とりあえずこの世界の貨幣価値が分からないのでそこら辺にたむろっていたストリートチルドレンっぽい子に声を掛けることにする。最初は警戒していたが屋台の串焼きを奢るという言葉には抗えなかったのかすぐにこくりと頷いてくれた。とりあえず、一番大事な貨幣の価値を聞いてみることにする。
鉄貨1枚 → 10円
銅貨1枚 → 100円
銀貨1枚 → 1,000円
金貨1枚 → 10,000円
大金貨1枚 → 100,000円
白金貨1枚 → 1,000,000円
色々聞いて見た感じこうなるみたいだ。これで考えると王様は30万円もくれたってことになる。子供たちに奢った串焼きが一本鉄貨五枚、つまりは50円。四人家族は金貨6枚あれば一か月は生きていけるらしい。そう考えると結構くれたんだな王様。四人家族で金貨6枚で一か月ってことは、俺たちは二人だから一か月金貨3枚でいけるってことに? …いや、家が無いからそうとは限らないか。それでもかなりの金額をくれたのは分かった。それで感謝しようと思ったんだが、この国について聞いてみるとその気持ちも失せた。
どうやら、王様が言っていたことには真実も含まれていたが、実態は全然違うらしい。王様の話によると"魔族がこっちの国に攻めてくる"だったが、実態としては
しかも、この国が魔族の国に攻めている理由もヤバイ。なんでも、上の人たちは"人に仇名す魔族を滅ぼし云々"と言っているらしいが、実態は肥沃な土地を求めて攻めているだけみたいだ。やっぱりヤバイ王様だった。でも、そんなヤバイ王様でも金貨30枚くれたんだよなと思うと少し感謝してもいい気がしてきた。
…もしかして、金貨を30枚も渡そうとしたのは別の人だったりして。そう思ってちらりとアザミちゃんの方を見てみると コクリ と頷いていた。どうやら心を読んでいたみたいだ。…あれ? よく考えたらストリートチルドレンの子達に話を聞かなくてもアザミちゃんに心を読んで貰えばよかった話じゃ? …いや、それだとなんかアザミちゃんを便利に扱ってるみたいで嫌だな。これで良かったんだ。これで。
それはそうと、他に聞いた感じだと、この世界にはテンプレ的に冒険者ギルドと商人ギルドがあるらしい。これもテンプレなんだけど、このギルドは国に依存しないみたいだ。
そんで、このギルドに登録するとギルドカード自体が身分証になるようで、身分証が無いと国や街によって違うけど税を取られるらしい。これはギルドカードを作りたいけどこの国ではダメだな。国に依存しないとは言ってもその国にある以上何かしらの関係はあるだろうし。というわけでこの国を出て別の国でギルドカードは作ることにする。
あとは移動手段の話も聞いておいた。どうやら王都から隣国との境にあるキールスの街までの乗合馬車が毎日運行されているらしい。なので、今日はひとまず宿屋で寝て、明日その馬車に乗って移動することにする。
念のためストリートチルドレンの子達と別れた後にアザミちゃんにも確認してみたが、読心で読んでいたみたいで何かを言う前に「わかった」と言ってくれた。すごく思うけど、やっぱりすごい能力だな読心って。
♢
俺たちの服…というか、主に俺の服は召喚された時のままのスーツ姿でとても目立ってしまうので、子供たちに聞いておいた安めの服屋へとやってきた。とりあえず俺の分は安めのくすんだ色のシャツに茶色いズボンを購入した。ただ、アザミちゃんの場合は店員さんに捕まって着せ替え人形にされていた。正直、店員さんのセンスは抜群でアザミちゃんがとても可愛く見えたので全部買いたくなったのだが、さすがにまだ余裕がないのでチュニック? という膝丈まであるワンピースみたいな服にしておいた。下着に関しては男の俺が見るのは違うと思うので店員さんにお任せだ。
靴なのだが、俺は革靴でいいとしてアザミちゃんの分の靴が問題だ。アザミちゃんの履いている靴は結構ボロボロで穴も開いているのでどこかで買うべきだろう。
とりあえず、買った服を着て元着ていた服とビジネスバッグを売っておいた。アザミちゃんのは本人に決めさせようと思っていたらアザミちゃんが売ると言い出したので売ることになった。それで得たのは金貨3枚と銀貨一枚だ。アザミちゃんに渡したいが、金貨6枚、つまりは6万円で家族4人が生活できる世界で1000円を持たせるのは危ないと思ったのでまだ渡していない。この国を出て安全そうになったら渡そうと思う。
「どう? アザミちゃん」
「うん、うれしい」
アザミちゃんに着ている服の感想を聞いてみたらそんな感想が返ってきた。…やっぱりアザミちゃんってそうだよね? 店員さんもアザミちゃんを更衣室に連れて行った後にすごい剣幕で怒って来たし。もしもアザミちゃんの仲裁が無かったら今頃俺は独房に居たことだろう。ありがとうアザミちゃん…。
そんなアザミちゃんが嬉しそうにしているのはとても心がほっこりする。そう思って見ていると恥ずかしそうに顔をそむけてしまった。…あっ。…まあいいや。
服を買い終わったけどビジネスバッグに入れていた物をどうしようかと悩んでいると、店員さんがおまけで布製の肩掛け鞄をくれた。しかも二つも。一つを俺が持ってもう一つはアザミちゃんに渡すことにする。アザミちゃんのは少し小さめなので、アザミちゃんでも苦も無く持てていた。さらに店員さんはアザミちゃんの履く靴までくれた。さすがにそこまでは…と思ったのだが「こんなに可愛い娘さんがいるんだからもっとおしゃれさせてあげな」と言われてしまった。娘…いや確かに娘がいるはずの年齢ではあるんだけどさ。他人に言われるとなんか心に来る。
それはそうと、アザミちゃんにもっとおしゃれさせるというのは同意なのでこれから頑張っていこうと思う。とにかく、おまけを三つもしてくれた店員さんに感謝を示してからついでに聞いておいた宿屋へと向かう。アザミちゃんも頭を下げてお礼を言っていたのでやっぱり礼儀正しい子だなと思いながらも、どうして7歳でその礼儀を身に着けたのだろうかとも気になってしまう。やっぱりそういう環境だったってことなのかな…帰りたくないって言ってたし。
宿屋は服屋さんから三軒先という近さで、一泊食事つきで銀貨4枚らしい。結構高いなと思ったが、4000円で泊まれると考えればそうでもないのかもしれない。それに、実際に宿屋まで来てみると結構綺麗だったし。
宿屋に着いたので二人分の部屋を取ろうと思ったが、さすがに7歳の子供を一人で部屋に放り込むのは…という葛藤と、女の子とこんなおじさんが同じ部屋ってのは…という葛藤で揺れることになってしまった。訝しんだ宿屋の主人が何かを言おうとした時に、傍にいたアザミちゃんが「ふたりべや!」と言ってくれなければずっと葛藤したままだっただろう。
そうして無事に部屋を取れて奇跡的に空いていた二人部屋に滑り込むことに成功した。部屋を取れたのでアザミちゃんと宿の一階に降りてご飯を一緒に食べることにした。思ったのだけれど、アザミちゃんは読心って能力があるから人が多い場所だとうるさくないのだろうかとも考えたが、アザミちゃんによるとうるさくないらしい。どうしてうるさくないかは子供らしい擬音が混じった説明でアザミちゃんが可愛いという事しか分からなかったが、とにかく大丈夫ならいいだろう。
そうしてアザミちゃんがフォークの使い方を知らずに手づかみで食べようとするのを抑えてフォークの使い方を教えたりしながら食事を終え、もしも元の世界に戻れるのならばアザミちゃんの両親にはきっちりと話をすると決心しながら部屋へと戻って来た。
部屋へと戻ってきたのでベッドに腰掛けつつ、一番重要な自分の固有スキル『ネットスーパー』について考えようと思う。そのためにはまず
「ステータスオープン」
【 名 前 】 ツヨシ・ムコウダ
【 年 齢 】 27
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 1
【 体 力 】 100
【 魔 力 】 100
【 攻撃力 】 78
【 防御力 】 80
【 俊敏性 】 75
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス
【固有スキル】 ネットスーパー
城で説明を受けたのだが、鑑定のスキルがある勇者…というか異世界人は、普通はギルド支部や神殿に備え付けられている魔道具で見るステータスをいつでも確認できるらしい。
それで能力値なのだが、70くらいが一般人と言っていたので自分の能力値が普通よりは強い程度だという事が分かる。スキルに関しても転生してきた全員にあったので異世界人には全員付いているものなのだろう。
このアイテムボックスとやらの容量なのだが、過去の召喚勇者は1000匹の魔物が入ったとかいう話があったので、恐らく無限に等しいのだろう。正直これだけでもかなりチートだとは思うのだが…。
それと言語だが、これも異世界からの召喚者には転移してきた時点で既に理解できるようになっているらしい。ここまで全部テンプレだな。
それで、一番の問題である『ネットスーパー』なのだが…。
「ど、どうしたの? アザミちゃん」
俺がステータスを確認していると、近くでアザミちゃんが俺を見つめていた。一体どうしたのだろうと思って聞いてみると顔を逸らしてしまった。本当にどうしたのだろう? まだ7歳の子供だし何かあると大変なので聞きだしたいが…。
「アザミちゃん?」
「…」
声を掛けても返事が無い。ただ、手は俺の服を掴んでいる。こういう時どうすればいいんだ? 世の子持ちの方、教えてください。
そんな思いはどこにも通じないので自力で何とかするしかない。本当にどうしたのだろう? 俺の予想が正しければアザミちゃんは元の世界でそういう境遇だったことになる。そして、そんな境遇だった子を無視するほど良心は欠けていないつもりなので何とかしてあげたいのだが…。
そう思っているとアザミちゃんが意を決したように振り向いてきた。そして、顔を俯かせながら近づいて横に座ってきた。さらには服の裾をちょこんと摘まんでいる始末。 か、かわいすぎる。これが世の娘さんを持つお父さんの気持ちなのか…!
そんな心の声が聞こえたのかさらに俯いてしまうアザミちゃんを眺めつつ、アザミちゃんに摘ままれている方の手でアザミちゃんの小さな手を握っておいた。アザミちゃんは少しびくりとしていたが、振り払う様子はないのでこれでいいのだろう。
アザミちゃんの子供らしい体温の高い手を感じながら『ネットスーパー』について考える作業に戻る。このスキルが想像通りかどうかで今後が変わるのだからこれはかなり大事な作業だ。
前の世界で休日はこのネットスーパーで色んなものを頼んで、料理は嫌いじゃなかったので料理を作ってビールを飲みながら映画を見たりネット小説を漁ったりしたものだ。
ただ、これがあのネットスーパーなのかどうかが問題だ。もしかしたら
「ネットスーパー」
言葉に出してみたが発動しない。ならば今度はステータスを指でタップするのはどうだろうか? そう思ってステータスの「ネットスーパー」の部分をタップしてみるとステータスの画面が変わった。それはどこからどう見ても前の世界のエオンのネットスーパーだった。
「まんまだな」
どうやら
それはそうと、購入手続きに進むと『残金が不足しています。チャージしてください』と表示された。その表示の下には四角い枠があり、恐らくここにお金をチャージするのだろう。そう思って銀貨二枚を当ててみると枠の中に銀貨が吸い込まれていった。そして注文を確定させると、目の前のなにも無い場所に銀色の粒子が集まって徐々に姿を露わにしていった。それはどこからどう見ても段ボールである。
「お、おお! これはかなり使えるぞ!」
「っ!!」
「ああ、ごめんよアザミちゃん。つい嬉しくて」
「だ、だいじょうぶ、です」
つい大声を出してしまってアザミちゃんを驚かせてしまった。そのことに内心猛省しながらも自分のスキルの有用性に感動する。高校生三人組は笑っていたし、王様たちも使えないと言っていたけどこれはかなり使えるスキルだぞ。
聞いた話によるとこの世界って塩が貴重らしいし、ネットスーパーで塩を買って転売するだけで大金持ちになれる。そうすればアザミちゃんを不自由なく暮らせるようにできる。このスキルはやっぱり大当たりだ。エオンのネットスーパーでは色んな商品を扱っていたはずなので、探せば色んな商材が見つかることだろう。すぐにでも商人ギルドに登録したいが、何度考えてもこの国で登録するのは避けるべきだ。どこかで俺のスキルが使えると分かればあの王様が何をしでかすか分からないし、アザミちゃんを危険にさらすわけにはいかない。やはり登録するならば隣国に入ってからだ。
「よし、アザミちゃん。一緒に食べよう」
「う、うん」
と言うわけで、アザミちゃんと一緒に出した菓子パンを食べることにした。最初は恐る恐ると言った感じだったアザミちゃんだったが、一口食べた瞬間に味に魅了されたのかぱくぱくと食べ始めた。まあ、ぱくぱくとは言っても一口が小さいのでかなり遅いのだけれど。
アザミちゃんが一つを食べ終えるまでに二つを食べ終えたので、ハムスターのようにパクパク食べるアザミちゃんを眺めているが、アザミちゃんは食べるのに夢中で気が付いていないようだ。時間をかけて食べ終えたアザミちゃんはもう一つに手を伸ばそうとしたが、その手が途中で止まってしまった。
「? どうしたの? アザミちゃん」
「…おなか、いっぱいだから、あしたにとっておく。ます」
…確かに今日出た宿屋のご飯って結構多かったなと思い出した。そんなご飯を嬉しそうに全部食べていたアザミちゃんだったが、あの量を食べ切ったのだからそりゃあお腹いっぱいにもなる。大人の男な俺でも多いと思ったのだから。
「わかった、じゃあ明日食べよう」
「ありがとう、ございます」
この余った菓子パンは明日に取っておくとしよう。そう思ってアイテムボックスに放り込んだのだが、別に俺の所じゃなくてアザミちゃんの所でもいいのでは? と思ったが、お腹がいっぱいで眠いからなのかうつらうつらとしているアザミちゃんに渡すのもなと思ったので、明日起きた時に渡そうと決意してアザミちゃんをベッドに誘導しておく。ベッドが二つある部屋が空いててよかった。もう少しでロリコンの称号が付くところだった。
アザミちゃんがベッドで寝息を立て始めたのを確認してから自分ももう一つのベッドに入って寝る態勢に入る。
とにかく明日だな。早くこの街を離れて隣国に行って安全を確保しなければ。明日からは旅路でベッドで寝れないだろうし。…俺はいいけどアザミちゃんは辛いんじゃないか? そう考えると寝袋みたいな何かは買っておいた方がいいか。寝袋は無理でも毛布とか敷布団とか。最悪、俺のは無くてもいいからアザミちゃんの分だけでも確保しなければ。あんなに小さい子を地べたで寝かすわけにはいかないだろう。
そうして購入するものリストにアザミちゃん用の寝具を付けたしながら、俺は眠りに付くのであった。