元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
エピローグ2 これからに向かうキミ達へ
昼下がりの学園の何処かの作業室で物語は始まった。そこではオイルと鉄の溶ける臭い、姦しい声のかわりに電動ドライバーの音が響いていた。
ここはミレニアムサイエンススクール、エンジニア部。
そこでは日夜、面白おかしい発明が行われていた。
犬耳で黒髪の生徒がデータを取りまとめたレジュメを持ってやってくる。そして、ちょうど集まっていた金髪と青髪の生徒に話しかけた。
「ウタハ先輩。ペロロRX-87が一体起動したらしいよ」
「何っ!? それは本当かね」
「説明しましょう! ペロロRX87とは、かつて、ヴァルキューレ警察学校においてキャンペーンをする際に簡単に動く着ぐるみを作成して欲しい。と依頼を受けた時に製造したプロトタイプであり、Bluetooth、冷暖房設備完備、そして、防弾性、耐爆性にも優れた代物であり──」
「あー、コトリ。そのくらいでいいよ。ありがとう」
しかし、とエンジニア部の部長である『白石ウタハ』は考え込む仕草をする。
「一人乗り用なのに、実際には多機能過ぎて中に三人詰め込まないと動かせない。とクレームが来ていたと記憶していたが……」
「いつの間にかブラックマートに払い下げられてたね……たまたま識別が生きてて良かった」
「一体誰が動かしたのでしょう。興味があります!」
ふむ、と考える仕草をした後、ウタハは言う。
「そのログを追ってみようか、もしかしたら我々の求める宇宙船の操縦手になるかもしれない」
ウタハが号令を掛けると、エンジニア部は再び騒がしくなり始めた。
◇◇◇◇◇◇
ゲヘナ風紀委員。その長であるヒナはため息をつく。
(疲れたわ……)
先生の頼みとは言え、アビドスまで出向いて巨大なヘビと怪獣バトルをしてきたのは流石に堪えていた。
(まぁ、先生とデートする約束できたからいいか……)
ふふ、と口元を緩ませて、思い直す。そして、目の前の書類の山を見る。
おそらく、今回の騒動の中心に居たあのお節介も同じ事をやっているのだろう。昼夜問わず働いてそれで尚、人のことを考えるお人好し。
(私もあの子みたいになったほうがいいのかな?)
そんな事を考えていると、ドタドタと執務室前が騒がしくなる。ノックもそこそこに入ってきたのは、酷く慌てた1年生の姿だった。
「トリニティの温泉開発部の桐藤ナギサさんという方からミレニアム近郊にある電話を爆破されました!!!」
「……わかったから、落ち着いて」
ひとまず電話を繋いで頂戴、と一言掛け、椅子に掛けていたコートを羽織る。
(今日も残業になりそう)
ため息の回数がまた増えたのであった。
◇◇◇◇◇◇
日が傾きかけたアビドス市街地。屋台で営業している紫関ラーメンにて、便利屋68の社員達たちはラーメンを啜っていた。
「良かったのアルちゃん。結局、ほとんどの依頼料を置いてきちゃったけど」
「いいのよムツキ室長。金は天下の回り物って言うでしょう?」
それに、そっちの方が粋じゃない? と、アルは髪を片手で抑えながら、熱々のラーメンをフーフーしている。
「それに、正規の依頼を受けたわけでもないし、あれで良かったのよ」
「社長がいいなら、それでいいけどね」
カヨコも同意し、薄く微笑みを浮かべている。
「あの……本当に、爆弾は仕掛けなくても良かったのでしょうか」
「それは、要らないわよ!!?」
そんな事をわちゃわちゃと話しつつ、アルは頬杖をついた。
「結局、あの依頼料って誰のものなのかしら……」
◇◇◇◇◇◇
『って、思ってると思うよ。副たいちょー』
マオの楽しそうな声を聞いて、眉根にシワが寄る。
「うるさい。それに今は副隊長ではなく、警備課の土方だ」
「副たいちょーがその言い方する時って拗ねてるときじゃん!! あー、拗ねてる! たいちょーが連絡しなかったから拗ねてるんだー!」
「喧嘩中なんだから、アイツの名前出すんじゃねぇ!!」
土方セタは怒鳴って、マオとの電話をぶちっと切ってしまう。
全く、マオの野郎。とぶつくさ文句を言っていると、更に電話がかかってきた。
『あらあら、副隊長は今日もお元気ですね』
「あぁ、シキか。今日は喧嘩は買わねぇぞ。気分じゃねぇ」
『うふふ、そんなに落ち込まなくても』
「あぁ!!??」
突然の大声に警備局の同僚がビクッ、と肩を竦ませた。
「あらあら、いつまでも喧嘩ごっこなんてしてるから、私達に先を越されているのに」
「うるせぇ……黙ってろ。それにごっこじゃねぇ」
「うふふ、どうでも良いですけど、立て替えた依頼料の振り込みを忘れずに。延滞料、高くしておきますからね」
「……で、どうだったんだよ」
だんだんと尻すぼみになる態度を笑いながら、シキは言う。
「うふふ……知りたいですか?」
「早く言え」
「可愛い可愛い我らの隊長は無事。そして、予想外だったのは、渡した依頼料の大半は治療費へと充てられました」
良かったですね副隊長。欠片でも隊長の役に立てて。と、シキは刺々しく言う。
「そうか……なら、いい。それだけだ」
「うふふ、私は後日、隊長にスイーツを奢ってもらいます。羨ましいですか? トリニティの前から気に入ってたものなんです」
「うるせぇ!!!!!」
またしても持っている端末をぶん投げる勢いで電話を切った。そんな態度にまたしても同僚の心臓がキュッとなった。可哀想。
セタは、右手に持つDOGGY小隊のワッペンをぎゅっと握って、そしてロングコートのポケットにしまう。
「さぁ、てめぇら。巡回だ! 厳しく行くぞ。市村ぁ! 何ボサッとしてやがる!!!」
黒褐色の髪をまとめ、ポニーテールにすると部下たちをまとめ巡回へと繰り出したのであった。その日出勤の同僚達は、鬼だ悪魔だ……と後々伝説になるくらいの荒れ具合だったという。
◇◇◇◇◇◇
砂漠の夜に、忘れられた建物が沈んでいる。
浮かぶ月に照らし出され、廃墟たちは静かに眠っていた。
「FOX小隊を解散しようと思う」
私は集まってくれた皆を見て、そう切り出した。
救出され、そしてアキを助けた後、私たちは先生や一緒に戦った仲間への挨拶もそこそこに撤収した。彼女に顔向けできる程に厚顔無恥でも、恩知らずでも無かったからだ。副隊長にはいいの? と再度聞かれたが、私の決意は固かった。
そして事態が色々と固まり、私が自首しても証拠不十分となってしまった今、私は自身の身の置き所に悩んでいた。私は何処に行けばいいのだろうと。
数日考え抜いて、結果として答えは出た。
だが、これは部下たちを連れてはいけない。そういう道だ。だからこそ私は隊員に言ったのだ、ヴァルキューレに転校するなりして幸せに暮らして欲しいと。
その言葉に、皆はきょとんとしていた。伝わりづらかったのだろうか、と悩んでいると、全員からため息が漏れた。
「はーっ、どーして隊長って全員が全員こうなわけ??」
「DOGGYの子は全員彼女についていったけど、ねぇ、ユキノちゃん」
「責任を取るのも良いんだけど、一人でかっこつけちゃうのは良くないんじゃない?」
頼もしい言葉だ。と、心があたたかくなる。
しかし、これから先は上手く事が運んでも、そうでなくとも矯正局送りになる可能性が高い。危険かつ見返りのない任務だ。それについて来てもらう訳にはいかない。
「話した通りだ。私はもうついて来て貰う資格など。それに……ここから先は地獄だ」
巻き込みたくない、と彼女達に話す。それでも彼女たちは一歩も下がらなかった。
ついていきたいからじゃ駄目なの? と、副隊長のニコが言う。そして、クルミもオトギも同意見のようであった。
「元より、私達はSRTとか防衛室長関係なく、ユキノ隊長。あなたについて行ったんだし」
「そーそー、連邦生徒会に反旗を翻した時点で変わらないって」
信じられない目で私は隊員を見た。その態度にも柔らかく笑ってニコは言う。
「言葉を借りるようだけど、DOGGY小隊の一条。でしょ? ユキノちゃん」
あぁ、そうだ。アキが自身に良く言い聞かせるように言っていた。
──信じた正義を突き進め。
「重いな……」
正義とは、ずっと正しいことをやり続ければいいと思っていた。だが、その正義はいつしか目標から目的に変わっていた。
そして、それを正そうとしてくれた友人に銃を向け、命を奪いかけた事実は消えない。ずっと私の中に残り続けるものだ。
きっと、私は罪人として裁かれることになる。私はそれを拒めないし拒む気が無い。
『私はこれからどうすればいい……!!』
アキを撃ってしまい、そして彼女が目の前で私を庇い大怪我を負った時。私は進むべき道を見失った。正義の為に突き進むべきなのか、罪を償うべきなのか。その相反するものは両方とも受け入れるには分からず、見ず知らずの『大人』に相談した。
その時、先生は言ってくれた。
──ダークヒーローってね、格好いいんだ。
その後、フルフェイスライダーという変身ヒーローについて熱く語られて、少し困ったのを覚えている。
けど、罪を背負いながら罪を清算する為に動く英雄の姿を聞いた時、私は道が見つかったような気がした。
「私は表舞台には戻れない。けれど、私がSRT学園の維持を扇動した以上、学園を放置することも出来ない」
彼女は自身が傷つく事で救ってみせた。私とアビドスを。
そして、それ以前にも、やはり救ってみせたのだろう。SRTの旗とその魂を。
彼女が謗りを受けることで、嫌々ながらもヴァルキューレに転校した子の名誉もそして生活も守られている。自分を犠牲にその他大勢を救う。全くもって贅沢な『正義』だ。
では残された、そして残ることを選んだ私達はどうするべきだろうか。失意のうちにヴァルキューレに転校するのも、そのまま納得出来ずに居座るのも居るだろう。
それらを全て諦めて、私は『正義』の旗を降ろすのか。
──答えは、『否』だ。
残ってSRT学園の存続を願ってくれた同志達に、せめて正しい道を歩ませなくてはならない。
私達はSRTに残る最後の分隊になるだろう。
いつも後始末だ、と、いつの間にか笑っていた。
「カイザーコーポレーションも、防衛室長も内側から監視しなければ……危険だ」
唯一、私だけが出来る事。
悪の誘いに乗り、一度は友人の血で手を汚してしまった、私の使命。
血で汚してしまった手で出来ることをしよう。もう一度、友人として、その手を握ってもらうには出来うる限りのことをしなければならない。
そして、この大馬鹿について来てくれる素晴らしい隊員達の為にも、やり遂げなければならない。
「──以降の作戦を伝える」
『正義』を掲げた学園の旗印に残ろうとした仲間達。
それら全員に納得する最後を──。
「依然として、『正義』の旗の下に、仲間は健在だ」
──全ての行く末を確認し、FOX小隊は作戦行動を終了する。
「カイザー及び防衛室長に対し欺瞞作戦を展開する。各員、各々の正義を果たせ」
全員がその号令に応え、闇へと消えていく。
私も続く為に歩いていこうとして、一度だけ立ち止まり振り返る。
遠くでは、昼のように輝く街並みが存在している。きっとその中に、私の大切な『誰か』が居るのだろう。
「また、会いに来るよ。先生。……アキ」
その光の下に帰ることが無いと知りながらも、私は更なる闇へと潜っていった。
◇◇◇◇◇◇
場所はシャーレ。先生は走っていた。
「マズいマズい!! 遅刻!!」
今日の先生当番と言う名のお手伝いさんは初めての当番だった為、絶対に遅刻するわけにもいかなかったのだが。現在こうして廊下を職員に挨拶しながら疾走している。
『もう! 先生が元祖フルフェイスライダーを全話ぶっ通しで見るとか言うからですよ!!』
「アロナが、気になるって言うから!!」
『一日で見るとは言ってません!!』
そして、シャーレの扉に手を掛けて開けると、そこに生徒が一人座っていた。
「あ、先生。おはよう。朝早くきちゃったから勝手に書類見てたんですけど……わ、すっごい汗」
「おはよう。アキ」
犬耳をピコピコさせつつ、くるんとカールした尻尾を膝に載せていたアキが座っていた。
こちらを見て、困惑した顔で彼女は言う。
「そんなに走ってきたんですか? 別に遅れてもいいのに」
「初めてのアキを放ってはおけないからね」
「そ、そうですか……とりあえずタオルいります?」
アキがスクールバックからタオルを取り出してくれる。彼女のタオルはふわふわで洗い立ての爽やかな香りがした。
「ありがとう、……これがアキのタオル」
「あの……匂い嗅ぐだけなら返してください」
「ウソウソ、ちゃんと洗って後日返すね」
笑いながらもタオルの残り香を楽しんだりしながら、アキと雑談をする。
近藤アキ、原因はまだ聞いていないが、我々『大人』が嫌いな生徒である。そんな彼女が今こうして、当番に来てくれているのだから、私としてもちゃんとしなければならない。
そうして、一日が始まって特に何事も無く終わっていった。強いて言えば、アクシデントで彼女の尻尾を握ってしまった時。変な声を上げた彼女に涙目で睨まれた事ぐらいだろうか。
そんな一日の終わりの日。アキはありがとうございました。と述べて、頬を掻く。
「まぁ……申し訳ないんですけど、やっぱり先生含めて『大人』はキライです。なりたいとは、思えません」
ですが、と、彼女が言う。
「先生みたいな事なら、ちょっと真似してもいいかなって思うんです」
少しだけ心を開いてくれたことに、私は笑う。
そして、彼女は言った。
「迷子になって、名前もお家も分からなくなってしまった、私のような『誰か』の為に頑張ろうかなって」
犬のおまわりさんとして、ね。
アビドス対策委員会編 エピローグ 完
改めて、お付き合いありがとうございました。
色々とやってみようと思って始めた投稿ですので、アンケートを使ってみようかと思います。もしよろしければ、投票及びご感想頂けると嬉しいです。
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