翌日、アザミと一緒にゴロゴロとしていると冒険者ギルドからの連絡が来たので向かってみると、依頼を受けてくれる冒険者が見つかったとのことだった。こんなに早く見つかるとは思っていなかったムコーダだったが、この国を早く出たいムコーダにとっては良い事である。
一緒にゴロゴロしていたアザミが少し眠そうだったが、宿に一人で置いて行くのはさすがに心配だったのでどうしようかと悩んだ結果。菓子パン…アンパンで釣る作戦を実行して見事起こすことに成功したムコーダが、アンパンを食べて機嫌のいいアザミを連れて冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドで紹介されたのはCランクの冒険者パーティ『
「アイアン・ウィルのリーダーをしているヴェルナーだ。よろしく頼む」
「ムコーダと言います。こちらの子供はアザミと言います。こちらこそよろしくお願いします」
「…お、おねがいします」
ヴェルナーと名乗った人は、30代前半の190センチはある長身にがっしりとした体つきで、太い腕には数々の傷が残っている歴戦の冒険者って感じの人だ。背中には盾を背負って腰には剣を差している。
一見するとかなり厳ついし、子供のアザミから見たら巨大な強面なのだが、アザミはムコーダを盾にするように後ろから顔を出しながらだがしっかりと挨拶を返した。アザミの反応に「もしかしてヴェルナーさんってヤバイ人なのか?」と思ったムコーダだったが、アザミの声に恐れの感情は無く、あくまで初めての人だから怖がっていると言った感じだったので胸をなでおろした。
「他のメンバーも紹介しておこう。茶髪の男が剣士のヴィンセント」
「ども」
お調子者って感じの雰囲気を感じる革鎧を着て腰から剣を下げている茶髪の男性。
「赤髪なのが斥候のリタ」
「よろしく~!」
元気そうに挨拶をしたのが胸当てをして腰に短剣を携えている若い女の子。
「魔法使いのラモンに」
「よろしく」
とても落ち着いている感じのするローブを羽織った白髪交じりの渋い男性。
「回復役のフランカだ」
「よろしくね」
優しそうな雰囲気の修道服っぽい白い服を着た二十歳前後の女性。
全員を紹介されたムコーダは、中々バランスの取れたパーティだなという印象を持ち、冒険者ギルドが失敗するような人物を紹介しないだろうと言う信頼でアイアン・ウィルに依頼をお願いすることにした。
「では、お願いします」
「うむ。任せて欲しい。出発は明日の朝7時で問題ないだろうか?」
「はい!」
というわけで、明日の朝7時に出発ということになったのでムコーダはそのための準備をすることにする。
前回アザミと一緒にポテトサラダを食べた時はネットスーパーで買った容器を使用したが、前の世界を知らない人の前に前の世界の食器を並べる訳にはいかないのでこの世界の食器を買っておく。
木で出来た食器とスプーンやフォークを購入している時に魔道コンロなる物を発見したが、カセットコンロと形が似ていたので、カセットコンロを魔道コンロという事にして使うことにした。まあ、そもそも魔道コンロの値段が金貨50枚だったので買えるはずもなかったのだが。
その後は宿でネットスーパーを開いてジャガイモやにんじん、玉ねぎやソーセージなどを7人分に調味料類も購入してアイテムボックスに放り込んでおく。
色々と購入している時、アザミがネットスーパーの画面を見ていたので菓子パンをまた買ってあげようと思ったムコーダだったが、一つ思いついたことがあるのでやってみることにした。
「アザミちゃん」
「?」
「アンパン食べたい?」
名前を呼ばれてネットスーパーの画面からムコーダの顔へと視線を移すアザミに今まで食べていた菓子パンを食べたいかどうか聞いてみると、凄い勢いで首を振り始めた。どうやら本当に好きなようだ。
「じゃあ、銅貨二枚をあげるから自分で買ってみようか」
「?」
というわけで、アザミに銅貨二枚を渡してネットスーパーの画面を見せる。既に画面には色んな菓子パンが表示されており、大体一つ100円くらいなので渡した銅貨2枚で2つは買える計算だ。
「あんぱん…」
「アンパン以外にもいろんなのがあるんだよ」
「!!!」
アンパンが大好きなのか呟くアザミに、他にもいろんなものがあると教えると目を輝かせて画面を見始めた。まず目にしたのはやはりアンパンで、その後に色んなものを見始めたが一つの場所で目が止まった。
「何か気になるものあった?」
「…これ」
ムコーダの問いかけに指を差して答えたアザミの指先を見てみると、それはメロンパンだった。
「買ってみる?」
「うん」
「じゃあ自分で買ってみようか」
というわけで、頷いたアザミに自分で買わせることにする。疑問符を浮かべているアザミに操作方法を教えてメロンパンをカートに入れさせた。
「じゃあ、アザミちゃん。アザミちゃんは銅貨二枚を持っているよね?」
「うん」
「このメロンパンは銅貨一枚だけど、アザミちゃんの手には銅貨が何枚残ってる?」
「…?」
問いかけられたアザミは自分の手のひらの中を見たが、そこでムコーダはもしかしてという想像が生まれたので確認してみることにした。
「えっと、今、アザミちゃんは銅貨二枚を持っているよね?」
「にまい?」
「…手に銅貨が二つあるよね」
「…ふたつ?」
ムコーダは予想が的中したことに胸を痛める。やっぱりと言うかなんというか、アザミは算数を…というか、数字を習っていないようだ。まあ、7歳の子供がボロボロの服に服屋の店員さんが怒るほどの身体だったので予想はできていたが、心が痛くなるムコーダ。だが、自分はこの子の親なのだからしっかりと教えようと思い、数え方を教える方法を考えて実行する。
「えっと、まず、アザミちゃんの手のひらには銅貨が二枚あるんだ」
「…うん」
「で、これの数え方がいち、に、って言うんだよ」
「いち、に?」
「そうそう」
まずはアザミの手のひらの上にある銅貨を例に上げて教え始める。とりあえずは一から十までを教えればいいだろうと考えるが、まずは一と二からだ。
アザミは自分の手のひらの上にある銅貨を見つめながら呟いたので、それが合っていることもしっかりと伝える。
「指で数えると分かりやすいね。この指を立てて1って数えるんだ。もう一つ立てれば2になるよ」
「いち…に…」
今度は指で教える。子供の時は指で数えたり足し引きをしていたので分かりやすいと思ったからだ。教えられたアザミはムコーダの真似をして指を立てて数え始める。
「そうそう。じゃあ、さっきの話をしようか。アザミちゃんは今二枚の銅貨を持っているんだ」
「にまい…こう?」
「おお、すごいね。合ってるよ」
指を二つ立ててピースするアザミにこの子は天才なんじゃないかと思うムコーダ。どうやらアザミはあれだけの説明で理解できたみたいだ。
「そして、アザミちゃんは銅貨一枚のメロンパンを買ったから、銅貨一枚は無くなるんだ。そしたらアザミちゃんはいくつの銅貨を持ってることになる?」
「えっと…いち?」
「すごい! 合ってるよ!」
ムコーダの言葉に合わせて指を見つめていたアザミは、ピースの状態から一本の指を引っ込めることで計算することに成功した。この子は天才なんじゃないだろうか? という親ばか丸出しな考えをするムコーダ。
「いち…もういち、かえる?」
「すごいね。そう、アザミちゃんはもう一つ買えるよ」
なんと、アザミは自分で考えた結果、もう一つ菓子パンを買えることに気が付いたようだ。そんなアザミをしっかりと褒めたムコーダは、最初はこれくらいで教えるのは終わっておこうと思い、買うものを選ばせた。
結局、アザミはメロンパンとアンパンを購入し、出てきた段ボールからムコーダが取り出して渡すと嬉しそうに食べ始めていた。特にメロンパンは気に入ったのかいつもより食べる速度が速かったような気がする。
そんなこんなありつつも、いつものようにアザミの歯を磨いて同じベッドで寝たムコーダとアザミは朝6時に起床して、共に待ち合わせの場所へと向かうのだった。