魔剣美少女育成対戦ゲー、転生したらなんか全員の湿度が高い 作:ZAランクマ世界83位
狭間島を襲った炎の厄災『赫の夜』から、しばらくが経った。
具体的には悪の組織が主人公によって壊滅し、組織が操っていた厄災級魔剣少女がぶちのめされ、組織のボスも主人公に敗北し、ついでのように俺も主人公に敗け、なんなら拉致られそうになった、あの悪夢のような日からしばらくが経った。
赤の夜の原因である
現在はその関係者をマスターたちが追いかけている――――――わけではなかった。
島の存亡を左右するような規模の事件だったはずなのだが、世間では騒動に見切りをつけたらしい。
悪の組織の残党の動向や、マスターたちの対応を注視することもなく、さっさと次のシーズンの魔剣少女達の戦いに焦点が当たっているのだった。
まあ実際のところ、大事になる前に主人公が動き事態を収束させたのが大きかったのだろう。
結果として、ソード団はせいぜいが迷惑集団程度の扱い。
組織の関係者についても、情報が少なく追いようがなかったのかもしれない。
うちの組織の個人情報の秘匿レベルはかなり高かった。
ボスの正体を知る人間はごく一部、俺だって謎多き幹部Aとして活動していたし、他の幹部連中も似たようなものだった。
せいぜいが剣客集団として暴れていたソード団の壊滅が、小さな雑誌で乗った程度。
一時はどうなるかと思ったが。
自宅には帰らず姿を変えて潜伏こそしているが、驚くほどに平和に過ごしている。
俺の正体がバレている筈の主人公が、何のアクションも起こしていないのが不気味でもあるが。
「ソード団の元幹部が、女装してまで隠れているのですか? 随分とまあ、落ちぶれたモノですね」
「俺は人生が掛かってるなら、何でも全力でやる男だぜ」
残りの人生で監禁生活は御免である。
もともと線が細めの身体をしていたのだ。
しばらく切ってなかった髪を軽く整えてショートに、あとはインナーパンツなどの衣服で輪郭を誤魔化せばそれなりに見れるようになる。
それが功を奏したかは不明だが、今のところは平穏そのものだ。
現在は狭間島の最南端。
魔剣少女と新人マスターがペアを組んで頂点を目指すスタート地点ともいえる、始まりの街なんて呼ばれる場所に滞在している。
のんびりベンチに座って、魔剣少女達が広場でバトルしているのを眺めている所だ。
「それを言うなら、俺の方が意外だけどな」
「………どういう意味ですか?」
「いや、こないだ島を丸焼きにしかけた奴が、そこらでホームレスしてるとは思わなくて」
「うるさいわね。負け犬の分際で」
「お互いにな」
隣に腰かけている魔剣少女をみる。
灰燼を思わせる銀髪、冷酷さを感じさせる凍てついた表情。
闇を切り抜いたような漆黒の鎧衣装を纏った少女が、足を組んでこちらを睨んでいた。
――――――レーヴァテイン
それがコイツの名前だ。
北欧における最悪の炎の魔剣。
その力は
前世のゲームでは魔剣少女のパッケージイラストになっていたキャラであり、ストーリ上の大ボス、そして彼女の必殺技がタイトルの副題になっていた。
副題名は『
ちなみに対を成す形で『
選んだタイトルによって若干ストーリーが違うのと、登場する魔剣も多少異なるので、当時はどちらのタイトルを選ぶか、友人たちと議論し合ったものだ。
自分は蒼にした。
ちなみに最近起こった『赫の夜』の原因でもある。
一時はソード団のボスに従っており、主人公にボコられてからは行方知れずになっていたのだが、まさか始まりの街でホームレスをしていたとは思わなかった。
道端で段ボールの塊が蠢いていると思ってみれば、這い出てきたのはレーヴァテイン。
腹を空かしたのか、そのまま近くのゴミ箱を漁ろうとする姿を見かねて、思わず声を掛けてしまったというわけだ。
「そもそも、こんなはずではなかったのです! 最強なのに! 全てを焼けるのに! あのクソガキに負けてから全然力がでないわ、お腹は減るわ、眠いし寒いし、もうメチャクチャよ!」
「ああ、そういえばそんな感じだったな」
わめく彼女を見て思い出す。
単独で災害と同等かそれ以上の力を発揮するのが、レーヴァテインを始めとする
人の間に魔剣の魂が転生して生まれる他の一般魔剣少女とは違い、生物的な活動は不要で、深海やら宇宙空間やらの極限地帯を徘徊していたり、あるいは強大過ぎて封印されていたり、まあ神様にちかい存在なのだが、一度完全に討伐されると、それ以降は通常の魔剣性能まで落ちてしまうらしい。
つまりレーヴァテインは、もはや神が如き厄災級ではなくただの一般魔剣少女なのだ。
腹も減るし、眠くもなるわけである。
「絶対に逃がしません。貴方には嫌といっても、責任を取ってもらいます!」
「わかったわかった、悪いと思ってるから契約しただろ?」
「毎日ご飯を作ってもらいます! 寒くない場所と、お風呂、お布団を用意してもらいますからね!?」
「わかったわかった」
うちのボスがレーヴァテインの封印から解放したのだし、当時のこいつはこいつでかなり調子に乗っていたのであまり同情って感じでもないのだが。
それでも右も左もわからない魔剣少女がホームレスっていたのは、流石に申し訳なさが勝つ。
マスターとして魔力を供給する経路を結び、契約を再度確認する。
「でもタダ飯喰らいは困るぞ。期間は最低限ひとり立ちできるまでだ。当然鍛えるし、俺の安全は守ってもらうし、目的にも協力してもらう」
「当然です。私は最強ですから、軟弱な人間ひとりくらい余裕です」
「大丈夫かなぁ………」
それはつまり、最悪の場合は主人公と戦うことになるのだが。
まあ、とりあえずは良いだろう。
最低限の戦力は確保できた。
俺は備えなければならないのだ。
現在、主人公の夕凪リツカはブレイドマッチの頂点、つまりチャンピオンだ。
そしてソード団は壊滅し、レーヴァテインは討伐され、ボスは敗北しているので本編ストーリーは終了状態だ。
つまりDLCが来る。
新たなる悪の登場。
赤の夜とは比較にならない厄災級魔剣の複数顕現。
冗談抜きで島が沈没しかねない最悪のシナリオ。本編クリアかつ魔剣育成完了済み前提の極悪難度。
気を抜けば、たぶん死ぬ。