時間が流れるのは早いね。
というわけで初投稿です
キールスの街を出発して三日が経った今日も徒歩でフェーネン王国の国境を目指していた。ここ三日でムコーダ達は仲良くなり、アザミは女性陣にとても可愛がられていた。特に食事をしている時に餌付けするのが流行りらしい。リタとフランカいわく、小さい口で食べているのが可愛いのだとか。ムコーダとしては全面的に同意だ。
最初の方は歩いていたアザミだったが、ムコーダの過保護が発動したためにここ三日間はほとんどの間ムコーダの背中に張り付いていた。アザミ自身は自分で歩こうとしていたのだが、今までの境遇からなのかすぐに体力が底をついてしまっていた。頑張っているアザミを止めるのは良くないと思っていたムコーダだが、さすがに心配なのでここ三日間はなるべく背中におぶっている。
「…!」
そうして歩いていると、不意に先頭を歩いていたリタの歩みが止まった。それと同時に和気あいあいとしゃべっていた周りのアイアン・ウィルの面々の顔つきが変わる。
それと同時に、街道の横に生えている木々の中から蛾のようなものが現れて襲ってきた。蛾と言ったが、大きさは前の世界とは比べ物にならないほど大きく、100cmはありそうだ。
そんなモンスター蛾が出てきた瞬間、ヴェルナーとヴィンセントが剣を抜き放ちながら前へ走って蛾に接近すると、両手に持っている剣で蛾を真っ二つにしてしまう。
「うひぃぃぃ!」
真っ二つにされた蛾の半身がムコーダの足元に飛んできたので思わず悲鳴を上げるムコーダと、その背中で冷静に見ているアザミ。
蛾のモンスターを倒したヴィンセントが手を怪我したのかフランカに魔法で癒してもらっている間に、斥候として確認しに行ったリタが帰ってきた。
「レッドボアがいる。なんか気が立っているみたい」
「(ボア?…猪?)」
ボアと言う言葉で前の世界のイノシシを思い浮かべるムコーダは、昔食べたイノシシ肉は美味しかったなと思い出す。
「レッドボアなら遠回りするまでもない。ラモン、こっちに誘き出せるか?」
「無論」
どうやら誘き出して狩るようだ。ヴェルナーに聞かれたラモンが自信ありげに杖を手に持って森へと入っていき、しばらくして巨大な猪が飛び出て来た。
「でかぁ!?」
思わず声が出るムコーダだがそれも仕方ないだろう。前の世界とは比べ物にならないほど大きく、体高3mはありそうな巨大な赤い猪だった。牙も大きく、あんなもので刺されたら間違いなくお陀仏だろう。背中にいるアザミを護るように後ろに下がったムコーダを護るようにフランカとリタが前に出る。そして、ヴェルナーとヴィンセントがレッドボアへと突進していき、ヴェルナーは盾と剣で、ヴィンセントは剣一本で戦う。
しばらく戦っていたヴェルナーとヴィンセントだったが、ついに止めを刺すことに成功したのだろう。レッドボアが力なく倒れ伏した。
「…さすがCランク」
「ぉー!」
そんな光景を見ていたムコーダはCランク冒険者の凄さを実感し、ムコーダの背中から見ていたアザミはあんな大きな生物を倒せるみんなにキラキラとした目を向ける。
「今のうちに血抜きを済ませちゃお」
そう言ってリタがムコーダの前からレッドボアの方へと走って行き、レッドボアの血抜きを始めた。血抜きを終えたら今度は木にぶら下げて解体をし、レッドボアは無事に素材に分けられた。
「レッドボアは、皮と牙もそこそこの値段で買い取って貰えるからな」
「肉は惜しいけど、食える分だけにするしかないね」
「そうだな…」
レッドボアの広げられた皮の上に置かれた肉と牙をみんなで囲みながら、ヴィンセントとヴェルナーが会話をしている。肉を捨てていくしかないという事に残念がるヴェルナーを見たムコーダは、自分のアイテムボックスに入れればいいのではないだろうかと提案をすることにする。
「あ、では私のアイテムボックスに入れていきませんか?」
「それは、助かるが…容量は大丈夫なのか?」
「これくらいならなんとか、あはは」
そう言う設定で行こうとしているムコーダにヴェルナーはお礼と共に頼むと言う言葉を返して来た。なので、ムコーダは肉をアイテムボックスに入れ、そのまま旅を再開することになった。
「…ぱぱ」
「ん?どうしたの?」
レッドボアの肉を手に入れてから少し経った時、ムコーダの背中にいるアザミがムコーダを呼んできた。一体どうしたのだろうかと思ったムコーダが歩きながら問いかけると、アザミはムコーダの首に抱き着いて肩から囁くように呟いた。
「おにく、美味しい…?」
「…ああ、とても美味しいよ」
先ほどのレッドボアの肉を見ていたみんなの心を読んでいたのか、肉が美味しいのかが気になったみたいだ。その質問だけで肉を食べたことがないのだろうかと考えるムコーダだが、宿のご飯には肉が入っていたよなと思い出す。まあ、肉と言っても欠片のような物で、あれを肉と言っていいのかは分からないが。何かと言えば搾りかすの方が正しいかもしれない。
とにかく、ムコーダの肉が美味しいという言葉で楽しみになったのかとても上機嫌になっていた。レッドボアの肉がどういう肉なのかは知らないムコーダだが、アザミに美味しいお肉を食べさせてあげようと決心してメニューを考え始める。夕食にはポトフを作る予定で、ベーコンを入れる予定だが、少しベーコンの入れる量を増やしてアザミが食べやすいように小さくしようと考えた。
そうしてアザミに美味しい物を食べさせたくてメニューを考えながら歩き続け、日が暮れ始めた所で良い感じの遺跡? のような休める場所を見つけた。
「もうすぐ日も落ちる。今日はここまでだ」
ヴェルナーの一言でこの場所で野営することに決まったので、ムコーダはアザミを背中から下ろす。
「今日は早めに夕食にしますか」
「またあのパンが食えるのかな?」
ムコーダの言葉を聞いたヴェルナーが嬉しそうに呟く。相当ムコーダが出したパンが美味しかったようだ。
「今日はそれだけじゃありませんよ」
「それは楽しみだな」
なにせ今回の飯の予定はポトフなのだ。きっとみんな喜ぶだろう。そう思いながらご飯の準備を進めるムコーダ。
「…」
「「「「……」」」」
ムコーダがご飯を作ろうとした時、アイアン・ウィルの面々が無言で見てくる。ムコーダとしては調味料として前の世界の物も使いたいので見られると困るのだが…。
「あのー、見てられると恥ずかしいんで、出来上がりを待っててもらえますか?」
ムコーダの言葉を聞いたアイアン・ウィルの面々は各々返事をしてみるのを辞めてくれた。なお、アザミも見るのを辞めようとしたのでアザミだけは近くに来るように言っておく。
「アザミちゃん、ちょっと手伝ってくれないかな?」
「…? はい」
まずはベーコンを取り出して一口サイズに切り、それを油を敷いた鍋に投入する。そこに安売りしていたキャベツとニンジン、ジャガイモを入れてから水を入れて煮込む。そこで忘れていたソーセージも投入して煮込んでいき、最後に固形のコンソメスープを入れる。
「ふー、ふー。…はい、アザミちゃん。味見してみて」
「はい。…っ!!!」
小皿に入れた汁をアザミに飲ませてみると、キラキラした目でごくごくと飲んでいった。
「美味しい?」
「はい…!」
念のため聞いてみたが美味しかったみたいだ。アザミの口にも合ったようなのでこれで完成とすることにしたムコーダはお皿に盛りつけ、横に食パンを付ければ完成だ。
「熱いので気を付けてください」
みんなに食パンを配ってから木の皿に盛りつけたポトフを配る。
「わぁ!もしかしてスープ!?」
「ポトフ。ソーセージと野菜の色々煮込みってとこですね」
配られた料理を見たリタが良い反応をしてくれたので、ムコーダはどんな料理なのかを説明する。
「「「いただきまーす!」」」
全員に配り終えたのでみんなで食前の挨拶をしてから食べ始める。
「アザミちゃん、熱いから気を付けてね」
「はい。…ふー、ふー。…あむ」
アザミに料理が熱いから火傷しないように注意すると、アザミはスプーンで掬ったスープに息を吹きかけて冷まし始めた。どうやら少し前にムコーダがやっていたのを真似しているようだ。ただ、まだ息の力加減が下手なのかスープが結構飛んでいる。しばらく息でを吹きかけて冷ましたアザミが口に含み、固まった。
「あ、あれ?」
アザミが固まったので困惑したムコーダが周りを見てみると、アイアン・ウィルの面々もソーセージやジャガイモ、スープを飲んだ態勢で固まっていた。
「く、口に合わなかったですか…?」
ムコーダが問いかけた瞬間、止まっていたアイアン・ウィルの面々が動き始めてポトフをがつがつと食べ始めた。
「ムコーダさんムコーダさん!お代わりある!?」
「ずるい!あたいも!」
「…もし、余っていたら」
ヴィンセント、リタ、ヴェルナーが食べ終えたのか器をムコーダに差し出しながらお代わりの要求をしてくる。その顔はとても笑顔であり、口に合わなかったわけではないようだ。
「そ、そんなに?」
「旅の食事といえば、干し肉と硬いパンが普通だったが…」
「温かい物が食べられてホッとするわ~」
ラモン、フランカも一言述べて美味しい事を伝えてくる。それを見たムコーダがアザミの方を見てみると、何故かプルプルと震えていた。
「あ、アザミちゃん?」
「……!!!」
スプーンを咥えたままムコーダの方を見たアザミの目は今までにないくらいキラキラしていた。その目には尊敬の念が込められており、どうやら心底感動しているようだ。瞳から涙が零れているのが見える。
「ああ、アザミちゃん、そんなに泣かないで」
「…おい、しい!」
「口に合って良かったよ」
「くちに、あう!」
アザミはスプーンから口を離すといの一番に美味しいことをムコーダへ伝え、ムコーダの口調を真似て口に合うことを伝える。その後、アザミは幸せそうに一口一口大事そうに食べ始めた。
「(よかった、みんなの口に合ったみたいで)」
そう思うムコーダは、なによりアザミが喜んでいる様子を見れてホッとする。そんな事を思いながらお代わりを要求する皆にお代わりを渡して食べ進めていると、アザミが服をちょんちょんと引っ張ってきた。
「どうしたの?」
「えっと、あの」
「ゆっくりでいいよ」
「は、はい。…これ、おいしい、です」
そう言いながらアザミが見せてきたのはソーセージだった。どうやら相当気に入ったみたいで、めちゃくちゃ目がキラキラしている。
「そっか。じゃあまた食べようね」
「!! はいっ!」
そんなアザミとまた食べる約束をすると、嬉しそうに返事をしてからまた食べ始めた。見た感じだとソーセージも好きみたいだが、ベーコンも好きみたいだ。食べるたびに喜んでいるのが分かる。
「このご飯のおかげなのか、あたいの身体のキレがいつもより良い気がする!」
「私は疲れを感じなくなりました!」
「よかったです」
リタとフランカがムコーダのご飯のおかげで出たいい影響を報告してくれる。
「(…ん? なんかサプリの効果みたいなこと言われてるけど、そんなの入れてないよな…?)」
「食い物が美味ければ気の持ちようも変わるのは当然だ」
ラモンが納得のできそうなことを言っているが、なんか気になったムコーダはポトフの汁を飲みながら鑑定してみることにしてみる。すると…
【 名 前 】 リタ
【 年 齢 】 16
【 職 業 】 斥候
【 レベル 】 18
【 体 力 】 135(+27)
【 魔 力 】 64(+2)
【 攻撃力 】 119
【 防御力 】 107
【 俊敏性 】 138
【 スキル 】 短剣術 聞き耳 忍び足
「ブーーーーッ!!! ゴホッゴホッ」
「うお、いきなりどうしたんすか」
「な、なんか変な所に入って」
「…ぱぱ、だいじょーぶ?」
「ゴホッ、だ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
急に噴き出したムコーダをアイアン・ウィルの面々とアザミが心配そうに見てくるが、ムコーダはそれどころではなかった。リタのステータスに書いてある(+〇〇)の数字。もしかして自分の飯のせいなのか? そう思ったムコーダが手に持っているポトフを鑑定してみると
【 ポトフ 】
異世界の食材で作られたポトフ。体力を1時間およそ20%向上させる。
【 ソーセージ 】
異世界のソーセージ。魔力を10分間およそ2%向上させる。
「(あ、これのせいだ)」
「…?」
心配そうな目で見ているアザミを目にしながらもそれどころではないムコーダは考える。これはかなりヤバい事だと。
そもそもこのポトフに使ったのはムコーダの前の世界の食材だ。つまりはこの世界の人にとっては異世界の食材。この世界では異世界の食材を食べることでステータスが上がる。そう、食べるだけで上がるのだ。
もしこれが誰かに知られたら…無限に異世界の食材を出す奴隷として使われる…! それに伴ってアザミも読心というスキルがあるのでアザミも危ない…!
よし、隠そう。
そう結論付けたムコーダはこちらを見てくるアザミに心の中で伝える。ムコーダの料理を食べたらステータスが上がるってのは秘密だと。
アザミは理解したのか頷いたのでこれで大丈夫だろう。そもそもステータスを見る方法はスキルの鑑定と鑑定の魔道具しかない。そのうち鑑定のスキルは異世界から召喚された人しか持っていないので、ムコーダの料理を食べた後にステータスを確認しない限りはバレる心配はない。
絶対に誰にも教えないようにしよう。自分とアザミちゃんの安全のために。
ポトフを食べながらそう決心するムコーダなのであった。
え? おじちゃん? 誰ですかそれは?
うん、今回も出せなかったよ…
でも次回!次回は出るはずだから!
それはそれとして。
自分の小説が日間ランキングにかなりの間乗ってて恥ずかし嬉しでした。
みなさんありがとうございます