元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
『山南シキ』という生徒の話をしようと思う。
実は彼女は最初からSRT特殊学園所属ではない。元々は『ミレニアムサイエンススクール』所属であった。
ミレニアムでは何をしていたのかというとクラッカーである。要はハッカー中の悪い事をしている人であり、データ破壊を主にしたウィザードで、ハッキングの第一人者として名を馳せていたそう。
『全知』に近しい存在だった。というと、ミレニアムだと驚かれるみたいだ。
ただ、その称号を持つことはなかった。
彼女は道場破りのように度重なるメインサーバーの侵入。そして、データの改竄などを繰り返した。数々の侵入経路を生み出し、その都度対策をされてを繰り返してミレニアムの技術は急激に発展していくことになる。
ハッキングに対するホワイトハッカーの技術も、即座に緊急事態に対応する掃除部隊も、彼女の存在によって発生した。というと過言かもしれないけれど、それくらいに超級の問題児だったのだ。
その彼女こと、シーちゃんは突如として学園を去った。一説には『雷帝』に技術供与を行ってしまい、離れざるを得なくなったと言われているが真偽の程は定かではない。
しかし本人曰く、学園上のサーバーに壊すものが無くなってしまったから飽きた。とのことらしい。彼女らしくて笑ってしまう。
そんな彼女が流れ着いたのがSRT特殊学園。難関と言われる試験を難なく突破し学籍を手にした。性格適性試験で跳ねられなかったのかって?
「あらあら、隊長。私は私の事を一番分かっているのですよ?」
自身が異常であり、異端者である事を理解していれば、相手がどの様に求めているかを理解するのは容易いとのこと。やりたい事があるなら、伏せだって、おねだりだってしてみます。と、妖しく笑う彼女がとっても印象的だった。
そんな彼女が紆余曲折あって私の下についたときに、彼女は言った。
「あらあら、そうですね。私はモノであれヒトであれ、壊れそうな瞬間が一番好きなんです。隊長? えぇ、もちろん隊長も好きですよ? そういう意味でも……うふふ」
本当に私が手を入れて、壊れてしまっては意味がありません。と彼女は語る。
その彼女が今回の事件の中心の一人であり、私もまたそれに巻き込まれていく事になる。
それは今からお話しする『だいぼうけん』の始まりからお話することにしましょう。
◇◇◇◇◇◇
太陽さんさんと煌めく派出所の前で、小さな虹が掛かる。キラキラと反射する水飛沫に彩られてペロロ保安官も大変満足そうだ。
そう、派出所の前にはこの前回収してきた人一人がすっぱりと入るくらいに巨大なペロロ様が鎮座していた。
道行く人、主にアビドス対策委員会のメンバーや、たまにやってくる先生から微妙な反応をされるペロロ保安官だが、なんだかんだ私にとっては思い入れのあるパワードスーツだ。この子が居たからホシノちゃんは救出出来たし、怪我も無かった。
色々と後回しにはなっていて、アビドス高等学校の体育館にぽつんと置かれていた訳だけど、先日晴れて私の城のマスコットとなった。うん、眼福眼福。
そんな感じに毎日洗ってペロロ保安官の気持ち悪くも愛嬌のある所にニコニコしていた所、先生がやってきた。
──アキ、ちょっとミレニアムまで来てくれるかい?
先生はできれば私服で、そしてペロロ保安官も一緒にね。と指を差す。その言葉に私は首をひねる事になった。
◇◇◇◇◇◇
ミレニアムサイエンススクール。
トンデモ技術の城であり、発明、開発において右に出るものがない『千年難題』という問題を解決する為に集った技術者たちの学園。……らしい。
難しい事はよく分からないが、シーちゃんの元古巣でもあり、SRTでもヴァルキューレでも時折、技術供与をしてもらう場所でもある為、私としても無関係ではない学園でもある。ペロロ保安官とかもそうなのだけど、とにかくもってぶっ飛んだ発想と技術が売りだ。過去に私も『羽のついたカヌーにロケットエンジン取り付け同好会』や『幽霊から発電する同好会』にはお世話になったものだ。今も存続しているかは知らない。
そんなわけで約200kg程のペロロ保安官を背負い、えっちらおっちらと好機の視線を浴びながらミレニアムに向かうことにした。アビドス高等学校の面々にはお土産でも買っていこうかな。
だんだんと奇妙なものを見る目つきから、興味対象に切り替わってくる頃。ミレニアムサイエンススクールの学び舎が見えてきた。そこで先に待っていた先生に手を振ると、背負っているペロロ保安官に目を丸くされた。
──来てくれて、ありがとう。重くないのそれ?
「まぁ、重いですけど……想定訓練とかに比べれば楽ですね」
馬鹿みたいに重たい背嚢を背負わされて、ひたすら森の中や、山中を歩いた日々に比べればこれくらいは軽いものである。途中で水飲んで良し、休憩自由に取って良し、と好条件である。それに、火事場の馬鹿力とはいえ40トン以上はある戦車をひっくり返したのも事実なのだ。自分で言っていて、この身体は一体……。となるような事実なのだけど、出来たのだから仕方ない。
先生の横に並んで歩いていく。
こう考えると人によっては役得かも知れないけれど、並んでいる私と言えば、ペロロ保安官を背負っている愉快な格好をしているのだから雰囲気も何もない。
しかし本当にミレニアムは広い。大まかに三つのエリアに分かれていて、そこを繋ぐようにモノレールが走っているのだから学校単位としてはトリニティに迫る勢いである。新興とは言え流石三大校の一つだ。
雑談を交えつつ、セクハラまがいな事を言われたりしながら、私達は工事現場とかに近い騒音が鳴り響くエリアへと足を踏み入れる。
この部活棟に関しては青春を送る場所と言うよりは、一つの工場のように感じる、そんな場所だった。
先生の紹介で案内されたのは、そんなイメージをぎゅっと凝縮したような場所であり、工具、ドリル、そして騒音内でも聞こえるような大声がアンサンブルしていた。
そんな中で指揮をとっていた青髪の生徒がこちらに気づき、やってきた。先生と軽く喋ると私を見る。
「やぁ、よく来てくれたね。私がエンジニア部の部長の白石ウタハだ」
「はじめまして、ヴァルキューレの近藤アキです」
軽く握手を交わし、挨拶しあう。
ミレニアムにはまともな人が比較的少なめなので、こういった挨拶は新鮮だ。と、思っていたら、手も離さないうちからミレニアム式の挨拶が始まった。
「早速で悪いんだけど、アキさん。まずキミがこれを操縦したんだね。ちなみに今日の移動手段は……徒歩!? そ、そうか……いや、いいんだ。そんなことよりも操縦した時のフィードバックを是非お願いしたい。何せ、あの子は多機能過ぎてね。フレーム、ベアリング等の技術、そしてHFE(人間工学)の観点、そして、搭載された無駄のない設計による余剰スペースに無駄なく積み込まれたロマン溢れる機能達。我々としても完成度は高いと思っているんだけど、如何せん乗れる人の腕が6本必要と言われるくらいに操縦が……何となく? う、うん?」
矢継ぎ早に飛ばされる質問に、若干引きながら答えていく。とはいえ、私は失礼すぎるぐらい良く分かっていなかったので、特に何も答える事が出来なかった。
ちなみに先生は、そんな私を置いて何処かに行ってしまった。逃げるな。
だんだんと目の前のウタハさんの顔が疑問符に満ちたものになり、そして訝しむ声でこう言った。
「……申し訳ないが、とりあえず乗ってみてくれないか?」
という訳で、久しぶりのペロロ保安官の中に入る。
自動で起動してくれる機能に、腕を適当に動かすと連動して動いてくれる使い心地の良さがやっぱり凄い。
狭い室内に遮蔽と見立てた壁と、動作テスト用の『椅子』と言い張ってるミニガン付きの自立砲台数台が現れた。
それを難なく撃破していく。両翼(?)に握った愛銃が元気よく目標を薙ぎ払った。
「うん……なるほど。じゃあ、次はこちらだ。反撃付きだから、少々気を払ってほしい」
4台の大小の『椅子』がウタハさんの手により出現し、密度の濃い攻撃が開始される。しかし、このペロロ保安官は多少の弾幕ではびくともしない。
そもそも、相手が動かない目標であるなら10体ほどから集中砲火でもされない限り、私が避け損ねることも無いのだけど。
ひょいひょいと避けて、弾を叩き込む。すぐに大きい『椅子』1台と、その他の小さい3体は沈黙した。
「次……っ! あれ?」
さぁて、乗ってきた。と、思ったところでウタハさんを見ると、両手を上げて降参の意を示していた。
「驚いたな……それなりに本気でやったつもりなのだけど、掠りもしないとは。恐れ入ったよ」
今のは私のコントロールしたものだ。現在これより強いものは出せない。それに、ココでこれ以上暴れても危ないからね。と彼女は言う。
そんな言葉に若干の消化不良感を感じつつ、私はペロロ保安官から身体を出す。
「涼しい顔だな……戦闘専門ではないとは言え、少しばかり傷ついてしまうよ」
「このスーツのお陰ですよ。本当に」
「このペロロRX87は動作を補強するものであり、キミの実力であることに間違いはないよ。おそらくミレニアムの中だとキミの戦闘力に比肩するものは、そうそう居ないんじゃないかな」
とあるメイド達を除いてね、と彼女は言う。
そんな着せられた思い出しかないワードに、ビクッとしながらも問いかける。
「で、何かいいデータは取れましたか?」
「ふむ………何もわからなかった」
何故これで十全に性能を引き出せているのかも、そもそも何故動いているのかも分からない。と彼女は言う。
「だが、分からないことがわかっただけで進歩だよ」
ウタハさんはノートパソコンを見せてくる。
「それにこれを見てほしい。ハッキングのような跡があるだろう?」
「いや、ごめんなさい。分からないです……」
小難しい文字が並ぶ画面を見ても、何も分からない。そういうのはシーちゃんの得意分野だっただけに任せっきりになってしまった。
私の言葉を聞いて、彼女は笑う。
「おそらくアキさん、キミの神秘なのだろうね」
さしずめ分からないままに何となくで機械を操る能力ではないかな。後輩にも似たような能力がある子が居てね。そっちはロックを解除する能力なんだけどと、ウタハさんは言って、パソコンを仕舞った。
「ひとまず、キミには機械を多少なり自在に操る能力があると思っておいてもらいたい。そして、私はこういった経緯のハッキングがあるということも胸に留めておこう」
「じゃあ、私の能力はハッキング……?」
ハッキング、という言葉に含むところがあったので、思わず聞きかえす。
「いやなに、ハッキングやら乗っ取りには敏感でね。まぁ、三年だけに通じる習慣みたいなものだよ」
「……ソウデスカ」
それ、ウチの隊員が原因かもしれないです。とは口が裂けても言えなかった。下手すると袋叩きにされてしまう。
「とりあえず、色々と調べてみるよ。気が向いた時に足を運んでくれると嬉しい」
そうして連絡先を貰った。ちょっとオイルの香りが印象的な美少女の連絡先ゲットだぜ。と頭の中でボケてみる。……何故か背筋が寒くなった。
◇◇◇◇◇◇
エンジニア部の一件があった後、私は先生を探し学園内を歩いていた。
円筒のようなお掃除ロボがあちこちにいたり、空に映し出される映像で部活の勧誘をしていたりとサイバーパンクと言っても差し支えないような未来的な機械があちこちにあった。
私もまた、その光景に目を奪われていた。
──だからだろうか、背後に近寄る、悪意無き暴力に対して反応が遅れたのは。
「あ、アリスはペット候補を見つけました。倒して仲間にしましょう!!」
「……はい?」
突然、目の前に星が散る。
背後から声がしたと思ったら、頭が凹んだと錯覚するほどの衝撃を受け視界がぐらつく。
咄嗟に銃を抜こうとしたものの追撃の一撃が飛んできて、そこで私の意識が完全に飛んだ。
◇◇◇◇◇◇
「…し…う、お姉ちゃん。この人、ヴァルキューレって書いてあるよ」
「アリス!! ホントに人を倒しちゃダメなんだよ!!」
「はい、わかりました。次から倒すのではなく『説得』コマンドで仲間になってもらいます。で、この魔物はいつ起き上がって仲間に……」
何やら騒がしい声が聞こえる。
頭が猛烈に痛く、何が起きたか思い出せない。
とりあえず、身体を起こすことにした。
「あ、生きてた」
「良かった~、おまわりさんに見つかったらどうしようかと」
「これが起き上がり仲間になりたそうにしている! ですね! アリスは迷いなく仲間にします!!」
ぼやけた視界の中に飛び込んできたのは、お揃いの猫耳のヘッドセットをつけた姿が似た二人と、驚くほど長い黒髪の女の子であった。
「……えーと、ここは?」
辺りを見渡すと、乱雑に散らかった部屋だった。床にはゲーム機が散乱しているし、お菓子やら漫画やらも散らばっていて例えるなら子供の部屋の様な場所だった。
「このまま誤魔化せたりしないかな」
「いや、流石にバレてると思うけど」
「骨付きの肉か、落とし穴を用意した方がいいのでしょうか?」
三人がひそひそ話をしている中で、私は頭をさすりながら頭の整理をしていた。そういえば物凄い力で殴られたんだっけ。
「……ちなみに、誰が私の事を暴行し拉致したのかな? 怒らないから教えて欲しいな」
「はい! あだ名『ああああ』を倒したのはアリスです! 経験値をドロップするか、仲間になりましょう」
手を勢いよく上げたのは、アリスと名乗る女の子だった。そして、その口を黙らせようとふさぎ込む2人の女の子。動きがシンクロしていて見事だった。
ドタバタとやっていると、もう一人の来客がやってくる。
──アキ? どうしてここに?
◇◇◇◇◇◇
さて、そんな感じで初期パーティーの紹介をしよう。
才羽モモイ、才羽ミドリという、金髪でネコミミヘッドホンに猫しっぽのキュートな1年生の双子。ゲーム開発部という文字通りゲームを作る部活をしているらしい。
そして不思議な喋り方、長い黒髪を持つ女の子。『勇者』天童アリス。
ゲーム風の喋り方をする女の子で、いかにも正方形でエニックスなRPGな設定やら、ガ◯ダムをつくっていそうな会社のゲームの話をしている。そういう設定なのかな、と可愛い。不思議といつの間にか怒る気も失せ、勝手に親しみを覚えていた。
ちなみに彼女の持ち武器はエンジニア部謹製のレーザー砲。興味本気で持たせてもらったけど、取り回しはロマンということで。
そして私が拉致られたというのに、ニコニコしながら一部始終を見守っていた『マスコット』の先生だ。
ちなみに私は『ああああ』で、魔物が仲間になった扱いらしい。扱いに関しては、この際に何も言わないので名前だけどうにか変えてもらった。
──まぁ、丁度良かったかな。紹介しようと思っていたんだ。
「なんでです?」
実はね、と先生がこの3人が所属する『ゲーム開発部』の現状について語ってくれる。
要約すると廃部の危機らしい。部員数は期待の新星アリスが加入したから何とかなったのだけど、実績が過去に作った一部の界隈で有名なゲームこと『テイルズ・サガ・クロニクル』しかなく、依然としてこのままではマズイとのこと。
「それは……なんとも大変ですね」
「そーなんだよ! 冷酷でフトモモな算術使いがさぁ! とにかく人手が欲しいんだよ! 手伝って!!」
そんな事を双子の姉、モモイちゃんが言う。
私としても古巣が無くなる寂しさは知っているし頼まれた以上、出来るだけ協力は惜しまないつもりではある。
でも、ミレニアムから派出所までは距離があり、私にはその手の知識もない。そして一番の困りどころは、私も私でお仕事がたんまりあるということだ。
「でも、私もヴァルキューレのお仕事が……」
それを言いかけた時、先生が私の肩をちょんちょんと叩く。振り返ると、時々見せるようになった悪戯っぽい笑みを浮かべた先生が紙を持っていた。何か、猛烈にイヤな予感がする。
これ、なーんだ。と見せられたのは、休日消化の証明書とメモ書きだった。
『あの仕事ジャンキーが、私の目の届かない場所で、のびのびと目を疑うような連続出勤をしている様であれば。先生の方からまとまった休暇を強制的に取らせてしまっても構いません。──尾刃カンナ』
わぁ、カンナ局長。やーさーしー。
ぽかんと呆けた後に先生の顔をゆっくりと見る。彼の顔には、これ以上無い満面の笑みが私に向けられていた。
──ということで、アキ。強制的に休日をあげても、君は仕事をしそうだし。私の監視下でこの子たちとゲーム作りしようね?
「は、ハメましたね!!! やっぱり『大人』って汚いです!!!」
もう、アビドスの皆には伝えてあるからね。と、ニコニコしながら外道なことを言う先生に、断ることも出来ずに従うしかないのであった。
「じゃあ…その、聞いてたと思うけど、よろしく……?」
3人に挨拶をすると、皆して私の周りに集まってくる。
「え! 本当に!? 先生、ナイスッ!」
「あの……よろしくお願いします」
「パンパカパーン! 『アキ』が仲間になりました!」
こうして、私は『勇者』アリスパーティーの仲間入りを果たすことになった。
皆さんご機嫌よう。
私、ミレニアムで『ペット』やってます。