TSホムンクルスは曇らせたい   作:やおよろずのねこ

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出会い

 俺、坂本悠斗は現在混乱の極地にいた。

 

 それなりにオタクをやっているため、こういった事態には耐性があると思い込んでいた。

 

 だが、実際に非日常に遭遇すると、人は思考停止してしまうものらしい。

 

「つまり君は……なんなんだ?」

 

「ボクもわからない」

 

 目の前には俺の服を着た少女が一人。彼シャツのような状態に平時であれば興奮するのだろうが、残念ながらその服が血で染まっているせいで心配が勝る。

 

 顔の左半分に穴が空き、全身ズタボロで血に染まっている。生きているのが不思議なほど満身創痍だが、彼女は平然とした様子でそこにいる。見ていて脳がバグりそうだった。

 

 先ほどはつい勢いで服を着せてしまったが、皮膚に服が張り付いてしまったりはしないだろうか。消毒もできていないのに直に着せてしまって、感染症などは大丈夫だろうか。

 

 今になってそんな心配が湧いてくるが、医者でもない俺にはどうすることもできない。

 

 

 突然窓から侵入してきた彼女が言うには、謎の研究施設から命からがら逃げてきたばかりらしい。その言葉は彼女の姿を見れば全く笑い飛ばせないものだ。

 

 そもそもその施設とやらがなんかのか。それは彼女もわからないらしい。曰く、目が覚めたらそこにいて、不思議な力を手に入れていたとか。

 

 その力とやらは先ほど実演してくれた。

 

 なんとエナドリの缶を素手で縦に切り裂いて見せたのだ。縦にである。流石にその様子を見て思わず腰を抜かしてしまった。

 

 そもそも2階までジャンプしてきた時点で、普通の人間とは違う力を持っていると認めざるを得ない。

 

 夢でも見ているのかと疑うところだが、夢だと決めつけると現実だった際に困るだろう。正直全く信じられないが、今は一旦これが現実だと思うようにした。

 

「てかその傷大丈夫なのか? 見てて痛々しいんだが……」

 

「全然大丈夫じゃない。すごく痛い」

 

「お、おう」

 

 ライフルで撃たれた……と呟く彼女に、なんと言えばいいのかわからない。

 

「取り敢えず、君は何もしなくていい。ボクをこの部屋に匿ってくれれは満足。寝れる場所が欲しいだけ」

 

「うーんでも、食事なんかも必要なんじゃないのか? その体じゃバイトなんかもままならないだろうし、どうやって工面するつもりなんだ?」

 

「…………たしかに」

 

 どこか抜けている彼女を他所に、これから俺がすべきことを考える。彼女は名前も住所も定かではないと言うし、戸籍があるのかも怪しい。

 

 住む場所もなく、戸籍もなく、手持ちも何もない。そんな少女を一人追い出すほど非情にはなれない。しかし、かと言って俺一人でなんとかできるものでもない。

 

「家族には、お前のことを話しても良いか?」

 

「…………ダメ。ボクの存在が表に出るリスクは減らしたい」

 

「でも、俺一人じゃ匿おうにも匿えないぞ」

 

「なんとかして」

 

 でも、と続けようとすると、突如として凄まじい悪寒に襲われる。

 

 目の前の少女が鋭い目で俺を睨んでいる。

 

「ねぇ、立場わかってる? 君は今、ボクに脅されてるんだよ。……その気になれば、1秒で君を殺せる」

 

 彼女が指を縦に振ると、ビュンと風切音が俺のすぐ横を通り過ぎる。

 

 恐る恐る振り返れば、壁に一本の大きな爪痕のようなものが刻まれている。

 

 触れてもいないのに、ただ指を動かしただけでこれを為したというのだろうか。

 

 途端に、強い恐怖心が込み上げてきた。みるからに精神的に未熟でありながら、超常的な力を持っている。──それは、とても恐ろしいことだ。そう、俺は今、飢えたグリズリーを目前にしているのに等しいのだ。

 

 こいつを見た目で侮ったのが間違いだった。これは、機嫌を損ねたら殺される獣である。

 

 彼女の発する威圧感に手が小刻みに震える。それを隠しながら、なんとか言葉を絞り出した。

 

「……わかった。取り敢えずは誰にも話さない。食事は……なんとか頑張ってバイトする」

 

「ん。それでいい」

 

 一旦溜飲を下げたのか、構えていた手を下ろし、再びくつろぐ姿勢に戻る。彼女への警戒は強まったものの、やはりその血だらけの姿は痛々しい。何よりも、その抉れた左目が目を引いた。

 

「……一旦、寝るか? それ、寝てどうにかなるものじゃないかもだけど、起きてるの辛いだろ」

 

 思わずそんな声をかけてしまう。彼女は残っている片目をこちらに向け、胡乱げな顔をしている。

 

「…………寝てる隙に家族を呼ぶ気?」

 

「しねぇよ……呼んだとしても、お前に危害を加えられたら堪ったもんじゃないからな」

 

 ふーん、と疑わしげな目をしていた彼女だったが、やはりあの傷は辛かったのだろう。疲れたように脱力して目を閉じる。そして椅子に座ったまま動かなくなった。

 

「ベッドで寝ないのか?」

 

 思わずそう呟くと、チラッと目を半開きにした彼女が呆れたようにため息を吐いた。

 

「……血塗れのベッドなんて見られたら、1発でバレるでしょ」

 

「……たしかにすぎて何も言えない」

 

 何も考えていなかった。あれだけ血だらけでベッドに入れば、間違いなくシーツは悲惨な状態になるだろう。そうなれば両親にバレないわけがない。

 

 ……というか、この荒らされてしまった部屋もさっさと片付けてしまわなくてはならない。

 

 彼女が座る椅子も汚れているが、まぁこのくらいなら隠せるだろう。

 

 椅子に座る彼女は、再び目を閉じて動かなくなった。流石にここで物音を立てて彼女の邪魔をするのは得策ではない。

 

 そっと電気を消して俺もベッドに入る。本当は今日徹夜で勉強をする予定だったのだが、まさかこんなことになるとは思わなかった。

 

 明後日から定期試験なのだ……今はそれどころじゃなさすぎるが。

 

 

 当然、こんなことが起きて寝れるはずなどなく、結局一切寝付けずに夜を明かすのだった。

 

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