れた。
彼の事はどうでもいいだろう。重要なのは話の方だ。
青年の話を要約するとシンプルだ。
ノコギリのアーロンと言う海賊によって街が支配された。上納金を納められず街が滅ぼされた。
そしてプリンプリンは、いや、海軍第77支部の海兵はゴサの生き残りを救出する事を決意した。
海軍第77支部、そこは他の海軍支部から【馬鹿支部】とあだ名をつけられている、何故か海軍の中でも指折りの馬鹿が集まる支部だ。
プリンプリンを筆頭に、報告連絡相談すらまともにできないアホの集まりの癖して、やたら自信満々な社会不適合者の集団として、海軍本部にも問題児扱いされている。海軍では馬鹿と言えば77支部の事を指すのが半ば常識だった。
しかし彼らは舐められてもいなかったし見下されてもいなかったし嫌われもしていなかった。頭こそ悪いもののその正義感、善性に関しては海軍の鑑とされていたからだ。
基本的にはと言う注釈こそつくものの、正義の味方、弱者の救世主を体現する海軍にとって、その善性は誇るべきものであり憧れるだった。
それ故に、その善性故に虐げられている者を救うために彼らは即座にゴサ、ココヤシ村救出作戦を立てた。
その愚かさ故に、本部にもアーロン一味の悪行を連絡せずにココヤシ村に向かった。そしてその無能さ故にアーロン一味に返り討ちにあうことになる。
とある一人の能力者と会わなければ。
■
何故だ、何故そんな事をするのだ?
アーロンパークに向けて航海しながらプリンプリンは思った。
ノコギリのアーロン。彼についての情報はある。
魚人と言う、優秀だが数の少ない種族に生まれ、迫害と差別の中生きていたと。
アーロンも虐げられる側だったと。
なのに何故アーロンが街の人間を虐げ苦しめるのかがプリンプリンには理解できない
誰よりも虐げられる苦しみが分かっているのに他者を虐げる、その精神が分からなかった。
自分が痛い思いをしたら、それを他者に味あわせない様に頑張るのが普通の人間の思考だとプリンプリンは考えているからだ。
そう思っている所にノック音が響いた。
入出許可を出すと入ってきたのは部下の一人だった。
「准将! 報告です! 民間人の少女を一名保護しました!」
「ふむ、それは喜ばしい。だが珍しいな。こんな海の上でか。いかだにでものってきたところを救助したのかね?」
「それが……空から」
「……は?」