元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第13話

 

 『子供』たちは眠りにつき、大人になりたい『子供』達が夜遊びを繰り返す中、遥か高みの高層ビルの一室にて『大人』達がビジネスの話をしていた。

 夜も深まる中、黒服と先生が対峙していた。一人の生徒の行方を巡って。

 

 近藤アキの件ですね? と黒い男が言う。置かれたティーカップからは珈琲の香りが立ち上っていた。

 いつもより、かっちりとしたスーツ姿の先生が短く頷いて、こんな深夜に失礼。と社交辞令を述べた。

 あなたと対話できるのであれば、時間などは問題ではありません。と返し、そして、会話劇は開かれた。

 

 置かれたコーヒーには手を付けずに、先生は本題をいきなり切り出し始める。

 

 「行方不明には、あなたが噛んでいるのか?」

 「知り合いの芸術家が彼女に酷く興味を持ちまして。色々と調べさせて貰いました」 

 

 結論からお話しましょう。と彼は切り出した。

 

 「彼女は生きています。そして、先生。あなたが知りたがっている彼女の行方について、私は関与を一切否定します」

 「よくも抜け抜けと言えたものだね。ホシノにあれだけの事をしておいて」

 「私にも知的好奇心というものがありましてね、先生」

 

 それに、アレはビジネスでした。と黒服は言う。

 私の求める実験を行うために、快く同意してくれる生徒を探していたのですよ。そして、彼女は金銭面で悩み、そして強い能力を持っている。求める条件を満たしていました。と黒服は悪びれずに言う。

 その価値は今でも継続している。と付け加えた。その一言に先生は我慢出来ずに立ち上がった。

 

 「私は……これでも怒っているんだよ黒服」

 

 一歩、立ち上がった先生がデスクに近寄り、座っている黒服を見下ろした。

 

 「生徒を蔑ろにされ、不利な条件を飲み。あまつさえ、その契約を一方的に破られた」

 

 今ここで暴れてもいい。とクレジットカードのような形をした黒いカードを取り出し、目の前に掲げた。

 その行動を見た黒服は、驚きの声を上げることになる。

 

 「大人のカード……どのような認識かはわかりませんが、軽々と命を削るものはありませんよ」

 「軽々と? 違うね。私は生徒の為であれば、なんだってやる覚悟がある」

 「……。大したものです」

 

 黒服は降参とばかりに、肩を竦める。席へお座りください、先生。と彼は告げると、実情を話し始める。

 

 「確かに、私は利用価値があると判断し、カイザーPMC理事。彼と手を組んでおりました。名目上は小鳥遊ホシノ獲得の為です」

 

 それを聞いて先生の目つきが鋭くなる。それを気にせず彼は言う。

 

 「しかし、私は彼女らの同意に伴う契約の上でのみ行動をしておりました」

 

 契約に反したことは行わず、また迂遠な方法をわざわざ取り、直接的には干渉を行わないとしました。その為にこの土地の所有権を狙うカイザーコーポレーションをコンサルティングし、そして、技術の面でのバックアップを行ったのです。と彼は言う。

 つまり、一方的に契約を破棄した彼の暴挙においては、私もまた予想外と言わざるを得ません。と彼は言う。

 契約違反です。と短く、けれど確かに切り捨てた。

 

 「彼はクライアントとして、そして、『大人』としてのルールを破った」

 

 到底許されざる行為です。と静かに言い放った。

 崇高の到達の過程において不純物が混じりました。研究者としての矜持に障る。と独りごちた後、再び先生に顔を向ける。

 

 「──故に、私はこの件から手を引きましょう」

 

 そして、この件についての情報をあなたに提供します。と、彼は言う。これによって敵対関係では無いことの証明としたいのですが、いかがでしょうか? という提案に、先生は頷く。

 

 「じゃあ、アキは何処にいる? 告知通りに本当に事故だとは誰も思っていないよ」

 「彼の偽造工作もまた幼稚なもので、些か失望を隠せませんが……そうですね。彼女はあなた方が攻め入った基地の地下シェルター内。そこにおります」

 「……それは」

 「嘘をつく理由はありませんね。既に彼は私の味方ではありませんので」

 

 居所の判明にほっとするも、しかし、敵の手に落ちているのもそうであるし、それを見逃したのも自分の落ち度だ。険しい顔にならざるを得ない。

 それを見て黒服を反応する。

 

 「そして、彼女の安否になりますが、まぁ、心配は不要でしょう」

 「何を根拠に……?」

 「知り合いが不思議がっていましたよ。アレで一生徒程度の出力で収まっている方がおかしい。と」

 

 黒服は肩を竦め、先生は眉を顰める。

 押し黙った先生は暗に先を促した。

 

 「本来であれば、彼女の神秘は小鳥遊ホシノ、彼女に並ぶ……いえ、それ以上の可能性を秘めていました」

 

 ですが、と黒服は更に続ける。

 

 「彼女の出自か、あるいは我々に観測できない内面において、彼女は『子供』としての枷を嵌めている。故に、彼女は彼女のままで一生徒として、活動出来ているのです」

 

 本来であれば、知り合いの芸術家が複製(ミメシス)した玩具程度でどうこう出来るものではありません。と、彼は言う。

 

 「神秘とは自身の秘めたる力の象徴。であるならば、リミッターとなる存在があると私は踏んでいます。予測通りであるならば乖離があまりにも激しい」

 

 つまるところ、均衡の天秤が保たれているのは彼女が彼女たらんと足掻き続けている為に、近藤アキという存在で居られるということです。と黒服は言う。

 

 「神秘『ウプウワウェト』。オオカミの都市。リコポリスの守護者。夜明けをもたらす者であり、鋭き矢。ですが、このことに置いて重要なのは、それは我々が観測出来る彼女の一側面でしかありません」

 

 一人称の物語の主人公のように、別側面は観測できないのです。

 黒服は先生へと改めて顔を向ける。

 

 「これは良心からの忠告ですが……」

 

 ──アレを生徒と見なすのは止めた方がよろしいでしょう。

 

 「……理由は?」  

 「アレは生徒などという、そういうものではありません。偶然がもたらしたイレギュラーです。偶然残っていた入れ物に中身が宿っただけのもの。本来役割などありはしません」

 

 先生は、それを黙って聞いている。

 

 「水辺に繋がれたままにしておきなさい。決して救おうなどと思わずに。アレは誰にも、我々『ゲマトリア』にも、そして別の者にも扱えるものではないのです」

 

 解き放てば必ず厄災を齎します。あなたに降りかかる形で、と黒服は述べた。

 その言葉に先生は立ち上がり、黒服の前に立つ。

 

 「まずはモノ扱いしないで貰いたいね。アキは私の大事な生徒だよ」

 

 そして、そのままに言葉を述べた。

 

 「子供は必ず間違いを犯す。そして誰かに迷惑を掛ける」

 

 何も分からず、飲み物を持っている姿ですら恐れてしまうことがある。そして分からないことを大人に怒るんだ。

 でも、それを大人が嫌ってはいけない。だって、それが成長というものだから。

 

 「その責任を持ってあげるのが、大人の役目だよ。黒服」

 「あくまで平行線、ですね。先生」

 

 そうですか、と黒服は息を吐く。

 これでも随分とリップサービスをしたつもりなのですが、と更に続けた。

 

 「彼女を諦め、そして我々『ゲマトリア』の仲間になるのであれば、アビドスの抱える負債とカイザー理事の暴走の責任を持つ予定でしたが……」

 「残念ながら交渉は決裂だ。黒服」

 

 先生は席を立つ。そして、踵を返しオフィスの出口へと向かった。その姿に黒服は口を開く。

 

 「先生。カイザー理事は随分と強引な形で戦力を募っています。そして、そこに、私と志を共にするものも手を貸しております」

 

 アビドスの持つ戦力のみでは厳しいでしょう。と、黒服は去り行く背中に言葉を投げかける。

 

 「それに、上乗せされたアビドスの負債は有効です。契約を破ればその負債は更に違約金として跳ね上がる。そして、彼女の監督権の放棄も盛り込まれていた筈。それら全ての責を負うつもりですか、先生?」

 「そうだね、でも、何とかしなければならないんだ」

 

 アキは、『大人』に諦めと失望を抱きながらも、『子供達』に対する希望は捨てないでいてくれたんだ。

 いずれ『大人』になる彼女達にアキはそれを知りながらも、手を伸ばし続けた。届かなくても懸命に。

 

 「その意思を私は尊重しないとね」

 「例え、彼女があなたを嫌っていても?」

 

 その返しに、先生は笑って答える。

 

 「私は先生だからね。生徒が笑って成長してくれるなら、泥も被るよ」

 「そうですか、先生」

 

 ──どうか、その困難な道に導があらんことを。

 

 その言葉と共に、オフィスの重厚な扉は閉じられた。

 

 ◇◇◇◇◇

 同刻、闇の蠢く時間。

 基地内某所にて、カイザー理事は、二つの頭を持つ木製の人形に当たり散らしていた。

 

 「芸術家気取りの贋作家が……あの爆弾のおかげで儂は危ない橋を渡ることになったぞ!!! どうしてくれる!!」

 「『マエストロ』、そう名乗ったはずだが」

 「黙れっ!! どうでも良い事をグチグチと!!」

 

 スーツ姿の木製人形の胸倉を掴み、理事は喚く。

 

 「貴様のせいで、私は殺人未遂だ。しかも、忌々しい事に消そうと目論んだ小娘二人は健在だ。ヘイローを破壊する爆弾とは随分と大きく出たものだな!!」

 「元々は、捕縛した『暁のホルス』の仲間に対して使い、恐怖を増幅する予定だったと聞いていた」

 「では、目的外では効果が発揮しないということか? 芸術とやらは随分と繊細だなマエストロ!!」

 

 ふむ、と木製の人形は考える。

 「あの神秘において、無効化されるものは無いと思うのだがな。やはり、アレの存在において何かが働いている事は間違いがないのだろう」

 

 喚く理事を無視して、マエストロは喋り続ける。

 

 「やはり、かの集団の作品には理知外のものがある。彼らが扱い損ねたとなればなおさらだ」

 

 納得したかのように、『マエストロ』は踵を返す。その態度に驚いた理事は、すがりつくように怒鳴った。

 

 「何処へ行く!! いつ儂を狙って忌々しいアビドスの小娘達がやってくるかわからんのだぞ!!」

 「そうか、残念だが、時間切れだ。哀れな道化よ」

 「ま、待て!! お前はミメシスとやらで兵を用意したのだろう!! これではまだ足りん!! もう少し力を貸してほしい!!」

 「来たるべき戴冠の際、礼を失する事が無いように用意したものだ。貴様のではないよ。道化」

 

 ギギギ、と軋んだ音を立て、ぐるん、と首が180度周り、理事の方を睨む。

 

 「お前は語り部にすらなれずに、舞台から降りることになる」

 

 暴力によって鎖をつけられる程に、狼たちの長は甘くはない。

 

 そう言い残し、マエストロは黒い空間に消えていった。

 残された理事は苛立ちまぎれに、転がっている『誰か』を蹴りつけた。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 かくして、『大人達』の夜は終わりを告げ、朝日が昇る。

 砂漠まみれのアビドスを象徴するように、力強く、眩い日光であった。

 

 アビドス高等学校にも朝日が差し込んで、各々が目を覚まし始める。そこに誰かが入ってきた。

 

 「皆、起きて~!!」

 

 一番のお寝坊さんが、朝一番に大声を上げる。

 封筒を見せびらかしながら、小鳥遊ホシノはみんなを叩き起こした。

 

 「アキちゃんのお友達が、ビックニュースを持ってきたよ~」

 

 

 事の始まりは日没直後の派出所。ホシノとマオが出会った頃に遡る。

 

 ホシノがアキのコートで包まれ、彼女の匂いを堪能していた所。

 DOGGY3こと、『沖田 マオ』がやってきて現場を目撃したのだ。ホシノ側も動揺し、マオ側も引いていた。

 紆余曲折あって、まぁ、気持ちは分かるよ、とマオに納得してもらい、彼女の近況を話した所から始まる。

 

 「え、うっそぉ。たいちょー行方不明なの!?」

 「テンション高いな~、アキちゃんの部下ってみんなこうなの~?」

 「もしかして、誰かの事情に勝手に首突っ込んだ挙句、自爆した???」

 「何で知って……もしかして、アキちゃんっていつもそうなの?」

 

 黄色と白の髪のロリっ子が、嬉しそうに、うん、と頷く。その姿に、あー、この子も同じか、とふーん、とまたしても自身の中に初めての感情が渦巻き、思わず半目になる。

 

 「なんか、ハイライト消えてない? 眠い感じ?」

 「うへー、何でもないよー?」

 「んー、やっぱり、たいちょーはたいちょーだよねー。うんうん」

 

 その後方理解者面に、若干の苛立ちを感じつつ、マオが持っている封筒にホシノは注目した。

 

 「で、訪ねてきた理由はそれかな~おじさんに見せてよ」

 「んー、どーしよっかな。たいちょーに渡してってシーちゃん先輩に言われてるんだよね」

 「大丈夫、大丈夫。アキちゃんのことならおじさんに任せて? ちゃーんと分かってるんだから」

 「DOGGY小隊の隊員だったボクの方が、たいちょーと居た時間長いけど大丈夫そ?」

 

 ぴきっ、と空間が固まり、お互いに青筋が浮かぶ。

 

 「おじさん、それなりに強いからさ~」

 「それなりじゃダメかな~。ボク、たいちょーよりも強いもん」

  

 時間限定だけどね。とマオは言う。売り言葉に買い言葉と本当に暴れて見せようかと思ったホシノだったが、ぐっと堪え、マオにお願いする。

 

 「……本当に心配してるんだ。見せてくれると嬉しい」

 「ま、そうだよね。ボクも言い過ぎた。うん。ごめんねー」

 

 軽い口調でそう言うと、ひょいと封筒を渡してくる。

 

 「ボクは明日も仕事があるからさ、頼むよ、小鳥遊ホシノさん」

 「え? うへ? 名前言ったっけ?」

 「ふふふ、DOGGYの情報収集能力、舐めない方がいいよ~」

 

 じゃあ、またね~と、マオは去っていく。ホシノはその光景を封筒を抱えたまま見送るしかなかった。

 

 それが夜更け、暁の始まる時間のこと。

 書類の中を見て、居ても立っても居られずにホシノは学校へと歩を向けたのだ。

 

 「というわけで、アキちゃんのお友達の持ってきた情報だよ」

 

 眠気まなこの数名が目を擦るなかで、ホシノはファイルを机の上に置く。

 極秘、と判がされたファイルを開けると、中には何枚かのファイリングされた資料が入っており、細かなデータと、ここがいいです。とメモされた高級スイーツ店のチラシが入っていた。

 慌てて寝間着から着替えたアヤネが資料を手に取る。

 

 「これは……カイザーコーポレーションの不正記録、ですね」

 「何よこれ……随分と舐めたことしてくれたじゃない」

 「それに、地図……もしかして、これって私たちがいった所じゃないですか?」

 「ん、それに、GPS? これ……基地内に反応がある」

 

 口々に言うと、最後に出てきたのは薄い端末。シロコがその電源を付けると突然、映像が浮かび上がった。

 赤色に白のインナーカラーのロングヘアのメガネの女性が、優しそうに微笑んでいる。

 沖田マオが醸し出していた子供っぽい雰囲気とは真逆で、優し気なお姉さんといった所だ。

 

 その映像が、これは録音です。と、一声述べてから語りだす。

 

 「あらあら、アビドス高等学校の皆さん、こんにちは。山南 シキです。今回は『私たち』の隊長がご迷惑をお掛けしております~」

 

 やけに私たちを強調している声に、一部の人物の眉が寄った。主に、ピンクの小さいのと灰色頭である。

 

 「出来るだけ分かりやすくまとめたつもりですが、不足かもしれませんのでご説明をしましょう」

 

 こほん、とわざとらしく咳払いをした後に、彼女は語りだす。

 数日前にコッソリ端末につけていたGPSが固定位置から動かなくなったこと、そして、三日前にそれは基地内を動き回り、特定の場所で動かなくなった事を告げた。

 

 「つまるところ、発信機がバレていなければ、隊長の位置はそこですね~」

 

 まぁ、バレるわけないので、絶対にそこにいると思います~という補足に、一同はある言葉を思い浮かべる。

 何処に発信機ついてるんだろう……と。そして、一人一人が反応し始める。

 

 「じゃあ……アキ先輩は」

 「ん、ここに居るってこと!!」

 「でも……私たちだけで、あの基地を?」

 

 皆が喜ぶのも束の間、ノノミが冷静に言葉を述べた。

 基地はある程度の被害があったとはいえ、まだまだ兵隊は残っていて、アキの状態がわからないのも不安材料だ。これ幸いと攻めても事態が好転するとも思えなかった。

 記録映像にも関わらず、そんな皆が一旦落ち着く瞬間を待っていたかのように、シキは語りだす。

 

 「あらあら……そこで、資料の最後のページから3枚程ご確認くださいね~」

 

 紙のめくれる音がして、資料を覗き込んでいたアヤネが感嘆の声を上げた。

 

 「これは……戦力の概算?」

 「その前後の主計官の記録から、おおよそ予想される戦力及び主戦力の概算です」

 

 そして、それは隊長が全力で暴れまわった場合と、皆さんが暴れた状態から差し引いて、用意できる戦力と、その想定です。と、一日ごとの予測が書かれていた。

 アビドスの皆が感心しながら覗きこんでいる間にも話は進む。

 

 「さて……私はヴァルキューレとしては動くことは出来ません。あくまで私人での資料となります」

  

 ふんわりした、態度から一変し真面目な口調で彼女は話す。

 上からの圧力が働いています。それを無理矢理破ってもいいのですが、隊長に迷惑を掛けるわけにもいきませんからね~と、シキは優しく笑ってこう述べた。

 

 「いかに皆さんが隊長を守れないダメダメさんでも、シャーレの先生と一緒に動けばまともになるはずです」

 

 頑張ってくださいね。とにこやかに、けれど、刺々しい言葉を吐きながら映像は切れた。

 一同、言葉を失って唖然。である。流石に抗議をしてやりたいところでもあるが、それをやるよりも他にやることがある。

 

 「……うへー、まぁ、このシキちゃんにお話しするのは後にして、まずは」

 「先生に連絡ですね! ホシノ先輩!!」

 「ノノミちゃん話が早いね~。おじさんは成長にびっくりだ」

 「私は、他に頼れる戦力に相談してみます!!」

 

 ムカつく~と吠えるセリカや、シロコは舐められたら反撃の精神で憤慨するのを他所にホシノ、アヤネ、ノノミは動き出す。

 現状一番、頼りになる『大人』。かつて一緒に銀行強盗をした6番目の子。そして、金さえ積めば戦力になってくれるアウトローたちへ、それぞれに連絡を飛ばし始める。

 

 そして少女達が一番待ちわびていた人に、最初に電話が繋がった。

 そう、シャーレの先生である。

 

 先生は何をしていますか? とノノミが聞くと、先生は答える。

 

 ──うん、ちょっと野暮用でね(足を舐めていてね)

 

 事態が動き出す。

 自身を顧みずに全員の手を取ろうとした少女の為に、今度は彼女の手を掴んで離さない為に。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ゲヘナ風紀委員会、執務室。

 

 委員長のヒナは白いウェーブを靡かせて、彼女は届いた資料と、先生からお願いされた言葉を反芻していた。

 

 「なるほど……相変わらずね」

 

 アコ、と、自身の副官である行政官を呼び寄せる。

 

 「アビドスへ向かうわ、兵を集めて」

 

 何故か、本当に舐められた……と、落ち込んでいるスナイパーの肩を叩きつつ、ヒナは自身のコートを羽織る。

 

 「あと、何度言っても聞かない『おせっかい』に言う短い文句を考えておいて頂戴」

 

 アコは首を傾げながら、すぐに準備に取り掛かった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 トリニティ ティーパーティー執務室

 

 歴史と伝統を重んじるお嬢様学校『トリニティ総合学園』

 そこに彼女は立っていた。かつてファウストと名乗り、アビドスの銀行を恐怖のどん底へ叩き落し、あまつさえ現場に駆け付けたアキに一番最初に弾丸をぶっ放した少女こと、『阿慈谷ヒフミ』。

 彼女は、学校をまとめあげる才媛こと『桐藤ナギサ』と対等な立場のように話していた。

 

 良く手入れのされた茶色のロングヘア。その持ち主のナギサが笑うたびに髪が絹のように流れる。ファビュラスな香水の香りと、香りに富んだ紅茶の湯気が優雅さを演出していた。

 

 「では、ヒフミさん。お外で出来た友達の為に私の力をお借りしたいと」

 「はいっ! 正確には友達のお友達で……とにかく困っているらしいんです!!」 

 「もちろん、ヒフミさんたっての願いですから、叶えたいのは山々ですが……」

 「近藤アキさん、という方で──」

 「……今、何と?」

 

 優雅さを保っていたナギサが固まる。そして、自身を落ち着かせるように紅茶に口を付ける。

 その態度に不審がりつつも、ヒフミは再び答えた。

 

 「近藤アキさん、です!!」

 「今度は何をしでかしたんですか、あの子は!!!!」 

 

 ナギサは思いっきりむせた。

 そして、彼女の権力によって、あれよあれよという間に遠征隊が結成され、アビドスへ向かうのであった。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 同刻 某所──。

 

 「私よ」 

 

 薄暗い事務所にシャッター越しの日光が差し込む。その日光を背負うように置かれたデスクチェアの上に女性がいる。彼女が持つ薄紅色の髪と、その間から生えた角がうっすらと照らされていた。

 高そうな調度品、そして、多少雑多になっているデスク。その上に乗る電話を片手に持ったオフィスの長は短く会話を返した。

 

 「私も、そちらに掛けようと思っていたの」

 

 ふふ、と彼女は笑う。落とし物です。と書いたメモをくしゃりとゴミ箱に放り投げた。

 

 「随分と、洒落た依頼をするのね。顔も見せない前金、用件だけ書いてあるメモ。しかも、名前も書かないなんて」

 

 いいアウトローっぷりじゃない。と電話越しに褒めると、向こうから返ってきたのは困惑の声。その嚙み合わなさに事務所の主こと、自称アウトローである陸八魔アルは大声を上げた。

 

 「えっ、アビドスの基地を攻める手伝いをして欲しいってメモを書いて事務所の前に大金置いたの、あなた達じゃないの!!!??」

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 紆余曲折、様々な時間と準備が終わった明朝。

 

 アビドス高等学校により五人の生徒と、一人の『大人』が校門前に立っている。

 

 「しっかし、先生も考えたわよね」

 「ふふっ、ヴァルキューレのアキちゃんの監督権の放棄を迫られてるからって」

 「一時的に、アビドスの体験入学生ですか」

 「ん、アキ先輩なら本当に転校してもいい。私は歓迎する」

 ──ヴァルキューレの局長に掛け合ったら、了承してくれたよ。

 

 今の私には、こういう事しか出来ないが。と苦々しく告げた局長を先生は思い出す。

 数日の休学と、入学前見学の手続きは裏の手を使われ、速やかに、そして内密に行われた。

 

 「でも、これで先生も堂々とアキちゃんを助けにいけるね~」

 

 一番先頭に立つホシノが言う。

 そして、一声の号令と共に朝焼けに向かって彼女たちは歩き出した。

 

 「んじゃ、行こうか」

 

 ──私たちの『仲間』を取り戻しに。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 基地内某所

 

 真っ暗で不潔な地下牢の中で『彼女』は目覚めた。

 茶色の短髪を揺らし、犬耳がひょこひょこと動く。どうやら鎖に繋がれているようだ。

 そして、『近藤アキ』は言葉を発した。 

 

 「あれ……ここは?」

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