魔剣美少女育成対戦ゲー、転生したらなんか全員の湿度が高い   作:ZAランクマ世界83位

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神ゲーへの転生、そして絶望

 

 

 

 

 ――――――『魔剣少女』

 

 

 

 それは人類史に存在した魔剣の、その魂を持つ少女達。

 

 魔剣の神秘とその名を宿し、平和な世界に生まれた不可思議で奇妙な存在。

 

 彼女たちが何を求め、どこに向かうのか。

 

 

 それはまだ誰にも分らない。

 

 

 

 ――――――以上、魔剣少女ブレイドマッチのゲームパンフレットより抜粋。

 

 

 

 まあ、自分には直接関係のない話だが。

 こっちは生まれて十数年の、魔剣としての銘も神秘もないただの人間だ。世界中が熱狂しているブレイドマッチの華である魔剣少女なんて、比べるのも烏滸がましいレベルの一般人具合である。

 

 自分は数多(あまた)

 

 数多カナタ。

 

 ただの人間である。

 

 つーか男。

 

 少女ですらねぇ。

 

 

 

 『魔剣少女ブレイドソウル』

 

 

 

 それが俺が転生したゲームの名だった。

 

 そして前世でやり込んだゲームでもある。

 

 内容はいたってシンプル。

 魔剣少女が生まれる土地【狭間島】で魔剣少女をスカウトし、限界まで鍛え上げて試合をして勝利する。これを繰り返してパートナーの魔剣少女と最強の座を目指すというものだ。主人公と魔剣の友情・努力・勝利、ライバルたちとの出会いと別れ、感動的なストーリーに当時は胸が熱くなったものだ。

 

 まあプレイ時間の大半はランクマッチだったけど。

 

 まあとにかく、この世界に転生していると気が付いた俺は歓喜した。

 

 大好きだったゲームに転生できたからだけではない。

 

 俺には前世でゲームをプレイしていたが故の莫大な知識が存在するのだ。

 魔剣少女達の特性も、技の仕様も、魔剣が秘める奥義の効果も覚えている。当時ランクマッチで猛威を振るった魔剣少女のビルドや戦術だってバッチリだ。時系列次第ではストーリーに裏打ちされた未来視に匹敵する予測すら立てられる。

 

 この狭間島は魔剣少女同士の試合、いわゆるブレイドマッチが盛んだ。

 

 魔剣少女たるもの、目と目があったら斬り合いが発生するレベルの修羅の土壌。

 強ければ強いほどこの島ではよい待遇が受けられるし、強い魔剣少女と契約を取れればそれだけで大金が転がり込んでくる。そして俺には最強の魔剣を自分で作る選択肢すら存在している。

 

 おいおい強すぎるだろ。

 

 勝ち確定じゃねぇか。

 

 笑いが止まらないとはこのことである。

 シナリオで登場するであろう災害級の魔剣の動向には気を配る必要があるが、それ以外はイージーモードである。

 

 敗北を知りたい。

 

 あまりにも都合が良過ぎて、自分でもちょっとどうかと思う。

 

 だけど、もう止められない。

 

 

 歩むぜ! 俺の最高の第二の人生(セカンドライフ)を――――――!!!

 

 

  

 

***

 

 

 

 前世のゲーム知識があれば人生楽勝。

 

 

 そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

 いや実際、途中までは良かったのだ。

 

 前世で育成していた魔剣少女を、なんとか拝み倒してスカウトできたし。

 その娘に合わせた最強ビルドも問題なく組み上げられたし、ブレイドマッチでも問題なく連勝することができたし、結構なバトルマネーを荒稼ぎできた。

 なんなら、最高峰の高ランク帯のプレイヤーたちとも、それなりにやりあえるくらいだ。

 

 おおよそ全てが順風満帆だったといっていい。

 

 

 主人公(アイツ)さえいなければ。

 

 

「………………まだだ、カナタ、まだ私は、やれる!」

「マジかよ………」

 

 雨が降る、嵐天が荒れ狂う。

 光を鎖した曇天の下で呆然と呟く。 

 

 紫紺がかった黒髪と整った顔立ち、軍服と着物を折衷したような競技装束(バトルドレス)の魔剣少女が、満身創痍で膝を着く。

 

 パートナーの()()が倒れかけている。

 

 極東にて、無数に存在したとされる王血殺しの妖刀。

 背景となる時代こそ浅いが、そのスペックとポテンシャルは逸話や伝説をもつ魔剣少女達にも引けを取らない。どんな魔剣とだって真正面から打ち合える最高の魔剣。

 

 その筈だった。

 

 油断もなかった、筈だ。

 

 だが相手の一撃をまもともに喰らって崖っぷちだ。

 マスターの特権であるサポートスキルを使用して、相棒の魔剣少女を癒すが焼け石に水だ。

 

 次は耐えられない。

 

 やや絶望混じりに相手を見る。

 

「どうするマスター?」

「――――――うん、油断はできない、慎重に行こう」

 

 先ほどの一撃で試合場の地面を消し飛ばした相手が視界に映る。

 

 パリパリと鳴りながら雷電が滞留し、赤熱化し融解した地面の向こう。

 傷一つない状態で、黄衣を纏った魔剣少女が静かに佇んでいる。

 

 視線をさらに後方へ。

 

 見えた相手のマスターは年下の少女だ。

 

 

 夕凪(ゆうなぎ)リツカ

 

 

 原作における主人公。

 悪を斃し、伝説を越え、魔剣トーナメントを勝ち抜き、そして最強へ君臨する物語を歩む絶対強者。

 

 だが、今はまだ未熟。

 いうて学生くらいのお子様。知識量も、育成も、能力構築も上回っている自信があった。

 

 なんなら何回か戦って勝ってたし。

 

 だが、今回は手も足も出なかった。

 

 油断なくこちらを観察する瞳と、静かに目があう。

 射抜かれる視線に身体がすくむ、季節外れの赤いマフラーのはためきは、まるで悪夢のようだ。

 

 避けられない結果。

 

 越えられない壁。

 

 どうしようもない理不尽が目の前にあった。

 

「降伏してください。カナタさんを傷つけたくありません」

「ああ、俺も痛いのは嫌だ」

「落ち着け、マスター! 話を聞くな!」

 

 焦った様子の村正が叫ぶがやむをえない。

 魔剣をいたずらに消耗させるのはマスターとしてありえない。両手を挙げて、降伏のポーズを取る。

 

 これ以上やってもどうにもならなさそうだった。

 まさか前世知識から組み上げた魔剣専用構築(ビルド)も、悪辣なランクマ戦術も突破されるとは思わなかった。

 

「やっぱ敵対したのがダメだったかな………」

「なんの話ですか?」

「いや、こっちの話」

 

 やむにやまれぬ事情があるとはいえ、悪の組織に身を置いたのは失敗だったらしい。

 

 まさか組織を単独で壊滅させられるとは。

 

 ボスが呼び出して操ってた厄災級魔剣も倒されるし。

 

 なんならそのボスも負けちゃったし。

 

 原作通りといえばそれまでなのだが、ちょっと信じられない。

 その気になれば、ちょっとした国家転覆ができるくらいには戦力整ってたはずなんだが。

 

 主人公、ヤバすぎる。

 

「降参だ。抵抗はしない。警察に引き渡してくれ」

 

 まあ負けた以上は文句を言うまい。

 

 大人しく降ろう。

 

 やだなぁ警察、尋問とかされるのだろうか。

 まあ狭間島の倫理観ならギリグレーなラインのやらかししかしてない筈なので、案外酷い事にはならないかもしれない。

 

 かつ丼とか食べれるのだろうか。

 

 あれ、自分で頼むんだっけ?

 

「いえ、引き渡しませんよ?」

「………え?」

「カナタさんにも、なにか事情があるって知ってますから。それに警察に引き渡したら、もう会えなくなるかもしれないじゃないですか」

 

 不思議そうに小首をかしげる夕凪リツカ。

 

 じゃあ何で戦ったんだよ。

 警察に引き渡さないのならどうするんだ。

 

「なので、私が保護しようと思うんです。マスターとして勝ってるのでお金はありますから、安全な地下室でカナタさんを護って上げればいいかなって」 

「いや、それって監きn………」

「実は場所ももう決めてあるんですよ! 挾間島の海沿いに景色のいい場所あるんですけど――――――」

 

 あっこれマジのやつだ。

 

 急に冷や汗が止まらなくなってきた。

 主人公のヤバさのベクトルが変わっている。こんなエグイ感じの性格だったっけ?

 

 てかマスターのご乱心は魔剣がケアしろよ。

 責めるように相手の魔剣少女を見るが、やや気まずそうに眼を逸らされた。

 

 おい。

 

「どうかしました?」

「ひぃ………っ!」

 

 じゃら、と取り出された本物の拘束具に後ずさる。

 手錠、猿ぐつわ、後何に使うかわからんやつまで見えてるのがひたすらに恐ろしい。

 

「あは、そんな表情(かお)もできるんですね………!」

「ねぇぇぇぇえええ! 怖いって! 話し合おうよ! こんなの間違ってる! 主人公じゃないよ!」

「大丈夫ですよ。話す時間はこれからいっぱいできますから」

 

 お、終わる。

 

 詰む。

 

 主人公に人生詰まされる………!

 

「う、うおぉォォオオオオオオオ!!」

「む、村正!?」

 

 どうしようもない現状。

 目の前が真っ暗になりかけた瞬間。相棒の村正が叫びながら黄衣の魔剣と斬り結ぶ。

 

 満身創痍でありながら、妖刀はギリギリで相手をなんとか抑え込む。

 

「逃げろカナタ! 私たちはまた会える! いまは時間を稼ぐから遠くへ逃げろぉぉおおおおおお!!」

「っち………!? 邪魔を………!」 

「うあ、む、村正! ありがとう!」

 

 相棒への信頼か、あるいは舌打ちする主人公への恐怖か、わからないままに駆けだす。

 

 暴風の中で響く剣撃音。

 

 遠ざかる魔力の波動。

 

 姿もなにも見えなくなっていく。

 

 最後に極大の雷撃が一度だけ輝き、そして静かになった。

 

 

 

 村正の敗北を悟りながら雨と風、そして闇夜に紛れていく。

 

 

 

 何もかもが曖昧になっていく。

 ハッキリしているのは、敗北したという事実だけだ。

 

 足をもつれさせながら、姿をくらませる。

 

 

 

 そうして俺の行方は、誰も知らなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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