リュウリュウの実:モデルイビルジョー   作:ゲケエベレッケ

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第2話

 船の医務室に向かう中、プリンプリンを連れ出した若い海兵は言う

 

 なんでも彼女が表れたのはアーロン一味の情報を共有しようと甲板に集まった時だそうだ。

 

 突然空からなにかが飛んできたと思ったら死角になっている積荷の裏に重いものが叩きつけられた様な鈍い音が、響いた。

 

 おっかなびっくりそこに向かった海兵が見つけたのはボロボロの服を着たボロボロの少女だった。

 

 何故こんな所に少女が? 

 

 そんな疑問を吹き飛ばすほどに血と傷にまみれていた少女を助け起こそうと海兵達が近づいた時。

 

「殺す……殺す……殺す!ぶっ殺す!あいつを殺す!」

 

 今にも死にそうな血まみれの少女がそう絶叫しながら立ち上がる。

 

 今にも死にそうな程に弱りきっていた。血も噴水の様に流れ、その全身についた生々しい傷の群は致命傷の様に見える。一押しすれば倒れてしまいそうな、なぜまだ生きているのか不思議な程の少女ではあったが、海兵達は威圧でも食らったかのように誰も動けなかった。

 

 

その血走った目、憎悪に溢れた絶叫、何より禍々しい殺気に。

 

 結局はその直後糸が切れたかのように崩れ落ちたため医務室に連れて行かれたそうだが。

 

「なるほど……君の話はよく分かった。そうか…空から降ってき事といい、瀕死の重傷を負っていた事といい明らかに普通ではないだろう。ただ、それでも民間人であれば我らの保護対象だ。怯えず彼女を助けた君達を私も誇りに思う。」

 

 治療室扉前でプリンプリンは言う。

 

「しかし困りましたね、任務中に民間人を保護する事になるなんて。一度戻って彼女を支部に置いてきますか?」

「ははは。心配する事は無い。私達は精鋭部隊。万に一つも負けることも彼女が傷つけられることもないだろう。それよりもこの最低限の設備しかない医務室で治療できるかが問題だ」

 

 そして医務室に入った彼らが見たのは二人の人間だった。

 

 片方は年取った軍医だ。

 

 とても優秀で、頭のキレる医者ではあるが馬鹿支部の例に漏れずボケが始まってるので時折大ポカをやらかす。

 

元本部勤務だったようだが、それ故に支部に流されたようだ。

 

 もう一人はベットに寝かされた一人の少女

 

 年の頃は10歳後半、身長は160程度。長い緑の髪は大量の血で染まっている。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……私が…」

 

 何やらうなされているらしく、その口からは繰り返しうわ言が漏れ出ている。

 

 それをみて若い海兵が目を丸くした

 

「まじかよ……さっきまであんなにボロボロだったのに……もう傷が治りはじめてる……」

 

 ぽつりと呟やく彼の声を聞きながら、プリンプリンは一つの質問をした。

 

「彼女の容態はどうかね」と

 

 それ対する年取った軍医の答えはシンプルだった。

 

 全く問題ない、なぜだかは知らないが、この姉ちゃんは異常に治癒力、生命力が高い、命に別状はないと。

 

 ただ

 

 と軍医は付け加える

 

「一応応急手当はしましたがこの姉ちゃん相当な厄ネタですぜ、准将。身体は傷だらけ、それも相当な悪意を持ってつけられた傷ばっか。長期に渡る栄養失調の痕跡もある。何より背中に……」

 

 のそり

 

 その言葉を遮るかの様に少女が上半身を起こした。

 

 そして彼女はあたりを見渡す。

 

 そしてちっと舌打ちをした。

 

「やあ、起きたのかね、私は海軍支部准将プリンプリン。そして彼は……」

「…おい、ここ海軍の軍艦か。治療なんざもういらねえ。陸地ついたらさっさと降ろせ」

 

 少女はプリンプリンを冷徹な目で見つめながら彼の言葉を遮った。それなりに整った容貌を台無しにするかのような目つきの悪さだった。恐ろしく冷たい声だった。

 

「貴様! なんだ助けられといてその言い草は!」

 

 その余りにも余りな態度に激昂したのは准将を呼びに来た若い海兵だ。

 

 彼はプリンプリンを尊敬している。

 

 傲慢な上に頭が悪く、すぐ調子に乗る男と思っているが、それでも准将は尊敬に値する上司だと思っている。

 

 その尊敬する上司が舐めた発言をされた以上、激昂するのも仕方ないと言えるだろう

 

「チッ」

 

 返されたのは少女の舌打ちだった。

 

「私は別に助けてくれなんて言ってねえよ……痛っ……」

 

 彼女はフラフラと立ち上がったかと思うと顔をしかめよろめく。

 

 プリンプリンは助けた相手にこういう態度を取られるのは慣れている。

 

 心が傷ついている時に誰かに親切にされても感謝するのは難しい。そういうものだと教えられたからだ。

 

 一度感謝したら、自分はもう他者に恵まれないと生きていけない弱者だと認める事になる。それを受け入れる心の余裕すら無いから、弱者は自身の恩人を弱者は怒鳴りつけるんです。

 

 4年前プリンプリンの施しを偽善者呼ばわりで返した男は、先日支部に現れプリンプリンに謝罪をしながらそう当時の心情を言っていた。

 

 だからこそプリンプリンは自身の出会った人間にはできる限り優しくしようと決めている

 

 彼は余裕が無いから他者に辛くあたると言っていた。逆に言えば自身の善行で少しでも心の余裕を持ってもらえれば、助けられた側もその余裕で他人に優しくできるようになる。

 

 そうして小さな善行が巡り巡る事で、世の中が少し良くなれば良いなと考えているからだ。

 

 なおも少女を怒鳴りつけようとする若い海兵を制止し、プリンプリンは言った。

 

「准将!こいつは」

 

「君が私の為に怒ってくれた事は非常に嬉しく思う。」

 

そうだ。今の所彼女は好感の持てるような言動をしていない。こうなるのも当たり前だ。目の前の海兵の態度は当然の事といえるだろう。

 

ただ、プリンプリンはこの様な態度の相手にこそケアが必要だと考えている

 

「だが。少し彼女と二人にさせてくれるか」

 

 ■■

 船医の話から察するに、彼女は恐ろしく酷い思いをしたのだろう。

 

 こういう場合、本人が自分から言い出すまでその部分に触れるべきではないと経験上彼は知っている。

 

 なのでどう声をかけるべきかと思い、彼は悩んだ。

 

「陸なついたらさっさと降ろせ。私はこれ以上お前らと一緒にいたくな……」

 

 ぐう。

 

 医務室に猛獣の唸り声の様な音が響いた。

 

 准将の視線が少女の腹に向けられる。

 

「……気のせいだろ」

 

 ぐるるるるるきゅうううぐるるるる

 

 再び地響きの様な音が響いた

 

 気まずい雰囲気が流れる中、これを会話の糸口にするべくプリンプリンは声をかける

 

「……まあ、落ち着いてくれ。まずは食事でもどうかね。食は生命の基本だ。腹が満たされてないと悪い考えが頭をよぎる様になる。だからまずは食事をするべきだと思うのだがどうかね?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いらねえ」

 

 なんでもない事の様に少女は言ったが、その口元からは物凄い量の涎が垂れていた。

 

「うちの支部の海軍カレーは美味いぞ」

 

 その言葉にぴくんと彼女は反応する。

 

 この少女は雰囲気に反して、物凄く単純なのでは無いかとプリンプリンは思った。

 

「実はそのカレーが余っててな。勿体ないから誰かに食べてもらえたらと思っていたのだが……君が食べないなら仕方ない。海にでも捨……」

 

「…なら仕方無い、本当に仕方無い。不本意ながらほんっとうに不本意ながら仕方無い。食ってやる」

 

 ■■

 2分後食堂にて少女と准将は向かい合った。

 

「うちの海軍のカレーは世界一うまくてな」

 

 准将は米をよそう。

 

 その間も少女は皿から全く目を離さ無い

 

 分かりやすいなと苦笑いしながら思い多めによそってやった。

 

「スパイス40種を絶妙な配分で混ぜ合わせたっぷりの片栗粉でとろみをつけつつかさ増ししてだな……」

 

 ルーをよそいそしてダラダラと涎を垂らした少女にカレーを差し出してやる

 

 そしてプリンプリンは自分の分の米もよそうため皿を手に取る

 

「これを食うためだけに自首して来る大海賊も過去にいた程……は!?」

 

 プリンプリンが自分の分の米をよそって再び顔を上げた時には少女の皿の上からカレーはもう消失していた。その上皿は舐めたかのようにピカピカだ。

 

 切ない表情を浮かべながら少女はじっと皿を見つめている。

 

それを見て呆然としていたプリンプリンだが、すぐに笑みを作って口を開く

 

「二杯目はどうかね?」

 

 よっぽど腹が減っていたんだなと苦笑いしながらそう聞くと少女は無言で皿を差し出した。

 

 ■

 

「んぐ……ごくんっ」

 

少女の喉が別の生き物の様に動き最後の一口を胃袋に送ったのを見て准将は思わず声を漏らす。

 

「……大鍋二杯におひつ三杯……完食か……」

 

 最初のうちは少女の凄まじい食欲に、苦笑いを浮かべていたプリンプリン准将だが、三杯、4杯とおかわりの回数が増えるたびにその笑みはだんだん引きつった笑みに変わっていった。

 

 まさしく人間離れした食欲だった。

 

 よそった端から大口を開けて、欠食児童、飢餓状態、餓死一歩手前でもこうはならないと言う様なめちゃくちゃな勢いで食事を口に流し込み、貪っていた。

 

 一つで10人分は作れる大鍋にたっぷりあったカレー二杯も、5キロ以上は白米のあったおひつ三つも、10分もたずすっからかんになるのも当然と思える食べっぷりであった。

 

 と言うか後半は鍋から直接食べてた。

 

「……感謝なんてしねえからな……」

 

「う……うむ……満足したかね?」

 

 

 その返事を打ち消すように伝令役電伝虫が叫んだ

 

「アーロンパーク! 到着しました!」

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